千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第15話「旧人類の叡智とやらを案内してもらおうか」

 研究所の奥へ通された私たちの前にあったのは、大きなモニターだった。

 そこに映し出された人影が、私たちに向かって言葉を発する。

 

『ようこそ、人類の後継者よ。私はこの研究所の管理AI……貴方たちにわかるように言えば、研究所を管理するために生み出された人工の霊魂です。この研究所にあるものはすべて貴方たちのものです。先人類が残した遺産を受け取ってください』

 

 人影は、慇懃にそんなことを言った。

 映し出された人物像は曖昧にぼやけており、ほぼのっぺらぼうだ。まあ細かい造形など案内役には必要ないということなのだろう。

 ほえーと度肝を抜かれているアルマは全然理解が追い付いていないようだが。

 

 AIがこの研究所の保全を行っているというのは、納得のいく話だった。人間の王国は500年前にとっくに滅んでいる。その恨みを500年も引きずっている人類の生き残りがいるよりは、AIが自動的に保全を行っているという方がしっくりくる。

 外にいたドローンの群れは、この研究所で生み出されたものなのだろう。

 

 それにしても……。

 

「人類の遺産を受け取ってくれという割には、随分なお出迎えだったな?」

 

 ここに来るまでに数多くのドローンをなぎ倒してきた。

 研究所に足を踏み入れてからはぴたりと攻撃が止んでいたが、銃撃など明確な殺意を込めた攻撃を受けたのは一度や二度ではない。

 

『貴方たちの力を確かめていたのです。力なき者を叡智の継承者と認めることはできません』

 

 管理AIとやらは一瞬顔を伏せ、私たちに詫びるようなジェスチャーを作る。

 だが次の瞬間には歓喜の表情をもって、顔を上げた。

 

『ですが貴方たちは見事その力を証明してみせた! エルフより奪ったその魔術、実に大したものでした。それだけの力に人類の遺産が加われば、まさに怖いものなし! エルフを駆逐し、人類を再び繁栄に導くことができるでしょう!』

 

「ふむ」

 

 このAIがエルフから魔術を奪ったと認識しているのはともかくとして。

 確かにロボット技術をはじめとする旧人類の科学技術はなかなか有用そうだ。

 魔術偏重のエルフの文明を越えるには、新しい軸の技術が必要だろう。

 元よりエルフに目にものを見せることは、私の望みでもある。

 

「でも、遺産を受け取ってくれと言われても、正直どんな遺産なのかさっぱり……」

 

 アルマが戸惑ったように、もっともな疑問を口にする。

 

『これは失礼。ではこちらの機体に案内をさせましょう。この研究所に残された遺産を、じっくりと見て行ってください』

 

 管理AIが映ったモニターから光が消えると同時に、警備ドローンの1体が部屋へと入ってくる。そのモノアイは先ほどのような赤色ではなく、穏やかな緑色だった。通常稼働だとこのような色になるのだろうか?

 

『案内を開始します。私についてきてください』

 

 警備ドローンから発せられた人工音声が、そう告げた。

 告げたのはいいが、その声色は結月ゆかりに似ていた。

 滅亡する前の人類社会では、ボイスロイドが流行っていたのだろうか……。

 

 

 

「ほう……」

 

 警備ドローン改めゆかりロボがまず案内したのは、ドローンの製造区画だった。

 やはり外にいるドローンはここで組み上げられたものだったようだ。

 ロボットアームが流れ作業で一工程ずつドローンを作っている。

 割り当てられた面積が狭いため、工場のような大量生産はできないようだが……。

 

「すごーい、外のゴーレムってこうやって作ってるんだね」

 

 アルマがそんなピント外れの感想を口にした。

 まあゴーレムではなくドローンなのだが……そういえばゴーレムとドローンはどう違うのだろうか? 使っている部品の違いか、命のない人形をひっくるめてゴーレムと呼んでいるのか。

 

『これが戦闘用ドローンの製造現場です。ドローンはその一体一体が高い戦闘力を持ち、貴方たちの命令ひとつで無数の機械兵が立ち上がります。エルフと戦ううえで、またとない戦力となるでしょう』

 

 案内役は自慢げにそんなことを語る。

 

「私に勝てないようだが?」

 

『その代わり、彼らは破壊されても修理して再び戦わせることができます。エルフとはいえ生物、その戦闘力は有限です。ですがドローンなら無尽蔵に戦闘を行わせることが可能。いずれは人類に軍配が上がるでしょう』

 

 ふうん。

 ゆかりロボの言葉に、私は生返事を返す。

 

「このドローンを装備することはできるのか? こいつらの装甲はなかなかのものだ。着込んで魔術を使えばなかなか善戦できそうに思うが」

 

 私の言葉に、ゆかりロボは馬鹿にしたような苦笑を漏らした。

 

『ナンセンスです。こちらの強みは無機物ゆえの無尽の戦力だというのに、わざわざ有人式にする理由がありません。戦闘など機械に任せ、人間は安全な後方にいればよいのです』

