千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第21話「アルマの手記1」

 私の記憶は、薄暗い実験室で白衣を着た女性に話しかけられることから始まる。

 

「私のことがわかる、アルマ? 貴方は私のシャドウサーヴァントを人間の器に入れることで生まれた。エルフの魂を持つ人造人間……それが貴方だ。つまり君は私自身でもあり、私の娘のような存在でもある。……わかるなら、返事をしてごらん」

 

「うー?」

 

 白衣を着た女性……ベルゼビュートは、額に手をやると深々と溜息を吐いた。

 

「だめかあ……。人間の器にエルフの魂を入れるところまではうまくいったんだけどな。こりゃどう見ても私としての意識が消えちゃってるよ。エルフと人間って、やっぱり会話はできても別種の生物なんだね」

 

「うあー」

 

「あるいは人間として幼すぎて、脳が育ってないのか? それなら少し育てないといけないな……。どのくらいまで育てればいいのか……。できるだけ賢い子の周囲で育てた方が、脳に刺激があっていいのかもしれない。確か知能テストで高い成績を出した赤ちゃんが二人いたっけ。その子たちを集めて、一緒に生活させればどうかな……」

 

 だあだあと一人遊びをする私に目を遣り、ベルゼビュートはぶつぶつと思索に耽る。

 と、私は空腹を感じて、ご飯がほしいと泣き始めた。

 

「びええええええん! びえええええええん!」

 

「ああうるさい! 静かにしなさい! って、赤ん坊に言っても仕方ないか……。私なんだから言うことを聞きなさい、って言っても聞くわけないよね。はぁ……なんで私が赤ちゃんの世話なんて、柄にもない……」

 

 ベルゼビュートはぶつぶつ言いながらミルクを水で薄め、温めてから哺乳瓶に入れた。

 あんなにおっぱい大きいのに、ミルク出ないのかな。じゃあなんでおっぱいついてるんだろう。無駄乳?

 泣き喚く私に哺乳瓶を含ませたベルゼビュートは、私が泣き止んだのを見てふうと溜息を吐く。

 

「よし、人間保護施設の私に任せよっと。研究所勤めの私じゃ人間の子供なんて手に負えんわ」

 

「うー?」

 

「よちよち。もうちょっとでもっといいところに行けまちゅからね。あっちの私は赤ちゃんの相手が上手だし、お友達もいますよー」

 

「うあー」

 

「ってわかんないか。ハハハ……」

 

 

 そんなわけで人間保護施設に送られた私は、職員として働いていたベルゼビュートの手で3歳まで育てられた。

 こちらのベルゼビュートは確かに人間の世話を何百年としてきただけあって、赤ん坊の世話も手馴れていたと思う。

 ただ、私にはあまり優しくなかった。他の人間に接するより、私には明確に甘やかしすぎるということはなかったと思う。それはきっとこの子は人間の器に宿った自分だから、という意識があったのだろう。

 そのせいか、あるいは人間の器に宿ったせいか、私には自分がベルゼビュートの分身だという意識が根付かなかった。肉親だとは思うが、それが自分だとは思えないのである。向こうも同じように思っていたのだろう、どうもお互い関係性を測りかねていたように思う。

 

 

 さてこの人間保護施設では、3歳までは閉鎖した環境で育てられるが、それ以降は他の子供たちとの交流が始まる。

 3歳になった私は、ベルゼビュートの手で同い年の子供たちと引き合わせられた。

 

「私はユウユウという。が、あまりその名は気に入ってないから、ユウと呼べよ」

 

 そこで私はキラキラと出会ったのだ。

 キラキラは人の形をしていて、だけど周囲の人間とは一線を画していた。

 一目でわかるほどの知性をまとった存在がそこにいた。

 ロベルトというもう一人の子供もかなり頭がよさそうだったけど、ユウユウは明らかにそれとは異なる雰囲気があった。

 

 周囲の人間とも交流をしてみたけれど、どうも要領を得ない。歳を重ねた大人であっても、頭の良さは子供と大差なかった。喋る価値はない。

 だけどユウユウは私が知らないことをいっぱい知っていたし、そこらの大人よりもずっと私のことを守ってくれそうな感じがあった。自分のことをクールだなんだと言っているけど、なんだかんだ言って私が困っていたら、何か悩み事があるのかと聞いてくれるのだ。

