第四の壁を越えて   作:タカリ

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ゴブリンには手を出すな

 G・I内のプレイヤーたちの間に急速に広まった名前。

 

「指定ポケットカード所持ランキング1位、99種類のカードを集めたバンって奴はどんな奴なんだ?」

 

 トレードショップで確認できる所持ランキングの1位に躍り出た謎のプレイヤー。バンとはいったい何者なのかという話題が一時、G・I内に広まった。

 だが、それはすぐに鎮静化する。

 

「バンは『贋作』で所持数を水増ししているだけで、実際は大したカードも持っていない新人らしいぜ」

「そうなのか?」

「ああ。『名簿(リスト)』で002『一坪の海岸線』の所持人数を見てみろよ」

「……所持人数0、カード枚数0。ゲーム内に一枚もないじゃないか」

「だろう? つまり、バンの持っている『一坪の海岸線』はカード化枚数に数えられない『贋作』。他のカードも全て『贋作(フェイク)』だろうさ」

 

 今まで誰も手に入れたことがなく、情報も一切出ていないことで知られている『一坪の海岸線』のカード。このカードをまだ誰も手に入れていないことは確実だった。

 

「だが、他のカードには本物が混じっている可能性があるだろう?」

「もちろんその可能性はある。だが、それを確認するためにはこのバンからカードを奪わないといけない。それも一枚や二枚じゃない、全部だ」

 

 99枚の『贋作』の中に何枚の本物が入っているのか分からない。本気で調べるなら全部奪う必要がある。

 

「『交信(コンタクト)』でトレードを申し出た奴らもいたがすべて拒否。そして、このバンを襲ってカードを奪おうとした連中がいたが……そいつらは逆に全てのカードを奪われて、『同行』一枚だけ恵んでもらって解放されたらしいぜ」

「――もしかして、このバンって奴は……」

「そういう連中を釣り上げるための見え見えの『餌』。食いついてきた連中を逆に食うための『罠』ってわけさ」

 

 自分の力を過信し、罠の可能性を疑わない愚か者ほど『バン(毒餌)』に引っ掛かる。

 襲撃者たちから得たカードもあるはずだが、それらのカードをバンが全て持っているとも限らない。他の仲間がいればそちらに全部預けている可能性もあるのだ。

 本物か『贋作』か分からない攪乱戦術と考えても、非常に厄介な存在だった。

 

「このバンの仲間は全員がAランクアイテムの『秘密のマント』を身につけているんだが、緑のマントを身につけたその様子から『緑の小人(グリーンゴブリン)』なんてあだ名までついたんだぜ」

「グリーンゴブリン、ゴブリンの巣穴に手を突っ込むようなもんか」

 

 ゲームでは雑魚の印象が強いが、狡猾なゴブリンたちの巣は恐るべき『ダンジョン』となる。愚かな冒険者たちはただ奴らの食い物にされるだけ。

 全てが『(ダンジョン)』に包まれた緑の小人たちの動向を知る者は誰もいない。

 

 ――『緑の小人には手を出すな』

 

 それがG・I内のプレイヤーたちの共通認識になるのだった。

 

 ◇

 

「おい、ニッケス。本当にあの子供たちに好きにさせていいのか!?」

「う、うむ……。だが……」

「確かに人数だけなら60人を超えた! だが、アジトに留まった14人はともかく、バンと奴の仲間の8人は俺たちの計画に協力していない! この状態でスペルカードを集めようとしても不十分なのはわかるだろう!? バンたちにも協力させるべきだ!」

 

 ハメ組の最初の10人が集まって話し合いをしていた。

 仲間が60人を超えてついに計画を始動する――というわけではなく、好き放題に行動しているバンについての議論となっていた。

 

「俺からも一ついいか?」

「ゲンスルー。なんだ?」

「バンの動きはこちらの想定を超えている。このまま完全に仲間に引き込むのは危険だと思う。だからルールを決めた方がいい」

「ルール?」

「まず一つ。俺が危惧しているのはこのグループをバンたちに乗っ取られることだ。これ以上のバンの仲間の加入を認めず、アジトへの出入りもあの14人とバンのみに限定したい」

「それは……確かに、ゲンスルーの言う通り、乗っ取りは警戒するべきか」

 

 ニッケスたちは37人。バンたちは23人。人数ならばニッケスたちの方が多い。

 だが、完全にニッケス派と呼べるのは初期メンバーの10人とその他の数人程度。残りの20人はゲームクリアの報酬目当てに集まっただけだ。

 

「もしもバンが俺たち初期組の報酬減額と、他のメンバーの報酬増額を言い出した場合、そのまま乗っ取られる可能性は高い」

「なんだと!? 俺たちの配分は20億だと最初に説明したはずだ! それを減額だと!?」

「落ち着け、アッサム。バンがそれを言い出したわけじゃない。ただ、実行する可能性があれば備えておきたいってだけだ」

 

 初期組10人は1人20億。それ以外のメンバーは加入時期によってまちまちだが、最近参加したメンバーほど報酬が下がる。

 だから例えば初期メンバー10人の報酬を10億にして、余った100億を残りの50人で分配しよう、などとバンが言い出した場合に最近参加したメンバーが賛同する可能性は十分あった。

 

「だからバンとバン派のメンバーはなるべく隔離する。それとバンが集めたカードはそのまま所持することを認めるが、こちらから提供する情報をコントロールしたい」

「情報をコントロール?」

「SSランクの『大天使の息吹』は俺たちだって入手方法を知っていたし、交換するタイミングをはかっていただけだ。だが、結局バンが独自で入手したせいで5億で買い取ることになった。悔しくないか?」

「それは……確かに……」

 

 5年以上の間、ずっとスペルカードを集めていたのだ。

 当然、交換するチャンスは山ほどあったし、今だってスペルカード40種類を集めようと思ったらすぐに集められる。ただ、タイミングを見計らっていただけ。

 だというのに、そんなことも知らない新入りのバンに横から掻っ攫われて報酬の5億を持って行かれた。悔しくないわけがない。

 

「俺たちが集めた情報にはSランクやSSランクカードの情報もある。入手条件を完全に把握しているカードは多い。だが、その情報を与えてSランクやSSランクカードを真っ先に狙われるのは面白くない」

「それは……、確かにそうだな」

「だが、Aランクまでの情報はトレードショップで買えるぞ? 俺たちがSランク以上の情報を出し渋れば、それこそバンたちの離脱やグループの乗っ取りを招きかねないだろ」

「そこで情報のコントロールをするんだ。Sランクカード一枚の情報を与え、バンが入手してきたら次の情報を与える。またカードを入手してきたら次のカードの情報。そうやって与える情報を制限しつつ、俺たちが集められるカードは先に全て集めてしまう」

「そうか! 俺たちが先に集めておけば、後からカードを持ってきても買取は拒否できる! たとえSSランクのカードを持ってきたとしても、1ジェニーも支払う必要はない!」

 

 バン派の乗っ取りを警戒した措置と、バンに与えるカード情報のコントロール。

 ゲンスルーの提案した方針に他の初期メンバーも賛成した。

 

(……本当にこれでいいんだろうか? バンくんたちを警戒する。それは間違っていないはずなのに、なぜか落ち着かない……)

 

 盛り上がる初期メンバーたちの中でただ一人、リーダーのニッケスだけは妙な胸騒ぎを抱いていた。

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