老エルフ吟遊詩人の語った物語   作:猫屋まろん堂

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死期の近づいた老エルフ吟遊詩人が語った旅とその仲間たちの話。
ファンタジーですが異世界転生者はいません。
登場人物はその時代に生きとし生けるもの。
人の生き死にの描写があります。
殴る、手足が飛ぶ、奴隷を鞭打つなどの残酷な描写があります。
おふとん中でイチャイチャするような描写も若干あります。
現代では普通に使う表現も、中世をイメージした世界観なのでその当時こんな表現だったか?と思って表現しています。
AIは使わずに書いていますのでかなり遅筆です。
当面週一位の頻度で投稿いたします。
のんびと書き進めていきたいと思いますのでご了承ください。


プロローグ

深淵なる森の北端。

山影に寄り添うように、小さな療養所がある。

 

 朝霧はゆるやかに流れ、屋根に絡む蔦を濡らし、白い花弁に雫を残す。

 森はすぐそこにある。濃く、深く、永遠の緑をたたえて。

 

 その森へ――還らなかった者がいる。

 

 窓辺の椅子に、ひとりのエルフが座っていた。

 

 長く生きた者だけが持つ、静かな気配。

 かつて銀糸のように艶やかだった髪は、いまや雪の色をしている。

 指先は細く、わずかに震え、膝の上で重ねられている。

 

 胸の上下は浅く、呼吸はかすれている。

 森の加護を失った身体は、時間に抗うことをやめていた。

 

 それでも、その瞳だけは、まだ森の色を失っていなかった。

 

 窓の外に広がるのは、還るはずだった森。

 生まれ、育ち、そしていずれ溶けるべき場所。

 

 森に還れば、永い時を再び生きられた。

 仲間も、故郷も、掟も、彼女を拒みはしなかっただろう。

 

 それでも――彼女は選ばなかった。

 

 控えめなノックが、静寂をほどく。

 

「……どうぞ」

 

 扉の隙間から、若いエルフが顔をのぞかせた。

 旅立ったばかりの匂いをまとい、瞳にはまだ森の深緑が宿っている。

 

「お加減は、いかがですか」

 

「森は、もう遠い。……精霊の声さえ、届かぬ」

 

 老いたエルフは微笑む。

 その声は、乾いた葉の擦れる音のようにかすれている。

 

 若者はためらい、やがて問う。

 

「なぜ、還られなかったのですか」

 

 窓の外を、長い沈黙が満たす。

 

 鳥が一羽、枝を渡る。

 風が梢を揺らす。

 

 やがて、老エルフはゆっくりと口を開いた。

 

「森の中では、すべてがやがて過去になる。それが……怖かった」

 

 森に還れば、数千年の時が再び与えられた。

 還らなければ、十年ももたない。

 

 永遠は、あまりにも長い。

 その中では、短い出来事はやがて霞む。

 

 人の一生は、エルフにとっては瞬きにも満たない。

 

 あの子たちとの旅も、きっと。

 

 小さな炎のように不器用だったドワーフ。

 祈りを抱えて震えていた神官。

 月影の下で、笑って跳ねた兎の娘。

 

 楽しくて。

 愚かで。

 騒がしくて。

 そして――愛おしかった。

 

「森の中で何千年と生き続けるうちに、あの時間が、ただの“昔話”になるかと思うと胸が凍るような気がした」

 

 それが、怖かったのだと。

 

 若いエルフは息を呑む。

 

「私たちにとっては、ほんのわずかな時間。

 けれど、あの子たちにとっては、命そのものだった」

 

 永遠よりも、あの一瞬を選んだ。

 

 それだけのことだ。

 

 光が、白い髪をやわらかく照らす。

 影は細く、床に伸びる。

 

「……聞きたいかね」

 

 若いエルフは、強く頷いた。

 

「ぜひ」

 

 老エルフは目を閉じる。

 

 遠い記憶が、ゆっくりと浮かび上がる。

 

 重たい木の扉が、ぎい、と軋んだ音。

 酒と鉄と汗の匂い。

 小さな背中。

 

「さて、ではどこから話そうかね」

 

 深淵なる森に、まだ雪が残っていた頃の話だ。




ゆるゆると書き始めました。
お目にとめていただきありがとうございます。
良かった、悪かった、何らかの反応をいただければ幸いです。
AIではないので遅筆です。
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