小話です
本話を作るにあたり、『江芹ケイ』様の『モモトーク風レイアウト』をガッツリ使わせて頂きました
https://syosetu.org/novel/334672/
この場を借りてお礼申し上げます
ありがとうございました
みんなも作ろう、モモトークあり絆スト
絆ストなので先生視点です
文字数自体が少ないので絆スト回を全部連結させて1話に纏める事も考えましたが、話の始めと終わりにモモトーク再現を挟んだので、話数を分ける事にしました
また暫くお付き合いくだされば幸いです
絆ストーリー1話 変わったもの、変わらないもの
先生のアカウントが生きていたの
シャーレの業務が思いの外早く終わり、余裕が出来た私は便利屋68の事務所へ向かった。
到着したビルの当該階層まで上がり、事務所の扉を開ける。
「依頼者かしら? 生憎と今は……」
中に入ると、デスクで書類を捌いていた一人の女性がそう言いながらこちらを向いた。
"やあ、ベル。こんばんは"
「先生? 来訪の予定とは聞いてないけど、何かあったの? それとも依頼?」
"いや、どちらでもないよ。様子を見にね"
「ふぅん……もう少ししたら皆も帰ってくる筈だけど、待つ?」
"じゃあ待たせてもらおうかな"
「分かったわ。今、お茶を出すわね」
ささっと書類を纏めた彼女が席を立つ。もてなされる気が無かったので遠慮したが、こちらが気にするのだと言われたので、素直に従う事にした。
敷居の向こうにあるキッチンに引っ込み、すぐに湯飲みに淹れられたお茶を持ってきたベルがそれを私の前のテーブルに置く。
彼女はその対面に、自分の分のお茶も置いて座った。
"最近はどう? 何か困った事は無い?"
「便利屋の業務は堅調よ。相変わらず依頼主が気に入らないからって噛みつく事はあるけど、貯蓄するようになってから生活は安定して、問題も軽微らしいわ」
"らしい?"
「カヨコ曰く、ね。私は以前の生活を知らないから」
"なるほど"
そういえばハルカの『幸せアレルギー』に端を発して彼女が財務管理を担うようになった一件の際もそんな事を言っていた。
彼女は安定志向で便利屋を営んでいたらしい。
それが未来の知識を持って生まれたが故かは定かではないが……
"それも未来を知っていたから?"
そう問うと、ベルは少し考え込んだ。お茶をずず、と啜り、飲み下す。
そうして彼女は、ゆっくりと首を横に振った。
「少し違うわね。この世界のアルと私の差異、その原因ではあるから間違いとも言えないけど……」
物憂げに言いながら、彼女の視線が横に逸れる。
視線を追えば、社長のデスク、ブラインドで閉じられた窓、そして壁に掛けられた便利屋68のエンブレムの額縁があった。
彼女はそれらを見て、目を眇める。
「彼女達が快く付いて来てくれたのは確かよ。外から見れば同じ。私は、『本物』を演じていたのだから」
―――ただ、と。
手に持つ湯飲みの水面に視線を落とし、ベルは苦笑した。
「彼女は自分がやりたいことだから仲間を募った。私は、それが未来に必要なことだと知っていたから仲間を集めた。彼女達にもしたい事があったかもしれないけど、便利屋に来るよう私は誘導していたのよ」
自嘲するように、自罰的に彼女は言う。
「付き合わせている。その意識だったから、せめて真っ当な生活は保障するべきだと思ったの。同時に、私が見限られれば……その先は、終わりかもしれなかったから。見限られないために、ね」
"……そうだったんだね"
吐き出されたかつての苦悩に、私は頷くしか出来ない。
生まれた時からあった未来の知識。
赤い空―――プレナパテスの襲来や色彩によるキヴォトスの滅亡などを知った彼女は、生きるために奔走し続けた。
―――かつて、楽園を謳う条約を巡る中で、滅びの予知夢に苛まれた少女がいた。
ティーパーティー本来のホスト、百合園セイア。憎悪によって混迷へと進むトリニティとアリウスの争いと、キヴォトスを襲う赤い空と破滅の到来を予知した彼女は、それを長らく見た事で心を病んだ。
運命は変えられない。足掻いたところで、どのみち滅ぶのだと。
おそらくベルは、彼女以上の滅びの知識がある。
『彼女にとっての本物』であるこの世界の歴史以外も知っているからこそ、この世界がほんの僅かな可能性しかない奇跡の連続によって繋がったものである事も、彼女は知っていた。
その上で、抗おうとした。
必要なものをかき集め、その世界を先へ繋ごうとしていた。
自分に出来る最善を尽くし、自身の関われない事に祈りを向けた筈だ。
その心の傷がどれほどのものか、私には分からない。
……しかし地下生活者の一手によって、彼女の世界の先生は命を落とし、世界は破滅へと向かった。
彼女が未来の知識と共に心の内を曝け出したのは、皮肉なことに、滅びが決定してからの事。
その心労は想像するに余りある。
そして私に、それについて何かを言う資格は無い。
「まあ、多分3人には見抜かれてた気がするけどね。今思い返せばあの子達、いやに協力的だったから」
"……かもしれないね。ベルは存外、顔に出てるから"
「え、そう?」
"うん"
呆気に取られたように訊き返してくる彼女に頷くと、少し意外そうな表情を浮かべた。
こちらのアルと同じく、コロコロと彼女の表情はよく変わる。
勿論この事務所で初対面した時は違ったのだが……
"多分こっちの3人やアルも気付いてるよ。ベルが分かりやすい子だって"
「……思い当たる節があるわね。ムツキには甘えん坊って言われたし、カヨコには重症とか……最近ハルカも私が何も言わないのに撫でさせてくれるし、社長には色々見透かされてる気がするわ」
"うーん末っ子"
「……私、これでも最年長なのだけどね」
"でも君の中身は
それは、ゲヘナを卒業できなかった事もだけれど……
今もずっと、心の中に彼女の『便利屋68』が在り続けているから。
「……そうかもしれないわね」
それを自覚しているのか、ベルはふっと微笑んだ。
その後、幾らかの雑談を交えているとアル達が戻って来て、近況を聞いてからお暇した。
私としては嬉しいよ