千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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最終話「望みはすべて叶えられた、私は満足だ」

「そろそろこの時代の本も読み飽きてきた。他にすることはないのか?」

 

 私がこの時代で蘇生させられてから2週間が経とうとしていた。

 その間、私は資料として用意されたこの時代の本を読み漁り続けていた。

 

 いや、それ以外本当にすることがないんだ……。

 どうやらこの建物は神殿か何からしく、ちょっと足を延ばせば信徒らしき人々に出会うこともあるのだが、私の顔を見るとおもむらに跪いてご機嫌麗しゅう、グランドマスター……ときたもんだ。

 私はそんな大したものではないと説明しようとしても、私に声を掛けられただけで恐れ多いと恐縮されてしまう始末。

 仕方なく今日のお仕事も頑張ってね、と当り障りのないことを言って逃げ出してしまった。

 

 どうも5000年間の間に私の信仰は独り歩きして、盤石なものになってしまったらしい。聖典を読んでみたら、私が当時言わなかったようなことや奇跡の類まで起こしたことになっているし。

 私は1000年に一度の天才魔道士ではあったけど、エルフの兵士をばったばったなぎ倒したり、エルフの病気の子供を手をかざして治したりしてねえよ。

 むしろ当時神々と呼ばれるような力を持っていたのはエルフの側のはずなんだが……どうも長い時間が経つうちに当時エルフだった人々もそこらへん曖昧になっているのか?

 

 5000年前は何をしてもかわいー♥と可愛がられて話を聞いてもらえなかったが、今は何してもありがたやーと拝まれて話を聞いてもらえない。状況が何も改善してる気がしないんだがどういうことなんだ。

 

 というわけで、私は自分の部屋として宛がわれた部屋にこもり、読書三昧の日々を過ごしていた。

 が、さすがに研究好きの私とはいえ、二週間も本を読むだけの生活では飽きが来る。

 そんなわけで顔を見に来たメフィに、何かすることはないかと訊いてみたのだった。

 

「他にすることですか……」

 

「私は何か拝まれてるみたいだし、ありがたい説法とかしようか?」

 

「絶対にやめてください」

 

 断固とした口調で拒まれ、私は思わず憮然とした表情になった。

 そんな私に、メフィはこんこんと言い募る。

 

「実のところ、貴方を蘇らせるのはこれが初めてじゃないんです。前にも何度か貴方は蘇らせようとしたことがあります」

 

「ふむ?」

 

 まあ確かに、5000年は長すぎるもんな。

 

「ですが、魂の物質化技術が確立する前に貴方が死んだせいもあって、人格データの再生がうまくいかず……。特に2000年前の貴方は酷かった。時空皇帝ルシファーを名乗り、ネオエルフたちを率いてあちこちの世界に侵略を始めたのですから」

 

「時空皇帝ルシファー!?」

 

 なんだその中二病全開なセンスは!?

 

「本当に酷かったですよ。傲慢で残虐で、自分ほどの魔道士はどの世界にもいないとうそぶいていました。最終的に耐えかねた民衆の怒りを買い、七勇者を率いて蜂起した英雄ロベルトに討たれる形でその支配は終わりましたが……」

 

「お、おう」

 

 私は冷や汗を流しながら、2000年前の私の愚行を聞いた。

 というかルシファーを倒した英雄もロベルトっていうのか。私はロベルトという名前とつくづく縁があるようだな。

 

「しかしそれは本当に私か? そんなことをした記憶はないのだが」

 

「あまりに非道すぎて、記憶を残さない方がよいと判断されましたから。当時の本人が記した言行録があるんですが、見ます? 今メールで送ります」

 

 メフィが言うなり、私の頭の中に何かが送り込まれた。ほうほう、電子頭脳だからこんなこともできるのか。これは便利だな。

 そしてそのファイル名を見た私は、あまりのタイトルに思わず絶叫した。

 

 私の人生の軌跡が『この私が下等な人間どもの遊戯に付き合っていられるか』『私の能力の前には大人すらひれ伏した』『私のもたらした科学文明の前ではエルフも跪く』という傲慢にもほどがあるタイトルによって綴られていたからだ。

 だが、その内容はちょっと誇張はあるが、確かに私がこれまで経験した事績である。

 

 ああ……これ、私だわ。

 他の世界に殴り込んだというのも、よくよく考えたら私ならやるかもしれない。

 越えるべきエルフは既にいないのだ。自分に匹敵する強者を求めて世界を巡るくらいのことはやりかねない。というか、世界間移動とかできるんだ……。

 

「どうも、その節はご迷惑をおかけしました……」

 

