「
「はい。来てくれてありがとうございます、先生! ずっと連邦生徒会には救援の要請を送っていたのですが……これでようやく、弾薬や補給品の援助が受けられそうですね」
「ああ。一応必要そうなモノはひと通り持って来てあるよ。足らなそうならまた言ってくれ。追加で持ってくるからさ」
言いながら、肩に下げていた鞄を机の上に置く。持ってくると言うよりは作る、のほうが正しいけども。その中身を確認している奥空から視線を外し、教室の中をぐるりと見渡した。
ここは他の場所に比べてだいぶ片付いている。良い意味で『生活感のある部屋』といった感じだった。ちゃんと生活できているようで安心する気持ちはあるけれど、
「なあ、他に生徒の顔が見えないけど、これで全校生徒……だったりするのか?」
「…………、……」
何気ない問いを受けて、視界の隅で黒見の表情が曇るのがわかる。
……マズい。何か地雷を踏んだだろうか。弁明しようと口を開いたのと同時。
「いいえ、後ひとり三年生の先輩がいます♪ セリカちゃん、ホシノ先輩を起こして来てくれる?」
「────っ、え、ええ。そうね! 今起こしてくる。待ってて!」
その空気を払ったのは十六夜。黒見が駆け足で教室を出て行ったのを見計らって、十六夜は俺の耳元に顔を寄せて来た。
「ごめんなさい、セリカちゃん人見知りで。根はいい子なので、誤解しないであげてください」
「……ああ。俺の方こそ、まだ出会って間もないのに踏み込みすぎたかもしれない。後で謝らないと」
「ふふ。先生は優しいんですね〜……うん。そんな先生なら、きっと大丈夫です。仲良くなれると思いますよ〜」
うん、彼女の身近な人がそう言ってくれるとありがたい。し、その言葉は素直に嬉しかった。
……けど、何というか。ヤケに距離感が近いな。赤らんだ頰に気づかれないように、少し距離を置いて咳払いをひとつ。そんな様子にすら笑いかけてくるモノだから、心臓に悪い。
「うへぇ〜……おじさんまだ眠いよぉ……起きる時間には少し早くない?」
「ほら、何言ってるのホシノ先輩! しゃんとして。シャーレから先生が来てくれたんだから!!」
「先生〜……?」
そして扉の向こうから聞こえてくる賑やかな会話。少しの間があって扉が開くと、黒見に引きずられる形で桃色の髪の女の子が教室に入って来た。
「────、────」
その姿を見て、思わず言葉を失う。
ひと目惚れだとか、そんな間の抜けたコトを言うわけでは無く。単純に、ある種の恐怖に近しい感情を一瞬抱いてしまったのだ。
無論見た目は可愛らしい。シロコたちの様に年頃の女の子、といった風貌とは裏腹に。その肉体から漂う魔力が────いや。漂う、と言うよりは
大凡一般人とは形容し難いほどの質量と濃度。正確な数値を計測することはできないが、それでも。未熟な……『魔術師』とすら呼べない俺だとしても、この子は異質だとわかる。
それこそ、セイバーたち────サーヴァントに匹敵すると言っても良いほどに。
件の少女は眠たげに瞳を擦り、開いた不揃いな色合いの両目から放たれた視線が俺に向く。そのまま、にへら、と笑みを浮かべて。
「
大きく息を吸って、吐く。相手に敵意はない。それでいて、この子────小鳥遊もひとりの生徒だ。恐怖心を抱くのは良くないぞ。
「小鳥遊か。よろしくな。『シャーレ』の衛宮 士郎だ」
「シャーレの……じゃあようやく支援が来たんだねぇ、よかったよかった。おじさん待ちくたびれちゃったよ〜」
……おじさん。ドア越しに聞いた時も思ったけど、何というか。この子はだいぶ独特だな。昼行燈というか、何というか。
「まあ良いか。よしじゃあ、これで全員揃ったってコトだし、改めてアビドスの状況を────」
