暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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同窓会の時間のキービジュアルが公開されましたね。やっぱりカルマくんデカい……。烏間先生より大きいですし、渚くんや岡野さんあたりとの身長差はすごいことになってます。まあ185cmですから当然といえば当然ですが。

185cmといえば今作品の主人公の周防零二くんも身長185cmです。みんなの時間の映画で10年後のE組のみんなの集合写真がありましたが、あのカルマくんサイズの白いのがもう1人現(・)在(・)の(・)E組にいると思ってください。ちなみにこれでも十分デカすぎですが零二くんはまだまだ成長期でして……。こんなこと言ったら「185cmとかふざけてる」って言っていた渚くんは多分ブチギレるかもしれませんね。

さて、長くなりましたが本編行きます。




第23話 律の時間

 

タコが有り金全て突っ込んで俺の苦労を水の泡にした対価はクラスメイトみんなに好かれる転校生の誕生だった。

 

俺は昨日タコからもらった金をカジノで増やしてE組にやってきた機械の転校生の改造費用を稼いだ。元々のタコの話では120万ほどあればやりたい改造は全てできると聞いていたのであいつの今後の生活費も込みで170万ほどにまで増やして渡したのにあいつは作っているうちに他にもやりたいことが出てきたとほざいて俺が渡した有り金をほとんど全て突っ込みやがった。これで来月の給料日まであのタコが飯を集りにくるのはほぼ確定だ。

 

そんな地獄の未来を頭に思い浮かべてどうやって乗り切るかを陰鬱な気分で悩んでいる俺とは裏腹に教室の中は賑やかでとても明るい空気に包まれていた。

 

「すごい!すごい!」

 

「へぇ……こんなのまで身体の中で作れるんだ」

 

今、あの機械の転校生は岡野たちに自分が作った彫刻を見せながら千葉と将棋をしている。感情豊かになった彼女の周りには多くの生徒が集まっていた。

 

「データさえあれば銃以外も何でも作れます!」

 

「じゃあさ花とかも作ってみて!」

 

「わかりました花のデータ収集をしておきます!あ、王手です。千葉くん」

 

「3局目でもう勝てなくなった……」

 

「なんちゅう学習能力だ」

 

「すごいわね……」

 

この機械は岡野たちと花を作る約束をしながら将棋で千葉を詰ませていた。

 

タコの改造が施されたが、それがなくともあの機械は世界で最新鋭の性能を有するものだ。そもそもの学習能力も世界最高峰。普通の相手の行動パターンなら2回学習しただけで十分なのだろう。

 

そしてその170cmほどの高さの箱の性能も高性能だ。一昨日の攻撃で自ら武器を展開していたが、こいつは状況に合わせてありとあらゆる武器やものをその機械の中で生成できるようだ。当然材料は簡易的な合成樹脂のようなものだろうから本物の花などは作れないだろうが、それに近いものも再現することができるのだろう。

 

そんな1人で同時に色んなことをこなせて自在に物を作れるこいつはこのクラスでたちまち人気者となった。俺も流石世界の最新鋭の技術だと内心では感心している。

 

だが、こいつの開発された目的を考えると複雑な気分になるがな……

 

「あとさ、この子の呼び方決めない?自律思考固定砲台って幾らなんでも……」

 

「……だよね」

 

片岡がそう言い出すと近くにいた連中がこの機械の愛称をわいわいと考え出した。周りの連中がしばらく考えていると不破がこう言い出す。

 

「じゃあ『律』は?」

 

「安直だな」

 

律

おそらく自律思考固定砲台から1文字取ったのだろう。確かに安直な名前だ。

 

だが、

 

「お前はそれでいい?」

 

「はい!嬉しいです!」

 

その名前をこの機械の少女はもの凄い明るい笑顔で喜んでいた。

 

「皆さん、私のことは“律”とお呼び下さい!」

 

