連邦捜査部の先生へ
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こんにちは。私はアビドス高等学校の
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。
……それも、地域の暴力組織によってです。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいそうで。このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで、今回先生にお願いできればと思いました。先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?
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「……なる、ほど」
アビドス高等学校。初めて聞く学校の名前だ。
綺麗な字体で書かれた手紙に目を通している間に、どうやらアロナが地図を開いておいてくれたらしく。表示された地図の一部を、『ここです!』と指さしてくれているのが視界の隅に見えた。
「ありがとう、アロナ。……ここから随分と距離があるな」
『そうですね……アビドス高等学校。その自治区は、昔は随分と敷地が広かったと聞いています。気候の変化が激しく、それで厳しい状況になっている……とも。どれくらい酷いかって、町の真ん中で遭難する程らしいですよ?』
「ま、町の真ん中で遭難……?」
『あはは……そんなことあるわけ無いですよねえ〜……ちょっと誇張してるんじゃ無いですかね?』
「まあ噂がどうにしろ、メールの感じ……だいぶよろしく無いコトになってるのは事実だな」
地域の暴力団。学校の占拠。イチ学生から送られてくるようなメールの文面では無いのは確かだ。
『かなり困っているようですが、どうしましょう……』
「アビドスに行こう。準備する」
『い、今からですか!? 流石、大人の行動力────』
戸惑うアロナを他所に、俺はアビドスへ向かう準備を進めていく。
何にしろ『シャーレの先生』としての初めての依頼だ。気合いを入れていかねば。
◇◆◇
「なん……なんでさ……」
と、気合いを入れて臨んだのが、早いコトもう二日前。アビドス自治区に入ったのは良いが、一向に学校には辿り着けずにいた。
同じ場所をぐるぐると回っているような錯覚。いや、厳密には多分錯覚では無く事実なんだろうが────未だに俺はキヴォトスの過酷さを嘗めてかかっているらしい。
「これじゃあまた、
一週間前のあの日。生徒たちと初めて顔を合わせて、シャーレの部室へ向かったあの日のことを何となく思い出す。
常に最悪の想定をして動かなければ、こうして痛い目を見るのかもしれない。俺の精進不足かな、これは。
持ち込んだカバンの中から取り出した水のボトルは、厳しい現実を突きつけるように空っぽで。カバンを漁ってもアビドスの子達に渡すために持ってきた弾薬が顔を見せるだけ。
「どうしたモノか……」
言いながら、手短な壁に背中をもたれさせ、そのまま地面に座り込む。
気候の変化が激しい、というアロナの言葉にも嘘はなかった。俺は親の仇になってしまったんじゃないか、なんて思ってしまうほど容赦なく照りつける太陽を横目に見て、項垂れる形で地面を見つめる。
少し休んだらまた歩き出さなければ。アビドスの子達はきっと、今も困って────、
「……? 生きてる?」
そんな俺の思考を遮るように。目の前で、甲高いブレーキ音が聞こえてくる。
ゆるりと視線を上げれば、その音の主と目が合った。
「……あ、生きてた。大丈夫?」
「…………、……まあ、何とか。自分の未熟さを憂いていたトコだけど」
「ん。思ったより元気そう」
透き通ったような綺麗な声音。静かに、囁くように言葉を紡ぐ銀髪のその子は、特徴的な獣の耳と、水色のマフラーを風に揺らしながら自転車を降りて。地べたに座る俺に視線を合わせるように膝を曲げる。
「それが、この町に用事があってきたんだけど迷っちまって……」
「……お腹が減って項垂れてた?」
「そ、そういうことになる……かなあ……はは……」
思わず乾いた笑いが漏れた。いやはや、こうして言葉にすると何ともまあ情けない。気まずさのあまり目を逸らすしかなかった。恥ずかしくて顔が直視できん。
なんて気まずさで穴を掘って入りたい一心の俺を横目に、彼女は肩からかけたカバンの中を漁って。取り出した何かを、俺の前に差し出してくる。
「携帯食料と、スポーツドリンク……?」
「あげる。新品未開封だから、気にせず飲んで食べて。……お腹が減ったら戦が出来ないし、喉が渇いたら歩けない。先輩たちが言ってた」
「ありがとう。……けど、随分と用意がいいな。この辺じゃ遭難者は珍しく無いのか?」
「……遭難者、というより人が珍しい。けど、これで今月は二人目だから。傾向と対策」
……内心、顔も知らない『先駆者』に手を合わせる。おかげさまでこうして俺は食べ物と飲み物にありつけているワケだし。
携帯食料をすきっ腹に詰め込み、スポーツドリンクで喉を潤す。約二日ぶりの食事と一日ぶりの水分は、思ったより骨身に沁みた。状況も相まって、情けなさのあまり泣いてしまいそうなほどに。