なんて、のんびりした空気に包まれていたのも束の間。俺の声を遮る様に、外から銃声が聞こえてくる。
加減のない発砲。雨の様に放たれた弾丸が校舎の壁に着弾する音と、ガラスが割れる音が辺りに響いて────、
「……また来た。カタカタヘルメット団」
「……手紙に書かれていた『暴力団』ってヤツか。というか慎二は────」
「アイツは逃げ足速いから平気よ、先生。多分どっか安全なところにすっ飛んでったんじゃない?」
とは黒見の弁。いやまあ、自分の身を顧みるのは良いコトだけども。何と無く、アビドスの中でのアイツの扱いがわかった気がした。
◇◆◇
校庭に出る。射撃訓練場も兼ねているのか無数の遮蔽物が建てられたそこ。校門から校舎に向き合う形で、ヘルメットを被った無数の生徒たちが俺たちを迎え出た。
恐らくリーダーであろう子が今もこちらを警戒し、銃口を俺たちに向けているのが見える。地面に魔力を這わせて戦力を確認したけど、ざっと三十人くらい。
「多勢に無勢、って感じだな……あの子たちは良く来るのか?」
「はい、手紙にも書かせていただいた通りです。どうやらこの校舎を狙っているらしく、度々襲撃を……」
なるほど。確かにこの数を毎回相手にしていれば、こっちの備蓄が尽きてくるのも頷ける。確かに状況はあまりよろしくない。……なら尚のこと、遭難して到着が遅れたことにも罪悪感が湧いてくるが。
「ここは俺に一旦任せてくれないか?」
「ん〜? 全然良いけど。先生、何するつもり?」
「ちょっと見ててくれ。発砲はしないように────けど、何があってもいいように準備はしておいてな」
小鳥遊の怪訝な視線を受けながら、両耳に白石から貰った機械を装着して歩みを進めていく。
校庭の中央。丁度アビドスの子達とヘルメット団の間に立ったところで、俺は口の横へと掌を当てた。
「おーい、キミたち! 何しに
「何しにって────見てわかんねえのかよ。侵略だよ、侵略! アタシたちはアビドスの校舎が欲しい。アイツらはそれを嫌がってる。それだけの話だ!!」
……いやまあ、見てわかるんだけどもさ。そうでは無くて。銃口を地面に下げるコトすらなく。俺の言葉に不機嫌そうに応えたのは、集団の中心に立った周りとは色違いのヘルメットを被った生徒。見た感じリーダーとか、そんな感じなんだろーか。
「じゃ無くて、何でそんなコトしてるんだって話を────」
あ、撃たれる。
俺の言葉尻すら聞くことは無く。彼女たちの指先がトリガーにかけられるのがわかる。
同時、自身の体内のスイッチを下ろして、
「構わねえ、撃っちまえ!!」
「
視界を覆うほどの
ひとつ。二つ、三つ。四つ目を干将が弾いたところで、弾丸の雨は止んだ。
「……なあ、あの制服。あの双剣。多分、シャーレの先生だぞ」
「ひとりと一小隊で同盟大隊を殲滅したって、あの……?」
……おっと。噂になってる。しかも、彼女たちにとってあまりよろしくない形で。
ざわ、ざわ、と遠目に俺のことを眺めながら、数度の会話を交わした後で、
「じゃあ部が悪い! 一旦退散!!」
「な、待────俺は話を聞きたいだけで!」
凄まじい速度で身を翻し、脱兎の如く逃げていってしまった。
……参ったな。別に脅かすつもりはなかったし、本当に話を聞きたかっただけなんだけども。
思わず肩を落とし、長い長いため息を吐き出す。徐に彼女たちへと伸ばした右手は行き場をなくし、そのままだらりと垂れ下がってしまった。
「あんなにしつこかったヘルメット団が嘘みたいに逃げてっちゃった……おじさんびっくり。先生、あの子達に何したの〜?」
「い、いやあ……あはは」