「まあ迷惑をかけられたのは、侵略された世界の方なんですけどね。そんなことがあったので貴方を蘇生させるべきではないという反論もあったのですが、元の貴方の人格を完全に再現すれば問題はないはずという意見が優勢でして。それになんだかんだ、時空皇帝ルシファーは人気があるんですよ。今のグランドマスター信仰も、当時の時空皇帝が圧倒的な業績を見せた征服者だったからというのも理由のひとつなので」

 

 まあ、織田信長も後世で大人気だもんな。

 当時の敵対者にとっては血も凍る冷酷な武将だっただろうけど、武勲を立てた者は後世で持て囃されるもんだし。それになんだかんだ、ネオエルフにとっては自分たちを率いて繁栄させてくれた指導者ではあるのだろう。

 

「さて……貴方のことは2週間観察させていただきました」

 

 居住まいを糺したメフィに、私はおやと思った。

 

「私が残虐性を持っていないか、観察するための期間だったと?」

 

「より正確に言えば、貴方の人格が正しく再現されているかを観察する期間でしたが。何せ時空皇帝ルシファーの再来を、議会は恐れていますから……」

 

「で、どうだったんだ? 試験は合格か?」

 

「ええ。問題ないと判断しました」

 

 だろうな。自分でも当時の私と遜色ないと思う。

 そしてこの時代にはいたくないと思っている。アルマも、ベルさんも、知人など誰一人として生き残っていない時代に、たった一人生きろというのは拷問に近い。

 彼らの気が急に変わって、私を解放してくれないだろうか。

 つまり、もう一度死にたいということだ。あの永遠の暗闇に私を還してほしい。

 

「それは貴方の想い人と再会させても、貴方は暴走しない。そう判断されたということです」

 

「…………」

 

 待て。それは……。

 それは、再現しているということか?

 

「アルマが生き返っていると……そういうことなんだな?」

 

「はい。こっちは再現に随分手間がかかりましたけどね。当時の原始的な技術でエルフの魂を人間の器に入れたせいで、物質化された魂が随分とボロボロで……。でも貴方に先駆けて蘇生に成功して、ネオエルフの体で生きていますよ」

 

 そのときの私がどんな表情をしていたのかわからない。

 多分私はいつもどおりのクールさをかなぐり捨てていただろう。

 湧き上がる歓喜に、私は力いっぱいに叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……私は本当にアルマの前に顔を出していいのかな」

 

 アルマが働いているという保育園の前で、私はメフィに尋ねた。

 柄にもなく白いスーツなど着込み、手にはバラの花束なんて携えている。

 

 メフィは溜息を吐くと、うんざりしたように私を見やった。

 

「この期に及んで何を怖気づいているんです」

 

「いや、だって……私はアルマを殺したこともあるわけだし。私みたいな冷たい男とまた一緒になるより、この時代で新しい出会いを見つけた方がアルマは幸せになれるんじゃないかなって。ほら、子供たちの歓声も聞こえてくるし、アルマもこの時代の子供に好かれているんじゃないかなって……」

 

 メフィははあっと息を吐くと、私の尻にソバットを繰り出した。

 

「いてえええええええええ!」

 

「うだうだと情けないこと言うな、それでも私たちのグランドマスターか! がつーんと行って砕けてこいっ!」

 

「いや、砕けたらダメじゃないか……?」

 

「砕けたら私が責任もって慰めてあげますよ! やる前からダメかどうかなんて決めつけない! さあ行けっ、ユウ君! 男だろ!」

 

 メフィに荒々しく背中を押された私は、たたらを踏んで保育園に足を踏み入れた。

 ……そうか。そうだな。

 私はいつだって、向こう見ずに挑戦してきたもんな。

 ここで自信を失うなんて、私らしくもない。

 

「ありがとう、メフィ」

 

 私は振り返ると、この時代の案内人を務めてくれた彼女に振り返った。

 

「行ってらっしゃい、グランドマスター。貴方の成功をここで祈っています」

 

「なあ……ひとつ聞くんだが、私が告白に成功したら、お前はどうする気なんだ?」

 

 私の質問に、メフィは薄く笑った。

 彼女の正体に、もう私は気が付いていた。

 最後の詰めが甘いよ。それとも……耐え切れずにユウ君と言ってしまったのか。

 

 ボディを変えても、わかる。どれだけ一緒にいたと思うんだ。

 彼女は……メフィはベルさんだ。

 

「私は貴方とアルマの完全な蘇生が目的ですから。そのために、5000年を生きてきました。……もう、いい加減疲れました。貴方たちの再会をもって、私の使命は終わりです。どこかでひっそりと、眠りに就くとしますよ」

