転生したら竜だったので、とりま竜種目指しまっす! 作:遊燐千
『……何してるんスカ……?』
魔人ゲルミュッドの背後には、我らが同胞の恩人──ヴェル殿が立っていた。
先ほどまでの無邪気な表情は消えており、ただ静かにゲルミュッドを見つめていた。
その小さな身体から放たれる魔素は、明らかに先ほどまでとは違う。周囲の空気すら震わせるほど荒々しく、まるでヴェル殿自身の怒りを表しているかのようだった。
「ッ……!?」
ゲルミュッドが振り返った瞬間、その手に練り上げていた魔素が霧散する。
直感だった。
このままではまずい。
ゲルミュッドは反射的にその場から跳び退き、ヴェル殿から距離を取った。
『ヴェルはこの里を守れと頼まれたんスよ……』
ヴェル殿はゆっくりと歩を進める。
一歩。
また一歩。
そのたびに、荒々しい魔素が周囲へと広がっていく。
『……なのに、何やってるんスか? オマエ……』
「……ッ……!」
ゲルミュッドは知らず知らずのうちに息を呑んでいた。
──この圧力。
まるで、あのお方のような……。
いや、そんなはずがない。
目の前にいるのは、たかが1匹の少女。
確かに強大な魔素を持っているようだが、それでも俺は上位魔人。長き時を生き、幾多の戦場を潜り抜けてきたゲルミュッド様なのだ。
そこらのぽっと出の雑種ごときに、恐れを抱くなど──。
「……有り得ない……」
自分自身に言い聞かせるように呟く。
ならば、確かめればいい。
目の前の少女が、一体どれほどの力を持っているのか。
「仕方ない。このゲルミュッド様が直々に貴様の力を確かめてやろう……!」
虚勢を張るように声を荒らげ、ゲルミュッドは構えを取る。
『そうッスか。それでいいッスか?』
「何がだ? 雑種風情が!!」
その瞬間だった。
視界から、ヴェル殿の姿が消えた。
『遺言がッス』
「──なっ!?」
ゲルミュッドがその言葉の意味を理解するより早く、視界からヴェルの姿が消えた。
いや──違う。
消えたのではない。
あまりにも速く距離を詰められたせいで、目が追いつかなかったのだ。
「──ッ!?」
気付いた時には、目の前にヴェル殿が立っていた。
逃げる暇もない。
身構えることすらできない。
ただ、目の前に伸ばされた手だけが見えた。
ヴェル殿の手が、ゲルミュッドの顔面を掴む。
「──ッ!?」
そして──。
ドゴォンッ!!
凄まじい衝撃音が里の入口に響き渡った。
ゲルミュッドの身体が、まるで投げ捨てられた人形のように地面へ叩きつけられる。
土煙が一気に舞い上がり、衝撃の中心から地面が大きく陥没する。そこから幾筋もの亀裂が走り、足元の土を大きく割っていった。
「ガハッ……!」
肺から空気が押し出され、ゲルミュッドはまともに息をすることすらできない。
何が起きた?
ほんの僅かな時間だった。
自分はあの小娘を見ていたはずだ。
それなのに──。
「ありえない……」
掠れた声が漏れる。
つい先ほどまで、自分は目の前の少女を見下していた。
そこらの魔物。
名もなき雑種。
自分が力を与える側であり、相手はそれを受け取る側。
そう思っていた。
だというのに。
「何故……」
ゲルミュッドの視界が揺れる。
「何故……この上位魔人である、この俺が……!」
答えなど出てこない。
考えるより先に、恐怖が込み上げてくる。
先ほど感じた、あの圧力。
あれは間違いではなかった。
目の前の存在は、自分が考えていたような相手ではない。
そんな思考を嘲笑うように、ヴェル殿の手が再び伸びてくる。
顔面を掴まれた。
「──ッ!」
身体が軽々と持ち上げられる。
足が地面から離れ、宙にぶら下がった身体には、もはや自分の意思で逃げる術すら残されていなかった。
「ッ……ま、待った……! 話をしようじゃないか……!」
ゲルミュッドは必死に声を絞り出した。
『……話?』
「そ、そうだ! 話だ!」
先ほどまでの尊大な態度は、もはや見る影もない。顔面を掴まれたまま宙に浮かされ、逃げることも反撃することもできない状況で、ゲルミュッドは必死に頭を働かせていた。
どうすれば、この場を切り抜けられる。
どう言えば、この怪物を止められる。
そして──何を差し出せば、自分の命を見逃してもらえる。
考えを巡らせた末、ゲルミュッドが縋ったのは、自分が仕える存在の名だった。