 

「あ、そう……」

 

 まあ確かに設計思想としては間違ってはいないのだろう。

 労働を嫌って機械を生み出した人類は、その果てに戦争すら自動化したというわけか。

 

『続いてバイオウェポン区画をご紹介します』

 

 ゆかりロボがそう告げ、また別の区画へと案内する。

 薄暗い室内、どこか漂う薬品の臭い。

 

「これは……」

 

 そこで私たちを待っていたのは、巨大な試験管に詰め込まれた無数の生物たちだった。

 いや、かつて生物だったものと言えるか。

 

「モンスター……!」

 

 透明トカゲや怪力ゴリラ、電極ワニなどの姿もある。

 みな目を閉じて試験管の中を漂っており、休眠状態にあるようだが……。

 

『外ではそう呼ばれているようですね。攻撃能力、攻撃性を高めたバイオウェポンです。獰猛さや高い縄張り意識を持っております。ただ、元が生物なので制御が難しく、ドローンよりは使い勝手には劣りますが』

 

 ゆかりロボは滔々と説明を続ける。

 

『その代わり、コストが安くつきます。なにせ元が生物ですから、勝手に殖えますよ。ドローンは部品などが高価ですからね。かつては荷物に偽装して敵国に送り込むという、バイオテロ戦術も行われていました。エルフとの戦いでもきっと役に立つでしょう』

 

 その説明で合点がいった。

 今は荒野に満ち満ちているモンスター。かつては冒険者と呼ばれる人々が、王国に依頼を受けて駆除して回っていたというが……。

 

「……それは人間の国同士でこれらのモンスターを送り合っていたということか?」

 

『その通りです。一度送り込めば、生殖しながら延々と敵国にダメージを与え続けますからね。そうやって戦力を疲弊させ、トドメはドローン部隊を送り込んで敵国を駆逐するというのがかつての戦争のスタンダードでした』

 

 私の嫌な予感を、ゆかりロボはあっさりと肯定した。

 

 たとえ話をしよう。

 可愛いレッサーパンダが住む二国があって、そいつらは互いに憎しみ合っている。

 そいつらは他の動物を改造して、自分たちですら軽く殺せるような恐ろしい兵器に変えるのだ。それどころか、機械人形を他国に送り込み、絶滅戦争すらしでかす。

 貴方だけがそれを止める力があるとしたら、どうするだろうか。

 

 ……かつての人間の文明がエルフに滅ぼされたのは当然のことだった。

 彼らから文化の一切を取り上げなければならないほど、彼らは根っからの邪悪だった。

 エルフは邪悪なレッサーパンダを捕らえ、飼育下に置いて彼らの文明を漂白したのだ。

 

 だが、まだ何か足りない気がする。

 人間が互いに滅ぼし合いたいというのなら、そうすればいいのだ。

 それをエルフ全員がわざわざ止めてやるには、まだ動機が足りていない気がする。

 

『バイオ兵器に興味がおありですか? よろしければ、ひとつひとつ説明しますが』

 

 食い入るようにモンスターを睨み付けていた私の行動をどう受け取ったのか、ゆかりロボはそんなことを申し出てきた。

 こいつらを運用するつもりは毛頭ないが、あらかじめ説明を聞いていれば、荒野でこいつらの末裔と出くわしたときの戦闘の役に立つかもしれない。

 

「ああ。では頼む」

 

 

 

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「もう、ユウちゃんったら興味があるものはすぐ夢中になるんだから」

 

 ユウユウが案内役のゴーレムにいくつも質問を浴びせるのを横目に、アルマは頬を膨らませた。魔術の研究でもそうだが、一度熱の入ったユウユウを正気に戻すのは並大抵のことではない。

 

 ゴーレムの説明は、アルマにとっては意味の分からない退屈なものでしかなかった。

 モンスターがここで量産されていたということには驚いたが、そもそもモンスターなんか近寄りたくもない。

 

 安全な人間保護施設でユウユウと一緒に魔術の研究をしていられれば、アルマは幸せなのだ。エルフが安全を保障してくれている施設を出て、危険な荒野になどわざわざ出かけていくことはない。

 それでもユウユウは自分から危険に飛び込みたがるから、仕方なくアルマはその後ろをついていくだけなのだ。

 ユウユウが帰ってこなければ悲しいから、一番近くで自分が守ってやる。

 

 今回の旅でもアルマの用心深さは何度もユウユウの危機を救っている。賢いようで注意力が散漫なユウユウは、アルマの警告がなければ何度かモンスターの不意打ちを受けているところだった。

 にも関わらずユウユウは自分一人で切り抜けたような顔をしているのだから、アルマとしては膨れっ面になるのも致し方ないことではあった。

 

「……あれ? あの光、何だろ」

 

 ユウユウがゴーレムを質問攻めにしている間に暇を持て余していたアルマは、廊下のランプが目まぐるしく点灯しているのに気づいた。

 その点滅が、アルマにはなんだか誘っているように思えたのだ。

 