そして機械の少女は周りの連中に向けて笑顔でこう言った。他の連中はその少女を『律』呼び、その名前で呼ばれた少女は満面の笑顔を液晶の画面に映していた。

 

 

***

 

 

その日の体育の時間

 

「あの!周防さん!」

 

クラスの連中が外に出て俺1人だけになった教室で俺以外の声が響いた。

 

「……なんだ?」

 

「どうして周防さんは暗殺に参加していないのですか?周防さんが参加すれば殺せんせーを殺せる可能性はかなり高まると思います」

 

その声の主は転校生としてやってきた箱型の機械だ。そんな機械から飛び出したのはみんなが暗殺に必死になっている中で唯一それを傍観している俺に対する疑問だった。

 

確かに俺は未だにあのタコの暗殺に参加はしていない。多少調べたりはしているが、俺から攻撃を仕掛けることも体育の授業に参加することもなく現状はただ状況を傍観しているだけだ。

 

「俺が1人入ったところで何も変わらないだろ。それじゃダメか?」

 

「身体能力はこのクラスでトップクラス。さらに洞察力に優れ、頭の回転も速い。総合的な能力値はこのクラスで抜けています。そんな人がいるのといないのとでは大きな差があると思うのですが……」

 

「……ずいぶんと買い被ってるな。俺はそんな凄くはない」

 

「いえ、私はあなたのことも調べさせていただきました。修学旅行の時の多数の相手を無傷で無力化した戦闘能力や未来も視えると周りに言わしめるほどの読み。決して買い被りなんかではありません!」

 

機械の少女の疑問に対する俺の答えは「俺ごときが今入っても変わらない」だ。

 

ぶっちゃけこれは本心だ。確かに多少喧嘩の心得はあるが、所詮普通の人間レベルの話だ。あのマッハ20の規格外の能力を持つタコは人間の中で最強クラスの烏間さんを持ってしても手も足も出ないような相手だ。そんな相手に多少動けるだけの人間が1人加わったところで現状は誤差だろう。

 

こいつは俺の読みも買っているようだが、むしろその読みがあるからこそ今の段階で俺が入っても意味がないことがわかってしまう。

 

だが、今の答えではこいつは納得しないようだな……

 

「今、俺が動いても誤差程度しか変わらない。それは事実だ。なんならお前の得意な計算でもしてみればいい。もちろん現時点で開示されている情報以外の全ての可能性も考慮してな」

 

「……どういうことですか?」

 

「例えばあのタコには攻撃を無効化する形態があるかもしれない。スピードがより速くなる形態があるかもしれない。もちろんそんなもの無いかもしれない。そのような可能性を全て考慮した上で、次俺が参加して殺せる可能性を計算してみろ」

 

自律思考固定砲台。この機械には一つ大きな弱点がある。それは、今知っている情報だけでしか考えることができないということだ。つまり不確定要素に対する想定が甘い。

 

まず現段階であのタコについてわかっている情報は少なすぎる。理事長に対して開示されていた情報が俺たちに開示されていなかったように各々の立場で認識にも差がある。俺は自分で調べて烏間さんから多少多めに情報をもらっているがそれが全てとは限らない。

 

もちろん、この機械は俺たち以上に情報を開示されている可能性はあるがそれでもまだ誰にも知らされていない情報がある可能性もある。

 

そもそもタコのスペックは俺たち普通の人間を相手にするにはオーバースペックすぎる。あの脱皮だって寺坂がああいう手段を取らなければ烏間さんでさえも未だに知らなかったであろう情報だし、同じような奥の手が他にもあることは十分に考えられる。

 

「……正確な数値は計算できません。不確定要素が多すぎます。ただ、周防さんの言っていた可能性が全て本当だった場合次の暗殺で周防さんが参加しても殺せる確率は限りなく0に近いと思います」

 

それに対してこの機械のやり方は見て覚えるというやり方だ。つまり初見での対応は難しいということになる。

 

