もし……このような蒸気機関車が走っていたら……

あなたはどうしますか?

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消えたい

「……消えたい。」

 

 

 

僕は誰もいない駅のホームでそう呟いた。

 

 

 

今日も疲れた。

 

 

 

朝早く出て……

 

 

 

定時では帰れず残業残業……

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

明日も……

 

 

 

そして明後日も……

 

 

 

飯は……今日もいいや。

 

 

 

食べる気力が湧かない。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

終電が来るまで……まだかかるか……

 

 

 

……なんで覚えてるんだよ。

 

 

 

……いつも乗ってれば分かるか。

 

 

 

はぁ……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

「……僕……何してるんだろう?」

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

……分からん。

 

 

 

……頭が回らん。

 

 

 

……眠い。

 

 

 

だけどここで眠ったら終電を逃す……

 

 

 

まだ来ないし缶コーヒーでも買いに……

 

 

 

……?

 

 

 

……終電が……来た?

 

 

 

そんなはずは……時間は……

 

 

 

まだ早い……

 

 

……でもなんで……は?

 

 

 

……あれ……機関車?

 

 

 

え……なんで?

 

 

 

ここ……機関車なんて通らないのに……

 

 

 

機関車は汽笛を鳴らし、ゆっくりと僕がいる駅へ停車した。

 

 

 

僕、疲れてるのかな……

 

 

 

機関車なんて来るわけないし……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

……え?

 

 

 

……アナウンスは?

 

 

 

普通電車が来たらアナウンスが聞こえて……

 

 

 

……聞き逃した?

 

 

 

そんなはずは……

 

 

 

じ、時間は……

 

 

 

……は?

 

 

 

終電が来る……時間……

 

 

 

じゃあ……これが……

 

 

 

……どうする?

 

 

 

乗ったほうがいいのか?

 

 

 

だけどなんか……

 

 

 

分からんけど……

 

 

 

なんかヤバい。

 

 

 

だけどこれが終電だったら明日仕事が……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

くそ!

 

 

 

僕はヤケクソになって客車に跳び乗った瞬間、客車の扉が閉まった。

 

 

 

中は……普通だな。

 

 

 

……ただの客車……だよな?

 

 

 

「おっと!?」

 

 

 

……あぁ、機関車が動いたのか。

 

 

 

早く席に座ろう。

 

 

 

えっと……誰もいない?

 

 

 

まぁ……終電だしそんな日もあるか……

 

 

 

これ、座る場所はどこでもいいのかな?

 

 

 

指定席とかじゃないよね?

 

 

 

……だめだ分からん。

 

 

 

まぁ……誰もいないし……いいよね?

 

 

 

あとで何か言われたら謝ろう。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

無駄に疲れた……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

この機関車……本当に何なんだろう?

 

 

 

外の景色もいつも通りだし……

 

 

 

客車内は映画で見たまんまだし……

 

 

 

うーん。

 

 

 

まぁ……乗れるなら何でもいいさ……

 

 

 

それにしても……機関車に乗るのは初めてかもしれんなぁ。

 

 

 

そう考えると……なんか得した気分だな……

 

 

 

ははっ……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

何考えてるんだ僕は……

 

 

 

明日も仕事があるんだ。

 

 

 

飯は……いいや。

 

 

 

とりあえず帰ったら妻子を起こさないようにシャワー浴びてすぐ寝て早く起きてそしてまた定時で帰れず残業残業……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

それでまた次の日も……

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

僕……何してるんだろう?

 

 

 

就職してから僕は……何をしてるんだろう?

 

 

 

平日は夜遅くまで仕事……

 

 

 

休日は妻を怒らせないように子供の世話と家事の手伝い……

 

 

 

僕……いるのかな?

 

 

 

仕事だってみんなと変わらない作業で……

 

 

 

なんならほかの人の仕事を手伝って……

 

 

 

……なんで僕と同じ作業なのに手伝ってるんだ?

 

 

 

なんで僕は巻き込まれてるんだ?

 

 

 

僕が定時前に終わらせてもあいつが遅いせいで毎日毎日……

 

 

 

逃げたい……

 

 

 

だけど逃げたらあいつのようにみんなから言われて……

 

 

 

だけど……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

なんで……僕が割を食って……

 

 

 

だけどそれはみんなも同じ……

 

 

 

辞めたい……

 

 

 

だけど……みんな働いてるのに僕だけ辞めたら逃げてるみたいで……

 

 

 

じゃあ……どうしたら……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

「……消えたい。」

 

 

 

「……あなたも消えに来たのですか?」

 

 

 

「!?……だ、誰?」

 

 

 

客車内はいないはず……

 

 

 

だけどさっき女性の声が……

 

 

 

僕は客車内を見渡したが誰も居らず……

 

 

 

「あなたに私は見えません。」

 

 

 

「え?それは一体……」

 

 

 

「言葉通りです。」

 

 

 

「そんなの……」

 

 

 

「ありえない……とでも?」

 

 

 

「そりゃそうですよ。

 

そんなの……信じられません。

 

何か証明出来るものがあれば話は別ですが……」

 

 

 

「証明は……申し訳ありません。

 

私の居場所を教えても私がそこにいる保証はありませんから……」

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

……疲れすぎてるのか?

 

 

 

やけにはっきりとしてるが……

 

 

 

「あの……お疲れなんですか?」

 

 

 

「……。」

 

 

 

……幻聴だ。

 

 

 

これは幻聴なんだ。

 

 

 

僕が疲れすぎて幻聴が聞こえるだけだ……

 

 

 

「……あなたは先ほど消えたいと仰っていたようですが……本当に消えられるとしたらどうします?」

 

 

 

「……何が言いたいんですか?」

 

 

 

「言葉通りです。」

 

 

 

「僕に死ねと言ってるんですか?」

 

 

 

「いえ!それはありません。そんな非道なことでは……」

 

 

 

「……他に何があると言うんですか?

