千年に一人の天才魔道士はバブみエルフに飼育されるようです 作:風見ひなた(TS団大首領)
「うぬぬぬ……」
私は大量に依頼されたメンコの前に歯噛みをした。
メンコの開発者の私にそこそこの絵心があると知った子供たちは、我先にとメンコに絵を描くことを要求してきたのである。
このような新しい遊びを開発したのだから、責任をとって絵を描けというわけだ。
正直アホなんじゃないかと思う。
私が遊びを開発したからといって絵を描かなきゃならない道理などない。私の関わりのないところでメンコなんて勝手に量産すればいいし、好きに絵もつければいいのだ。
そもそも私が鬼ごっこから逃れるために紹介したメンコやベーゴマで何で忙しい思いをしなきゃならんのか。私には魔術の研究という崇高な使命があるのだ。メンコの絵など描いてる余裕などない。
「……と突っぱねられればいいのだがな」
私は溜息を吐いた。
どうも私は他人から頼られたら二つ返事で引き受けてしまう癖がある。折角頼りにしてくれたんだから応えなきゃと、そう思ってしまうのだ。
前世からそうだ。それで他人の仕事を押し付けられて、過労死するまで頑張ってしまうのだから世話はない。
今生ではそうならないように気をつけねばならないのだが……。
「もー! なんで言われたことをホイホイ引き受けちゃうのー!」
私の前に積まれた仕事の山を見て、アルマはぷりぷりと怒った。
「私と遊ぶ時間がなくなっちゃうじゃない!」
「いや、別に私の時間はお前と遊ぶためにあるわけではないのだが……」
「ユウちゃんの時間は全部私と遊ぶためにあるんだよ!」
「そんなわけないだろう」
このガキ、平然と私の所有権を主張してくる……!
私の時間は私の物であって、断じてアルマのものではない。
「大体アルマのメンコに最初に絵を描いたのではないか。大方自慢して回ったのだろう」
私とロクに喋ったこともない、年上の女児が私に依頼してきたからな……。
アルマがメンコに絵を描いてもらったと見せて回らなければ、そうはなるまい。
私の指摘に、アルマはそっぽを向いて唇を尖らせた。
「私はいいの!」
「いやよくないだろ、やはりお前が自慢して回ったのではないか」
「だって嬉しかったんだもん! ユウちゃんの絵が入ったメンコを持ってるのは、私だけでいいの!」
本当に意味がわからん……。
私の絵心など大したものではない。私よりお絵かき上手な子供などザラにいるだろう。私の絵を求められているのも、メンコの開発者だしついでに描いてもらおうという程度のものでしかない。
まあ、幸いラクガキ程度の絵で満足してくれるので、それほど時間もかからないだろう。
私が20歳の成熟した男性で、精緻な自動車のスケッチなど大量に求められたらまずかっただろうが、今の私は6歳児に過ぎない。
ただ、めんどくさいのは確かだ。
一番の問題は、これに味を占めて第二弾、第三弾と注文されないかということにある。
どうも子供たちが面白そうな遊びをしているのを見た大人が、物欲しそうな目でこちらを見ていたからな。
この世界の人間は精神面が未熟で、大人のくせに子供みたいな物言いをすることがある。おそらく飼育される環境に慣れきっているのだ。そもそも働かなくても食っていけるのだから、大人になる必要もない。成長しても図体のでかい子供のままというのはありえる話だった。
子供たちにメンコやベーゴマが行きわたったら、次は子供たちのおかわりに混じって大人たちが自分の分も作れと言い出しかねない。
その光景を想像して、私はぶるっと身震いした。
多分このまま言われるがままにメンコに絵を描いて配るのはまずい。
「となると……保護者を巻き込んでしまうのが一番いいな」
私の言葉に、アルマは小首を傾げた。
「ほごしゃってなーに?」
「つまりエルフに丸投げしちゃえばいいってことだよ」
私は自力での解決をとっとと諦め、全力でベルさんに泣きついた。
新しい遊びを広めたら、みんながイラストをほしがって仕方がない。このままじゃ腕が壊れてしまうから、絵心のある大人に絵入れをしてもらえないかと頼んだのだ。
いつかエルフをわからせてやるなんて息巻いてるくせに、ヤバくなったらエルフに泣きつくなんてみっともない……なんて言わないでほしい。
多分誰にとってもこれが一番の解決法なのだ。
ただの6歳児にすぎない私が頼んだところで、人間の大人たちは絶対に言うことを聞いてくれない。年長である自分たちに子供ごときが頼みごとをするなんてありえないと思っているのだ。
私が彼らを内心で見下しているのはそういうところにある。何も持っていない空っぽな大人ほど、年齢を理由に若者に冷たく当たるものだ。前世でもそういう人間はざらに見た。
ところが彼らの飼育者であるエルフからの頼みとあれば、彼らは絶対に拒絶しない。
飼われることが本質的に身に着いているので、ご主人様の命令には素直に従うのだ。ワガママ放題は言いはするけど、命令されたことには忠実。まさに家畜だ。
というわけで絵心のある大人に絵入れを手伝ってもらう口利きをお願いされたベルさんは、なんだか残念そうな顔を私に向けてきた。
なんだよその顔は、どうして私がそんな顔をされなくちゃいけないんだ。
「えーもったいない。本当に断っちゃっていいの? せっかく人気者になれるチャンスだったのに。絵を描いてあげたら、きっとみんな喜ぶよ?」
「いや、人気者になんてなりたくないよ……」
私は渋面を作って吐き捨てた。
これは本当にそう思う。家畜の人気絵師になんてなりたくない。
私はただ教科書を読んで研究したいだけなのだ。私には無駄にする時間なんてただの一秒だってないのだ。
「そっかあ。まあ人間は寿命が短いもんね、ユウ君が言うなら仕方ないか」
……ベルさんは私を人気者にしたいのか?
