ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第74話:平田の覚悟、桔梗の決意。

「ふぅ……。風呂はいいな。実に心地いい……」

 

 無人島試験を終えてからというもの、綾小路清隆は度々船内スパを訪れるようになっていた。朝昼晩、少なくとも一日に三度は訪れる。一人で堪能することもあれば、友人と御一緒することもある。

 

「お前、本当に風呂好きになったな……」

 

 呆れた顔でツッコミを入れるのは神崎だ。

 

「いや、本当だぜ! 俺も日本人として風呂は好きなつもりだけど、流石に綾小路ほどじゃねえや」

 

 その横では、柴田颯がそれに続いた。

 神崎と柴田は船内でのルームメイトということもあり、晩の入浴時は御一緒する機会が多い。

 残り二人のルームメイトは浜口哲也と渡辺紀仁だ。彼らとも御一緒する機会は多いが、生憎と今回はいなかった。

 一クラスの基本構成は、男子二十人、女子二十人の計四十人である。そのため、本来なら男女ともに四人構成で五グループが出来る計算になる。

 しかし、移籍や退学などで人数に変動が起こることもあり、星之宮クラスもその例に洩れない。清隆は元々茶柱クラスの所属だった。移籍してきたことで現在は星之宮クラスに籍を置いている。

 そのため、星之宮クラスの男子数は二十一人となり、例外的に五人構成のグループが一つ出来上がることになった。

 同じように、女子もまた佐倉愛里、椎名ひより、山村美紀が他クラスから移籍してきたことにより、女子数は二十三人。本来の構成数に加えて、三人組が一つ多く出来上がることになった。

 

「おそらくは慣れの差もあるんだろうとは思うがな。オレはこれまで『温泉』というものを味わったことがなかった。この船に乗って初めて経験したんだ。それもあって、余計に琴線が刺激されているんだと思う」

 

 二人の言葉に対し、清隆は冷静に語った。

 

「確かに、そこら辺の事情を加味すれば、綾小路が()()()()()()()()()――いわゆる『ビギナーズ・ハイ』に陥っていたとしても不思議はないか……」 

「一方、俺たちはそこまででもねえ。如何に豪華客船って言っても、風呂の種類自体はそこらの温泉施設と大差ないもんな。流石に家で味わうのは難しいけど、泡風呂もジャグジーもサウナも、そこらの温泉に行けば普通に味わえる。……綾小路ほど盛り上がらなくても不思議はねえな」

 

 神崎と柴田はそれに納得を示す。

 

「やあ。御一緒させてもらって構わないかな?」

 

 一般的な船内施設だけあって、運や時間帯に左右される部分もあるだろうが、利用者が三人だけのわけはない。当然ながら他にも利用者がいて然りである。

 それでも、基本的には『我関せず』を通す人物の方が多いだろうが、互いの関係性次第ではそうとも言い切れない。

 三人に声をかけてきたのは平田洋介だった。三人の所属する星之宮クラスは平田の所属する茶柱クラスとは何かと縁がある。清隆だって元は茶柱クラスだし、先日までやっていた無人島での特別試験の際も、茶柱クラスとは行動を共にしていた。

 そういった諸々を考慮すれば、平田が声をかけてきてもおかしくはなかった。

 

「平田か、どうぞ」

 

 平田の声に神崎が返す。

 

「改めて、今回の試験ではどうもありがとう。おかげで、僕たちのクラスは300近いCPを得ることが出来たよ」

「気にすんなって! こっちにも思惑があってやったことだし、そっちだって努力したからこその結果なんだからよ!」

「そうだな。そちらが何の手も打たなければ、獲得CPは今よりも下がっていたことだろう。リーダー当てにチャレンジすることを決め、実際に当ててみせた自分たちの実力を誇れ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。……今回の特別試験で改めて実感したよ。僕たちのクラスは実力が足りない。互いの連携が足りない。個人個人の地力が足りない。嵌れば強いけど、それ以外はお察しさ」

 

 三人の言葉に喜びを示しつつも、平田は茫洋とした眼差しで天を見ながら肩をすくめた。

 

「だから僕は決めたんだ。――これからの僕は、本気でAクラスを目指していく」

 

 その直後、真っ直ぐに三人を見据えて平田は宣言した。

 

「これまでの僕は、この学校と本気で向き合っていなかった。個人的には真面目に向き合っていたつもりだけど、それでも『クラスの笑顔』を優先していた面があるのは否めない。そしてそれは刹那的なもので、結果として山内くんが退学になってしまった。

