千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです 作:風見ひなた(TS団大首領)
「ユウちゃん捕まえたー。えへへ、次はユウちゃんの鬼だよー」
私に追いついたアルマは、機嫌良さそうにニコニコと笑いながら言った。
アルマのくせに生意気な……。
思わず頬を掴んでぐいぐい引っ張ると、何が嬉しいのかふにゃふにゃと笑う。
「ふえーん、やめてよー。ユウちゃん、タッチしたんだからちゃんと鬼やってよー」
「ふん……」
私は立ち止まり、アルマが逃げ出すための時間を作ってやった。
すぐにタッチし返すのはアンフェアだからな。
そんな私を見て、ロベルトが遠くからニヤニヤと笑みを漏らす。
「へっ、ユウも体を動かすのは大したことねえな。魔術だけできても運動はからっきしじゃねえか」
「あ゛あ゛?」
私は足元に風を纏わせ、脚の筋肉を飛躍的に増強する魔術、脚の負担を軽減する魔術を同時展開させた。
「ちょ、やめ、魔術とか鬼ごっこに使うのは反そ……あああーーーーーーーーーっ!!!」
べたべたとタッチしまくってきっちりわからせてやった。
そんなわけで鬼ごっこの最中である。
この世界の人間の子供の遊びといえば鬼ごっこと相場が決まっている。何しろ道具がなくても人数さえいれば遊べるからな。
私がこのような程度の低い遊びに付き合ってやっているのは、アルマが毎日のように部屋に遊びに来るからだ。
実験の邪魔だから無視してもいいのだが、私がだんまりで教科書を読んでいるとしきりにくいくいと袖を引っ張って邪魔をしてくる。
「ねえユウちゃん、暇だよー。遊んでよー」
「見ての通り、私は勉強に忙しいんだ。遊ぶなら一人で遊ぶがいい」
「せっかく遊びに来たのに、そういうのってどうかと思う!」
「勝手に遊びに来たのはそっちじゃないか……」
アルマは遊んでやらないと拗ねて自分の部屋に帰らなくなってしまうのである。
はっきり言って、私に構ってもらいたがる気持ちがわからない。同年齢だからとはいえ、少し年上の子供だっているし、ロベルトなんかアルマのことが露骨に気になっているようだから、不愛想な私なんかより余程チヤホヤしてくれるはずである。
なのに、どれだけ邪険にしてもアルマはことあるごとに私に遊べとねだってくるのだ。
当初は仕方なくお絵かきやらおままごとやらブンドドやらのインドアな遊びに付きやってやっていたのだが、体力がついてきた最近はやたらと外で遊びたがる。
これは幸い、じゃあ後は鬼ごっこなり新しい友達とご自由に……と思っていたら、アルマは私の袖を引っ張ってニコニコ笑顔で言った。
「ユウちゃんもお外で遊ぼ!」
「…………」
あのな、私の中身は30代のオッサンだぞ。
何が楽しくて鬼ごっこやらだるまさんがころんだやら原始的な遊びをやらねばならんのか。
なのにこいつらガキどもは、そういう人数さえいればできる遊びを毎日熱心に遊んでいる。そりゃもう朝飯を食べたら日が沈むまで、飽きもせず遊び続けているのだ。年上の子供たちと十人ほどのグループを作り、毎日数時間は鬼ごっこしている。正気を疑う。
多分それ以外の娯楽がないから、こういった原始的な遊びに没頭できるんだろうな。
昭和の子供なんかは金もない代わりに公園なんかの遊び場が解放されていて、こうした鬼ごっこなんかの金のかからない遊びを毎日していたらしい。父が存命の頃、酒を飲んでそんな昔話をしていたっけ。
この人間園にいる子供はみんな例外なく一文無しで、こんな原始的な遊びしか知らない。
ちなみに昭和の子供はぐるぐる回転するジャングルジムなんかの危険な遊具で遊んでいたとも聞くが、そんなものは設置されていない。
エルフはとんでもなく過保護で、万が一にも人間園の子供が怪我するとどこからともなくすっ飛んできて治癒魔法をかけるのだ。どこかで見張っているのだろうか? そんなタチだから、そもそも怪我の原因になりそうな遊具など置かれていない。
それにしても限界だ。
もういい加減トシのいったオッサンである私が、鬼ごっこばかり数時間も続けていられるか。それ以外の遊びがないガチ幼児ならともかく、社会に出てパチスロや女遊びの味まで覚えた大の男が今更鬼ごっこで満足できるわけがない。
フォートナイトやポケモンをやらせろとは言わないが、もっと文化的な遊びというものがあるだろうが。
なのにこの人間園には文化と呼べるものが存在していなかった。
