銀河の歴史がまた1ページ?描かれたくない男の歴史 作:カズkaz
今、同盟軍が攻め取ろうとしている(そして原作通りなら失敗する)イゼルローン要塞の最大の武器は、なんといっても出力9億2400万メガワットに達する要塞砲『トゥール・ハンマー』だろう。
同盟軍は過去、幾度もこの巨砲に艦隊を打ち破られ、屍山血河を築くことになった。
帝国が誇る『イゼルローン回廊は叛徒の屍で舗装されたり』というのは誇張であっても決して誤りではないのだ。
だが、その大きすぎる犠牲の代わりとして、同盟側もほぼ正確な射程距離や出力を導き出すに至っている。出力予測は9億3000万メガワット前後、となっているから射程についてもほぼ正確なのだろう。
「けれども、いくら正確と分かっていてもその射程ギリギリを行ったり来たりしつつ、帝国軍艦隊とも交戦するってのは精神がごりごり削られるんだよな。もし撃たれたらすぐに下がれば、というが。攻撃されてる時なら身動きできない可能性だってあるんだぞ?」
オレは巡航艦ミカサの艦橋でそう独り言る。そう、いまミカサⅫ号所属の第8艦隊を含む同盟軍主力はまさにそのトゥール・ハンマーの射程限界ギリギリを出たり入ったりしつつ、帝国軍側を挑発している。この第6次イゼルローン要塞攻防戦においてホーランド少将が考案した『D線上のワルツ』作戦だ。『D線』などと洒落た言い回しをしているが、その実態は『DeadLine』死の線上などとふざけた意味だ。しかもその考案者は抜け抜けと要塞に直接攻撃を仕掛ける部隊を指揮する、という名目でこの『D線上のワルツ』作戦には参加していない。人の命をベッドして成果だけを頂こうとするなどふざけている。
「航海長、もう少し下がろう。帝国側に引き釣られて前に出すぎている。僚艦にも連絡を!」
「アイアイサー。しかし艦長、これいつまで続くんです?精神が持ちませんよ。」
下段艦橋でそう応えたのは航海長のシュテファン大尉。進みすぎれば撃ち沈められるこの作戦で、最も精神を削られるのは他ならぬ航海課要員、中でもその責任者たる航海長の彼だろう。
「すまない、航海長。だが、作戦の本命は要塞へのミサイル攻撃だ。それまではこの作戦は継続しないといけない。もう少しで我々第8艦隊は1度後方へ下がる予定だから、それまで踏ん張ってくれ。」
「アイサー!しかし総司令部もずいぶん無茶な作戦を立てたものですね!現場の将兵をなんだと思っているのやら。」
「そう言うな、航海長。なんとかしてあの要塞を無効化しなくてはならないのは事実なんだ。」
そう答えつつも、オレも内心では航海長に賛成だ。こんな無茶苦茶な作戦を立てても上手く行くわけがない。それに今回は帝国側の主人公ラインハルトが分艦隊を率いて出撃している筈。ホーランド少将が率いるミサイル艦部隊もその艦隊にやられたのだから。総司令部(に在籍していることが判明している主人公の)のヤン・ウェンリーに上申をすれば良いだろうか?だが、上申なんてするまでもなくヤン大佐はラインハルトの危険性に気付いていたしなぁ。
巡航艦ミカサXII号はその後、6時間を前線で戦い続けると戦隊の僚艦と共にD線上から後退し、補給を受けることになった。相変わらず同盟がライン上を行きつ戻りつ帝国を挑発し、帝国側は射程内へ引き込もうと仕掛ける、を繰り返している。その中で少ないとはいえ同盟・帝国の双方が被害を出しながら。
「やはりダメだな。司令部に上申しよう。埒が明かないと。それにホーランド少将のミサイル艦部隊だが、護衛を付けなくては一撃を喰らった時に壊滅してしまいかねない。それも合わせて伝えておくか。」
中型補給艦からの補給を受けつつも、脳内ではどうすれば同盟の被害を抑えられるかを考える。やはりなんとしてもホーランド少将の独走を抑えなくては話にならないかなぁ。
(可能性があるのはヤン参謀に意見具申を行ってみることか?だが、戦隊の最先任艦とはいえ、一介の巡航艦艦長からの具申では効果があるかどうかがなぁ。)
