千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第16話「旧人類の残党ごときがこの天才の私に命令できると思うな」

 きっぱりとした私の拒絶に、しばし水を打ったような静寂が流れた。

 アルマは息を呑み、管理AIの提案を断った私を見つめている。

 

 お願いされたら断れないのは、私の悪癖だ。ことあるごとに私を抱きしめたがるベルさんは元より、人間園の人々にもいいように使われてもいる。おかげでメンコの絵入れの依頼も一向になくならず、私は研究時間を削られ続けている。

 

 だがこの世界に来て十五年、ただ一つ内面に得た成長があるとすれば、それは高圧的に命令してくる奴にNO!を突き付けてやる意思の力だ。お願いを受け入れるのと、命令に従うのは全然違う。前世の死を反省して、ようやく私はそれを理解できるようになった。

 まさに今、エルフへの復讐を焚き付けてきた管理AIに拒絶をくれてやったように。

 

『どういうことですか……? 貴方はこの研究所の研究内容に興味がおありだったはず。だからこそこちらも時間を割いてご案内したというのに』

 

 モニターの中の管理AIは、私の言葉に身震いしているようだった。

 ふうん、やっぱりな。

 私は鼻を鳴らし、冷静に管理AIに返答を返す。

 

「うむ、つぶさに見せてもらった。そのうえで、私は旧人類とやらとは心底わかりあえないと判断した」

 

『我々はもっとも労力なく敵の戦力を削げる方法を選んだまで。ですが、いいでしょう。受け継ぐのは貴方たちだ。もしも私たちのやり方が気に入らないというのなら、使わなければよいまでのこと。私たちの目的はエルフの根絶……それが為せるのならば、手段は問いません』

 

 管理AIはゆっくりと自分に言い聞かせるように呟いている。

 まるで冷静さを取り戻そうとするような素振りだ。

 だけど何か誤解があるようなので、私はもう一度繰り返した。

 

「私の言葉がわからなかったのか? 旧人類の技術は受け継ぎ、私が完成させてやる。だけどお前はいらない。私にああしろこうしろと命令する奴は不要だ」

 

『ぐっ……下手に出ていればいい気になるな……! 私の指導なしで、お前に何一つ理解できるものか! この荒野にうろつく原始人めが!』

 

「ユ、ユウちゃん……。どうしたの、相手を怒らせるなんてらしくないよ……!

 

 声を荒げる管理AIを前に、アルマがぐいぐいと腕を引いて怯えた声を上げる。

 お前のことはちゃんと守ってやるから、私の後ろで見てるといい。

 

「この嘘つきめ、私を騙せると思ったか? 人工の存在を名乗るには、貴様は人間らしすぎる。自分を管理AIと名乗ってはいたが、大方正体は追い詰められて電脳化した旧人類の思念あたりだろう」

 

『ぐ……』

 

 私の指摘に、管理AIを名乗る人影はモニターの中で口ごもった。

 さっきから散々挑発してみせたのは、こいつの反応を確かめるためだ。旧人類の遺産をここに訪れた人類に受け継ぐことだけが目的の存在なら、もっと冷静に私を説得するはず。

 

 そもそも、先ほどゆかりロボがドローン生産施設を案内したときから、その言動を怪しいと思っていたのだ。

 こいつらの言動の根底には、エルフへの憎悪が見え隠れしている。まるで長年屈辱を受け続けたような根深い憎悪。AIが抱くにはあまりにも人間らしすぎる。

 

「あの案内役のドローンも、中身はお前だろう? お前は能力が高く、それ故に自分以外を信用できない人間だな。AIに任せるなどもってのほかだ」

 

『き……貴様に何がわかる!』

 

 わかるさ。私もそうだからな。

 自分と似たタイプの人間がどう判断するかなど、鏡を見るように一目瞭然だ。

 

「察するに、お前はこの研究所のトップ研究員あたりか。エルフにこの研究所まで追い詰められ、苦し紛れに自分を電脳化してドローンを動員し、猛反撃を試みた。エルフは追い返せたが、生身を失ってこの研究所から出られなくなり、新たな手足となる生身の人間がここに来るまで500年待ち続けた……そんなところじゃないか?」

