いや、正確には一人じゃないんだけど……そう見えるようにしておこう。
だってその方が、面白いじゃないか。
僕は言った。
あるいは言わされた。
あるいは言ったことにされた。
「君は誰だい?」
そう問うたのは、僕自身だったかもしれないし、読者だったかもしれないし、あるいはもっと別の……そうだな、たとえば神様のふりをした観測者だったかもしれない。
まあいい。
重要なのは、その問いに対する答えだ。
「僕は……」
って、正直に名乗るほど、僕は親切じゃない。
そもそも、名前を名乗ってしまった時点で、それっぽくなってしまうからね。
「君はさ、どうしてここにいるの?」
唐突に話題を変える。
変えたように見せる。
でも実際は、最初からそこにあったんだ。
だってこの物語は、最初から君の話なんだから。
「僕の話じゃないのか」って?
いいや、違う。
僕は語り部であって、主人公じゃない。
――いや、これも違うな。訂正しよう。
僕は主人公であって、語り部じゃない。
あるいはその両方であり、どちらでもない。
だって役割なんて、観測者の都合でしかないだろう?
君は普通の人間だ。
少なくとも、そういう前提でここまで読んでいる。
スマホを持っていて、指でスクロールして、文字を追っている。
あるいは、パソコンだったりするのかな?
どちらにせよ、自分が外側にいると思っているよね。
でも、本当にそうなのかい?
たとえばさ……この文章を読んでいる今この瞬間、君は「自分が読んでいる」と思っているけど、実際には「読まされている」可能性だってあるよね?
もちろん、読むか読まないかを選んだのは君だ。
でも、読むという行為が成立する条件を整えたのは君じゃない。
言語も、視覚も、認識も、
ぜーんぶ、既に用意されていたものだ。この、ハーメルンという場所にね。
つまり、君は選択しているようで、選択できる範囲を選ばされている。
それってさ、一般的な言葉だと、支配って言うべきことじゃない?
「やめろ」
誰かが言った。
たぶん君だ。
「気持ち悪い」
うん、そうだろうね。
それが正常な反応だよ。
でもさ、そんな感想が出てくるってことは、理解しかけているってことじゃないの?
完全に意味不明なら、気持ち悪いなんて感情は出てこない。
中途半端に理解できるから、不快になる。
つまり君は今、境界線の上にいる。
……何の境界線か、だって? 秘密!
ふふ、と僕は笑った。
あるいは笑ったことにされた。
「安心していいよ。別に君を壊すつもりはない」
本当に?
「うん、本当だよ」
それも嘘かもしれないし、本当かもしれない。
でもどっちでもいい。
だって結果は同じだから。
……よし。突然だが、ここで一つ、問題を出そう。
とても簡単な問題だ。
“君は今、この物語の中にいるか?”
YesかNoで答えられる。
ほら、簡単だろ?
Yesと答えた場合。
君は自分がフィクションの中にいると認めたことになる。
つまり、君の現実は外側にある。
じゃあその外側は、本当に現実なのか?
証明できる?
できないよね。
Noと答えた場合。
君はこの物語の外にいると主張する。
でもその判断をしている時点で、君はこの物語の影響を受けている。
つまり、外側にいながら内側の僕に干渉されている存在。
それってもう、境界線の外側にいないよね。
だからさ……どっちにしても、逃げ場はないんだ。
つまりこの問題には、正解がない。
……いや、違うな。正解はある。
ただしそれは、少なくとも君には選べない選択肢だ。
僕はゆっくりと立ち上がった。
あるいは最初から立っていたのかもしれないが。
「さて、そろそろ終わりにしようか」
物語には終わりが必要だ。
終わりがあるから、始まりが成立する。
そして終わりとは、必ずしも終わることを意味しない。
区切ること、だよ。
最後に一つだけ、教えてあげようかな?
サービスだよ。
この小説の意味は、何だと思う?
答えなくていい。
だって、それは君自身が見つけるものなのだから。
でも、僕からすれば……君はこの小説に書いてある意味深で無意味な戯れ言で、無駄な時間を過ごしたように見えるけどね。
残念でした。
もし、君がこの小説を友人から送られてきて読んでいたのだとしたら、その友人は君に無駄な時間を過ごさせようとしたんじゃないかな?
それじゃあ、さようから。
君はわからないけど、僕は楽しかったよ。