力を持ちすぎて不自由してる主人公が先生に絡む感じの話です。
つまりニワカです。
ガバは許してね♡
俺処女だしさ(語弊のある言い方)
「あーあ、今日もまた空が青いなあ」
誰もいない真っ白な空間で、私は一人ごちた。
返事をする者は誰もいなく、ただ虚空に声が消える。
俺は元々、どこにでもいるごく普通の男だった。
毎朝、息が詰まるような満員電車に揺られていた。
向かう先は、窮屈で退屈なだけの小さな会社だ。
理不尽な上司の要求にも、ただ作り笑いで応える日々。
帰宅すれば、冷めたコンビニ弁当を胃に流し込み、安物のビールで、無理やり意識を濁らせて眠りにつく。
休日は疲労で起き上がれず、ただ天井の木目を数えていた。
自分が物語の特別な主人公になれるなどと思ったことはない。
そんな、ひどくありふれた、すり減るような日常……。
「それがどうして、こんなことになったのやら」
私は今の自分の姿を見下ろし、深い溜息をついた。
トラックに轢かれたのか、過労で倒れたのか。
あるいは、通り魔にでも刺されたのだろうか。
最期の記憶すら、今はもうすっかり曖昧になっている。
「どうせなら、もっとマシな死に方が良かったな」
気づいた時には、私は全く別の存在へと変貌していた。
『空位の王』レア=ヴァルディオス。
それが今の私の名前であり、存在を定義する絶対の概念だ。
大層な二つ名まで付いていて恥ずかしい。
「……それにしても、この服は本当に落ち着かない」
今の私は便宜上、可憐な少女の姿をとっている。
艶やかな金髪は、綺麗にまとめられたお団子ヘア。
頭上には、星の瞬きを集めたような豪奢な王冠が乗っている。
どこか威圧感のある、漆黒のレザー調ドレス姿。
肌は透き通るように白く、シミ一つない完璧な美しさ。
手足は驚くほど細く、力を入れれば簡単に折れそうなほど。
鏡代わりに虚空に映る自分は、まるで精巧なフランス人形。
「可愛いのは認めるけど、中身はおっさんなんだよなぁ」
無意識にガサツな動きをしては、慌てて取り繕ってしまう。
一人きりなのに、奇妙な照れすら感じてしまうのだ。
だが、性別が反転したことなど、本当に些細な問題だった。
「問題は……ここから一歩も動けないってことだよ」
私には、深刻で絶望的な問題が重くのしかかっていた。
それは、私が今、ひどく、どうしようもなく退屈していること。
自我を持ったまま宇宙を漂う中で、偶然ある世界に接続した。
次元の壁をすり抜け、ひとつの星の軌道上に寄り添ったのだ。
そこは『キヴォトス』と呼ばれる、巨大な学園都市だった。
透き通るような青空が広がる、とても美しく澄んだ世界。
大小様々な学園が自治権を持ち、巨大な社会を形成している。
「下に降りてみたいなあ……まあ、絶対に無理なんだけどさ」
私の存在は、この世界にとってあまりにも巨大すぎた。
身長や体重といった、単純な物理的サイズの話ではない。
存在の質量、概念としてのスケールが根本的に規格外なのだ。
私がこの星の大地に直接降り立てば、一体どうなるか。
「多分、私の重みで一瞬にして星が砕け散るよな……」
私の無意識の重圧に、キヴォトスという器は耐えられない。
地殻は崩壊し、海は一瞬で沸騰して蒸発するだろう。
大気は吹き飛び、生命は一つ残らず宇宙空間へ消え去る。
だから、私はこの奇妙な玉座にずっと座り続けている。
これは単なる豪華な椅子ではなく、極めて高度な制御装置だ。
私の内に秘められた無尽蔵のエネルギーを抑え込んでいる。
「今日も元気に吸い込んでるねえ、ブラックホール君」
玉座の背後には、不気味な黒い渦が音もなく常に巻いている。
光すら吸い込み空間を歪める、虚無の穴。
これが、私の膨大な余剰エネルギーの排出口となっている。
私は常に、自らの力をこの黒い穴に向けて捨て続けねばならない。
「これがないと、自重で空間が崩壊しちゃう」
玉座が私の力を吸い上げ、ブラックホールへと変換して排出する。
この精緻なサイクルのおかげで、かろうじて(星が)存在を保っているのだ。
逆に言えば、一歩でもこの玉座から降りることは絶対にできない。
「ちょっと動くだけでバキバキ鳴るし」
少し身を乗り出すだけで、制御が乱れて空間が悲鳴を上げる。
目に見えない巨大なガラスが割れるような、ひどく嫌な音。
だから私は、ただ静かに、姿勢を正して座っているしかない。
動かざる石像のように、永遠にも等しい時間をやり過ごしてきた。
「……はぁ、暇だ。マジで気が狂いそうなくらい暇すぎる」
