選挙の投票率を上げろ!
上役からの厳命に悩む一人の官僚が、
提案した「マイナス票」。
この改革によってもたらされたものは何か!

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減点票のある選挙の風景

あまり繁盛していない近所のラーメン屋。

サッと行ってサッと食べて帰りたいその男は、

その店をいつも空いているその店をよく利用していた。

 

その日もその男以外は1組しか客がいなかった。

ガラガラの店内では人の話し声はよく響く。

一見してサラリーマンでは無いその2人組、

そのうち年の若い方が店の中を見渡して少し声を潜めながら言う。

「この店、絶対ハズレっすよ。掃除も行き届いてないし」

それを聞いて年配の方の男が、

「馬鹿野郎!俺ら商売人の間には昔から

『客の入らないうどん屋の悪口は誰でも言える』

って格言があるんだ。

それを聞いて霞ヶ関官僚の佐々木福之助は

天啓を受けた様に感じた。

 

その時ちょうど佐々木は上司より

低迷する投票率の回復策を提出する様に厳命されていた。

選挙に行って1票を投じる。

違う事ない国民の権利だ。

しかし、これがなかなかに難しい。

そもそもよく知りもしない相手に

「任せたぞ!」

「君に決めた!」

と1票入れるというのはなかなかにプレッシャーなのだ。

正直言って荷が重い。

先ほどの商売人が言った格言、

「客の入らないうどん屋の悪口は誰でも言える」

この言葉が大きなヒントの様に聞こえた。

この言葉の意味は、

人は他人の欠点はすぐにみつけられると言う意味で、転じて、

他人の長所やそれを活かす方法を的確に指摘する事は難しいという意味もある。

選挙の1票も然りである。

よく知らない、その話した事も無い人に、

1票を投じるだけの動機が残念ながら多くの人には無いのだ。

仮に投票した人が当選しても、何も成果を上げなければ、

己の見る目の無さを自覚せざるを得なくなるし、

当選しなかったとしたら、

そもそも自分の選択は他人から見ると少数派なのだと思い知らされる。

誰だって、よく知らない人の為にそんな思いをしたく無い!

これが選挙の投票率が伸び無い理由である。

 

選挙に行かない奴なんか放って置けば良い。

それも一理ある。

自らの権利を行使しない者がどうなろうと知ったこっちゃ無い。

しかし、こと選挙に関しては、そうも言っていられない。

結果は彼らにだけではなく、自分にも降りかかるからだ。

投票のπが小さくなるという事は、組織票が有利になるのだ。

ぶっちゃけ政治家だって

明確な利益や思想や目的で集まっている組織や団体を

相手にする方が楽なのだ。

多くの人にとって政治家はよく知らない他人だが、

政治家にとっても多くの人はよく知らない他人である。

そんなよく知りもしない相手の為に動くよりも、

明確にこれをやったら票が何票入ると分かる人達の為に

動く方が効率的だし、何よりそれが人情だ。

そういった政治家の心理を逆手に、

票を餌に私利私欲の為に選挙を利用してやろうという

悪漢が世の中には溢れている。

そういう一部に過ぎない輩の悪意ある野望を、

大多数の票で洗い流し、

そっちばかり見ていたら当選しませんよと政治家を脅す為に、

是非とも選挙には行って貰いたい。

組織の指示や私利私欲で動く人は必ず選挙に行くのだ。

選挙に行かなきゃ、そいつらが推す酷いのが当選してしまう。

投票率が低いとはそういう意味なのだ。

 

この様な現状に、

危機感を持った官僚の中でも若い世代を中心とした有志たちが集う。

そして、投票率を劇的に上げる為の新しい選挙制度を提起する。

地道な署名活動の成果もあり、その法案は国会で取り上げられ、

僅差ではあったが見事に可決される。

その新しい選挙制度とは

「減点方式を取り入れた選挙」

である。

先ほどの格言にもある通り、

人は他人の長所より欠点を見つけるのが得意な生き物である。

なら、いっその事割り切ってその特性をフル活用して仕舞えば良い。

一応、ちゃんと応援している候補に1票を投じたいと言う人は

これまで通り投票出来る。

しかし、逆にこいつだけは通って欲しくないと言う候補に

マイナス1票を投じる事も出来るのだ。

この誰もが一度は考えた事があるの反対票が可能になった。

投票の仕方は簡単。

投票用紙がリバーシブルになっており、片側は今まで通りの投票用紙。

反対側には反対票と名前を記入する欄に大きく×が記載されている。

そして、法改正後初の選挙が行われた。

 

選挙の投票率は格段に増加していた。

やはり人は政治家という存在にケチをつけたがる生き物なのだ。

そして、全国各地で番狂せな結果が続出する。

特に宗教絡みやマスコミにシンパが多い政党は、

マイナス票により大きく票を落とした。

政治的な考えや政策とは違う所で固定票を持つ事に

「ズルい」と考えた人が減点票を入れたようだ。

他にもスキャンダルや贈賄など世間を賑わせた人等は

マイナス票が多く入り、中には獲得票がマイナスという候補もいた。

これには選挙を戦略ゲーム捉え、

立候補者の過去の政策や功績、発言や思想に至るまで、

綿密に調べ上げ、リスト化したものがネットで流れた事も大きかった。

誰にどれだか投票し、誰にマイナス票を入れれば良いか。

「どこそこ地区はマイナス票を〇〇候補に」

「残りの地区は××候補に、プラス票を」

など、投票を煽って、悪評の高い候補や比例ゾンビで

復活しようという業腹な候補を落とそうと指示する

者まで現れたという。

そういった参加意識がさらに投票率アップの機運を高めた。

 

この選挙制度が大きく、政治家達に影響を与えた。

組織や団体に偏って政策を行うものが減り、

万人受けのする法案や、地元の選挙区にとって必要な政策が

優先される様になった。

ただ、確かに清廉潔白な政治家が多く当選する様になったが、

反面、一つの事に特出して政治活動を行う政治家も減ってしまう。

皆、減点票を恐れるあまり臆病になってしまったのだ。

 

ついに、それが裏目に出る。

そもそも仕事をしない人間に誰も立候補しない。

たまたま当選しても、任期中存在感が無い者は有権者への

裏切りだと失望される。

結果、投票結果がマイナスとなるどころか、

トップ当選者がマイナス票になると言うケースも増えてくる。

流石にマイナス票で当選させるのはマズいと言うことになり、

「当選者の得票数がマイナスの場合は該当者なしとなる」

というルールが作られる。

 

そして、次の選挙が行われる。

結果、当選した国会議員は0人となった。

その時、佐々木は、

『客の入らないうどん屋の悪口は誰でも言える』

という言葉の本質を痛感するのであった。


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