Fate/stay night 『BA√』   作:悠問追

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思いの外読んでいただけてることと、読み直して『全然士郎である意味ねーじゃん! クロスオーバーやる気あんの!?』となってしまったので。来週の更新で、対策委員会編に入れるように更新を調節します。書き溜めも進んでいるのでね。GWの暇つぶしにでも使ってください。


3 『シッテムの箱』

 

 後の残党くらいであれば、私たちだけで大丈夫です。

 そんな守月の言葉に背中を押される形で俺は駆けて行き、弾丸の雨の中を掻い潜る形でシャーレの建物の中に入っていく。

 そのままの足でビルの地下へ。七神の言葉の通りであれば、今俺が真っ先に向かうべき場所はそこだ。

 

 建物の外からの銃撃音と、それから駆け足の俺の足音。辺りに響き、聞こえてくるのはそれだけ。

 

 いくつかの踊り場を経由し、地下室の扉に手をかけた所で。はた、と。張り巡らせた魔力の範囲────目の前の部屋の中に、誰かがいることに気がつく。

「……一応、出会い頭に撃たれないようにだけ注意しないと、か」

 数時間前ではあり得なかった思考。

 しかし。この場所では、その()()()()()こそあり得ないのだ。用心に越したことはない。

 まあ何せ、数回の戦闘を経験した感じ……この世界の子達にとって、発砲は拳を振るう────いや。それ以上に当たり前なんだろうし。

 ドアノブに手をかけてゆっくりと回し、押し開く。左手に握った干将の感覚を確かめるように握り直して、

「────狐坂」

 部屋の中に居た人物の名前が、思わず口からまろび出た。

 暗がりの中。うっすら見える狐坂が急速に振り返る。それから、波打った着物の裾と袖が定位置に戻るだけの沈黙。

 ……なんか、様子がおかしい。仮面をつけているせいで表情こそは読めないけど。なんか、固まってる……?

「こ、狐坂……?」

「あ、あらあら……あら、まあ……これは……」

 なん、なん……何だ? 頭の上に疑問符を浮かべる狐坂のその動作は、何処かぎこちない。

「遠目に見た時は何ともなかったのですが……こ、これは……」

「なん……う、うん?」

 蛇に睨まれた蛙、とは少し違うけれど。互いに大きなアクションを起こせず、気まずいままに見つめ合うこと更に数秒。

「し、失礼しました!!」

「へぶ、」

 急に駆け出した狐坂は俺のことを軽く────軽く……?────突き飛ばすと、すれ違う形で地下室を出ていってしまう。咄嗟のことだったモンだから、バランスを崩して尻餅をつきながらその背中を見送った。

「何だったんだ……?」

 まあ、まあ。良いか。とりあえず、やることを優先しよう。

「七神、聞こえるか? 今シャーレの地下室に着いた。俺は何をすれば良い?」

 耳元の通信機に指先を当てがい、七神の名前を呼ぶ。ほんの数秒の間があって、その向こうで七神が口を開く微かな音が聞こえてきた。

『お疲れ様です、先生。……室内にタブレット端末があるはずです。ソレの確保をお願いします。私も今、シャーレに向かっている所ですので』

「タブレット端末……? わかった、探してみる」

 床から立ち上がり、尻についた埃を払って。部屋の中に入り、辺りを見回してみる。

 電力が供給されていないのか、真っ暗な室内。暗さに慣れてきた俺の視界には、何に使うのかよくわからない大きな機械と、無数のファイルが収められた本棚等が飛び込んできた。

「もしかして、これか……?」

 厳重に保管されている、というワケでもなく。机の上に置いてあった鉄の板ような何かに歩み寄り、手に取る。ソレはただの鉄の板ではなく、何かの機械らしかった。

 何とも無しにボタンを押すと画面が強い光を放つ。暗い部屋の中に浮かんだその光は眩しくて仕方がなくて。思わず目を細め、流れる文字列を霞んだ視界と目線で追っていく。

 

Connecting To Crate of Shittim...

 

 その文字列が流れた後で、パスワードを要求する画面が表示された。ふと、脳裏をよぎった言葉の羅列に違和感を覚えて。端末を握ったまま、思わず数秒固まった。

 

 ────何でだろう。この端末のパスワードを、俺は知ってる。

 

「我々は望む、七つの嘆きを……我々は覚えている、ジェリコの古測を」

 

 言いながら、文字を打ち込んでいく。

 数秒の間があって、画面が切り替わっていく。

 

……。

接続パスワード承認。

現在の接続者は『衛宮 士郎』────確認できました。

 

『シッテムの箱』へようこそ、先生。生体認証および、認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

 数行の文字列が並んだ後。水面を潜るような感覚と、ごぽ、ごぽ、と水泡が弾けるような音と共に。俺の意識は沈んでいく。

 そこに不思議と息苦しさはなく。むしろ、心地よい感覚だった。

 

 ◇◆◇

 

「ん゛────ん、」

 陽の光に瞼を焼かれて目を開く。目の前に広がっているのは、見覚えのない教室だった。

 壁が倒壊し、朽ち果てた教室。ほんの少しの物寂しさ覚えるそこには、温かい日差しが差し込んでいた。

 壁の向こうには積み上がった机と椅子と、果てしなく続く水面。空と光を反射して煌びやかな青を纏うソレに見惚れていれば、

「ん〜……ふふ。むにゃ……カステラ……良いんですか? こんなにたくさん。ふふふふ、」

 呑気で可愛らしい寝言。それから唾液を啜るような小さい音が聞こえてきた。

 その声の主は探すまでもない。教室の隅の席に、その子は突っ伏していた。

 水を思わせる淡い青色の制服を身に纏った、綺麗な水色の髪の女の子だった。頭につけた、白いリボンのカチューシャの向こうには例の謎の輪っかが浮かんでいて。この子も七神たちと同じ、この世界の住人だということがわかる。