 中学時代のトラウマでね。……僕の幼馴染みはイジメによって飛び降り自殺を図ったんだ。一命は取り留めたけど、脳死状態だ。身体は生きているけど、人間としては死んでいるに等しい。そして、そこまでの事態を招いておきながら、ターゲットを変えてイジメは続行された」

「それは……」

「マジかよ……」

 

 神崎と柴田は顔を引きつらせて呟く。

 平田の余りにも陰惨にして凄惨な過去。もはやイジメそのものは学校生活と切っても切り離せないところがあるが、それも場合によりけりだ。縁のない生徒はトコトンまで縁がない。

 

「残念ながらマジでね。そこにきて、僕はとうとう行動に移した。自分がイジメられまいとするあまり、幼馴染みを見捨ててしまったことに対する罪滅ぼしの面もあった。二度と幼馴染みのような被害者を出すまいとする強迫観念もあった。

 結果として、僕は暴力で以て学校を支配した。揉め事が起これば、必ず割って入って両方を一切の加減なく本気で殴り飛ばした。それを繰り得している内に、学校内からイジメは根絶されていた。

 しかし、それによって校内から活気が失われ、一つの学年が機能不全となり、全クラスの強制的な解体と再編を招く事態にまでなったのは事実だ。その後も、全学年が卒業まで厳しい監視体制を取られることになってしまった……」

「以前、そんなニュースを見たことがある。アレは平田の母校で起こったこと――どころか、ガッツリと関わっていたのか……」

 

 難しい顔で神崎が起こった。昨今の情報化社会、そんな事態が起これば隠蔽しきれる筈がない。 

 

「それが僕の人間性に多大な影響を齎したことは事実でね。

 僕がその気になって行動を起こせば、クラスの支配は可能だろうけど、その代償としてクラスから活気が失われる――可能性が高い。

 その思いが、どうしても僕に二の足を踏ませていた面があるのは否めない。

 まあ、清隆くんを始め、一部の人たちは僕の過去を知っていてね。その上で僕に起つことを望んでいたけど、僕はその気持ちを避けていた。

 その結果、山内くんの退学を招く事態になってしまった。……もちろん、彼の退学は僕の責任というわけじゃない。根底にあるのは本人の努力不足だ。それは否定しないし認めている。

 それでも、本当に『クラスのこと』を思うのであれば、僕自身も積極的に行動を起こすべきだったんじゃないかって、そう思えてならないんだ。僕は『クラスの笑顔』を尊重する余り、退学に対する備えを怠った。赤点一つで退学になるのは分かっていたんだから、もっと本気で勉強に向き合わせるべきだった。――そういう面があるのは、決して否定できないんだよ。

 だから、グルグルグルグル、悩みに悩んで、漸く結論が出た。結論を出すことが出来た。――僕は起つ。

 僕はクラスを統率し、Aクラスを目指す。中学時代と違って協力者もいる。強制的な支配にはならないし、する気もない。ただし、引き締めるべき部分はこれまで以上に引き締める。そうして、徐々にクラス全体の地力を付けていく」

 

 平田が三人に向ける、その眼差しに揺るぎはない。

 

「やれやれ……。また一人、強敵が生まれることになってしまったか……」

「しんどいけど、楽しくもあるぜ。平田、いざぶつかるその時は、バチバチにやり合おうぜ!」

「うん。その時は全力でぶつかり合おう! ――と言っても、基本的に君たちのクラスとは協調路線を取るつもりだけどね。

 さっきも言った通り、僕たちのクラスは地力が全然足りてないんだ。この状況で、四方八方にむやみやたらと噛みついてなんかいられないよ。一つ一つ、着実に上のクラスを目指していくさ」

「だが、いずれはぶつかり合うことになるだろう。友人だからとて手加減はしないぞ?」 

「こっちもさ。――さて、僕はそろそろ上がるとするよ」

 

 言って、頭にタオルを乗せた平田は、ザパリと音を立てて風呂から出ていった。

 それを見送った清隆たち三人もまた、程なくして風呂を上がるのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「こんのぉっ!」

 

 アズが見守る中、桔梗が鋭い蹴りを繰り出した。常人ならば、まず間違いなく回避も防御も出来ないだろう。――しかし、桔梗と対峙する未だ年若い男性は、実にアッサリと躱して見せた。

 

「うん。まだ動きに無駄が入ってる。気持ちの問題かな……? 自分で自分を信じきれていないように思えるんだけど、どうだい?」

 