正確には『あの子達に』では無く、『あの子達の仲間、ないし知り合いに』ではあるんだけども。訂正する余力も権利も、今の俺には無い。彼女たちの態度がその全てだ。
小鳥遊、十六夜、黒見とシロコが俺に駆け寄ってきて。遅れて奥空がそこに到着する形。少し見渡せば、遠目に俺たちを眺めている慎二も見える。よかった、アイツもとりあえずは無事らしい。
とはいえ、
「悪い、みんな。失敗しちまった」
「別に良いのよ。……というか、別にあんな奴らに情けなんてかけなくて良いのに。アビドスを襲ってる悪いヤツらなんだし」
「そういうワケにいかないだろ、黒見。あの子たちにも何かしらの事情があるかもしれないんだ、それを聞かずに一方的に『悪』と断じるのは良く無い」
やっていることは悪いこと。しっかり罰さなければいけないのはそれはそうだが、相手にも弁明や釈明の余地があったって良い。何なら俺からすれば、話し合いで解決するのが一番良いんだ。明確に『先生』としてシャーレに就任したワケだし、尚のことその機会をみすみす逃すコトはしたくない。
等と思いながらふと視線を向ければ、不思議そうに干将・莫耶を眺めていたシロコと目が合う。数度の瞬きをした後で、
「……でも、逃げていく気持ちもわかる気がする。何処からか出した剣で、銃弾を弾いたり叩き落とす絵面はかなり物騒で絶望的」
「ぶ、物騒? そうか?」
「ん。これからアイツらが来たら先生を目の前に突き出すことにする」
俺からすれば当たり前に銃弾をぶっ放している方が物騒なんだが……そうか、そうか。
少しばかり凹む俺と、それをキラキラした目で見上げるシロコ。何と無く気まずい時間と空気を割いたのは小鳥遊だった。
「先生は失敗したって思ってるかもしれないけど、これはチャンスかもね」
「……チャンス?」
「そ。先生のおかげで弾薬の補充はできたし……ヤツらの反応を見るに、先生って存在をかなり恐れてるみたいだし。ヤツらが逃げ帰った所で、前哨基地を叩けば────、」
「しつこかったヘルメット団の襲撃は、しばらく無くなる……?」
「アヤネちゃん正解〜。賢くて可愛い子だねぇ、立派な後輩に育ってくれておじさん嬉しいよ〜」
うりうり、と奥空の頭を撫で回す小鳥遊。けれど、その視線はそのまま俺に向いた。
「でも、それに先生が反対しないなら……の話だけどね。
……俺の意思。俺の気持ち。向けられた小鳥遊の視線は真剣そのものであった。小鳥遊だけでは無く、この場にいる全員の視線が。
繰り返しアビドスを襲撃するカタカタヘルメット団。その子たちは俺と対話する意思はなく、言葉に対して銃弾を返すだけ。
『彼女がキヴォトスを不在にした今、サンクトゥムタワーが復旧したとしても。インフラが元に戻って、行政権が連邦生徒会に戻ったとしても────問題がゼロになるわけでは無いでしょうから』
あの時、シッテムの箱の中で。アロナに聞いた言葉を思い出す。
アビドスの子達が困っているのは事実。けどそれと同じくらい、カタカタヘルメット団の子達も
「……誰かを救うってことは、誰かを救わないってこと────か」
今の俺は『高校生』の衛宮士郎ではなく。シャーレの先生────『大人』の衛宮士郎として、ここに居る。
生徒たちから向けられた信頼。生徒たちから求められた救援と、生徒から寄せられた期待。誰を救い……誰を選び、誰を選ばないのか。
「────いや。準備はいいか? ヘルメット団の前哨基地に向かおう。こっちで足取りは追跡する」
どちらかを選ぶなんてコトはしない。血の気が多いと言うのなら、戦意を削いでから寄り添うようにする。それが、大人としての俺のやり方だ。
書き溜めのありがたさ。やっぱたくさん書いといてナンボなんですわ。おかげで5月末締め切りの新人賞に原稿間に合いそうです……ひぃん……(梔子)