 

「ふざけるなよ。そんな勝手が許されると思うな」

 

 私はメフィに指を突き付けると、断固とした口調で突っぱねた。

 

「生きろよ。私にこの時代で生きる理由を与えたんだ。責任を持って、アンタも生きろ。それでイーブンってもんだろ」

 

「……参ったなあ。自分がどれだけ残酷なこと言ってるのかわかってます? 私もう、7600歳のおばあちゃんですよ?」

 

「ああ。なんせ私は傲慢な魔王ルシファーだったこともある男だぞ」

 

 私がニヤリと笑ってそう言うと、メフィはたまりかねたように笑い返した。

 

「しょうがないな。他ならぬグランドマスター直々の命令だ、従いますよ」

 

「うん」

 

 私は頷いた。

 これで……これでようやく、私は彼女と対等にやり取りができた。

 

 私は自信たっぷりに、堂々と保育園の中へと歩みを進める。

 そしてヒヨコのエプロンを着込み、園児たちに囲まれた彼女の前に立った。

 驚愕に目を見開く彼女に、私は花束を差し出して言う。

 

「もう一度……私と結婚してくれないか、アルマ」

 

 

 

 

 

 涙を流して抱き合う2人を背後に、メフィはのんびりと歩み出していた。

 どうなったかなんて見るまでもない。

 物語の結末は、ハッピーエンドに決まっているじゃないか。

 これ以上見るのは無粋。

 だからメフィはすべてを見届けることなく、ゆったりと歩く。

 

「よっ」

 

 と、歩み去るメフィに、一人のネオエルフが声を掛ける。

 金髪のツインテールに、生意気そうな八重歯。そして薬指にきらりと光る銀の指輪。

 

「レヴィですか……どうしました?」

 

「いや、アンタがどうしてるかと思ってね。息子と娘の再婚だ。アンタもさぞ複雑な心境だろうと顔を見に来てやったのさ」

 

「……心配してくれたというわけですか。ええ、あの子に生きろと言われてしまいましたよ」

 

「ふーん。顔を見せるのが気まずいからって、わざわざ本体とかけ離れた容姿のボディまで用意したっていうのに。あっさりバレちゃったか」

 

 レヴィはケラケラと明るく笑ってから、心配いらなかったなと呟いた。

 

「よし! 今日は飲もう! いい疑似アルコール燃料の店があるのよ、今日はあたしがおごっちゃる!」

 

 背中をバーンと叩くレヴィに、メフィは戸惑ったような顔をした。

 

「それはいいですが……レヴィ、旦那さんはいいのですか?」

 

「いいのいいの! ほとぼりが冷めたら2人の顔を見に行くって言ってたし、あっちはあっちで飲むから!」

 

「はあ……レヴィもすっかり円熟夫婦ですね。昔は一秒でも離れていたがらなかったのに」

 

「何年連れ添ってると思ってんのよ。5000年よ、5000年! ……ところでアンタ、その口調気持ち悪いんだけど、いつまで続けるの?」

 

 レヴィの指摘に、メフィは苦笑いを浮かべる。

 

「このボディの癖ですかね。何分お役所勤めは口調を整える必要がありますから。でも、いいこともあるんですよ? このボディだとユウ君の体臭を嗅がなくてもしばらく我慢できるんです!」

 

「それはやめろって娘にも言われたでしょ……」

 

 レヴィは呆れたように5000年来の親友を眺める。

 そんなレヴィの肩を組み、メフィははしゃいだ声を上げた。

 

「よーし、祝杯を上げましょう! 5000年前から続く、幸せな明日に!」

 

 

おしまい




あとがき

というわけで大団円です。
その後みんな幸せに暮らしました。

本当はアルマと相打ちになるところで終わりの予定でしたが、せっかく時間割いて読んでくれたんだからハッピーエンドで終わってほしいよね?ということで、5000年後に続いて終わりました。
超展開というくらい展開早かったですが、作者的には想定通りです。人類に偏見ある種族から偏見取り除くには、種族の垣根ぶっ壊したうえで偏見どうでもよくなるくらい時間経たせるしかねえよなあ?