 穏やかな顔のまま、男性は桔梗に問う。

 

「チッ……!」

 

 その問いに桔梗は答えない。表情を歪め、舌打ちすることで答えとした。

 何がどうなってこうなっているかというと、アズも桔梗もよく分かっていない。

 きっかけとしては、格技場の一角を借りてアズと桔梗が手合わせしている場面に見物客が現れた。それがこの男性だ。

 そして、男性は桔梗に対し、唐突に言ったのだ。『俺の技を覚えてみる気はないか?』……と。

 男性は漂流したいたところをこの船に拾われ、現在は恩返しを兼ねてこの船で働いているらしい。トウマ・カノウと名乗った。

 その自己紹介からして胡乱であり、当初はアズも桔梗も相手にしなかった。――だが、直後に両名は、自らの『見る目のなさ』を痛感させられることになったのだ。

 

『おいおい。怪しむのは分かるけど、無視はよしてくれよ』

 

 気安くそう言ったトウマの動きを、二人は捉えられなかったのだ。

 入り口近くにいた筈なのに、気付いた時には目の前にいた。……二人の心情を言葉にすればこうなる。

 

『君、空手をやってるだろ? 俺もベースは空手でね。まあ、今では空手以外も混ざっちゃったけど、君の戦闘スタイルは俺に似ているんだ。そんなのを見ちゃえば、先達としてはお節介の一つも焼きたくなるさ』

『……技っていうのは?』

 

 流石に、僅かたりとて実力差を知ってしまえば、『無視し続ける』という選択肢は桔梗にはなかった。

 

『実際にやって見せよう。全部を伝えきれるかは君次第だ』

 

 そう言って、トウマが真っ先に披露したのが『気を蹴撃に乗せて遠方へと飛ばす技』だった。曰く、『ハーケン・インパルス』。

 トウマの技は、その全てが『気の使用』を前提にしており、それもあっての先のセリフのようだ。実際に技を披露しようにも、ここには代わりに技を受ける人形などはない。すなわち、己が身で技を受けることで覚えるしかないのである。

 ターゲット無しでも披露できる技はあるが、有ると無しでは大違いなのも事実である。

 まあ、そんな一幕があって、桔梗はトウマから教えを受けているというわけだ。

 

「重要なのは一つ。自分が頑張ることの意味――『闘志の出発点』を見極めることだ。

 人は、生きていく中で様々なモノに触れていく。それによって様々な影響を受ける。それは避けられないことだ。

 その中で初志を忘れる場合も多い。俺もそうだった。()に溺れて()()を見失ったことがあった。――だけど。だからこそ。それを思い出して受け入れられたのなら、己が弱さを認められたのなら、人はどこまでだって努力できる。どこまでだって己を懸けられる。どこまでだって変わっていける」

 

 苛立つ桔梗に、トウマが静かに語り掛ける。その顔には、ただ優しい笑みだけが広がっている。

 

「自分が頑張ることの意味……。努力の出発点……」

 

 桔梗は瞑目しながら、トウマのセリフを繰り返す。

 桔梗の中で、様々な思い出が浮かんでは消えていく。そうして、過去へ過去へと遡っていく。やがて行き着いた、最初の欠片(ピース)。――そこにあったのは、自分に満面の笑顔を向ける両親の姿だった。

 

(ああ、そうか……。そうだった……。私の原初は『両親の笑顔』だった……)

 

 しかし、それが『広がり』を見せていく。両親の隣にはアズがいて、アズの周りにはエッジとミツバがいる。そこからも人は増えていく。

 

(ただ、それは『原初』なだけなんだ。敗北を喫したことで、私は『私に優しい世界』を求めるようになった! ――でも現実は不条理で! 不合理で! 優しくなんか出来てない!

 だから! 私は無理矢理にでも、『私に優しい世界』を作り上げるって! 周りに私を認めさせるって! そう決めたから、私はコミュニケーション能力を鍛えたんだ!)

 

 帆波がいる。神崎がいる。清隆がいる。フォルテがいる。学がいる。南雲がいる。……学校で出会った沢山の人がいる。

 

(だけど、『優しいだけの世界』なんて地獄と同じだ! だってそこには『変化』がない! 『絶望』もないけど――『感動』もない!)

