G・I内のプレイヤーたちの間に急速に広まった名前。
「指定ポケットカード所持ランキング1位、99種類のカードを集めたバンって奴はどんな奴なんだ?」
トレードショップで確認できる所持ランキングの1位に躍り出た謎のプレイヤー。バンとはいったい何者なのかという話題が一時、G・I内に広まった。
だが、それはすぐに鎮静化する。
「バンは『贋作』で所持数を水増ししているだけで、実際は大したカードも持っていない新人らしいぜ」
「そうなのか?」
「ああ。『
「……所持人数0、カード枚数0。ゲーム内に一枚もないじゃないか」
「だろう? つまり、バンの持っている『一坪の海岸線』はカード化枚数に数えられない『贋作』。他のカードも全て『
今まで誰も手に入れたことがなく、情報も一切出ていないことで知られている『一坪の海岸線』のカード。このカードをまだ誰も手に入れていないことは確実だった。
「だが、他のカードには本物が混じっている可能性があるだろう?」
「もちろんその可能性はある。だが、それを確認するためにはこのバンからカードを奪わないといけない。それも一枚や二枚じゃない、全部だ」
99枚の『贋作』の中に何枚の本物が入っているのか分からない。本気で調べるなら全部奪う必要がある。
「『
「――もしかして、このバンって奴は……」
「そういう連中を釣り上げるための見え見えの『餌』。食いついてきた連中を逆に食うための『罠』ってわけさ」
自分の力を過信し、罠の可能性を疑わない愚か者ほど『
襲撃者たちから得たカードもあるはずだが、それらのカードをバンが全て持っているとも限らない。他の仲間がいればそちらに全部預けている可能性もあるのだ。
本物か『贋作』か分からない攪乱戦術と考えても、非常に厄介な存在だった。
「このバンの仲間は全員がAランクアイテムの『秘密のマント』を身につけているんだが、緑のマントを身につけたその様子から『
「グリーンゴブリン、ゴブリンの巣穴に手を突っ込むようなもんか」
ゲームでは雑魚の印象が強いが、狡猾なゴブリンたちの巣は恐るべき『ダンジョン』となる。愚かな冒険者たちはただ奴らの食い物にされるだけ。
全てが『
――『緑の小人には手を出すな』
それがG・I内のプレイヤーたちの共通認識になるのだった。
◇
「おい、ニッケス。本当にあの子供たちに好きにさせていいのか!?」
「う、うむ……。だが……」
「確かに人数だけなら60人を超えた! だが、アジトに留まった14人はともかく、バンと奴の仲間の8人は俺たちの計画に協力していない! この状態でスペルカードを集めようとしても不十分なのはわかるだろう!? バンたちにも協力させるべきだ!」
ハメ組の最初の10人が集まって話し合いをしていた。
仲間が60人を超えてついに計画を始動する――というわけではなく、好き放題に行動しているバンについての議論となっていた。
「俺からも一ついいか?」
「ゲンスルー。なんだ?」
「バンの動きはこちらの想定を超えている。このまま完全に仲間に引き込むのは危険だと思う。だからルールを決めた方がいい」
「ルール?」
「まず一つ。俺が危惧しているのはこのグループをバンたちに乗っ取られることだ。これ以上のバンの仲間の加入を認めず、アジトへの出入りもあの14人とバンのみに限定したい」
「それは……確かに、ゲンスルーの言う通り、乗っ取りは警戒するべきか」
ニッケスたちは37人。バンたちは23人。人数ならばニッケスたちの方が多い。
だが、完全にニッケス派と呼べるのは初期メンバーの10人とその他の数人程度。残りの20人はゲームクリアの報酬目当てに集まっただけだ。
「もしもバンが俺たち初期組の報酬減額と、他のメンバーの報酬増額を言い出した場合、そのまま乗っ取られる可能性は高い」
「なんだと!? 俺たちの配分は20億だと最初に説明したはずだ! それを減額だと!?」
「落ち着け、アッサム。バンがそれを言い出したわけじゃない。ただ、実行する可能性があれば備えておきたいってだけだ」
初期組10人は1人20億。それ以外のメンバーは加入時期によってまちまちだが、最近参加したメンバーほど報酬が下がる。
だから例えば初期メンバー10人の報酬を10億にして、余った100億を残りの50人で分配しよう、などとバンが言い出した場合に最近参加したメンバーが賛同する可能性は十分あった。
「だからバンとバン派のメンバーはなるべく隔離する。それとバンが集めたカードはそのまま所持することを認めるが、こちらから提供する情報をコントロールしたい」
「情報をコントロール?」
「SSランクの『大天使の息吹』は俺たちだって入手方法を知っていたし、交換するタイミングをはかっていただけだ。だが、結局バンが独自で入手したせいで5億で買い取ることになった。悔しくないか?」
「それは……確かに……」
5年以上の間、ずっとスペルカードを集めていたのだ。
当然、交換するチャンスは山ほどあったし、今だってスペルカード40種類を集めようと思ったらすぐに集められる。ただ、タイミングを見計らっていただけ。
だというのに、そんなことも知らない新入りのバンに横から掻っ攫われて報酬の5億を持って行かれた。悔しくないわけがない。
「俺たちが集めた情報にはSランクやSSランクカードの情報もある。入手条件を完全に把握しているカードは多い。だが、その情報を与えてSランクやSSランクカードを真っ先に狙われるのは面白くない」
「それは……、確かにそうだな」
「だが、Aランクまでの情報はトレードショップで買えるぞ? 俺たちがSランク以上の情報を出し渋れば、それこそバンたちの離脱やグループの乗っ取りを招きかねないだろ」
「そこで情報のコントロールをするんだ。Sランクカード一枚の情報を与え、バンが入手してきたら次の情報を与える。またカードを入手してきたら次のカードの情報。そうやって与える情報を制限しつつ、俺たちが集められるカードは先に全て集めてしまう」
「そうか! 俺たちが先に集めておけば、後からカードを持ってきても買取は拒否できる! たとえSSランクのカードを持ってきたとしても、1ジェニーも支払う必要はない!」
バン派の乗っ取りを警戒した措置と、バンに与えるカード情報のコントロール。
ゲンスルーの提案した方針に他の初期メンバーも賛成した。
(……本当にこれでいいんだろうか? バンくんたちを警戒する。それは間違っていないはずなのに、なぜか落ち着かない……)
盛り上がる初期メンバーたちの中でただ一人、リーダーのニッケスだけは妙な胸騒ぎを抱いていた。