 その子はこの場に現れた俺の存在には気付いていないようで、未だに「カステラにはいちごミルクよりバナナミルクの方が……」だとか、幸せそうな寝言を呟いていた。

「おーい……?」

 美味しくて甘い夢を見ている所悪いが、この子を眺め続けているだけでは状況は前に進まない。その華奢な肩に手を添えて、小さく揺さぶってみる。

「ん、んん〜……へへ、だめですよそんなに食べれませんって……」

「いや追加のカステラでは無くて。起きてくれないと困るんだ」

「んぇ〜?」

 あ、起きた。ほんの少し体を捩ったその子は、のそのそ、という擬音が似合いそうな重たい動作で頭を(もた)げると。瞼が薄く開かれて、寝ぼけ眼が俺に向いた。

「……んぁ?」

「おはよう。ごめんな、良い夢見てる所だったのに」

「……あ、ぇ?」

 どうやら状況の理解が追いついてきたらしい。ぱち、と数度の瞬きの後で、

「あいだっ!」

「いで、」

 ……、……勢いよく立ち上がるものだから。俺の額に後頭部を強打して。二人で仲良く床に蹲り、唸るだけの時間が続く。

 痛い。結構痛い。目の前にいくつも星が飛んでいる……。

「い、いてて……ごめんなさい、先生……」

「ああいや、コレは覗き込み過ぎてた俺も悪いよ……すまない」

「……先生……って、先生?!」

 押し寄せる痛みの波から、先に復帰したのは彼女の方だった。

 後頭部を摩ったまま立ち上がれば、未だに痛みに悶えている俺を見下ろして。頭から足先まで順繰りに視線をやると、今度は何やら慌てた様子で視線を泳がせた。何というか、忙しい子だ。

「わ、わわわわわ。こ、ここに入ってきたってことは、士郎先生……ですよね?」

「ああ、そうだよ。今日から、シャーレに就任するってコトになってる先生。らしい」

「ああ……そ、そうですよね……もうこんな時間……。ま、まあ良いです。失敗はこれから取り返せば良いので!!」

 仕切り直しを挟むような小さな咳払いの音が教室に響く。数度の発声練習を挟んだ後で、少女は言葉を続けた。

「こんにちは、先生! 私はアロナ。この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者でありメインOS。そして、これから先生をアシストする秘書です!」

「ん、こんにちは。でもって、初めまして。俺は────って、自己紹介は要らないよな。俺の名前を知ってるみたいだし。よろしく……で良いのかな」

「はい。よろしくお願いします、士郎先生!」

 ん、んん。なんか。苗字に先生、と付けられる分には何とも思わなかったんだけども。名前に先生、と付けられると少しこそばゆい。

 羞恥に口元を歪めて、今度は俺が咳払いする番だった。そんな俺の態度に、少女────アロナは首を傾げて。頭上に疑問符を浮かべるのが見える。

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。大丈夫。気にしないでくれ」

「んー……? わかりました。えっと……じゃあそうですね。まずは先生の生体認証をしなければいけなくてですね……」

 とりあえず納得はしてくれたらしい。ようやく立ち上がった俺を見上げるアロナ。しばらく見つめ合うと照れくさそうにはにかんで、人差し指を俺に向けてくる。

「先生。指を出してください。指先同士を重ねて……擦り合わせた感覚で指紋を読み取り、生体認証を行いますので」

「そんなコトができるのか?」

「はい! ふふん。これでも私は最先端のAIなので。優秀なんですよ、私!!」

 そうやって自分で言うと、優秀っぽさが損なわれるぞ────なんて喉元まで迫り上がった言葉は、とりあえず飲み込んでおくことにした。

 言われるがままにアロナに歩み寄り……人差し指を立てて、アロナの指に重ね合わせる。淡い光が指と指の間から放たれて、アロナはそのまま瞼を下ろした。

「少し恥ずかしいですけど、気に入ってるんです。これ。指切りをしてるみたいでしょう?」

「……、そうかな。昔、藤ね────姉貴分が持ってきた宇宙人の映画に、こんなシーンがあった気がするけど」

「もー、揶揄わないでくださいよぅ……」

 なんて会話を交わしつつ。指先同士がすり、すり、と乾いた音を立てて擦られる。その間も、口元は不満に歪んでいるもののアロナは目を瞑ったままで。……なんか眉間に皺がよった。首を傾げて数秒固まり、笑みを浮かべると指先を離す。

「終わりましたよ、先生。どうですか? 優秀でしょう?」

「……本当に終わったか? いやわかんないな……みたいな顔をしていたように見えたけど」

「────、────」

「こらアロナ。目を逸らすな。こら」

 それじゃあ『正直わかってません』って言ってるようなモンじゃないか。嘘をつくのが下手くそだなこの子……わかりやすくて助かる、ってのは正直あるけども。

「良いんです。私が、先生を士郎先生だと認識できているので。……ところで先生。()の状況を教えてもらっても良いですか?」

「え、ああ。そうだった」

 アロナとこうして雑談をしているのも楽しいが、やらなくちゃいけないことがあるんだった。

 とりあえず、現状を簡単に話すコトにしよう。

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