千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第4話「私ほどの天才ともなれば同年代にチヤホヤされるのも当然のことだ」

 異世界から御機嫌よう。

 バブみ溢れるディストピアに落とされた天才魔導士ことユウ君だ。

 現在私は5歳なのだが、今日はこの人間保護施設……まあ私はあえて人間園と呼んでいるが、その説明をしようかと思う。

 冷静に現状を把握しないと頭がおかしくなりそうだ。

 

 まずこの人間園なのだが、この世界にはそもそも一般的な人間とエルフという長寿命種族がいた。人間はまあいつも通り短い寿命に悔いを残すなとばかりに毎日戦争に明け暮れる生活を送っていたのだが、ある日ついに心優しいエルフ様がお怒りになった。

 

 いや怒ったというのか堪忍袋の緒が切れたというのか、このままでは人間は互いに戦争によって自滅してしまうと思ったらしい。そこで数は少ないが寿命がクッソ長く、高度な魔術文明を持っていたエルフ様は、人間の文明をすべて滅ぼしてお節介にも保護施設で完璧な管理をしてくれるようになったというわけだ。

 

 おかげで人間は毎日あくせく働かなくても飯が食えるというわけだ。

 

 それがずーっと続いてしまっているから、今の人間はすっかり牙が抜かれている。

 昔は互いに殺し合っていた邪悪極まりない種族だったけど、エルフ様が懲らしめてくださったので、今の私たちは何不自由なく暮らせるんだよという寓話こそ伝わっているが、だからといって昔に戻りたいとは思わないのだ。

 まずもって現状がおかしいとは思っていないらしい。

 

 何しろ飼育……まあエルフにいわせれば保護だが、それが始まってからもう500年は経っているからな。人間世代のサイクルが約20年で一周するとして、もう25世代が経っていることになる。

 そりゃ遥かな大昔から連綿と続いてきた当たり前のサイクルって認識にもなるか。

 

 ちなみにエルフ飼育員は当時からあまり顔ぶれが変わっていないらしい。

 何せエルフの寿命は10000年だ。あまりにもアホらしい数字だが、自然死するまで1万年かかるらしい。エルフにとっては100年が人間にとっての1年に相当する。

 人間が70年生きたとして、エルフ主観では1年も生きていないことになる。

 逆に言えばエルフにとって人間はたった1年も経たずに老いて死んでしまう儚い生き物に映るわけで、そりゃ私たちが保護してあげなきゃ!となるのもわからなくはないが……。

 

「ほーら、ヒロくんおしめ替えましょうねー♥ それが終わったらマンマ食べて、お休みの時間ですよー。今日は私も一緒に寝てあげますからねー♥

 

「きゃっきゃ♥」

 

 目の前を車椅子に乗った老人が通り過ぎて行った。

 車椅子を押しているのは飼育員のエルフのお姉さんだ。

 

 ヒロト爺さんは御年80歳を超える施設の長老なのだが、最近ではすっかりボケてしまって精神が子供に戻っており、ごらんの有様だ。

 ちなみに飼育員は誰に対しても基本ああいう対応をする。別に子供返りした爺さんだからってわけじゃない。

 

 エルフからすれば人間は赤ん坊の頃から面倒を看ている可愛らしい保護動物であり、赤ん坊だろうと老人だろうと彼女たちから見ればほんの幼い子供なのだ。

 人間にとっては赤ん坊から老人になって死ぬまで、ずっとエルフのお姉さんという絶対者に見守られて生活するのがここでの当たり前の暮らしということになる。

 

「…………」

 

 現代日本から転生した私にとっては、頭がおかしくなりそうだ。

 だがこの世界の人間にとっては、私の思考こそが世界を崩壊に導く危険思想と言える。

 何しろ何の不自由もなく、毎日食って寝ての平和な日々を脅かす思想だからな。

 

 いつかエルフに私の存在を認めさせてやる。

 私は密かに拳を握りしめた。

 身を焦がすようなこの意思はスキルのデメリットとわかってはいるが、自分ではどうすることもできない。自分の力を知らしめたいという欲求は、私にとって宿業だった。

 だが、まだ早い。人間という劣等種族に加え、ほんの子供に過ぎない私が天下を獲るにはあまりにも時期尚早と言える。

 もっと魔法を研究して、自衛するだけの力をつけなければ……。

 