そりゃ料理くらいならあるが、この人間園においての暮らしは専らくうねるあそぶに終始している。どいつもこいつもエルフの家畜としての暮らしに甘んじ切っているのだ。動物かよ。
「ユウちゃん、画用紙なんてどうするの? お絵かき!?」
「まあ見てろ」
遊んでもらえるのかとぱあっと顔を輝かせるアルマを押し留め、私は画用紙をハサミで同じ大きさに切り取った。
ちなみにハサミは肉が切れないように魔術がかけられている。人間さんが間違って怪我をしては大変だからね。どこまで過保護なのか……。
ともあれ、同じ大きさに切り取った画用紙を糊で貼り合わせてやれば完成だ。
「ほら、紙めんこの出来上がり」
「??? なあに、これ」
遊び方がわからず首を傾げているアルマの前にめんこを置くと、私はぺチンと別のめんこを投げてやった。
叩きつけられた風圧でめんこが裏返ると、アルマはぱあっと顔を輝かせる。
「おおーーーっ」
「それだけじゃないぞ」
私は少しずつ形を変えながら丸く切り抜いた画用紙を何層にも重ね合わせ、クレヨンでカラフルな色を塗って軸となる棒を通した。
何が起きるのかと興味津々に見つめるアルマの前で、私は軸を持って回転させる。
「わあーーーーーーーっ!」
途端に色が混じりあって虹色の光彩を見せるコマに、アルマは歓声をあげる。
なかなかの反応だな。
ま、めんこやベーゴマくらい画用紙さえあれば私にも作れる。
ベイブレードみたいな工業製品はできなくても、その原型になったベーゴマは元々は手作りで作られていたもんだからな。
だが遊びの本領はここからだぞ。
きらきらした目でコマを見つめるアルマの前に、私は別のコマを繰り出した。めんどくさかったからこっちのは色を塗っていないが、強度は十分。
けしかけられた真っ白なコマは、色を塗られたコマにぶつかり合って反発し、やがて元回っていた方が弾き出される。
「あ……」
「なかなか面白いだろ? こうしてコマ同士をぶつけて、弾かれた方が勝ちなんだ」
私はルールを説明してやる。
……ん?
なんか不満顔だな……。
「せっかく綺麗なんだから、もっと見ていたかった」
「…………」
受けると思ったのに……。女の子の感性というのはよくわからんな。
「コマくらい、自分の手でいくらでも回せばいいだろ」
「私が回すのじゃダメなの! ユウちゃんが回したコマが綺麗だったの!」
「ワケのわからんことを……」
私は突然拗ね始めたアルマに困惑しながら、私は色を塗ったコマを回した。
「わあーーーっ、綺麗ーーーーっ!」
アルマはたちまち上機嫌になって、虹色のコマを凝視している。
うーん、わけがわからん。喧嘩コマの方がよほど面白いと思ったのだが。
「今度は止めちゃだめだからね! 綺麗なのずっと見てるの!」
「はいはい」
釘を刺してくるアルマに適当な返事を返し、私はめんこを手に取った。
アルマ的にはあまり刺さらなかったようだが、こうして絵を描いて……。
「ほら、にゃんにゃん号とわんわん号」
「わあ!」
いい加減な猫の絵と犬の絵が描かれためんこに、アルマは声を上げた。
七色のコマを見るのも忘れて、猫のめんこで犬のめんこをひっくり返すのに熱中している。
「どうだ? 面白いか?」
「うん! ユウちゃんすごいね、こんな遊びがあるんだ!」
「いや……まあな」
私が考えたものじゃないけどな。なんとなしにむず痒さを感じながら、私はアルマからの称賛の言葉を受け止めた。
多分だが、めんこもベーゴマもエルフたちの世界にはあるんじゃないかな。
画用紙やハサミを作れる連中が、こんな遊びを思いついていないわけがない。
ただ、エルフと人間の文化力はあまりにも隔絶しているんだろう。
ともあれ、これを子供たちに広めることで、私の目論見は成った。
子供たちはめんこやベーゴマといった新しい遊びをたちまち学習し、自分たちで作るようになっていった。鬼ごっこという原始的な遊びは頻度を減らし、子供たちは新しい遊びに夢中になったのである。
これで私も鬼ごっこなどに煩わされず、教科書の研究に没頭できるというわけだ。
「なあ、ベーゴマをもっと勢いよく回したいんだけど、コツを教えてくれよ!」
「もっと強いコマがほしいんだ、作ってくれよ!」
「あのね、このめんこに可愛い猫さんの絵がほしいの!」
「ねえ私にも描いて。アルマちゃんばっかりずるいー!」
「もーっ、私のユウちゃんなの! 離れてーーー!!」
私は子供たちに囲まれてぐいぐいと袖を引っ張られながら、溜息を吐いた。
なんでこんなことに……?
「うふふ、ユウ君ったら子供たちに大人気ね」