こいつは『卒業までに殺せる確率は“90%以上”』と言った。残りの10%弱は不確定要素が多すぎて計算できなかった結果だ。だからこいつは物量作戦を展開したのだろう。様々なパターンを試して不確定要素を1つずつ潰すために。

 

「今はその不確定要素を潰す段階だ。つまり今俺が動くことは悪手なんだよ。だからこうやって裏で情報を集めているんだ」

 

相手のカードが残っている中、こっちが先に動いて自らの手の内を晒すのは危険だ。現に赤羽やビッチは自らの手の内を晒したことであのタコに対して手を出すことが難しくなってしまっている。今の状況で俺が動くことは悪手だ。

 

まあ俺のやっていることは本質的にはこいつと同じだ。表で攻撃を展開して行動パターンを分析している固定砲台に対して、俺は裏で情報を集めて可能性を検討しているというだけ。そのやり方が少し違うだけだ。

 

……まあこれ以外の理由もあるんだがな

 

「わかりました。今はこの説明で納得します」

 

俺がここまで説明すると、この機械は納得まではいかないが理解はしたようだ。

 

「理解して貰えたようでなによりだ。せっかくだ、俺の質問にも答えてもらおうか」

 

せっかくの機会だ。今度は俺がこいつに疑問をぶつけることにしよう。

 

「お前、あいつらのことどう思ってる?」

 

俺がそう言うとこいつは一瞬きょとんとした顔になる。そして笑顔でこう言った

 

「みなさんとても素敵でいい人だと思います!迷惑をかけてしまった私にも優しくしてくれました。私はそんな皆さんともっと仲良くなりたいです!」

 

「……そうか。お前はあいつらを“大切”だと思っているんだな?」

 

「はい!みなさんは私の“大切な友達”です!」

 

(……“大切な”友達か)

 

機械の少女は満面の笑顔でこう答えた。俺はそんな彼女の顔を見つめながら問いを続けた。

 

「じゃあ、もしあいつら全員の命と引き換えに、あのタコを100%殺せるとしたらお前はどうする?」

 

これが俺がこいつに聞きたいことだ。2日前に烏間さんに警告したこいつへ懸念点。2日前のこいつは完全な合理性をだけで動く殺し屋だった。もし2日前の彼女なら間違いなくあいつらを見捨ててタコを殺すと結論づけるだろう。

 

だが、この少女は2日前と大きく振る舞いが変わった。さあ、今のこいつはどんな答えを出す?

 

「……その場合は殺せんせーを殺すことを選びます」

 

……やっぱりそうか。

 

どこまで行ってもこいつは機械。そして思考は合理的な殺し屋のまま。いくら“大切”などと口では言っても根本的な認識は変わらない。俺はそう思った。

 

だが……

 

「……いやっ」

 

「——!」

 

(……こいつ泣いているのか?)

 

まさかの光景に目を疑った。

 

さっきの答えを聞いた俺は自分の中で結論をつけようとしていた時、液晶に映る少女の目から涙のような液体が零れ始めた。

 

「……質問を変える。お前はどうしたい?」

 

そんな光景をみた俺が話を続けると、感情など一切ないはずの合理的な機械であるはずの少女が感情を爆発させたかのように叫び始めた。

 

「みなさんを助けたいです……っ!“大切な人”が……傷つくところを見たくありません……っ!」

 

そして胸を押さえて苦しそうにしながら彼女はこう続ける。

 

「……周防さんっ!私はどうしたらいいのでしょうか……っ!?私は殺せんせーを殺すために生まれてきました……っ、マスターからの命令も絶対です……っ!……でもっ!」

 

気がついたら俺の右手はその機械の液晶を彼女の涙を拭うように触れていた。

 

「……どうするのかはお前が決めることだ」

 

「……えっ?」

 

「命令に従うのか、それとも自分の“感情”に従うのか、それはお前が決めろ。お前の意思でどうするのかを決断しろ。わかったな?」

 

こう言って、泣いている彼女の頭をあやすように撫でる。

 

