千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第14話「私はダンジョン探索者としても一流だ」

 私とアルマの旅は続いた。

 

 荒野には噂通りモンスターが蔓延っていたが、私の魔術の敵ではなかった。

 エルフからは人間のくせに魔術なんて使おうとして可愛い!と人間園のアイドル扱いされ、その度に軽く凹んでいたのだが、実際に魔術を放ってみればモンスターはことごとくこま切れとなった。

 人間ではとても太刀打ちできない脅威と聞いてはいたが、実際その通りなのだろう。ただし私は並みのエルフに匹敵するだけの魔術は修めている。その力を解き放てば、モンスターなど有象無象にすぎなかった。

 

「でも姿を消して不意打ちしてくるなんて、モンスターって知恵が回るんだね。油断しちゃだめだよ、ユウちゃん」

 

「ああ……」

 

 モンスターの死体を検分していた私は、アルマの言葉に生返事を返した。

 今襲ってきたモンスターは、トカゲの変種のようだ。姿を風景に同化して洞窟の天井に張り付き、不意を突いて獲物に襲い掛かることを得意としており、ついうっかり涎がこぼれていることにアルマが気付かなければ鋭い顎の一撃をもらっていた。

 

 私は目的地に着くまで、こうしたモンスターを何度も退けていたが……。

 

 なんだろう、違和感がある。

 あまりにも造形の殺意が高すぎないか?

 

 周囲の風景に同化する動物といえばカメレオンがいる。あれは昆虫を狙う恐るべきハンターでもあるが、個々の戦闘力は大したことがない。カメレオンがもし強靭な顎や鋭い爪を持っていれば、決して体色を変化させる能力を身に着けなかっただろう。顎や爪を使って、昆虫なんかよりもっと栄養価の高い獲物を食らえばいいだけなのだから。

 カメレオンの体色変化は、あくまでも環境の隙間を縫って生き抜くために得られた能力に過ぎないのだ。

 

 そう考えると、透明トカゲの進化は明らかに不自然である。

 体色を変化させ、強靭な顎を持ち、獲物の不意を打って捕食する。獲物を襲うだけなら、全部を兼ね備えている必要はない。

 

 もちろん、モンスターというのは魔物だから合理的な説明ができる存在ではない、と断じることもできるが……。

 

 たとえば肩のところがシリンダーのように透明になっていて、そこに電流を走らせることで生体信号を刺激し、爆発的な速度と膂力で殴ってくるゴリラとか。

 体のあちこちにコイルのようなものがあり、沼に潜みながら電撃を放つことで獲物をしとめようとするワニとか。

 

 そういうモンスターを返り討ちにするたび、明らかに人為的なものを感じずにはいられない。もちろんシリンダーやコイルに見えるものも生物組織であり、これらのモンスターは生まれながらにこれらの能力を身に着けているのだろうが……。どこかその進化には他者からの介入を感じずにはいられない。

 だが、誰が?

 

 エルフはもちろん、500年前にあったという人間の王国もモンスターを駆除していたという話である。モンスターが何者かによって生み出されたとして、誰がそれをやったというのだ?

 

 謎は深まるばかりだった。

 

 

 そんなこんなで疑問は感じながらも、私たちの旅は続いた。

 

 目的地はかつて500年前まで存在したという人間の王国の首都だ。

 とはいえ、それほど離れているわけではない。

 私たちが住むエルフの都市も、元々は人間の王国だった土地に築かれた都市だったという話だ。500年の間に区画整理が進み、今となっては見る影もないが、元々は人間の都市だったのだ。

 

 かつての王国首都にいた人間たちはエルフの管理下に収まり、今では住む者もいなくて放置されているという話である。

 500年前に放棄された都市の遺跡になど使い物になるものは残されていないかもしれないが、ダンジョンとしては初心者向けだろう。水も食料もないのだから、逆に危険なモンスターが巣食っていることもあるまい。そう判断して、最初のダンジョンアタックに選んだのだが……。

 

「うわあ、高い建物がたくさん並んでるね。昔の人間って、高いところが好きだったのかなあ」

 

 丘の上から遺跡を一望したアルマが呑気なコメントを放つのを、私は呆然と見ていた。

 これはどういうことだ?