身動きが取れない私は、眼下に広がる世界を観測することにした。
退屈を紛らわせるため、ただひたすらに下界を見つめ続けた。
私の超常的な視覚は、この世界のあらゆる場所を見通せる。
分厚いコンクリートの壁を透かし、何百キロという距離を無視する。
まるで手元の本を読むように、世界中の情報を拾い上げられた。
「お、あっちじゃまた派手な銃撃戦をやってるな」
キヴォトスの各地には、信じられない光景が広がっていた。
制服姿の少女たちが、当たり前のように物騒な銃器を持っていたのだ。
アサルトライフルにショットガン、巨大な狙撃銃。
「スマホ感覚で持ち歩くものじゃないだろ、普通は……」
そして、彼女たちの頭上には例外なく、奇妙な光の輪が浮かんでいた。
天使の輪のような、複雑で美しく常に回転を続ける幾何学模様。
『ヘイロー』と呼ばれる、この世界の住人の神秘の象徴らしい。
あれが輝いている限り、彼女たちは異常なほど頑丈な肉体を保っている。
「あーあ、ロケットランチャーが直撃してるよ……」
「うわ、顔が煤で汚れて咳き込んでるだけで済むのか。頑丈だなあ」
常識外れで狂っているが、どこかとても魅力的で活気に満ちた世界。
私の元の世界とは、物理法則も命の価値基準も根本から違っている。
火薬の焦げる匂いと、カフェから漂う甘いお菓子の匂いが混ざる街。
「いいなあ。私もあそこのパンケーキ、食べてみたいな」
観察を続けるうちに、各学園の特色もなんとなく分かってきた。
赤い腕章をつけた風紀委員たちが、規律を守るために駆け巡る姿。 爆発と混沌が日常茶飯事の、自由すぎる校風の学園。
正義と規律を掲げるお嬢様たちが、優雅な庭園で紅茶を飲む姿。
最先端の科学技術で作られた、二足歩行の巨大ロボット。
雪に覆われた学園では、プリンを巡って大規模なクーデター。
桜の舞う美しい街並みでは、楽しげな百鬼夜行の祭り。
「毎日お祭り騒ぎだな。見てる分には飽きないけどさ」
それらを、私は空高く浮かぶ玉座の上から、ただじっと見つめていた。
精巧に作られた巨大な箱庭を眺める、全能の神のように。
「神様なんて、そんな立派で崇高なもんじゃないけど」
私はただの歩く災害に過ぎない。
明確な意志を持った超大型の台風や、自我を持った巨大地震だ。
だからこそ、直接この手で世界に触れられないのが、ひどくもどかしい。
美味しいものを、自分の舌で味わってみたい。
騒がしいゲームセンターで、無邪気に格闘ゲームで遊んでみたい。
人間らしい、ごくありふれた欲求が次々と湧き上がってくる。
「ご飯も睡眠も、本来は全く必要としない体になっちゃったけどさ」
この体は、超高密度のエネルギーが人の形をとっているだけの塊だ。
だが、心は今も男であり、欲深い普通の人間のままだった。
誰も私の存在を知らない。
私も誰の肌に触れることもできない。
「……寂しいなあ。本当に、一人ぼっちだ」
絶対的で圧倒的な孤独は、じわじわと私の心を内側から蝕んでいく。
このままではいつか発狂して、自暴自棄になって星を壊すかもしれない。
……何百億年と経っても、自我変わってないけどね。
そんな不安を抱えていた、ある日のことだった。
「ん? 連邦生徒会の様子が……なんだか騒がしいな」
私はキヴォトスの中心、サンクトゥムタワーの麓に視線を向けた。
どうやら、この世界を管理する連邦生徒会長が失踪したらしい。
街は混乱に陥り、各地で不良生徒たちが暴れ回り始めている。
「トップがいなくなって、治安が崩壊し始めてるのか……」
そんな大混乱の最中。
「……誰だ、あの男?」
私は、一人の奇妙な『特異点』を見つけた。
連邦生徒会の役員たちに案内されて、一人の大人がやってきたのだ。
「ヘイローが……ない?」
その人物には、他の全ての少女たちにあるヘイローが存在しない。
銃も持っていない、とてもひ弱な存在だ。
「ちょっと転んだだけで、大怪我して死んでしまいそうだな」
少しくたびれたスーツを着た、大人の人間。
生徒たちから『先生』と呼ばれる男だった。
「キヴォトスの外から来たのか? 明らかな異物だよな」
彼は『シャーレ』という、新設された組織の顧問に就任したらしい。
赴任して早々、彼は不良たちに占拠されたシャーレの奪還に向かった。
「大丈夫か? 丸腰の一般人が銃撃戦の中に行くの?」
私は玉座の上で、ハラハラしながらその様子を見守った。
だが、私の心配は杞憂に終わった。
彼は自ら戦うわけではない。