「……見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど。町に用事って?」
「────え? ああ。ちょっと学校に行く用事があって。アビドス高等学校に行きたいんだけど……」
言い終えて、スポーツドリンクで口の中を潤したところで。彼女は数度の瞬きを繰り返し、胸元から学生証と思われる名札を目の前に差し出してくる。
「それ、私の学校。案内する」
捨てる神あれば拾う神あり。
昔の人は、よく言ったモノである。
◇◆◇
「こんな寂れた場所に『お客様』っていうからどんなマヌケけなヤツが来るのかと思ったもんだけどさあ。見知った顔で驚いちゃったよね。随分と無様じゃない、衛宮? 情けないと思わないの? 自分より小さい女の子に肩を貸してもらって歩いてきちゃって……ふ、ふふふ。おい
額にはサンバイザー。ゴム製の手袋とエプロン。何やら用務員のおばちゃんみたいな服装の、よく見知ったヤツが校庭に居た。
「
「ん……シンジ、なんかいつもより元気。シンジの知り合い?」
「ああ。慎二は俺の友達だよ」
パシャ、パシャ、と仕切りに聞こえてくるシャッター音。様々な角度から俺の写真を撮る慎二を眺めていると、何処か懐かしい気持ちになった。
……冬木からキヴォトスに来てまだ一週間しか経っていないってのに。思わず口元に笑みが浮かぶ。
「おい、何だよ衛宮その顔は。もっと悲痛に歪んだ顔してくれないと意味ないだろ? 無様な被写体としての自覚は無いワケ?」
「現状が無様な自覚は十二分にあるよ。事実、俺の想定と鍛錬不足だ。ありがとな、えっと────」
「砂狼 シロコ。シロコで良い。……無様さで言ったら、シンジも相当。シンジの時はここまでおぶって来た」
「おい砂狼。うるさいよ今は僕じゃ無くコイツの話をしてるんだ」
「シンジ、道端で干からびてた」
「砂狼!!」
……随分と馴染んでるみたいだった。仲が良さそうで何よりだ。
そんな微笑ましいやり取りをもう少し眺めていたい気持ちもあるけれど。とりあえず、だ。
「ああ、うん……じゃあシロコ、で。まずはシロコ、慎二を助けてくれてありがとう」
「気にしなくて良い。自治区で死なれたら私も困るから……当然のことをしたまで」
「それでも、だよ。慎二は大切な友達なんだ。だから、ありがとう。俺を助けてくれたコトも」
「……ん。そこまで言うなら、素直に受け取っておく」
正直、この子────シロコが居なければ今頃どうなっていたかわからない。ミイラ取りがミイラになる、というワケではないが。就任から一週間で空腹で野垂れ死ぬだなんて。冗談にも洒落にもならない。
「慎二はちゃんと助けてもらった礼を言ったのか?」
「僕のお母さんかよ、おまえ。余計なお世話なんだよ。僕のコトに必要以上に口を挟むのやめてくれない?」
「……お礼は聞いてない。けど、その代わり学校の掃除をさせてるから良い。助かってる」
……やっぱり。慎二のコトだから礼を言ってないんだろうな、なんて思ったけど。
「でもシンジ、たまにサボる」
「……慎二」
「あと備蓄の食料を勝手に食べる」
「慎二…………、………………」
……思った以上のワガママっぷりを発揮しているようだった。
けどまあ、確かに。見渡した感じ、学校の面積はそこそこに広いように見える。所々砂が校舎内に入り込んできているのも見えるし、このスペースをひとりで掃除するとなると、なかなかに骨が折れそうだ。勿論、シロコたちも慎二だけに掃除させているワケではないだろうけども。
「俺も今から掃除を手伝ってやりたい気持ちは山々なんだけども。まずは、だな」
それよりも。メールをくれた奥空や、他の面々に挨拶をして。後のことは状況を聞いてから、だな。
◇◆◇
シロコに連れてこられたのはとある教室。天井近くの表札には『アビドス廃校対策委員会』と書かれた紙がセロハンテープで貼り付けられていて、窓から吹き込んでくる風に煽られているのが見える。
教室だけではなく、廊下のあちこちにも砂が入り込んできていて。受け取った手紙の文面やその風景から、『廃校対策委員会』の文字列は大袈裟なモノでは無いかもしれない、等と内心思う。
「ただいま」
短く呟くシロコの手によって教室の扉が開かれ、無数の視線が一気にシロコへと向く。その後で、背後に立つ俺へとゆっくりに。浮かべられた笑顔はほんの少し固まり、皆が同時に首を傾げるのが見えた。
「し、シロコ先輩。また誰か拾って来たの……? これ以上面倒見られないわよ?」
「ん、知ってる。でも先生────
向けられた視線に不安と不信の色が乗っているのがわかる。いやまあ、無理もないか。確かに制服のあちこちが砂で汚れているし、不審者でしかない見てくれをしているし。
場の空気を変えるために、咳払いを一度。改めて室内の生徒たちに視線を向けて、
「初めまして。俺は、依頼を受けて連邦生徒会特務捜査部────『
……未だにこの自己紹介は慣れないな。
連邦生徒会、という名を聞いた途端。俺に向けられた視線に、喜色が色濃く乗るのがわかる。
「この状況をどうにかするために来たんだけど、俺の方が助けられちまった。すまない。……それから、慎二のことも助けてくれてありがとう。その分目一杯働くから、困ったことがあったら言ってくれ」