 

 コンクリートによって形作られた真四角の建物。それは明らかに高層ビル群であった。

 多くのビルが立ち並び、施された電飾によって夜をも覆い尽くす不夜城。

 この世の栄華を極めたかのような摩天楼……。

 

 その夢の跡が、私の目の前で(はらわた)を晒していた。

 かつての人間の王国の首都だと? これが?

 注意深く周囲にモンスターが潜んでいないかと警戒しているアルマはこの光景に特に違和感を感じていないようだが……。

 

 密かに動揺しながら、遺跡に足を踏み入れて調査を開始した私は、すぐに嫌な予感を痛感することになった。

 

 乱雑に机や椅子が積み上げられた、ネオンの消えたバー。

 かつては多くの若者が屯していたであろう、ゲームセンター。

 多くの買い物客で賑わっていたであろう、品物が一切ないショッピングモール。

 

「うーん、ここって一体何なんだろう? 空っぽの棚が並んでるけど、昔の人はここに捧げものでも並べて神様にお祈りでもしてたのかな」

 

 薄暗い雑貨屋の遺構を見て、アルマは不思議そうに首を傾げる。

 

 これの痕跡は、かつてここに高度な科学文明が存在したことを示していた。

 

「ひょっとして……」

 

 ここはファンタジー世界であり、人間は王国に集まって暮らしていた。

 私はその前提に引っ張られすぎていたのではないか?

 王国が必ずしも中世的なものとは限らない。たとえば近未来であったとしても、その政治形態が王政であればそれは王国なのだ。

 冒険者がモンスターを駆除していたという話も、実際にはそれは高度な科学兵器で武装していたのではないか。むしろ無力な人間がモンスターと渡り合っていたというのなら、強力な兵器を携えていたと考えるのが妥当ではないか。

 

 そして、高度な科学兵器さえも、エルフの魔術の前には手も足も出ずに王国は敗北したというわけだ……。

 

「ユウちゃん、どの建物も空っぽだよ。それにあの背の高い建物、今にも崩れて来そうだし……どうしようか?」

 

「そうだな……」

 

 かつての科学文明都市の遺跡からは、文明の痕跡が抹消されていた。

 エルフは人間の都市の解体まではしなかったが、その文化は完全に抹殺した。どの建物の機械もことごとくが破壊されていたのだ。もっとも、電力がない以上は稼働するとは思えなかったし、いずれ500年の時の流れの前に朽ち果てていただろうが。

 

 朽ちているのは機械の残骸だけではなく、かつての高層ビルディングも同じだった。コンクリートはとっくに耐用年数を迎え、なかば崩壊している建物もある。

 人の手が入らない建物は朽ちるのが早いというが、およそ500年も風雪に晒され続けた遺跡は既にその命脈を終えていた。

 科学文明の遺産でも手に入るかもしれないと一抹の希望を抱いたのだが、500年もメンテナンスを受けずに放置されていた機械が動くとも思えない。

 

 幸い、私の睨んだ通り遺跡内にはモンスターはいないようだった。

 モンスターといえど生物。餌になるようなものがない場所で、繁殖できるわけがない。

 だから遺跡内は安全ではあったが、実入りになるものもない。

 諦めて帰ろうか、そう言いかけたそのとき……。

 

「ユウちゃん、気を付けて! あの建物の影で、何かが動いたよ!」

 

 アルマの警告に、私は目を凝らした。

 と、こちらに発見されたことに気付いたのか、それは姿を現す。

 

