バグみたいで鬼畜な開拓者   作:全智一皆

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チュートリアル 異常(バグ)を以て反則(チート)を制す

■  ■

「あ゛ぁ゛ァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『愉快痛快とはまさにこの事だな? 人が楽しんでる所に無粋にも水を差すからこうなるんだ。冷めてやるゲーム程、退屈(つま)らないもんはない。お前が一番理解(わか)ってた筈だがな』

 

 普通、物語というのはなんか壮大な入りだったりとか、此処が何処でどんな場所なのかとか、そういった舞台説明とか設定閲覧とかから始まるものなのだが、―――作者も例外ではない―――どうやら此度は少し状況が異なるらしい。

 部屋中がゲームのグッズやポスターに埋め尽くされ、床と机には菓子類や炭酸飲料のゴミが幾つかある。見た目からして、明らかにゲーマーの部屋と言うべきその空間では、一人の少女が喉が張り裂けんばかりの絶叫をあげながら、ゲーミングデスクを粉砕する勢いで殴打する様―――要するに、言い訳のしようがない完璧な台パンをしている。

 そして、そんなあまりにも少女らしからぬ様子を眺めながら、モニターの奥から発生する、男の音声が愉快だと嘲笑っている。

 この光景を見れば、誰もが察するのだ―――この少女は、ゲームでボコボコにされたのだと。が、それは些か早計というものである。

 

『一人のゲーマー少女が、モニターの奥から一人のゲーマーに完膚なきまでにボコボコにされて泣かされた』

 

 これだけなら、完全に男の方が悪いだろう。この男が少年なのか青年なのか大人なのか、或いは老人なのかも分からないが、どちらにしたって、大人気がないと言われるだろう。

 だが待ってほしい。ここに一つの情報が付け足されたら、どうだろうか?

 

『この少女が反則(チート)を使用していた』

 

 オンラインゲームにおいて、チートとは絶対的な悪である。

 一人のプレイヤーがゲーム本体に定められた規定値(ルール)の範疇を超越するプレイを強行し、他プレイヤーを蹂躙する―――それは断じて裁かれるべきだ。

 結論から言ってしまえば、実際の所、この現状はそういった経緯から完成してしまったものである。

 この少女―――『銀狼』というネームで活動しているプレイヤーが、『Ædo(エド)』というネームのプレイヤーがフレンドと共に遊んでいる所に対戦相手として参加した。

 最初こそ、単純にかなり上手いプレイヤーだと思っていたが、途中からÆdoはそれがチートによるものであると断定。結果、彼は自身のスキルを以て彼女のアカウントとゲーマーデータに悪辣なバグを発生させ、深刻なエラーを幾重にも積ませて全てを焼き尽くしたのだ。

 ―――もう、手馴れたものである。

 

『あぁ、あと個人プロフィールも勝手に閲覧させてもらった。お前、《星核ハンター》になったんだって? 名前は銀狼のまま。カンパニーの懸賞金額は今の所51億か。中々腕の立つハッカーになったらしいが、どうやら過大評価だったみたいだな。()()()()()()()()()()()()。まぁ、アイツの思考を読み切れる奴なんぞ居ないとは思うが』

 

 相変わらずまだまだガキだな。Ædoは音声越しに、思いっきり嘲笑った。

 Ædoにしてみれば、()()は決して初めての事ではない。

 辺境の惑星パンクロード。そこでは数多くの腕利きのハッカーが輩出されており、この銀狼もまた、その例に漏れず、パンクロード出身のハッカーであり、Ædoもパンクロードの人間であった。

 とは言っても、Ædoの方は正確に言えばパンクロード出身のハッカーという訳でもなく、『二相楽園』という星からパンクロードに移住した、野良で働くデバッカー(修正者)であったのだが。

 

「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『はっ、唸り声のつもりか? それじゃあ(ウルフ)ってよりは(ドッグ)だな。蜘蛛(カフカ)(エリオ)(銀狼)(サム)、あとは武器()か。星核ハンターは面白集団か何かなのか? まぁ、良い。これに懲りたらチートなんかに頼るんじゃなく、いい加減に自分の腕を磨くんだな、ド素人(クソガキ)。今度は真っ向勝負で挑め』

 

 吐き捨てる様にそう言い残して、Ædoは銀狼をルームから蹴り出した。

 暫く訪れたのは静寂だった。それまでの絶叫と唸り声が嘘であったかの様な沈黙が、数十秒くらい続いた後に、

 

「――――――――――――またまけたァァァァァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 再び、悔し涙の嵐が空間を覆い尽くしたのである。

 