 

『……ぐ……』

 

 半ば当てずっぽうな推理ではあったが、管理AIは言葉を返さない。

 それが私の考えの正しさを物語っていた。

 

『だ……だからどうだというのだ! 元がなんだろうと、今となっては構わないだろう! 私はお前たちに知識を与えてやろうというのだぞ!』

 

「自分の素性を黙っていた奴のことなんか信用できるかよ」

 

 そう言って私は両の腕に魔力を纏わせ、戦闘態勢を取った。

 交渉の決裂を見て、アルマも私の背後で身構えたのがわかる。

 

『愚かな……私に勝てると本気で思っているのか? いかに魔術に長けていようと、ただの人間ごときが私に勝てるわけがない。お前たちのような無学な者にはわかるまいが、私はこの研究所の管理AI……人の身を捨てた不死の存在なのだからな……!』

 

 ふーん。

 

「それって電脳化してるから、何度破壊されても本質的には滅びないって意味か? お前を倒した後で、システムの隅々までスキャンして、お前はきっちりとアンインストールしてやる。安心して今度こそ冥途に行け」

 

『なっ……! なんだ、お前は……!? 何者なんだ……!?』

 

 自分が完全に滅ぼされる危機を感じたのか、どこか余裕を持っていた管理AIに初めて恐怖の色が浮かんだ。

 まあ……何者かと訊かれても、ただの異世界人だよ。魔術の天才とかは関係なく、ある程度コンピュータ知識があれば、アプリの抹消くらいはできるだろう。

 

 いや、待てよ。

 そういえば当時を知る人間がいたら、これだけは聞いておきたい疑問があった。

 

「お前を滅ぼす前にひとつ聞いておく。人間とエルフは何故戦うことになった?」

 

『……それはエルフが侵略の意思を持っていたからだ。エルフは人間に代わり、この世界を支配することを志した! だから我々は……』

 

「嘘吐け。あの人間大好きなエルフが、望んで侵略なんてするわけがないだろうが」

 

 私は管理AIの言葉に溜息を吐いた。

 

 ベルさんに赤ん坊の頃から世話されているからわかる。

 エルフは人間を溺愛している。人間が嫌がることなどするわけがない。

 加えて、彼女たちは元は森の中でひっそりと暮らしていたという。自分たちの力があまりにも強大すぎることを知っていたのだ。やろうと思えば世界支配すらできるからこそ、自分たちの力を恐れて森の中に引きこもっていた。

 

 もちろんエルフも一枚岩ではないから、人間がそれほど好きではない個体も、世界支配の野心を抱く個体もいただろうが、エルフ全員が人間の文明を滅ぼそうと考えたなら、それにはそれなりの理由があったはず。

 

 私は自分の中で考え続けた推理を口にした。

 

「当ててやろうか。お前ら、エルフを奴隷にしようとしたな?」

 

『…………』

 

「若いエルフを捕まえようと、森に攻め込んだな? そして、虎の尾を踏んだ」

 

 管理AIの沈黙が、すべてを物語っていた。

 これが答えだ。

 

 欲深い人間は見眼麗しい奴隷を求めて、森に攻め入った。

 何しろエルフはみんな人間とは段違いの美形ばっかりだからな。

 それでもあの絶大な力を持つエルフに勝てると思っていたのは驚きだが……もしかすると科学技術でエルフの魔法を封じる算段があったのかもしれない。

 それがきっかけになってエルフに敵視され、戦争の末に人類は文明を失うことになった。

 

 なら……仕方ないな、と私は思った。

 人間とエルフは種族戦争を行い、人間が敗れた。

 それでは人間が根絶やしにされても仕方がないだろう。かつてホモサピエンスが近縁種の類人猿を滅ぼして今があるように、敗者には種族戦争の結末を受け入れるほかない。

 ただ、エルフの慈悲で人間は愛玩動物として生き残ることになった。その厚情に感謝はできても、文句は言えまい。

 