「ユウ君、怖い顔してヒロトさんを睨み付けてどうしたのー? あっ、もしかして自分も車椅子に乗りたくなっちゃった?」

 

「はあ……」

 

 間の抜けた女の子の声に、私は脱力しながら声の方向を振り返った。

 

 そこにいたのはちみっちゃい少女だった。銀色の髪をサイドテールにまとめ、何が嬉しいのかニコニコして私を見ている。

 施設の人間全員に配られる飾り気のない服を着て私にぴったりとくっついていた。

 最近私と知り合ったのだが、それ以来どういうわけか私のそばにつきまとって離れないのだ。魔法の研究に邪魔になるからあっちへ行けと追い払っても、気付けばそばにぴったりとくっついている。

 

「アルマ、何度も言うが私にくっついて歩いても仕方ないぞ。あっち行って遊んでいろ」

 

「やだ! 私もユウくんと一緒に遊ぶ!」

 

 シッシッと邪険に手を振るも、アルマはぷうっと頬を膨らませて私の言葉を拒絶した。

 

 アルマは私と同じく、今年で5歳になる少女だった。

 といっても、私は特に親しくするつもりはない。

 なにせ私は前世も合わせれば40歳に手が届こうという年齢なのだ。ロリコンじゃあるまいし、5歳児の相手など誰が好き好んでするものか。

 

 従ってアルマが近くに来るたびに邪険に追い払ってはいるのだが、それすら私に遊んでもらっているという認識なのか、手を変え品を変え私のそばに居座ろうとするのだった。

 一体このガキ、どういうつもりなのか。

 私にはエルフに我が力を思い知らせるという大望があるのだ。このようなガキの相手をしている時間などただの一秒だってありはしない。

 

「アルマ、またユウユウにくっついてるのか? そんないけ好かない奴ほっといて、俺と一緒に遊ぼうぜ!」

 

 生意気そうな声に振り返れば、まさしくワンパク坊主を絵に描いたようなクソガキが廊下の中央に立ってこちらを見ていた。

 この少年の名はロベルト。これも一応私の幼馴染と言える存在だ。御年5歳。

 人間園では不本意ながら私、アルマ、ロベルトの三人は同い年の三羽烏として扱われている。何しろ5歳の子供はそれ以外にいないからな。

 

 だが実際のところ、仲は決して良くはない。

 というよりロベルトが事あるごとに私に突っかかってくるのだ。私はただ自室に籠って魔法の研究をしていたいだけなのに、アルマが外で遊ぼうとべったり甘えてきて、ロベルトが勝負を挑んでくる。

 魔道の天才である私にただのガキが勝てるわけもないのに、同年齢なら時の運でいつか勝てるとでも思っているのか、しつこく勝負を仕掛けてくるのだ。

 

 ちなみにユウユウというのは私の本名だ。パンダかよ、ふざけやがって。

 あまりにも気に入らないので飼育員やアルマにはユウ君と呼ばせているが、どうやったら改名できるのか。自分の力を認めさせるまで不可能なのかもしれない。早く私の力を認めさせなくては。

 

 それはさておき……。

 

「ほらアルマ、迎えが来たぞ。あっちで遊んでろ」

 

「…………」

 

 アルマはしばしロベルトの顔を見ていたが、やがて私の手をとってあかんべーした。

 

「や! ユウ君と遊ぶ!」

 

「くっ……やいユウユウ! いい気になるなよ、今日こそぶっ飛ばしてやる!」

 

「なってないが?」

 

 いや、ロベルトじゃ絶対に私に勝てないとは思っているけど。

 だって私は天才だぞ? 加えて30ン年の人生経験だってある。

 たかだか5歳のガキ程度、逆立ちしながらだって軽くいなす自信がある。というかいなしている。

 

「しょうがないな……相手をしてやる。今日の勝負はなんだ? お前に選ばせてやる」

 

 まあ射的かな……。射的とは非殺傷性の魔法弾を目標にぶつける競技を指す。

 魔法文明を持つエルフの支配下にあって、こうした遊びは子供が魔法を学ぶ上で相当メジャーな遊びらしい。人間は殺傷能力のある攻撃魔法を学ぶことを禁じられているが、こうした非致死性の魔法の習得についてエルフが口を出してくることはない。