 

 私は暇があったらユウユウと一緒にいるようになった。

 幼い頃の私はまだまだ脳の発達が遅かったのか、自我が芽生えたのも相当歳を経てからだったけど、とにかくこのきれいなものを離すまいと毎日しがみついていたらしい。

 

「ユウちゃんは私のー! ベルはあっちいってー!」

 

「だめよ、ユウ君は私のなんだから! はあークンカクンカクンカ」

 

「ユウちゃんのにおいも私のー! クンクンクン」

 

「いや、私の体臭は私のものなのだが……」

 

 ユウちゃんを巡って、ベルゼビュートと毎日のように小競り合いしていたっけ。

 ベルゼビュートがユウちゃんにご執心だったのは、ユウちゃんがとても魔術の呑み込みが早いという理由もあったのだろう。

 エルフの究極の目的は、人間を知性的生物に教育して、この星に生きる同胞として自立させることにある。その大目的に忠実なベルゼビュートにとっては、ひとりで魔術の教科書を読み解くほど才能に恵まれたユウちゃんは、我が子のように可愛く映ったのだろう。

 

 人間の身に宿った私からすれば、人間を溺愛してご飯を与え続ければ、ますますエルフに依存して自立から遠ざかるようにしか見えなかったけど。ベルゼビュートを含め、エルフは人間のことがいまいち理解できていないようだった。私が人間の身に宿っているから、本体に見えないことがわかるのだろうか。

 

 さておき、ユウちゃんの魔術の才能は大したものだった。エルフが100年かかって覚えるような魔術も、たった1年で覚えてしまうのだ。まさに神童と言うべき存在だった。

 もっとも、私も魔術の学習速度はユウちゃんとほぼ同等だった。私のオリジナルがベルゼビュートであるという事実を、しっかりと感じさせる。魔術の記憶はなくても、しばらく学習を進めるとどういうことなのか理解できてしまうのだ。理解するというより、知識を思い出すと言った方が近いかもしれない。

 それはつまり、私は自分の学習速度をコントロールできるということでもある。

 

 私はあえて自分の学習速度をユウちゃんよりちょっと遅れて進めることにした。

 学習意欲に燃えるユウちゃんよりも私が先に行ってしまうと、彼の意欲に水を差すことになってしまうし、私が困っているとユウちゃんはどこがわからないんだ?と教えてくれるからだ。

 

 ユウちゃんは自分に匹敵するくらい賢い子が好きだけど、自分よりちょっとだけおバカな子はもっと好き! 妹分として振る舞う上で、私が見出した真理である。

 すべての行動が計算づくというわけではなかったけど、ユウちゃんに気にかけてもらえるのはとても嬉しかったし、ユウちゃんを独り占めできているようで気持ちの良いことだった。

 

 魔術以外にもユウちゃんはとても物知りで、頭が良かった。

 メンコやコマという遊びも発明して、私に教えてくれるのだ。

 到底自分で考えたとは思えないので、もしかしたら既に知っていたのかもしれない。

 どこで学んだのかは、とうとう教えてくれなかったけど。まあ私も出生の秘密があるからね、お互い人に触れられたくないことはあるよね。

 ユウちゃんが回す七色のコマをもらい、私は何度も繰り返し回して遊んだ。

 

 

 そんなユウちゃんも大きくなり、二次性徴期を迎えて私より頭一つ分も大きくなった。

 一時期は私の方が身長が高いくらいだったけど、すぐに抜かされてユウちゃんの方が大きくなった。

 大きくなってもユウちゃんは相変わらずで、いつもクールぶってるけどそれとなく私に気を配ってくれる。ごつごつした大きな手で頭を撫でてくれると、私は意味もなく嬉しくなってしまうのだ。えへへ。キラキラした知性も相変わらずだ。

 

 だけど周囲の女の子たちは、そんなユウちゃんが男の子らしく成長しているのを見過ごさず、日々下馬評に名を上げ始めた。

 ユウちゃんは外見はいいけど冷たそうでダメ、ロベルトの方が女の子に優しそう……という意見が多かったけど、お前たちごときに何がわかるのか。ユウちゃんの本当の魅力は知性だし、普段は隠してる優しいところだぞ。お前らに何がわかる! どけ、私は妹分だぞ!