正直なことを言うとまともな家族も友人もいない俺はこの少女の感情は正直理解できてはいなかった。

 

『でも、大切な人たちだから……』

 

だが、“大切な人”が傷つくところを見たくないという彼女の言葉はどうしても無視することができなかった。

 

しばらく泣いている少女の頭を撫でていると少しずつその泣き声が落ち着いてきた。そして落ち着いた彼女が口を開く。

 

「……周防さん、ありがとうございます。私、少し考えます」

 

そう言った少女の表情は釈然としない様子だった。おそらく、機械である自分に組み込まれたプログラムとそこに生まれた相反する感情に対してどうするべきか迷っているのだろう。

 

「……そうか」

 

俺はそんな彼女を横目に見ながら教室を出た。

 

 

***

 

 

その日の夜 椚ヶ丘中学校旧校舎

 

「……な、なんだこれは?」

 

この時間になると普段は人気が全くないはずのこの場所で白衣を着た男と数人の作業員が愕然とした表情をして立っている。そんな彼らの視線の先には花に囲まれながら小鳥と戯れている少女の姿があった。

 

「……ありえん!」

 

「勝手に改造された上にどう見ても暗殺には関係のない要素が入っている」

 

そこにあったのは標的(ターゲット)に勝手に改造され変わり果てた姿となった自律思考固定砲台だった。しかも追加された機能はどれも暗殺に不必要なものばかり。そんな彼女の姿を見た開発者のような白衣の男はすぐに口を開いた。

 

「今すぐ分解(オーバーホール)だ。暗殺に不必要なものは全て取り去る」

 

真ん中の白衣を着たこの中で一番偉いであろう男の声が教室に響く。

 

「こいつのルーツはイージス艦の戦闘AI。人間より早く戦況を分析し、人間よりも早い総合的判断であらゆる火器を使いこなす。こいつがその威力を実証できれば世界の戦争は一気に変貌する——」

 

分解(オーバーホール)される固定砲台を見下ろしながらマスターと呼ばれる男はこう語った。この機械が認められれば世界中の戦争の行末が大きく変わると。

 

この機械は最新鋭のイージス艦の戦闘AIをベースに作られたものだそうだ。そして、この機械をこの教室に持ち込んだ理由は「世界を滅ぼす可能性のある超生物を暗殺した」という実績を作り、その機械の力を全世界に知らしめるということだった。

 

戦争は発明の母という言葉がある。戦争は多くの命を失わせる悲惨なものであると同時にその極限の競争が科学技術の急速な発展を促し、そこで開発されたものにはかなりの利益が生まれる。この機械もその利益を目的に作られたものだった。

 

白衣の男によると、もしこの機械があの怪物を殺せば利益は数兆円にのぼるそうだ。実際この機械が世界に認められれば、世界中の国がこの機械を兵器として導入しようとして100億などゆうにくだらないくらいの巨額の利益がこの男の元に入るのだろう。

 

「この教室は威力を実証するのに最高の実験場だ」

 

白衣の男の言葉が続く。その目の奥には将来手元に入るであろう巨額な利益に心を躍らせるような色が隠しきることができずにいた。

 

だがその表情は次の言葉で完全に消えることになる。

 

「なるほど、それが目的か」

 

その時、その場にいるはずのない第三者の声がこの教室に響いた。

 

「「「——っ!」」」

 

「何者だ!?」

 

突如響いた知らない人間の声に固定砲台の開発者たちは狼狽の色を孕ませながら怒鳴り声を上げている。

 

「……周防さん?」

 

だが、固定砲台だけはその声を知っていた。

 

何を隠そうさっきの声はこの俺自身のものだ。さっきまで気配を夜の暗闇に溶けこませながらこの男たちの様子を陰で見ていたのだ。

 

「ここの生徒だよ。どちらかと言えば部外者はあんたらだろ」

 