「お前も……あのお方の下僕となれるように、俺から口添えしてやろう……!」
『あのお方……? 魔王ッスか?』
「嗚呼……!」
ゲルミュッドは食い気味に頷いた。
「どうだ? 悪い話じゃないはずだ!」
それは、ゲルミュッドにとって最後の切り札だった。
魔王に連なる者の庇護を受けられる。
それがどれほどの価値を持つのか、ゲルミュッド自身がよく知っている。普通の魔物ならば、喜んでその誘いに飛びつくだろう。
自分のような上位魔人から声を掛けられれば、なおさらだ。
──そう思っていた。
だが。
『断るッス』
あまりにも、あっさりとした返答だった。
「なっ……!」
ゲルミュッドの顔が引きつる。
「な、なぜだ!」
本気で理解できなかった。
魔王の庇護を受けられる。
それ以上に魅力的な条件など、そうそう存在しないはずだ。
それなのに、ヴェルは不思議そうに首を傾げている。
まるで──なぜ自分がそんな提案をされているのか、そのこと自体が理解できないかのように。
『ヴェルはアクラ以外に仕えるつもりはねぇッスよ』
その声には、一切の迷いがなかった。
アクラ以外に仕える。
そんな選択肢など、最初から存在していない。
ヴェルにとって、アクラと共にいることは特別な契約でも、誰かに強制された使命でもない。
いつの間にか隣にいて。
くだらないことで笑って。
時には喧嘩をして。
それでも、気が付けばまた一緒にいる。
それが、ヴェルにとっての当たり前になっていた。
だからこそ──。
誰か別の存在に仕えるという発想そのものが、ヴェルにはなかった。
『アクラと居れるなら、ヴェルはそれでいいッス』
その言葉は、あまりにも単純だった。
けれど、その単純さこそがゲルミュッドには理解できない。
「…………」
ゲルミュッドは言葉を失った。
魔王の名すら、目の前の少女を動かす理由にはならない。
『んじゃ……、もう話すことは無いッスね』
「ま、待て!」
必死に呼び止めようとするゲルミュッドだったが、ヴェルは掴んでいた手を緩める気配すら見せない。
『待たないッス』
返ってきたのは、あまりにも淡々とした一言だった。
ヴェルはゲルミュッドの身体を軽々と空へ放り投げる。宙へ投げ出された身体が重力に引かれ、再び地上へ戻ってくる。その軌道を見定めるように、ヴェルは拳を握り締めた。
落ちてきたところを、今度こそ叩き潰す。
そう思われた──そのとき。
「なんやぁ、ゲルミュッドはん……随分とボコられとんなぁ?」
場違いなほど軽い声が響いた。
『……!?』
ヴェルが振り返る。
いつの間に現れたのか、そこには一人の魔人が立っていた。道化師を思わせる軽薄な雰囲気を纏い、口元には人懐っこそうな笑みを浮かべている。
しかし──その瞳だけは笑っていなかった。
視線は目の前のヴェルから一瞬たりとも外れず、その姿を観察するようにじっと見つめている。
「よっ……っと!」
ラプラスが地面を蹴った。
一瞬の間に距離を詰める。
ヴェルが反応するより早く、その腕へ一撃を叩き込み、ゲルミュッドを掴んでいた手を逸らさせる。そのまま落下してきたゲルミュッドの身体を肩へ担ぎ上げ、勢いを殺さぬまま後方へ跳んだ。
「ひぇぇ……間一髪やったな」
「ラ……ラプラス……」
命拾いしたことへの安堵なのか、それとも目の前のヴェルへの恐怖なのか。ゲルミュッドの声は僅かに震えていた。
そんなゲルミュッドを担いだまま、ラプラスは苦笑する。
「幾らなんでも、あんなんと戦えるわけないやろ〜?
軽い口調とは裏腹に、ラプラスの視線は一度もヴェルから外れていなかった。
先ほどまでゲルミュッドを圧倒していた少女。
その戦いを目の当たりにしたことで、ラプラスは理解していた。
──まともにやり合えば、まずい。
「逃げるで」
『……逃がすと思ってるッスか?』
ヴェルが一歩踏み出した。
その足が地面を踏みしめるたび、周囲に漂う魔素が大きく揺れる。
ラプラスの表情から、僅かに余裕が消えた。
「……やっぱり、とんでもないなぁ」
呟きながら懐へ手を入れる。
取り出した小さな道具を、ヴェルの足元へ向けて放り投げた。
「悪いけど、今日は顔見せだけにしとくわ」
地面に落ちた道具から、白い煙が一気に噴き出した。
ボフンッ!!