 ……と腹が立ったけど、ユウちゃんの魅力に気付かれていたらもっとイラッとしたのは間違いないし、ユウちゃんのことをわかっているのは世界で私だけでいい。

 

 でもユウちゃんに妹分としか見てもらえないのは嫌だ……。

 ということで、本音を隠して周囲の女子に取り入り、お化粧を教えてもらった。

 ただ、私が期待していたほど、ユウちゃんからは好評をもらえなかったみたいだけど。

 

「化粧? お前のルックスがどれだけよくなろうと、その評価はお前のものであって、私のものではない。お前は私の付属品ではない、化粧でもなんでも好きにするがいい。さ、邪魔だからどこかへ行け。私は魔術の研究で忙しいのだ」

 

 悔しかったのでその日一日ユウちゃんの横に座って、教科書を読んでるふりして胸をチラチラ見せたら、真っ赤になってしきりに眼球を動かしていた。ふっふっふ。

 ユウちゃんに意識されてるのがわかって、私の女のプライドは大変回復した。

 こんな意地悪したのはその日だけだけど、先に意地悪したのはユウちゃんなんだからね。

 

 

 さて、月日はあっという間に流れた。

 ユウちゃんの家出についていって、旧人類の遺跡を暴いたこともあった。かつて六将軍と呼ばれていた頃、ベルゼビュートがその手で滅ぼした都市だ。

 何の因果か、私は研究所の副所長をやることになった。私は生まれからして純粋な人間とは呼べないのだけど、ドローンたちは私にも管理資格があると判断したらしい。まあ、旧人類には魔術なんてまるでわからないからね。

 とはいえ、私のしたことは科学文明の知識を学んだり、ドローンに魔術防御ができるように調整をしただけだけど。ベルゼビュートが研究者でもあるせいか、私には科学と魔術の両方を理解できる素養があるようだった。

 

 そんなある日、珍しく朝からベルゼビュートが私に頼みごとをしてきた。

 

『アルマ、ちょっと頼み事があるんだけど……。ユウ君の好きな人が誰なのか、聞き出してくれない? 好きな女の子がいるらしいんだけど、教えてくれないのよ』

 

「だからやらないって言ってるでしょ!」

 

 私の魂がベルゼビュートと繋がっている証拠に、ベルゼビュートとは念話ができる。

 だからといって、なんでも頼んできて構わないというわけではない。よりにもよって、そんなデリカシーのないことを私に頼む!? この2600年喪女め! これだからエルフっていうのは……。

 

「ユウちゃんがどう思っていようと、ユウちゃんの勝手でしょ! そういうの気持ち悪いからやめた方がいいよ! じゃあね!」

 

 私はぷりぷりと怒りながら念話をガチャ切りした。やっぱりあれが私の本体とは思えない。人間の体に宿った私は、もうベルゼビュートではないのだろう。

 そうやって部屋の外に出た私を、ほかならぬユウちゃんが待ち受けていた。

 

 その後に起きた出来事は、私の人生において一番ハッピーな出来事だったと言える!

 えへへ、思い出すだけで頬がにやけちゃう。

 まさかユウちゃんの方からプロポーズしてくれるなんて。

 

 もちろん即OKしたよ!

 ユウちゃんが私のことを好きだって言ってくれるよりもずっとずっと、出会ってからずーっとユウちゃんのことが大好きだもの。ユウちゃんは私の手をおっかなびっくり、大事そうに握ってくれるけど、私にとってはユウちゃんがずっと前から大切な宝物だったんだよ。私の気持ち、ユウちゃんはわかるかな。わからないだろうなあ。えへへ。

 

 ベルゼビュートは私たちの結婚に渋い顔をしてたけど、最後には頷いていた。

 まあ気分はわかるよ、自分が手を出せないうちに、自分の娘に横取りされたようなものだものね。赤ちゃんは抱かせてあげるから、それで我慢してね。ふふふ……こっちは人間に生まれちゃったからね! ユウちゃんと添い遂げるのは、寿命が短い者の特権だよね!

 

 

 だけど。

 そんな私に告げられたのは、私がウイルスに汚染され、余命いくばくもないという無慈悲な宣告だった。

 あはは……困ったなあ。ユウちゃんと添い遂げられないじゃない……。

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