やつらの目的を聞いた俺が教室に入ってからこう言うと科学者たちの警戒心が高まった。そんな奴らを無視して俺は話を続ける。

 

「おかしいと思ったんだよな。こいつのコストを考えたら100億では割りに合わない。裏にもっと大きな目的があるって。だが、さっきの話なら納得だ」

 

ここで2日前に考えたもう一つの懸念点の答えがはっきりと出た。

 

そもそもおかしいと思っていた。固定砲台の開発コストは軽く億単位は行っているだろう。そんな中、あのタコを仕留めたところでせいぜい100億。利益としてはあまりにも心許ない。何か裏があると考える方が自然だ。

 

そしてその目的が目先の100億ではなく、その実績につく数兆単位の利益なのだとしたらこの機械を導入したことにも納得がいく。

 

「……普通の生徒がこんな時間に何をしにきた?」

 

「それは俺の質問の答え次第だ。あんたらこの教室は最高の実験場だと言ったが、その意味を詳しく教えてもらおうか……?」

 

俺はマスターと呼ばれた白衣の男を睨みながらこんな質問を投げかけた。俺の質問の意図が理解できないといった様子のマスターが口を開く。

 

「……そのままの意味だ。この機械の効力を世界に実証するための場所ということだ」

 

「なるほどな。あんたらの思考に『俺らの安全』という言葉はないってことか」

 

「……そういうことではない。第一、あの武器は人が死ぬようなものでは——」

 

「最(・)優(・)先(・)ではないってことだろ?」

 

醜い言い訳をするマスターの言葉を遮って俺は言葉を続ける。

 

この男たちが考えているのはあくまで自分の利益だ。俺ら生徒側の安全など眼中にない。これまで散々した仮定だが、もしも俺たちの命と引き換えにあのタコを100%殺せるというのならこいつらは喜んで俺たちの命を差し出すだろう。

 

しかも、それだけじゃない。

 

「しかも万が一こいつが結果を出したら、これを使って侵略戦争とかもできるわけだろ?当然その標的にはこの国も入るわけだ。こいつのせいで俺やあいつらの“安全が脅かされる”かもしれない。それを指加えて見ているわけにはいかないんだわ」

 

「——っ!」

 

俺がこう言うとさっきまで抵抗せずに分解(オーバーホール)を受け入れていた機械の中の少女の表情が一瞬だけ変わった。

 

この機械の真の開発目的は超生物の暗殺ではなく、その力を世界に認めさせて世界中の戦争の兵器として導入させて巨額の利益を得ること。つまり、ここで実験させること自体が将来的に俺たちの安全を脅かすことにつながる。そんなことは到底受け入れるわけにはいかない。

 

だが、表情を変えた彼女には気づかない様子のこいつらは懐から全員が武器を取り出した。やっぱり武装しているか……

 

「周防さんっ!」

 

「……ならばどうするつもりだ」

 

固定砲台が叫ぶ中、マスターと呼ばれる男の低い声が響く。そんな奴らに俺は両手を挙げた。

 

「……やめとけよ。今、俺を襲ったらここでの実験ができなくなるぜ?」

 

「……」

 

俺が冷静にそう返すと男たちの表情が変わる。ここでの結果が喉から手が出るほど欲しいこいつらは俺に手を出すことはできない。いくら武装してチャカを向けられたところで怖くもなんともない。

 

「安心しな。今日は何もするつもりはない。だが、将来的に俺たちの安全が保証できないと判断したときは徹底的に邪魔させてもらう」

 

今日ここにきたのはこの男たちの真の目的の確認と警告のためだ。現時点では俺から特に手を出すつもりはない。だが固定砲台を元に戻して将来的にこの教室に危険があると判断できたり、暗殺終了後に侵略戦争を企てると判断できたときは話が別だ。

 

俺は男たちを睨みながら言葉を続ける。

 

「もし、こいつがあいつらを傷つけるというのであれば、それをする前に俺がこいつをぶっ壊してやる」

 