 

 その全員が、決して笑顔を向けているわけではない。アズなんてふくれっ面だし、南雲先輩なんて笑みは笑みでもニヤニヤとした笑みを浮かべている。綾小路は相変わらずの真顔だし、会長はともすれば仏頂面にも思える。――だけどその眼は、誰しもが真っ直ぐに桔梗を向いている。

 

(だからそう! 私が真に求めているのは『日常』だ! 変化がないようで、絶えずどっかが変化していて、そんな遠い場所の変化が時に影響を齎す! 未知を歓迎し、既知を尊重する! 時には不幸に襲われて絶望を覚え、時には幸運に恵まれて希望を覚える! そんな、()()()()()()()()を私は求めているんだ!)

 

 瞬間だった。桔梗は自身の中で、『カチリ』と何かが当て嵌まった気がした。

 目を開ける。視野が広がった気がする。映る景色が、以前よりも鮮明になった気がする。

 そして、久しく感じていなかった『万能感』が、全身を包んでいるような気がした。

 

(今なら――出来る!)

 

 自分でも分からない妙な確信に突き動かされ、桔梗は咆哮と共に回し蹴りを繰り出した。

 

「ハーケン・インパルス!」

 

 その蹴撃の軌道に乗って、闘気の刃が打ち出される。

 目に映るほどに顕在化した気は、確かな破壊力を持っている。先にトウマが行った見本とは違い、桔梗はそこまでのコントロール能力がない。――使えるようになったばかりでコントロールできる方がおかしいのだが……。

 然るに、このまま何もしなければ、桔梗の放ったハーケン・インパルスは室内の壁を見事に穿ったことだろう。その名が示す、釘の如くに。

 

「ハーケン・インパルス!」

 

 とはいえ、トウマが黙ってそれを見過ごすわけもない。寸分の狂いなく、全くの対抗軌道でぶつかるように放たれた同名の技は、その期待に応えるように桔梗の放ったハーケン・インパルスとぶつかり合い、対消滅を起こした。

 気と気のぶつかり合いによって衝撃こそ起こったものの、それ以外に残滓らしい残滓はない。

 

「お見事だったな! いや正直な話、自分で言っておいて何だけど、本当に出来るようになるとは思ってなかったよ。凄いな、君!」

「君じゃなくて櫛田桔梗です。自分の技を教える相手――弟子の名前くらいキチンと覚えてください」

「そいつは悪かった! この船に乗っている間にどこまで伝えられるかは分からないけど、よろしくな桔梗!」

 

 トウマの言葉に、桔梗は仏頂面で訂正を求めた。しかしながら、言葉が敬語になっている辺りに、『目上』として認めたのがアズには分かった。

 桔梗とトウマが握手を交わす。――それを見て、アズの胸にはチクリとした痛みが走るのだった。




スパロボからの刺客に登場してもらいました。

このトウマは、現実ではまだ出ていない『OG』続編世界線からの参加です。ちなみに大雷鳳搭乗済みで、『神雷』習得済みです。無論、生身でも扱えます。
まあ、『OG』世界線の場合、師匠が生身でも気を扱えるアクセルですから、トウマが生身で気を扱えるようになってもおかしくはないでしょう。
世界観そのものをナムカプシリーズ風味にしたことで登場する運びになりました。
あの世界観なら、異世界や異次元から来訪者が現われたところで不思議はありませんから。

せっかくのスパロボクロスですし、何やかやと理由を付けては機会を見て、今後もスパロボキャラを登場させたいと思います。
基本的にはゲストやサブキャラ扱いで、それでもガッツリと印象に残すようにはしたいです。
現在考えているのは、忍び繋がりで天斎小吾郎とか、異世界から帰還後のイオリとアマリとかですね。極論、生身でも戦える面子です。
小吾郎さんは、N.I.N.J.Aとは別の道を歩んだ忍者の末裔で、だけどやってることはN.I.N.J.Aと大差ない設定です。
PXZ2に小吾郎さんたちが参戦しなかったのは、個人的に辛かったです。

平田の清隆たちに対する意思表示は、平田であればやるかな……と。何やかやと星之宮クラスには世話になってますし、清隆や柴田とは友好を紡いでますし。
原作とは違い、本作の茶柱クラスは『罰則による愛里の移籍』、『清隆に対する他クラスからのスカウト』、『赤点による山内の早期退学』などの事態に見舞われてますからね。
清隆と愛里は学校からいなくなったわけではありませんが、クラスからいなくなったのは事実であり、そこに山内の退学がトドメとなりました。
また、R-18版の方での、清隆たちによる諭しもあります。
平田が覚悟を決めるにも十分だと思いますし、結果として本作の平田は起つことを決めました。今後の茶柱クラスは平田が率います。

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