 

 

 

「ったく、いつまで経っても成長しねぇな…あのクソガキは。前より多少マシになってるかと思えば、チート使いまくってる所為で全然上達しやがらねぇのが何故分からん」

 

 場所は移り変わる。

 自室とゲーム内のルームから退室し、豪華で広々とした空間に出たÆdoは、短い螺旋状の階段を降りてソファへと腰を下ろしながら大きく愚痴る。

 此処は―――星穹列車のパーティ車両。元ゲーム兼デバッカーにして、現『開拓者』の一員であるÆdoは、荒い言葉ながらもかつてのゲーマーの姿に期待を見出していた。

 決してセンスが無い訳ではない。焦ると途端にプレイが下手になるのは難点だが、それ以外では上手く伸びる所が多いのが、Ædoから見た銀狼という少女の才能であった。

 それがなんだ、あの為体(ていたらく)は。チート頼りの所為で、ゲームの腕前が一切向上していないではないか!

 

「あー腹が立つ……やっぱもう一度泣かすか」

「あまり子供をイジメるのは、関心しないわね」

「イジメ? 違うな、これは教育だ。躾と言ってもいい。何度言っても分からない駄犬には暴力を振るう他ないんだよ。それがゲームなら尚のこと」

 

 言外に大人気ないわよ、と指摘した赤髪の女性―――姫子に対して、お前が分かってないんだとÆdoは鼻で笑う。

 

「いいか? オンライン状態におけるゲームっていうのは絶対的なルールとバランスの上で成り立つ娯楽だ。自由は法の下に成立してこそ自由であり、無法の自由はただの迷惑だ。つまりチートなんて使うもんじゃないんだよ。俺はそれを何度もアイツに言った、にも関わらずあの有様だ。ふざけやがって」

「あんたがそこまで入れ込むなんて、珍しいわね。もしかしてパンクロードで言ってたあの子?」

 

 そういえば、そんな話をしていた時があったわねと、姫子は思い出す。

 何を隠そう、姫子が星穹列車を修理し、そこから紆余曲折あってヴェルトという仲間と出会いながら、真っ先に向かったのが、このÆdoが居るパンクロードである。

 早い話、姫子とÆdoはかつての学友という間柄だったのだ。親友と言うには些か関係値が足りなくはあったが、他の男達に比べればかなり親しいくらいには友人だった。

 Ædoは姫子から見ても非常に優秀であり、『開拓』の旅には彼の力がきっと役に立つと言ってはばからず、半ば強制的に彼を迎えたのだ。

 だからこそ、姫子は彼が珍しく一人の子供に入れ込んでいる話を忘れていなかった。基本的に子供嫌いな彼が、年端もいかない子供にそこまで入れ込むなど、二相楽園の頃なら考えられもしない話だったから。

 

「あぁ。アイツは筋こそ良いのに、幼少期の経験とアッハとの邂逅が狡猾(ズル)に導く。その癖して詰めが甘いんだ。これじゃあ典型的なチーターと何ら変わらん」

「……チートなんて使うものじゃないって言ってたわよね? あんたのその言い方だと、その子が普通のチーターなのが気に食わないって聞こえるけど」

「二相楽園の頃から言ってるだろ、姫子。俺のモットーは『やるなら徹底的にやれ』だ。それは俺が暫く面倒見てやったあのガキも例外じゃない、嫌と言って泣くまで叩き込んだ。それがアレだ。無論チートを使うのも気に食わんが、使ってるなら使ってるで極めろってんだよ」

「あんたに目を付けられた子が不憫で仕方ないわ……」

 Ædoという人間を客観的に見れば、きっと多くの人間が『気難しい』と言うだろう。

 大抵の物事に対して面倒という二文字が真っ先に浮かんで参加したがらず、しかしいざ参加すれば完璧にこなすまで決して離れない完璧主義的な思考も持っている。

 例えそれが好悪に囚われるものであろうと、一度でも手を加えたなら余計なまでに入れ込む。そういう気難しさを持ちながら、人命を最優先にする良心が存在する、矛盾した人間―――それがÆdoである。

 そんな奴に目を付けられたのだ、きっとその子は地の果てに居ようが多分なんかしら関わられるだろう。こうなったら何をしようが無駄だ。

 どれだけ嫌がろうが憎もうが、そんな事知ったことかよと言わんばかりにガンガン突き進んでくる。もうそういう事象だとでも思った方が早いとまで言えるだろう。

 