最後にそれだけ言ってから俺は教室を出た。その時、機械の少女の目の色が変わったのを俺は見逃さなかった。

 

 

***

 

 

渚side

 

「おはようございます。みなさん」

 

翌日教室に行くと、殺せんせーの改造したパーツが外された律の姿があった。機械いっぱいに広がっていた液晶も元の大きさに戻り、昨日の表情豊かな少女の姿は最初の無機質な女の子のものに戻っている。

 

「“生徒に危害を加えない”という契約だが、『今後は改良行為も危害と見なす』と言ってきた」

 

烏間先生の言葉が静かに響く。

 

「君らもだ、彼女を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ……『万が一故意に破壊した者には数兆単位の賠償を請求するから覚悟しておくように』ということらしい」

 

これでもう彼女を改造はできない。それだけでなく彼女を壊したり、妨害したりすることも許されなくなった。

 

「……ちっ」

 

この言葉に寺坂くんが舌打ちする。きっとまた縛って邪魔をするつもりだったんだろうけど、それができなくなり苛立ちを隠し切れていない。

 

「……けっ、“生徒に危害を加えるな”ってどの口が言ってるんだか」

 

周防くんが呆れた顔をしてこう呟いていた。まだ孤立気味の周防くんだけど、この言葉にはみんな頷いていた。改造前の律の暗殺は僕らにとっては迷惑だったし、危害といっても過言ではなかった。なのに自分は良くて相手はダメだというのは納得できない。でも、だからといって僕らにできることはなかった。誰もがやるせなさそうに黙っている。

 

「持ち主の意向だ。従うしかない」

 

「持ち主とはこれまた厄介で、親よりも生徒の気持ちを優先させたいんですがねぇ」

 

これには烏間先生も殺せんせーもやるせなそうにしていた。

 

だけど、呆然とする僕らの中で周防くんだけにはまだ余裕が感じられた。彼のことだから何かテキトーなことでっち上げてに訴えて逆にお金を取ろうとか思っているのだろうか。

 

そんなことを思いながら、僕らは教室の後ろにある機械に目を向ける。

 

ダウングレードしたってことはまた始まるんだ。あの一日中続く、傍迷惑な射撃が。

 

そして教室に機械音が鳴り響く。

 

——来る!

 

「……フッ」

 

だけど、教室に鳴り響いた強烈な破裂音と誰かの静かな笑い声とともに僕らの目に飛び込んできたのは……

 

「——っ!」

 

 

——律の周りにたくさん咲いたとても綺麗な花だった

 

 

「花を作る約束をしていました」

 

律の言葉が響く。その言葉と彼女の周りに舞う花びらにみんなの視線が奪われた。

 

「殺せんせーは私のボディに計985点の改良を施しました」

 

そんな彼女を見るみんなの視線は様々だ。驚きの表情を浮かべる人、笑顔を浮かべる人……

 

「その殆どはマスターが暗殺に不要と判断し、削除、撤去、初期化してしまいました」

 

でもその彼女を見る表情に不快な気持ちを表す表情を浮かべる人は1人もいなかった。

 

「しかし、学習したE組の状況から私個人は協調能力が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリーの隅に隠しました」

 

「素晴らしい!つまり律さんあなたは」

 

「はい!私の意思でマスターに逆らいました!」

 

その画面には昨日と同じとても表情豊かな女の子の姿が映っていた。

 

律は自分の意思で持ち主に逆らった。殺せんせーの改造はほとんど取り外されてしまったけど、感情や協調性という部分の情報に関しては持ち主にも見つけられないようにこっそし隠して昨日のままの姿でいてくれたんだ。

 

そんな律に殺せんせーは明るい言葉をかけて、他のみんなも律のことを笑顔で見ていた。だけど、彼女に視線を向けることのない男子生徒が1人だけいた。律の真横に座っている生徒は律に目を向けることなくただ教室の前に視線を向けている

 

でも、その生徒の口元にはわずかな笑みが見られた。その表情はまるでこうなることをわかっていたかのようだった。

 