『こちらはミリタリーポリスのパトロールドローンです。そちらの者、市民IDと身分証を提示しなさい。貴方方は民間人立ち入り禁止区域に侵入しています。繰り返します、市民IDと身分証を提示しなさい――』

 

 それはずんぐりむっくりとした、見上げるばかりの体躯を持つ機械だった。

 巨大な箱のような胴体に、赤々としたモノアイ。ロボットハンド状の手。脚は車輪になっているようで、存在していない。

 

「ユウちゃん、ゴーレムだよ! やっつけよう!」

 

『抵抗の意思を確認。犯罪者とみなし、逮捕モードに切り替わります。応援を要請――』

 

「させるか!」

 

 私が放った衝撃波は、一瞬で警備ドローンの胴体に風穴を開けた。

 仲間を呼ぼうとしてたな、こいつ。

 発信機となるものがどこかにあるということか。

 とりあえず自走はできなくしたが、すぐに仲間が駆けつけて来る……。

 

「ユウちゃん、新手が集まってくるよ!」

 

「ちっ……アルマ、背中は任せたぞ!」

 

「うんっ!」

 

 私はアルマに背後を任せ、ドローンたちを迎え撃った。

 

 

 しばしの激戦の末、私たちの周りにはドローンの残骸の山が転がっていた。

 どうやら打ち止めになったのか、これ以上のドローンは湧いてこないようだ。警察署の遺構かどっかに、ドローンが格納されていたのだろうか。

 

「ふう……どうやら終わりみたいだね。疲れた……」

 

 魔術を連打してドローンをさばいたアルマは、くたくたに疲れ切って膝をついた。

 さすが私の助手だ、背中を任せるに足る。

 そんなアルマに称賛の視線を向けてから、私はドローンの残骸を見下ろした。

 

「500年も前の機械が動いているわけがない。こいつらは最近になって作られたようだな」

 

「? よくわかんないけど、ゴーレムなら生物じゃないんだから動いて当然じゃないの?」

 

「メンテしてない機械はすぐに劣化するさ。500年も動いているわけがない。つまりこいつらを作った何者かがいるということだ」

 

 私はコツンとドローンのボディを指の背で叩き、鼻を鳴らした。

 ナノマシン製でいつまでも朽ちません、なんてこともないようだしな。

 車輪はゴムでできているようだし、耐用年数は相当短いはず。

 

 私はこの遺跡の地図を広げると、ふむと呟いた。

 かつてエルフがこの都市を滅ぼし、人間を片っ端から捕まえて保護下に置いたときに作った地図が、図書館に眠っていたのだ。人間の誰もが忘れ去り、エルフすら顧みることのなかった古い地図である。

 GPSを使って調べたものとは段違いに精度が低いが、まあ位置関係はわかる。

 

 私が目を向けたのは、当然都市機能が集中している官邸区画……。

 ではなく、地図に記載されていない区画だ。

 まるでエルフの立ち入りを拒むように、不自然に地図に記されていない区画が存在する。

 

 都市の生き残りがいるとすれば、そこだ。

 この地図に記されている区画は、すべてエルフに文化を根絶されたということなのだから。

 

「こっちだ、行くぞ」

 

「あっ、待ってよユウちゃん! もう、ホント勝手なんだから!」

 

 

 私の考えは正しかったようだ。

 その区画に近づくにつれ、警備ドローンの数は増えていった。

 私は魔術を駆使して、立ちはだかるドローンをなぎ倒していく。

 

 たどり着いたのは、とあるビルの地下階だった。

 地上部分のビルは他と同じく老朽化しているようだが、その地下にはピカピカに手入れされた建物が鎮座していた。

 

(シェルター……いや、研究所……)

 

 見上げんばかりの大きな扉をブチ破って入ろうとしたとき、扉はスッとスライドして、私たちを迎え入れた。

 

『貴方たちをお待ちしていました、人間の末裔よ。私たちの遺産をお受け継ぎください』

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