女子高生の詩音と波留は「文芸部」を名乗り執筆活動をしていた

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第1話

2人で一緒に何か書こうよ。 

 

そういう風に詩音(しおん)は言った。

 

「波留(はる)は、文章がすごくうまいから、私の考えた物語を小説にして」

 

詩音が物語を考えて、それを私が小説にする。

 

そんなふうにして私たちの創作が始まった。

 

「すごいきれいな字」

 

私が書いた文章を詩音は、よくそんなふうに言ってくれた。

 

心の底から言っているのが伝わってくる。

 

私たちの執筆活動はもちろん手書き。

 

それ以外を私たちは認めず見下していた。

 

有名になるとかお金が欲しいとかそんな事は二の次であった。

 

私たちは自分の「生きた証」が欲しい、永遠に変わらないものが欲しい、そんな気持ちに突き動かされていた。

 

詩音は具体的な文章を指示してくることもあるけど大抵は私の自由に書かせてくれた。

 

私たちは文芸部を名乗っていた。

 

もちろん勝手にそう名乗ってるだけ正式な部ではない。

 

でも担任の君島先生は面白がって「文芸部の顧問」を名乗った。

 

君島先生は30歳でニヒルな雰囲気があり女子生徒から人気があった。

 

私たちが放課後、執筆活動をしていると先生もやってきて3人でいろいろなことを話した。

 

私たちはどこかで自分たちを秘密結社のメンバーのように思っていたのかもしれない。

 

私たちだけ世の中から切り離されているように感じる。 

 

それは孤独ではなく幸福なことだった。

 

君島先生が私たちのために空いた部屋を見つけて来てくれた。

 

狭い部屋だが文芸部の部室として使えるようになった。

 

これはもう正式な部のようなものではないか?

 

私たちは興奮してより一層、執筆活動に励んだ。

 

詩音が新しい物語を考えてきた。

 

教師に想いを寄せる女子生徒の物語。

 

「…私にとって先生がすべてでした。叶わぬ恋なら せめて来世で一緒になりましょう」

 

私は詩音の指示通りに文章を綴る。

 

先生がやってきた。執筆を一時中止することにした。

 

良い物語を作るためには休息も必要でしょう?

 

詩音は3人分のコーヒーを入れてくれた。

 

なんだか詩音と先生の間がぎこちない気がする。 

 

特に先生は気まずそうだ。何かあったんだろうか?

 

波留はカップを持ち上げ口をつける。おいしい。

 

先生も美味しそうにコーヒーを飲む。

 

そんな私たち2人を詩音はじっと見つめている。

 

不思議な表情だ。一体何を考えているんだろう?

 

なんだかひどく眠い。隣の君島を見ると目をつむっている。眠っているのだろうか?

 

私も眠ってしまおう。まぶたが重い。

 

波留は眼を閉じた。 

 

 

 

波留と君島。眠るように倒れている2人を眺める。

 

2人がもうこの世にいないのだと思うととても不思議な気がした。

 

波留が書き上げた原稿を2人の前のテーブルに置く。

 

教師に対する叶わぬ恋心を切々と綴った文章だ。

 

叶わぬ恋を、あきらめられなかった波留は無理心中を図った。毒入りコーヒーを飲んで。

 

来世で一緒になるために。 

 

それが詩音が考えた物語だ。

 

自分が人を好きになったりする事はないと思っていた。

 

詩音は君島に自分の想いを伝えた。

 

想いが受け入れられなかった時、今回のことを実行しようと思った。

 

もともとは小説のアイディアだったんだけど…

 

現実になるとは思ってなかった。

 

それが憎しみではないのは確かだった。

 

むしろ2人のことをとても好きだった。

 

1番良い瞬間を永遠にするため。 

 

倒れている2人を見る。息1つしていない。

 

携帯を取り出し写真を撮る。

 

画像を眺める。

 

2人は歳も取らず永遠に変わる事は無いのだ。

 

少なくともこの写真の中では。

 

そう思うと安心する。 

 

 


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