あなたみたいに僕には見えない存在になれるとでも?」

 

 

 

「なれますよ。

この蒸気機関車なら。」

 

 

 

「やはり僕は幻聴を聞いてるみたいですね。」

 

 

 

バカバカしい。

 

 

 

そんなおいしい話があるわけ……

 

 

 

「……足元をご覧になって下さい。」

 

 

 

「……どういう意味ですか?」

 

 

 

「言葉通りです。」

 

 

 

どういう意味で足元を……

 

 

 

「……何もないじゃないですか。」

 

 

 

バカバカしい。

 

 

 

足元の何を見ろと言うんだ。

 

 

 

足元に何も……

 

 

 

足も……

 

 

 

何も……

 

 

 

「足!僕の足は!?立てる……ある……でもなんで見え……」

 

 

 

……触れる。

 

 

 

けどなんで……

 

 

 

そ、そんなことよりどうすれば……

 

 

 

「ねぇ、君!なんで僕の足が……」

 

 

 

「先ほど言ったではありませんか。

この蒸気機関車に乗れば消えられると。」

 

 

 

「そ、そんなの……」

 

 

 

「まだ、嘘だと思うんですか?」

 

 

 

「ぐっ……なぁ、さっきから幻聴だとか言って無視してすまなかった。だからこれはどうしたら……」

 

 

 

「本当にそれでいいんですか?」

 

 

 

「……え。」

 

 

 

「この蒸気機関車は消えたいと思う人の前に現れます。そしてこのまま乗ったままでいれば自殺などで苦しむことなく消えることが出来るんです。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「……正直になっていいんですよ?

 

ここには私しか居ません。

 

だから周りを気にする必要なんてないんですよ?」

 

 

 

「だけど……」

 

 

 

「あなたは優しいんですね。

 

……周りが気になるのでしょう?

 

私も……同じでしたから……」

 

 

 

「……君も?」

 

 

 

「はい。

 

私も周りを気にして……疲れて……ここに来ました。

 

あなたも乗ったということは……そういうことなんですよね?

 

大丈夫です。

 

ここに……仲間がいます。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

このまま……消えてしまえば……

 

 

 

仕事を気にする……必要が……

 

 

 

だけど……僕には家族が……

 

 

 

家族を養う義務が……

 

 

 

!?

 

 

 

なんだ……急に止まって……

 

 

 

あっ……降りる駅だ。

 

 

 

落ち着け……僕……

 

 

 

責任から逃げたらだめだ。

 

 

 

それは人として……やったら……

 

 

 

「……あなたは優しいですね。」

 

 

 

……聞くな。

 

 

 

「少し話しただけでも分かります。

 

あなたはとても優しい。

 

私の亭主よりも……ずっと……」

 

 

 

これは幻聴だ……

 

 

 

「……最近、あなたは褒められたことはありますか?

 

あなたはきっと頑張っているのでしょう?

 

職場でも……家でも……

 

だけど、それは誰かに褒められましたか?」

 

 

 

幻聴……

 

 

 

「あなたはすごいです。

 

逃げた私と違って責任から逃げようとしない……

 

そんなの……誰でも出来ることではありません。」

 

 

 

……。

 

 

 

「あなたはすごく頑張ったはずです。

 

だけど……いえ、だからこそあなたは疲れて……ここに来たのではありませんか?」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「ここなら、誰もあなたを責めませんよ?」

 

 

 

「ですが……」

 

 

 

「あなたの頑張りを……

 

誰かが認めてくれましたか?

 

見てくれましたか?」

 

 

 

「いえ……」

 

 

 

「誰かがあなたを……必要だと言ってくれましたか?」

 

 

 

「……。」

 

 

 

妻も……子も……同僚も……上司も……

 

 

 

誰も……

 

 

 

僕のことなんて……

 

 

 

「……あなたのことを聞かせてはいただけませんか?」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「全て……は無理かもしれませんけど話して頂ければ半分だけでもあなたの辛さを……私が背負えるはずです。」

 

 

 

「ですがそれではあなたにはなんの利も……」

 

 

 

「……いいんです。

 

わがままを言えば私の辛さも話して背負って頂けると助かりますが……

 

ですが……今のあなたに私の分を背負わせるのは少し気が引けると言いますか……」

 

 

 

「……君は優しいんですね。」

 

 

 

「ふふっ。ありがとうございます。

 

ですから……どうでしょうか?

 

私はあなたがそばに居てくれるだけでも……話し相手がいるだけでも助かります。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「……私はずっと一人でしたから……寂しいんです。

 

あなたがどうしてもと言うのであれば止めません。

 

あなたの意思は尊重します。

 

……ですが……これだけは言わせて下さい。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

「あなたは……とっても優しい頑張り屋さんです。

 

それは私が保証します。」

 

 

 

あっ……

 

 

 

なんで……

 

 

 

僕……

 

 

 

これは……幻聴だ……

 

 

 

幻聴……幻聴……

 

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

嫌だ。

 

 

 

 

これが幻聴……だなんて……

 

 

 

……居たい。

 

 

 

仕事も……

 

 

 

家族も……

 

 

 

責任も……

 

 

 

忘れて……君と……

 

 

 

消えて……

 

 

 

……。

 

 

 

……。

 

 

 

家族……

 

 

 

ごめん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタン。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

僕は自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。

 

 

 

……これで……良かったんだよな?

 

 

 

明日も早く起きて仕事かぁ……

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

消えたい……


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