「人を星神(アイオーン)みたいに言うな。俺の事を『壊滅(ナヌーク)』か何かかと思ってるのか?」

「まぁ、あながち間違いではないでしょうけど……あんたが()()()()()()のは『愉悦(アッハ)』でしょ?」

「望んじゃいないがな」

 

 この宇宙には、『星神(アイオーン)』と呼ばれる存在が様々な形で顕現している。

 星神は『運命』を司る超常的存在を指し、文字通りの意味であらゆる事象に必ずと言って良い程に直接的に関わりがある。

 例えば『壊滅』の運命を司る星神であるナヌークは、反物質レギオンと呼ばれている異形の兵と絶滅大君と呼ばれる尖兵を従え、この宇宙の全てを壊滅せんとしている。

 例えば『巡狩』の運命を司る星神である嵐は、『豊穣』の運命を司る星神である薬師を宿敵とし、狩る為に飛び回っている。

 例えば『虚無』の運命を司る星神であるIXは、ただ宇宙を漂っているだけなのに、その虚無の影に足を踏み入れてしまえば即座に自滅の道を歩まざるを得なくなる。

 この様に、あらゆる星神は何らかの形でこの宇宙に影響を及ぼしている。そんな星神の一柱―――『愉悦』の運命を司る星神であるアッハと、Ædoは直接的な対面を果たした。

 『一瞥』ではなく―――『対面』である。

 

「二相楽園に居る時点で、あの快楽至上主義者の目に留まる可能性は十分にあった。が、まさか()()()()するとは俺だって思わなかったんだよ。だがまぁ、アイツならやりそうな事ではあるなと納得はした。この宇宙で最も会いやすい星神は誰かと言われたら、間違いなく『愉悦(アッハ)』だ。時と場合によっては、自らの神権を一時的にだが明け渡す様な奴だからな」

「驚きなのは、それで『使令』になってない事よね」

「誰が成るか、あんなくだらなくて面倒な存在。それに、間接的な対面ならあのガキだって済ませてる。完膚なきまでに叩きのめされたらしいがな」

 

 思えば、少女(銀狼)が変わったのはアレからだ。銀狼が言うには、神様とゲームをして負けたとの事だったが、きっとそれだけではないのだろう。

 何を唆されたのか、或いは可能性(みらい)を示唆されたのか。

 あの星神は、『開拓(アキヴィリ)』に負けず劣らずの人間臭さがある奴だったとÆdoは記憶している。それが本性かどうかは考えるだけ無駄というものだが、少なくとも何かしらアクションを取ったのは間違いないだろう。

 

「楽しい事は徹底して楽しくすべきだ。行き過ぎようが愉悦は愉悦だろうってのはそうだろうな、俺は絶対に認めんが。個人の快楽娯楽極楽こそが至上なんざクソ過ぎるからな。楽しみってのは、共有して初めて確かな形になる」

「あんたが気難しい奴じゃなければ、頷いてたんだけどね」

「ほっとけ」

 

 まぁ、もうそれについては良いとして、だ。Ædoは話題を切り上げて、続ける。

 

「次はヘルタの所だろ? いつ行くんだ」

「今、パムに燃料とかを確認してもらってる所よ。多分もうすぐだと思うわ」

「……聞いといてなんだが行きたくねぇな」

「あら、ヘルタに興味を持たれているのに?」

「それもあるが……面倒事に巻き込まれそうな予感がするんだよ。それもとびっきりの」

「『星核』とか?」

「銀河で最も縁起の悪いものを出してくんな。フラグになったらどうすんだよ」

 

 それから数システム時間後―――星穹列車の到着地点である宇宙ステーション「ヘルタ」は、反物質レギオンに襲撃され。

 そして―――星核ハンター達が、『開拓者』を置き去りにし、列車に拾われるという事態へと発展する。




・Ædo(鬼畜)
本作の主人公であり星穹列車の一員。運命は『愉悦』、属性は物理。『愉悦』の星神アッハと直接対面し、その権能の一部を手渡された過去を持つ。
二相楽園で生まれてからパンクロードに移住したという経歴があり、パンクロードに住んでいた頃に幼い銀狼と出会い、彼女に一般常識とゲームの様々な知識を与えた。

・銀狼(被害者)
宇宙で悪名高い星核ハンターの一人であり天才ハッカー。たまたまゲームに潜っていたら、幼い頃にあれこれ教えて何も言わずに居なくなった恩人と同じ名前のプレイヤーが居たのでボコボコにしてやろうと思ったらフルボッコにされ、その上でアカウントとセーブデータが丸ごと初期化されて号泣しちゃった。
あの後、カフカママに慰められて何とか落ち着いたが、絶対にあのクソオジをボコボコにすると決意する。
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