悩んだものの、被害が出る前になんとか出来るならそれに越したことはない。と言うことで結局意見具申を行うことにした。
ヤン参謀が見てくれれば有り難いのだが、如何せん原作での働きぶりを考えれば見てくれなさそうだよなぁ、とも思う。
そう思いながら具申してから9時間、補給を終え、再びD線上に出撃しようか、と言う時に総司令部からの通信が入ってきた。艦長席のモニターで通信を受けることになったオレは画面を見て思わず固まってしまう。
「総司令部の参謀、ヤン大佐です。トウゴウ少佐ですね?意見具申を拝見しました。なかなかに興味深い作戦案ですね。」
「はっ、はい!ワルツ作戦は確かに効果はありますが如何せん、消耗が激しくこのままではずるずると被害を出すことになります。実際、一巡しただけの我々の部隊もかなり消耗し、少なくない僚艦を撃沈されてしまいましたので。なんとか出来ないかと意見具申をさせていただきました。」
あのヤンと話している、と言うことに緊張やら感激やらしてしまうがこの声、石黒版なのかぁ。富山さんの声だ。オレはこちらの方が好みだったから尚更嬉しい。(ちなみに、オレの指揮するミカサXIIも石黒版なシンプルな見た目準拠だ。型式で言うと986年式軽巡航艦Mk.IVというらしい。)
「作戦案を拝見すると帝国軍との鍔迫り合いはそのままに、徐々に無人艦の比率を上げること、少ないコントロール艦は後方の安全圏に近いところに配置しておきトゥール・ハンマーが発射されても可能な限り避難出来るようにすること、この2点はよく分かります。問題は次です。ホーランド少将の分艦隊への護衛についてです。」
おそらくオレが纏めた意見具申を見ながら話しているのだろう。
「作戦会議にてご存知の通り、ホーランド分艦隊は隠密行動で要塞至近まで接近します。そのため、護衛をつけようにもさほどその数を増やすことは出来ません。多少の護衛ではつけても意味がないのではありませんか?」
落ち着いた声で問い掛けてくるヤン大佐だが、その眼差しはどこかこの対話を面白がっているようにも見える。おそらく自分なりに既に答えを導き出していて、その上でこちらがその意図通りの考えを持っているか確かめようとしているのだろう。
「はっ、確かに少数の護衛では意味は少ないかもしれません。しかし、護衛が有ると無いとでは将兵の士気が大きく変わります。また総司令部から護衛を出せば、ホーランド少将へ掣肘を加える事も出来ると考えます。更に言えば、護衛となる部隊をいくつかに分散し、無人艦隊の後方に忍ばせておくことも可能かと。」
「なるほど、ではトウゴウ少佐はホーランド少将が独断専行する可能性もあるとお考えなのですね。あぁ、いやこれは言い方が悪いな。ホーランド少将が戦果を求めすぎるきらいがあるのは周知の事ですね。」
小さく頷きつつそう話すヤン大佐はおそらく、オレなんかよりはるかに効率的な護衛(という名の枷)配置の方法も考えているだろう。オレは上層部批判をしたと受け取られて叱責されることも覚悟していたからヤン・ウェンリーにそう言ってもらえたことは非常にありがたい。
「はい、いいえ。ホーランド少将は優れた戦略的なお考えをお持ちだとは思います。ただ、発案されたD線上のワルツを踊らされる側からすればいささか考えを改める機会もありますので。」
「現場のお考えを聞けたことは私にとっても幸いです。意見具申は確かに受け取りました。私としても同じ考えを持っていましたので、総司令部でも検討をしてみましょう。では少佐、補給中に失礼しました。」
さっと軽く敬礼をするとヤンの映っていたスクリーンは待機画面に変わる。さて、総司令部の中で一番話が分かるであろう御仁に意見具申を見てもらえたことはありがたいが、一介の巡航艦戦隊の先任艦長に出来ることなどこの程度だ。後は原作主人公のヤン・ウェンリーの力量にお任せするしかないだろう。
「っと、その前にまずはオレたち自身の命を守ることが最優先か。」
オットー副長に補給状況の連絡を取るためにあわてて艦内通信を始めながら、意見具申したことは急速にオレの脳内の隅に追いやられていった。