だが、少女たちに的確な指示を出すのだ。
彼の指揮を受けた生徒たちは、本来以上の力を発揮して敵を制圧した。
「……すごいな。あんなひ弱そうなのに、皆を導いてる」
彼自身は弱くても、不思議なカリスマ性と優しさで生徒たちを惹きつける。
彼の言葉に耳を傾け、少女たちは彼のために最前線で戦うのだ。
「不思議な存在だ……」
私と同じように、この世界の理から完全に外れている存在。
なのに、彼はこの世界に必要とされ、優しく根付こうとしている。
赴任してきたばかりなのに、すでに生徒たちから信頼され始めている。
私とは正反対だ。
ただ触れるだけで全てを壊すことしかできない私とは。
私は理から外れすぎて、世界そのものから強烈に拒絶されている。
彼は、その弱さゆえに、世界から愛され、受け入れられている。
「……羨ましいな。すごく」
私は、その『先生』と呼ばれる男に、強烈な興味と執着を抱いた。
彼なら、私のこの狂ってしまいそうな退屈を紛らわせてくれる。
恐ろしい絶対の孤独から、私を救ってくれるかもしれない。
論理的な根拠の全くない確信が、胸の奥で熱く燃え上がった。
「よし。あの人を、ここに呼ぼう」
私は、彼と接触するための大掛かりな計画を練り始めた。
直接空から声を掛けることは、当然ながら不可能である。
「『おーい』って大声を出しちゃうと、街が吹き飛んで倒壊しちゃうかもしれないからな」
ならば、安全な場所を用意して、彼の方から見つけに来てもらうしかない。
私は、D.U.の外郭と呼ばれる荒涼とした砂漠地帯に狙いを定めた。
「ここなら人気もないし、万が一暴走しても被害は少ないはずだ」
私は慎重に、玉座の出力をほんの数パーセントだけ調整した。
「ブラックホールの引力を、ちょっとだけ弱めて、排出量を減らす……」
行き場を失った私の存在の重さが、じわじわと世界に漏れ出し始める。
周囲の空間が、質量に耐えきれずに水面のように歪んでいく。
光すら捻じ曲がり、あらゆる観測機器が機能しない空白地帯が発生した。
外から見れば、光を飲み込む真っ黒な巨大ドームに見えるだろう。
最新のレーダーにも一切映らない、物理法則が崩壊した虚無の空間。
「キヴォトスの技術力なら、すぐにこの異常に気付くはずだよね」
シャーレは今、キヴォトス中のあらゆる超法規的な権限を持っている、らしい。
得体の知れない異常事態が起きれば、必ずあの『先生』が調査に来る。
……来るよね?
「赴任したばかりで悪いけど、私の相手もしてもらおう」
私は玉座の上で優雅に足を組み直そうとし、慌てて動きを止めた。
わずかな動作で、ドーム内の空間がバキバキと激しく軋みだしたからだ。
やはり、不用意に動くのは、隔離空間であっても危険すぎる。
「おとなしく待つしかないか……」
私は彫像のように固まって、彼がここに辿り着くのを待つことにした。
私が作り出した巨大なドームの中は、恐ろしいほどに静かだった。
外部の風の音も、銃声も、喧噪も、一切ここには届いてこない。
足元には、私の魔力で生成した真っ白で磨き上げられた大理石の床。
太い柱が立ち並ぶ、巨大で荘厳な神殿のような空間を作り上げておいた。
「異界の王のお出迎えには、これくらい立派な舞台が必要だからね」
彼がどんな顔をして、この静寂に包まれた神殿に現れるのか楽しみだ。
未知の巨大な存在に怯えるか。
それとも、警戒して怒りを見せるか。
「あの不思議な先生と、直接話せるんだな」
どっちにしても、私の果てしない退屈が終わるかもしれない。
私は、自分の黒いドレスの裾を、指先で少しだけ直した。
「……よし。王冠のズレもないな」
頭上の王冠を直し、威厳ある誇り高い王の態度を作る。
中身が男の自分が、身だしなみを気にするなんて滑稽かもだが。
「何事も第一印象が一番大切だからな」
咳払いを一つして、私は威厳のある重厚な声を作る練習をした。
「『我は空位の王。よくぞ参った、人間よ』……うーん、偉そうすぎる?」
「『待っていたぞ、先生』……うん、これくらいが丁度いいかも」
誰もいない神殿に、私の声だけが響いて、そして虚空に消える。
早く私を見つけてくれ、先生。
「この、どうしようもない孤独と、魂を削るような深い退屈から……」
私を、君たちのいるあの騒がしくて愛おしい、外の世界へ連れ出してくれ。
私は、漆黒の玉座の上で、運命が交差するその時をただ静かに待ち続けた。
続かない。
絶対要らない空白あるんだけど、一括で消す方法無いのだろうか。