千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです 作:風見ひなた(TS団大首領)
なんかちょっと前からベルさんの様子がおかしいんだよね……。
私に対してちょっと突き放した対応をしてきたり、私から目を離してる時間が多くなったりして、そろそろ被保護者離れができてきたのかなと思っていたんだけど……めちゃめちゃかまってくる。
「ああーっ、本物のユウ君だぁ! 知識にあるよりもずっと可愛いし、いい匂いがする~!」
なんてわけのわからないことを言いながら朝イチでハグしてくるし、その後も大体一緒にいる。
飼育員は複数の人間を担当しているから、私だけの面倒をみてはいられないはずなんだけど、他の人の対応はぱぱっと終わらせているらしい。
で、できた時間で私のそばにいるというわけだ。
「あの……僕ってそんなに可愛くないと思うし、そこまでつきっきりで見なくても……」
「ユウ君は可愛いよ! もっと自分に自信を持って!」
そう言ってベルさんは私に頬ずりして、背中をハグしてくるのだった。
離れろって言ってんだが? もっと抱きしめろなんて言ってねえよ。
背中にでっかいオッパイがあたって動きにくいったらない。
「むうーーっ! ユウちゃんは私のーーーっ!」
ベルさんにあてられてか、アルマが正面からぎゅーっと抱き着いてくるし。
やりにくいことこの上ない。おかげで自室で魔術の研究をしていたかったのに、前後から始終くっつかれてるせいで研究を中断せざるを得なかった。
「ユウ君、お姉ちゃんが絵本読んであげるね! さ、お膝に座って!」
私が暇してるとみるや、ベルさんはそう言ってムッチリした膝をポンポンと叩いてくる。
こっちが文字を読める年齢になったこともあって、そういうアプローチも減ったと思ってたんだけどなあ……。
僕は内心で肩を竦めながら、おとなしくベルさんの膝に座った。
ベルさんをいつか見返してやりたいと思っている私だが、ベルさんが私に何かをしようとしているときは基本的に拒むことはしない。
そもそもベルさんは世話してくれる上位者だし、教科書をはじめいろいろ用立ててくれてるからな。こんな些細なことで心象を悪くするのはまずい。ベルさんの前では一人称だって僕に変えて、かわいこぶっているほどだ。
私が大人しくベルさんの膝に座ると、ベルさんはぶるっと震えながら私を後ろ抱きにハグしてきた。
「あー可愛い……。癒されるぅ……!」
「あっずるーい! アルマもアルマもーっ!」
私がベルさんに構われているのを見て、アルマもすっ飛んでくる。
ベルさんはそんなアルマを見て、困ったように笑顔を浮かべた。
「ごめんね、アルマちゃんにもちゃんとご本の中身聞かせてあげるからね」
……アルマは私だけベルさんに構われていることではなく、ベルさんが私を膝に乗せていることにずるいと言ってると思うのだが……。
まあ、いいか。
ベルさんもなんか疲れてそうだったけど、私の世話を焼いてるうちに元気になってきたし。
子供の世話なんて焼いても疲れるだけだと思うんだが、ベルさんが少しでも元気になったのならたまにはいいか。
そんなこんなで一週間が経つ頃には、ベルさんもすっかり元気を取り戻していた。
私に構う頻度も減って来たし、これで落ち着いて魔術の研究ができると私は胸を撫で下ろす。
「ユウ君会いたかったよーー! はああ~~、一週間ぶりのユウ君可愛すぎる~~っ!」
そう思った矢先、私はベルさんに捕獲されてすりすりと頬ずりされていた。
一週間ぶりも何も、ベルさんとはずっと一緒にいたのに何を言っているんだ。
エルフの考えることはわけがわからないよ……。
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そんなこんなで時折わけのわからない事件が起きつつも、3年の月日が流れた。
私はもう9歳になる。