脳梗塞後の脳と右手のリハビリのために始めた話ですが、面白かったら評価いただけると嬉しいです。
あと書籍化もしてる『貞操逆転ハードモードを鋼メンタル冒険者が生き抜く』もよろしくね。大事な飯の種なので何卒何卒。
https://syosetu.org/novel/370181/

あとは蘇生に5000年もかかったのはベルさんがユウユウを蘇生する時期を見計らってたからとか、動植物はその後侵略した異世界からまた輸入したとか、モンスターはウイルスで死に絶えたとか、まだまだ語り尽くせないことはありますが、蛇足なのでこれで締めとさせてもらおうと思います。

最後におまけとして、登場人物のその後をおつけしておきます。


======
登場人物たちの詳細とその後

〇ユウユウ

別名時空皇帝ルシファー。
妻がいない時代に蘇生されたことに絶望し、グランドマスターに祀り上げられてからは自分に匹敵する存在を求めて異世界を荒らしまわった。
ルシファーを名乗ったのは誰か転生者がツッコんでくれるかもと期待を込めてのことだったが、誰からもツッコミはなかった。
あまりにやらかしすぎたので、ベルは2000年間ほとぼりが冷めるまで蘇生させられなかった。

アルマと再会してからは幸せな家庭を築き、子供たちに囲まれる日々を過ごしている。
子供は双方の遺伝子データを混ぜ合わせたものをベースにしているので、間違いなく二人の子供である。

相変わらず周囲からは何もするなと言われているが、暇すぎるのでいろいろ作って遊んでいる。

〇アルマ

ユウユウと再会して、幸せいっぱいの家庭を築いている。
嬉しさのあまり子供もたくさん作った。
毎日のように母が遊びに来て、孫バカを発揮しているのが最近の悩み。
子供が多すぎて、世話に手慣れている母の手を借りないといけないので、拒否もできずにいる。

実はアルマの蘇生はとっくの昔に準備できていたのだが、ユウユウと心中した理由が本人たち以外にはまるで理解されておらず、議会に危険分子と判断され蘇生の許可が下りずにいた。
しかしその結果時空皇帝ルシファーが誕生してしまったので、次にユウユウを蘇生させるときは精神安定のためにこの子もセットで……ということで5000年ぶりにユウユウと巡り会えた。

〇ベルゼビュート

5000年間息子と娘の蘇生のために奔走した人。
ユウユウを刺激しないために別人を装って分身で接近した。

今では娘夫婦の家に毎日遊びに行き、孫をデレデレで可愛がっている。
だって息子がもっと生きろって言ったし、新しい生きがいを見つけてもしょうがないよね?

なお、時空皇帝ルシファーの支配時代、彼女を含む6将軍が軍に復帰して、異世界人を相手に暴れ回っていた。
当時、あまりの暴れぶりから異世界人にはネオエルフは魔族と呼ばれ、彼女は特に大悪魔や魔王と恐れられていたという。
可愛い人間を虐殺するのが嫌だっただけで、手ごわい異世界人や異世界神相手はむしろノリノリだったという、
昔のことだしもういいじゃん。

〇レヴィアタン

5000年連れ添った夫と今もラブラブな日々を過ごしている。
円熟夫婦を気取っているが、たまにツンデレ病を発症して焼きもちの塊になる。

かつてはベルゼビュートに対抗心を燃やし、軍に復帰して異世界を荒らしまわっていた。
ベルが行くところ常に追いかけていく。

〇ロベルト

5000年前のエルフ社会崩壊時に、英雄王として新しい社会を作り出した。
その後30年ほど治世を続け、社会基盤を作り終えたところで次世代にバトンを渡した。

と思ったら2000年前の時空皇帝ルシファーが横暴を極めた時代にまた出てきて、飲み仲間の七勇者を率いてルシファーを打倒した。
そのまま政権を引き継ぐのかなと思いきや、若いもんがあんまりこんなジジイに頼るもんじゃないぞと言い残して、姿を消してしまった。
生涯に1勝しかしていないが、その1勝はあまりにも大きな勝利だった。

今の職業は専業主夫。
終生のライバルがおり、そいつが調子に乗ってないとやる気が出ないらしい。
そのうちまた元気になります。

〇サタナエル

2000年前にベルゼビュートと共に時空皇帝ルシファーに仕え、ノリノリで軍を率いて異世界を侵略して回った張本人。

一時期は複数のボディを自在に操り、同時に数百体を駆使して1人で軍勢を築いていた。
が、ベルゼビュートからやりすぎと忠告を受けていたのに多用を続けた結果、人格分裂を引き起こして引退を余儀なくされる。

今は老人ホームで心穏やかな日々を過ごしている。

〇犯沢さん

この世界にユウユウを呼び込んだ超存在。
面白いと思って皮肉の利いた願いの叶え方をしたが、その後時空皇帝ルシファーになって世界を越えて暴れ回るという事態を引き起こし、周囲に激詰めされて涙目になった。
最終的にネオエルフという自分と同等の存在まで出てきて大誤算。


というわけで今度こそ終わりです。
読んでくれてありがとうございました。
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