濃い煙が周囲へ広がり、ラプラスとゲルミュッドの姿を覆い隠す。
『むっ……!』
ヴェルが腕を振る。
巻き起こった風によって煙が少しずつ晴れていく。
だが──そこに二人の姿はなかった。
『……逃げたッスか?』
ヴェルは周囲を見回す。
姿はない。
声も聞こえない。えることはできなかった
魔力感知を広げても、二人の気配を捉えることは出来なかった。
『……?』
近くにいる大鬼族たちの気配は、はっきりと感じ取れる。
森に潜む魔物の存在も分かる。
けれど、つい先ほどまで目の前にいた二人だけが、まるで最初から存在していなかったかのように消えていた。
『……まぁ、いいッス』
ヴェルはしばらく首を傾げていたが、やがて興味を失ったように踵を返した。
どうせアクラが帰ってくれば、ちゃんと話せばいい。
『アクちーが帰ってきたら、ちゃんと里を守ったって褒めてもらうッス〜♪』
すっかり機嫌を直したヴェルは、鼻歌でも歌うような足取りで里へ戻っていく。
◇◇◇
「ったく……何しとるんや、ゲルミュッドはん」
夜の森を進みながら、ラプラスが肩に担いだゲルミュッドへ呆れたように声を掛ける。
先ほどまでの戦闘が嘘のように、ラプラスの口調はいつも通り軽かった。まるで、危うく殺されかけたことなど大したことではないと言わんばかりだ。
「クレイマンからは、戦うんやなくて様子を見てこいとしか言われとらん筈やで?」
ラプラスが呆れたように言うと、ゲルミュッドは露骨に顔をしかめた。
「生意気な
悔しさを隠そうともせず、ゲルミュッドは吐き捨てる。
「戦おうとして戦った訳じゃない!」
「はいはい……」
ラプラスは適当に相槌を打ちながら、先ほどの出来事を頭の中で反芻していた。
脳裏に浮かぶのは、あの少女の姿。
──ヴェル、言うたか?
ゲルミュッドを片手で掴み上げ、まるで子供を扱うように地面へ叩き伏せた力。そして、こちらへ向けられた凄まじい魔素。
あれだけの力を持ちながら、本人には自分の強さを誇示するような様子すらなかった。
「……ただの魔物として片付けるには、異質がすぎるなぁ」
ラプラスがぽつりと呟く。
封印の洞窟から生まれたユニークモンスターって考えるんが妥当やけど、ありゃもう……厄災と言ってええぐらいや。
少なくとも、
「……んで、結局
その言葉を聞いたゲルミュッドの表情が、一気に歪んだ。
「けっ! 奴らなど要らん……!」
先ほどまでの敗北への苛立ちを振り払うように吐き捨てると、ゲルミュッドは前方へ視線を向けた。
そして、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「今度は──
「……
ラプラスが僅かに目を細める。
「
「ああ……」
ゲルミュッドの返事には、先ほどまでの悔しさなど微塵も残っていなかった。
むしろ、何かを企んでいることを隠そうともしない、歪んだ笑みが浮かんでいる。
「そして、
その声には、確かな野心が込められていた。
大鬼族を滅ぼす。
そのための力として、豚頭族を利用する。
そして最後には──魔王すら生み出す。
そんなゲルミュッドの言葉を聞き、ラプラスはしばらく黙っていた。
やがて、口元にいつもの笑みを浮かべる。
「……そりゃ、おもろい計画やな」
しかし、その声には僅かな疑問が混じっていた。
「やけど、その為には──ユニークスキル
それは、ただ強力な
その条件を満たす者を見つけられるかどうか。それこそが、この計画の最大の障害になるはずだった。
だが──。
「大丈夫だ……、もう既に目星はつけている」
「ほぉ?」
ラプラスが僅かに眉を上げる。
どうやら、ゲルミュッドにはすでに心当たりがあるらしい。
「丁度、飢饉により飢えている
その言葉とともに、ゲルミュッドの口元がゆっくりと吊り上がった。
飢えに苦しみ、生きるために食料を求め続ける者たち。
満たされない空腹は、やがて理性を奪い、心さえも蝕んでいく。
そこへ力を与えればどうなるのか。
ゲルミュッドは、その先にある未来を思い描いていた。
「後
ラプラスは黙ってゲルミュッドを見つめた。
その計画が成功すれば、確かに大きな力を持つ存在が生まれるだろう。
だが同時に──その力が、誰にも制御できないものになる可能性もある。
「……ほんま、えらいこと考えとるなぁ」
飢え。
憎しみ。
絶望。
それらが積み重なった先に、ゲルミュッドは新たな魔王の誕生を見据えている。
その計画がどれほど多くの命を巻き込むものなのか──。
ゲルミュッドにとっては、さして重要なことではなかった。
「ま、頑張りいや」
ラプラスは肩を竦めると、どこか他人事のような調子で笑った。
「やけど、今度は助けられへんで……」
「ふん。貴様に助けを求めるつもりなどない」
ゲルミュッドは鼻を鳴らし、不機嫌そうに顔を背ける。
「そうかいな」
ラプラスはそれ以上追及することなく、前へ向き直った。
二人の姿は夜の森へ溶け込むように遠ざかり、やがてその気配すら静かな闇の中へ消えていった。
案の定ゲルミュッドはボッコボコでしたね。
適当に利用はするけど、流石に死ぬの早すぎってなるのでラプラス君が助けてくれました!やったね!オークロードの餌は無事だよ!
オークロードをどうする。
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原作に忠実にいく…。
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助ける!(みんな助かる!)
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助ける!(モブ達が全滅)
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助けるために奮闘。
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敗北