 

 無論どんな勝負であれ、私の圧勝だ。何故か私とロベルトの勝負なのにアルマも加わってくるが、この2人には到底後れをとらない。

 

 しかし今日のロベルトは一味違った。

 

「舐めるなよ……今日という今日は我慢ならねえ! 俺の火炎魔法で焼き尽くしてやる!」

 

「ほう」

 

 火炎魔法ときたか。

 実のところ殺傷能力のある魔法の習得は禁じられているとはいえ、原理としては攻撃魔法の習得なんてごく容易い。むしろいつも使っている魔法の詠唱には攻撃を禁じる一文が盛り込まれており、人間同士で殺し合うことがないよう意図的にデチューンされているのだ。

 

 問題は今の人間の拙い魔法知識では、詠唱のどの部分が攻撃を禁止しているのかわからないことだ。私はもちろん極秘に研究して解き明かしているが、同じことがたかがロベルト風情にできるだろうか。これは見物だな……。

 

「ダメだよロベルト! 攻撃魔法なんて友達に使っちゃ!」

 

「黙ってろアルマ! ユウユウなんて友達じゃねえ! 今日こそこいつの余裕ぶった顔を泣きべそに変えてやるぜ!」

 

「興味深い。やってみるがいい」

 

「舐めやがって! いくぞ!」

 

 そう言うとロベルトは廊下に突っ立って様子を見ている私に向かって、掌を突き出してきた。

 

「うおおおおおお! 燃え盛れバーニング・レッドーーーーーーッ!!」

 

 その叫びと共に、解き放たれた燃える業火が私の体を包み込んだーーー。

 

 

 ごちん!

 

「痛っ!?」

 

 突然頭上に振って来たげんこつに、ロベルトは涙目になって悶え苦しんだ。

 げんこつを降らせた犯人は、言うまでもなくすっ飛んできた飼育員――お世話係のベルさんだ。

 

「こら! 建物の中で火炎魔法を使うなんて何考えてるの!」

 

 廊下のあちこちに飛び火してボヤ騒動を起こしかけた火炎は、あっという間にベルさんの水魔法で消し止められている。廊下の中に浮かんだ雨雲が、スプリンクラーのように水を降らせて鎮火していた。

 

「ユウ君大丈夫!? どこか熱いところはない!?」

 

「あ、はい……大丈夫です」

 

 というかロベルトの魔法は非殺傷にする一文をオミットし損なっていたので、元々僕には怪我ひとつない。業火に頭からモロにぶつかっても一切無傷だ。

 しかし火の威力を上げる一文が加えられていたため、火力自体は結構なものだった。ロベルトは火力が上がったのを見て嬉々として僕に披露しようとしたのだろうが、あれがもし殺傷能力があったら僕でもちょっと危なかったな。やるじゃないかロベルト。

 

 まあ、そんな火炎でもベルさんにとってはほんの些細な火に過ぎないんだろうけど。

 廊下を焼き尽くす火種でも、ベルさんにとってはマッチの火程度の扱いなんだろうな。

 

 僕の体をくまなく見ていたベルさんは、傷一つないのを確認してほっと息を吐いた。

 

「もうこんなことしちゃだめよ! 特にお友達に攻撃するなんて!」

 

「ユウユウは友達じゃ……はい」

 

 反射的に言い返そうとしたロベルトだが、ベルさんに真正面から見つめられてうなだれた。基本的に人間はエルフには逆らえない。エルフの飼育員が言うことには絶対服従と、子供の頃から仕込まれている。

 

 するとベルさんはにぱっと笑顔になり、ロベルトをぎゅーっと抱きしめた。

 

「でも、自分で火炎魔法を覚えたのね! えらいわ、人間さんがそんなに一生懸命魔法を覚えようとするなんて! これからも頑張って魔法を覚えようね!」

 

 これである。

 エルフは人間が何をしようと、最終的には肯定する。

 それは人間を脅威に感じているからではない。絶対的に下位の種族としてみなしている故の余裕からくるものだ。

 

 私はエルフに……飼育員のベルさんも驚くような、そんな魔法使いになれるだろうか。

 

 100センチ越えのバストで抱きしめられてもがくロベルトの背中を見ながら、私はそう思ったのだった。

 

 

「た、助け……息ができない……死ぬ……!」

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