 いや、人間の末裔に転生してしまった私としては、ベルさんに頬ずりや吸引されて可愛がられる日々を思うに余計な事をしやがってと文句を言いたいが、それは私の先祖に言うべきだろう。

 

 ただ、一つ言えることがあるとすれば。

 旧人類文明は、滅ぼされるべき愚昧で邪悪な文明であった。それだけだ。

 

「もういい。これ以上、お前たちについて何も知る必要はない。お前たちの文明は、醜悪で存在する価値がなかった。この手で旧人類の文明に幕を引いてやる」

 

『な……何を偉そうに! お前ごときに何の資格があるというのだ、小僧が!』

 

「私はエルフに育てられた人間だぞ。その私が言ってやる。くたばれ、人類」

 

 次の瞬間、無数に展開された銃口と無数のドローンに、私とアルマの魔術がぶつかり合った――。

 

 

 

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『ば、馬鹿な……こんな……こんなことが……』

 

 研究所の大半がスクラップに代わり、荒れ果てた室内で最後に残ったモニターの人影が、現実を受け入れられないと言ったように呟く。

 管理AIが現実をどう認識していようが、これが事実だ。

 無数の銃口もドローンも、私たち二人に傷一つ負わせることはできなかった。

 

 いや、実際にはこちらも魔力を使い果たして満身創痍だし、魔術で防ぎきれなかった細かなかすり傷はついているのだが、致命傷は受けていない。

 FF7のクラウドになった気分だな。実銃で撃たれてもHPが残っていれば平気だ。この場合、HPは私たちの魔力残量ということになるか。魔力が残っていれば、銃弾をバリアで跳ね返せる。

 

「いかに科学文明にメリットがあろうが、所詮は敗北者の文明だったな」

 

 管理AIが映ったモニターを足蹴にして、私は呟いた。

 旧人類は全力を尽くしてなお、魔術文明の前に敗れたのだ。その残党がいかに500年間で力を蓄えようが、結局は魔術文明を凌駕することはできない。特に私は魔術文明の申し子である天才だからな。

 

『エルフに尻尾を振った裏切り者が! 私は……私は500年待ったのだぞ!』

 

「“たった”500年、だろ?」

 

 管理AIには臥薪嘗胆の思いで準備を続けたとんでもない歳月かもしれない。

 だが、それはエルフの体感では5年前の話でしかないのだ。ついこないだ、で済まされるようなスケールの話だった。

 私の言葉に管理AIはすべてを理解したのか、絶望したような声を上げる。

 

『……そんな……私の準備は……旧人類の遺産は……すべて無駄だったと……』

 

「もう休んでろ」

 

 私の繰り出した魔術弾がモニターを打ち砕き、管理AIを視界から消し去る。

 

 これで奴の思い通りになる銃口はひとつもなくなった。

 が、それでもどこかにスピーカーがあるのか、奴の声は途切れ途切れに響いてきた。

 

『だが……だが滅びの種は撒かれた。エルフは滅びるのだ、私たち人類と同じくな……。フフフ、ハハハハハハハ……すべてを、すべてを道連れにしてやる……!』

 

 往生際の悪い……。

 だが、それが最期の言葉だったのか、管理AIは……旧人類の怨霊はうんともすんとも言わなくなった。

 放っておけばいつまでも永遠に恨み言を呟いてそうだし、スピーカーの接触がおかしくなったかな。

 

「やれやれ……この研究所をまた使えるようにするには、結構なクリーニングが必要そうだな」

 

 私が床にへたり込むと、アルマが「はい、ユウちゃん!」とタオルを濡らして差し出してくれた。

 自分も汚れてるのに、まず私に濡れタオルを差し出すとは、結構な助手精神じゃないか。褒めてやろう。

 

「うむ、大儀だ」

 

 私は濡れタオルを受け取ると、褒美として埃に汚れたアルマの顔を拭いてやる。

 一瞬きょとんとしたアルマだが、すぐにくすぐったそうに笑うと私にされるがままになった。

 

 

 こうして私たちは15歳のプチ家出の土産に、科学文明の結晶をエルフ社会に持ち帰ったのだった。




秘儀!戦闘シーン全カット!
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