この3年というもの、私は時間を見繕っては魔法の研究に務め、今ではエルフの教科書を4季生分習得することに成功した。さすが私だ、エルフが400年かかって習得する知識を、たった4年で習得してしまうとはな。
もっとも、魔術を習得したのは私だけではない。
私を執拗にライバル視しているロベルトも、担当のレヴィさんにおねだりして手に入れた教科書をマスターしているし、アルマも私に付き合って教科書を読んで魔術を身に着けているようだ。
私がなんだかんだで研究できない間も、ロベルトやアルマは着実に勉強している。私も負けてはいられないな……。
さて、9歳になったことで一番変わったことといえば、教育が始まったことだろう。
6歳までは一日中暇な時間だったのだが、今はベルさんやレヴィさんが時間を作っては私たちに授業をしていく。
内容は慣用句を交えたエルフ語の読み書きや、四則演算、エルフの社会構造といったもので、最低限の教育はここで仕込まれるというわけだ。
ただまあ……。
私は周囲の人間のことを愚物とか馬鹿だとか散々に呼んできた。
それを傲慢だとか思い上がりだとか思われているかもしれないのだが。
しかし彼らは本当に馬鹿なのだ。
なにせ大の大人なのに掛け算ができない奴がいる。
前世ではブロンドジョークというものがあり、金髪女性がまるでとんちんかんな回答をするのを笑いものにするものだった。
まあ私もやらせだとわかって見ていたのだが……。
彼らは本物だ。
もう20代にもなろうとしているのに、本当に計算ができない。計算の答えがわからないから、お前が代わりに計算しろとか客に向かって料理屋の店主が言うのだ。
正気の沙汰ではない。
こうなった理由は、たとえ勉強が理解できなくても人間さんはわからなくていいよで済ませてしまうかららしい。
前世なら計算くらいできないと将来の仕事に差し支えるからとできるまで教えるが、仕事もない今生では計算ができなくても食うに困らないのだ。たとえ計算ができなくても、私たちが人間さんの面倒をみてあげるからね。
どうかしてるんじゃないか。
前にも言ったが、私は向上心がない者が嫌いだ。
わからないことをわからないままでいいやで済ませる神経が許せない。
たとえ理解ができなくても、理解する努力をしなくては教えてくれた側にとって失礼にあたると、私は思っている。
そんなわけでエルフの社会について質問したら、先生役のエルフから驚いた顔をされた。
人間に授業をしても聞き流されるだけで、質問してくるような者はいないのだという。
どれだけ勉強意欲がないんだ……。
もっとも、エルフ側も人間に授業はしているものの、内容は聞き流されることを前提に通り一遍のことしか話してくれない。
だからこそ疑問に思ったことは突っ込んで訊かなければならないと私は思うのだが、どうやら大体の人間はそうはしないらしい。
理解に苦しむ……。
「ユウちゃんは勉強熱心だねー」
感心したようにそう言うのは、9歳になって銀髪も長く伸びたアルマだ。
私と同い年であるアルマとロベルトも、私と一緒に授業を受けている。
私がいつも突っ込んで質問するおかげで、この2人も深い知識を得られているようだ。
「勉強熱心? わからないことがあれば質問して当然だろう。せっかく向こうが知識を授けてくれるというのだぞ。私は生徒として当然のことをしているまでだ」
「普通の人はわからないことはわからないままでいいんだよ」
「それこそ理解できないな。わからないことが残っているなど、気持ち悪くはないのか?」
「世の中、わかることよりわからないことの方が多いものだよ」
アルマはそんなことを言って、どこか大人びた目をした。
なんか9歳になって、変な達観を身に着けつつあるな。何を言っているのやら。
「未知のものがたくさんあるということは、それだけこの世界に知る喜びが満ちているということではないか。これから死ぬまでそれを解き明かしていけるのだぞ。そう考えるとワクワクしてこないか!」
なんてったって私は天才だしな! 私の頭脳にかかれば、未知など解き明かされるために用意されたパズルのようなものだ!