一体どういうつもりなのかわからないが、余計なお世話だ。
この際はっきり言うが、私は人間が嫌いだ。より正確には向上心がない人間が嫌いだ。この施設には向上心を捨てた人間しかいないから、つまり人間が嫌いだということになる。
アルマはなんだかんだ私の研究に付き合って魔術の練習をしているし、ロベルトは私に対抗心を燃やして独学しているようだから、例外ではあるが。
要は私は一人でいたい。エルフに我が力を知らしめる方法を、孤高に考え続けたい。
そう思っているのに、ベルさんはお友達ができると思ったのになあ、と小さくぼやいていた。
滅多なことを思わないでほしい。友達100人できるかなという歌はあるが、友達ができるのがいいこととは限らない。顔を売ることのデメリットは前世で過労死するほど味わった。
「いいよ、じゃあユウ君の願い通り、私の方で口利きしてあげる」
「あ、いいの? じゃあお願いします」
私はほっと息を吐いた。
やれやれ、これで安心して研究に打ち込めるというものだ。
「ただし! どうやって絵入れするのか、ちゃんとユウ君が指導しないとだめだからね」
「ああ……はい」
ベルさんにずいっと迫られ、私はのけぞったまま頷いた。
オッパイが語り掛けてきたみたいだ……。
というのは冗談として、後はエルフの方でご随意にというわけにはいかないらしい。
ディレクションまで全部お任せ出来たら楽でよかったのに。
「あの……僕、6歳なんだけど?」
一応上目遣いをちらって送ってみたところ、ベルさんは穏やかに笑顔を返してきた。
「だから?」
「…………」
「指導するのに年齢は関係ないよね。たとえ6歳児でも、お手本は見せられるよね?」
「……はい」
私は渋々と頷いた。
どうやらそこまで甘やかしてはくれないらしい。
というか、なんかちょっと厳しくなった? これまでのベルさんなら「6歳なのにそんな難しいことできないよね! お姉ちゃんに任せて、私が全部やってあげるからね」なんて言い出すところなのに……。
私がそう思っていると、ベルさんは私に視線を合わせて屈み込んできた。
「ユウ君が6歳児だからって言うことを聞かないなら、遠慮なくお姉ちゃんに言うんだよ。私がガツーンとお説教してあげるからね」
「う、うん」
私が頷くと、ベルさんはにぱーっと笑顔を浮かべた。
「もうユウ君ったら、素直で可愛いなー! あーもう食べちゃいたいーーっ!!」
「むぎゅ!?」
ベルさんは辛抱たまらんといった顔で、感情の赴くままに思いっきりハグしてきた。
私の顔はベルさんの豊満すぎる巨乳に包まれ、鼻腔はベルさんの甘い香りでいっぱいになる。
ああ、いつものベルさんだな……。
いつも通り私がもがいて脱出すると、ベルさんはちょっと残念そうにこちらを見た。
「あ、そうそう。忘れるところだった。口利きはしてあげるけど……」
そう言ってベルさんは懐から真っ白なメンコを取り出した。
ええと……。
「これは私のメンコね。私用にも一枚、絵を入れてほしいな」
「あーーっ! ユウ君に絵を入れてもらったメンコは、アルマのだけなのにー!」
ベルさんのお願いに、それまで膨れっ面のままじっと黙っていたアルマが噴火した。
蓄積した不満に火が点いたといった感じだ。
これまでベルさんがどれだけ僕にハグしようと、絶対に口を挟んだりしなかったのにどうしたんだ。いや、ある意味成長したということなのか。
「じゃあこれで私も持ってるってことになるわね」
「むうーーーーーっ!」
ベルさんはアルマの抗議を涼しい顔で受け止めている。ベルさんはなんかアルマにはちょっと対応が冷たい。異種族でも同性にはそんなものなのかな。
「いや、僕の絵なんかでよかったら描くよ」
「えへへ、やった! 私、ユウ君画伯のファンなんだ!」
見かねて私が口を開くと、ベルさんはにぱっと嬉しそうに微笑んだ。
まあ、大量のメンコにイラストを入れることを考えたら、1枚くらいどうってことないか。
それにしても私が画伯ねえ……。冗談とはいえ、酔狂なことだ。
そう思いながらクレヨンを取り出してお絵かきを始めると、ベルさんはそんな私をじっと見つめていた。
「あの……?」
「あ、気にしないでね。うふふ、ユウ君が私のためにお絵かきしてくれるのが嬉しいだけだから♪」
「むうーーーーーっ!」
「はあ……」
ニコニコ笑顔のベルさんと、むーむー不貞腐れているアルマを交互に見やり、私は小首を傾げた。
私なんて不愛想なガキを見て、一体何が楽しいのやら。
「はー、ユウ君今日も可愛い……♪ お絵かきする姿も最高にキュート……♪」
6歳児がお絵かきする姿って、そんなに可愛いものなのかね。
私にはまるでわからない。
まあいい。
ベルさんの次は、むーむー拗ねているアルマを黙らせるために、1枚描いてやるか。