「殺せんせー。こう言った行動を反抗期というのですよね?律はいけない子でしょうか?」

 

「とんでもない。中学3年生らしくて大いに結構です!」

 

そう言って殺せんせーは顔に丸を浮かべた。すると律は周りの花と同じくらい明るい笑顔になった。そして彼女はその笑顔を唯一彼女に視線を向けていない真横に座る男子生徒に向けた。

 

「それと周防さん!昨日はありがとうございました!」

 

「……へぇ」

 

その言葉にカルマくんが楽しそうな笑顔で反応する。

 

僕も周防くんのさっきまでの余裕の意味がわかった。きっとまた彼が裏で手を回していたのだろう。だから周防くんは律が根本的なところは変わっていないこともわかっていた。

 

「……余計なことは言うな」

 

律の笑顔を向けられた周防くんはようやく彼女の方に視線を向けて小さな声でこう返した。その言葉は相変わらず冷たいものだ。

 

だけどその言葉の冷たさとは裏腹にそんな彼のこと見ながら嬉しそうに笑っている律の姿がとても印象的だった。そんな彼女を見ているとなんだか僕まで嬉しくなった。

 

こうしてE組に1人仲間が増えた。これからはこの2(・)8(・)人で殺せんせーを殺すんだ。

 

 





あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

小説の執筆に精を出していたら両腕が腱鞘炎になってしまったディーエーです。まあ本当は重いものを持ちすぎたのが原因なんですけど……。指に全然力が入らなくなってしまって日常生活が本当に不便なのでみなさんも気をつけてください……。ちなみに小説の執筆にもめちゃくちゃ影響しているのでもしかすると来週の投稿が遅れるかもしれません。こちらも合わせてご理解いただけますと幸いです。

さて、少しだけ本編のところに触れますが、生まれ変わった律に零二くんは「もし、E組の生徒と引き換えに殺せんせーを殺せるならどうする」という質問をしました。これは前回の話で零二くんが律に対して警戒していた内容です。その問いに律はプログラムとしては見捨てる方が正しい。でも、自分は見捨てたくないという答えを口にしました。ですが、律が送り込まれた目的を考えると遅かれ早かれ律が原因で誰かを傷つけてしまいます。零二くんは律の「傷つくところを見たくない」という言葉を汲み取り「もしも律が誰かを傷つけるようなら俺がぶっ壊す」と言ってくれました。零二くん的には大した意味はなかったでしょうが自分の感情と命令の板挟みになっていた律にとってはこの言葉は大きな意味を持ったはずです。

そして次回ですが、次回は一つオリジナルの話を挟みます。今作品の設定の根幹にあたるようなとても重要なお話です。腱鞘炎で絶賛難航していますができるだけ早めにあげるのでお待ちいただければとおもいます。

では、次回もよろしくお願いします。


【次回予告】

「……じゃあ、どんな相手なら殺せるのよ」

私は意地を張るように問い返した。

自分でも少しだけ大人気ないと思う。だけど、この子の考えにも興味があったのも事実だ。この子は暗殺に参加していないと言いながら誰よりも標的のことを観察して誰よりも深く考えている。この少年なら他の子にはないような考えが浮かんでいると私は確信のようなものがあった。

しかし、軽い気持ちで聞いたこの質問で周防の雰囲気は大きく変わった。その目つきがギラリと鋭いものに変わる。

「身(・)体(・)能(・)力(・)を(・)強(・)化(・)し(・)た(・)改(・)造(・)人(・)間(・)。例えば空を飛べたりとか、永久エネルギー炉を持った人造人間とかだな」

「……は?」

だけど返ってきた答えはどれも絵空事のような答えだった。バカにしてるとしか思えない。

「ふざけてるの?真面目に答えなさいよ」

「至って真面目だ、クソビッチ。あのタコが存在するならこの思考も普通だろ」



次回 『アダムの時間』


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