「ふふ、それでこそユウちゃんだね」
アルマはなんだか眩しいものを見るように眼を細めた。
6歳児のときのようにアルマは無邪気に抱き着いて来なくはなったのだが、相変わらずいつも私のそばにいる。まるでそこが一番安心できる場所であるかのように、気が付けば私の近くにいるのだった。
なんか他人事のように言っているが、お前は当事者なんだぞ。
なにせ私に付き従うということは、お前も未知に直面するということなんだからな。
まあアルマも今のところちゃんと授業を理解しているようだし、助手くらいにはしてやってもいい。
「……俺は、お前には負けないからなっ!」
そう吠えるように食って掛かるのはロベルトだ。
9歳になってちょっと落ち着きを見せてきたアルマと違い、こいつは本当に昔から変わらない。
私への対抗意識はバリバリだし、わからないことがあったらしっかり質問する。
たまに私もおっと思わせる質問をすることもあり、その知識欲は私も認めるところだ。
「なんだ、お前も助手になりたいのか? ロベルトもなかなか頑張ってるみたいだし、考えてやらなくもないぞ」
「~~~~!! 今にほえ面をかかせてやる! いい気になるなよ!」
「そうか、楽しみにしているぞ」
ロベルトも授業の内容にしっかりついてきている。わからないことがあっても、その後レヴィさんに質問したりして、きっちり自分で解決しているようだ。
なかなかやるじゃないか。向上心がある奴は嫌いじゃない。
お前がどんな風に私を驚かせてくれるのか、本当に楽しみだ。
そんなつもりで期待を込めた返事だったのに、ロベルトはぎりっと奥歯を噛みしめるとうおおおおおおと叫びながらどこぞへ走り去ってしまった。
「変な奴だな、一体どうしたんだ?」
「……自分がどう見られているのかは、気が付かないものなんだね……」
まあ、ロベルトのことはどうでもいいか。
それよりも研究だ。もう9歳になり、徐々に体力もついてきた。今なら少しは体に負荷がかかるような魔術も行使できるだろう。
今こそエルフに我が力を思い知らせてやらねば!
「あ、ユウ君。プリンを作ってきたよ、おやつタイムにしようね~♪」
勢い込んだ私は、背中からかけられた気の抜ける声にへにゃっと膝を折った。
声の主はいつもの飼育員の制服の上からエプロンを着込んだベルさんだ。
相変わらず豊満なバストにエプロンの生地がいじめられ、可愛らしいヒヨコのプリントがビヨ゛ゴに拡張されていた。
この人は3年が経過してもまったく変わらない。
エルフにとって3年の月日などなきに等しいものなのだ。
いつも通り、朗らかな笑みを浮かべて私を見ていた。
ただ容姿が変わらないのはいいとして、困るのは私の扱いも変わらないことだ。
私ももう9歳になるのに、未だに幼児に対するような扱いを取り続けている。
「さ、私のお膝が空いてるよ。食べさせてあげるから、あーんしようね♪」
そう言ってベルさんはたっぷりと実った膝をぽんぽんと叩く。
……これ、もしかして私が爺さんになっても扱いが変わらないんじゃなかろうな。
嫌な予感を感じながら、私は黙ってベルさんの膝に座った。
そんな私の首筋に、ベルさんが顔を埋めてすうーはあーと深呼吸をする。
「ん~、相変わらずユウ君はいい匂いだね!」
「はあ……。僕も成長して、体臭も少し変わったと思うんですけど」
「そうだね、ちょっと男の子の匂いになったよ! でもいい匂いだから安心していいからね~」
ベルさんは幼子をあやすように私の頭を撫でると、あーんとプリンの乗ったスプーンを口元に近づけてくる。
私はなされるがままにそれを口にしながら、いつか絶対にエルフに目にものを見せるという野望を新たにするのだった。
このままじゃいかん……!