 ちらりとゴーレムと話しているユウユウに目をやり、アルマは一人その点滅表示を追いかけた。

 ユウユウが気を取られている間に、自分が周囲の策敵を済ませておこうという考えだった。

 ランプの点滅はアルマを誘導するように、研究所の奥まで続いている。

 アルマは一瞬、ユウユウから離れすぎではないかと引き返すことを考えたが、この研究所の中には危険なモンスターもいないようだ。帰ろうと思えばすぐに帰れる。

 思わぬ発見をすればユウユウも褒めてくれるに違いない。

 

 やがて点滅するランプに導かれてアルマがたどり着いたのは、とある小部屋だった。

 部屋の中央にある机の上には、見たことのない金属製の小箱が置かれている。

 罠でもかかっていないかと注意深く小箱を開けたアルマは、その小箱の中にまた金属製の卵が収められているのを見つけた。

 

 これがお宝なのだろうか?

 卵というからには中に動物の雛が入っていそうな気もするが、こんな金属製の卵に入っている動物などいるわけはない。

 卵の横にはスイッチがあり、どうやらこれを押すと開きそうだ。

 

「…………」

 

 アルマはしばし迷ったのち、スイッチに手を掛けた。

 が……。

 

「なんだ……空っぽじゃない」

 

 卵の中には、何も入っていなかった。

 一瞬白いもやのようなものが見えた気もするが、気のせいだろう。

 それなりに身構えて卵を開けたアルマは、安堵にほっと胸を撫で下ろした。

 

「アルマ! おいアルマ、どこだ!」

 

「あっ、ユウちゃんに呼ばれてる」

 

 切羽詰まったように自分の名を連呼するユウユウの声を聞き、アルマは慌てて小部屋を後にする。既に先ほどの卵のことは記憶から忘れ去っていた。

 

 それにしても、いつも周囲に興味ないって顔をしているユウユウも、自分がいなくなったらあんな焦った声を出してくれるんだ。

 

「うふふ」

 

 アルマは一人ニヤニヤとほくそ笑み、ユウユウの許へと急いだ。

 

 

 

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 アルマが退屈過ぎてはぐれてしまっていたようだが、捜し歩いたらすぐに戻って来た。

 やれやれ……私がついていないと危なっかしいな、こいつは。

 そういうところは子供の頃からちっとも変っていないんだ。

 まあすぐに見つかってよかったよ、「私がいなくなって心配した? ねえねえ」と嬉しそうに何度も聞いてきたのは鬱陶しかったが。

 

 さて、ゆかりロボの案内で一通り研究所の中を見て回った私は、元の部屋へと戻った。

 結局この研究所にあったのはドローンのプラントとモンスターの研究室だけか。

 本来はどちらも違う研究所で研究されるべき内容だと思うが、エルフに攻め込まれたときの最後の砦としてシェルター化されていたのかもしれんな。そこに人間がいなかったのは何とも言えんが。

 

『いかがでしたか? 小規模ではありますが、素晴らしいものだったでしょう』

 

 戻って来た私に、モニターの人影はにこやかに語り掛けてくる。

 

「確かになかなか有益そうな技術ではあった」

 

『でしょう! これこそ人類の叡智の結晶です。そしてそれを受け継ぐべきは、人間の血を引く貴方たちなのですよ』

 

 モニターの人影は、我が意を得たりとばかりに頷く。

 

『今はエルフの介入を避けるために限られた面積で稼働していますが、広大な土地を確保すればドローンの大規模な生産も可能です。これまで荒野で生き延びてこられただろう貴方も、もう百万の味方を得たようなもの。機械仕掛けの無数の軍勢が、これからは貴方と共にあるのです!』

 

 なるほど。

 

「その口ぶりでは問題は敷地面積だけで、ドローンの材料になる資源はまだまだ余裕がありそうだな」

 

『もちろんです。研究所の中で案内した区画は2つだけだけでしたが、他にも貯蔵区や食糧生産プラントも用意していますよ。ここは人類の最後の抵抗の砦ですからね』

 

 まあ確かに、エルフもここまでは攻めきれずに探索を諦めていたようだったからな。

 無数に出て来るドローンに諦めざるを得なかったのだろうか。

 

『さあ! 今こそ旧人類の遺産を受け継ぎ、人類再生のために立ち上がるのです! わからないことも多いでしょうが、大丈夫! すべて私が導いて差し上げましょう! さあ、人類の復讐は今こそ始まるのです!』

 

 私は管理AIの威勢の良い言葉に頷き、そして答えた。

 

「嫌だね」

 

『は?』

 

 聞こえなかったか?

 私はもう一度、ゆっくりと繰り返した。

 

「嫌なこった、私に命令するな。確かに有益そうだからお前たちの技術は受け取ろう。この技術を改良して、エルフの文明も越えてやろう。だがそれは私が主体でやるべきことだ。旧人類とやらの意思など、知ったことではないな!」

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