宇宙歴794年12月10日、同盟軍は結局イゼルローン要塞の攻略に失敗し、回廊からの撤退を始めた。戦いの大まかな流れはオレが知る原作と同じだったが、いくつか記憶と違うところもあった。
まずは同盟の秘策だったホーランド少将のミサイル艦による攻撃。だが原作と違って直接の護衛艦を500隻、またD線上のワルツ作戦の各部隊に紛れさせるようにして分散配置させていた艦艇が1000隻のあわせて1500隻が護衛として着くことになった。ホーランド少将はかなり抵抗したらしいが、最終的にはロボス元帥の鶴の一声で決まったらしい。お目付け役としての意味もあったらしく護衛部隊の司令は同格の少将だったとか。要塞へミサイルを発射し始めた時から護衛艦艇はホーランド部隊を囲むようにして守っていたらしく、ラインハルトの分艦隊が攻撃してきた時に直ぐ様間に割って入ってミサイル艦の被害を食い止めたようだ。それでも数に負け、また護衛をせねばならないことでジワジワと数を減らされたようだが、無人艦艇の突撃によってなんとかミサイル艦共々退避することに成功したらしい。原作よりも少し被害は押さえられたようだ。だが、どうもホーランド少将の座乗艦が被弾したとかでホーランド少将自身が怪我を負ったらしい。護衛が邪魔だから、とかなり無理をして要塞に肉薄させていたためにラインハルト分艦隊からの攻撃時に被弾してしまったのだとか。
(内心、その時にホーランド少将が戦死していたら第三次ティアマト会戦での第11艦隊の損害は無くなるんだよな、と考えてしまったけれどな。怪我が悪化して退役とかしてくれれば良いのに。)
次にミサイル艦攻撃が失敗した後の同盟側の対応だ。原作よりも無人艦(当初予定になかった損傷した艦も無人艦にしていた)が多かったためにミサイル艦と連動させた無人艦の突撃攻撃もより大規模化していたことで、帝国の駐留艦隊はその対応に精一杯となり同盟艦隊は比較的余裕をもって要塞前面より退避することが出来た。トゥール・ハンマーの発射口にも無理を承知で数十隻の無人艦を突っ込ませたというから、もしかすると要塞砲の発射機構にも損傷を与えたのかもしれない。結局、同盟が撤退するなかでトゥール・ハンマーによる被害は出なかった。ここがこれまでの5次にわたる攻略戦と第6次との大きな違いとなった。原作ではラインハルト分艦隊が同盟主力艦隊に攻撃をしてきたことで混戦となったのだが、ラインハルト分艦隊は護衛艦との戦闘のために主力艦隊までは攻撃せず、それが回り回って帝国艦隊と同盟艦隊とが遠距離からの撃ち合いのみとなったことで被害が抑えられたのだ。(ちなみに総司令部から漏れ聞いた話によるとヤン大佐は、もし主力が攻撃された場合に混戦となってトゥール・ハンマーを封じる作戦も献策していたらしい。そこは原作通りだったのか。)
第3にラインハルト分艦隊への対応についてだ。実は原作と同じく、総司令部では今回の攻略戦の最中に様々な戦術を試す分艦隊規模の敵がいることに気付いていたらしい。そして原作と同じくヤン大佐が策を立ててその敵を追い詰めたのだが、やはりロボス元帥の一声で包囲する部隊をケチッた為に逃げられてしまったらしい。
ところがその敵がよりにもよって同盟の秘策だったミサイル艦攻撃を頓挫させてしまったことが護衛部隊からの報告を確認するなかで判明したのだ。
当然、総司令部では逃がした敵が要塞攻略を邪魔した事が分かると大荒れだったらしく、同盟側のデータにはラインハルト分艦隊を要注意部隊として登録することになったらしい。
ともかく、全体としては無人艦となった老朽艦や損傷艦こそ失ったものの、原作よりも戦死者を大きく減らした状態で同盟側は退くことが出来た。我々ミカサXIIや僚艦も無事にラインダンスを生き延びて撤退できている。戦死者の数がおそらく20万程と聞くから、原作の三分の一以下になっているのだ。ロボス元帥が無理に攻め続けなくて良かったと言えるだろう。(どうもお気に入りのホーランド提督が重傷だったことも原因の1つらしい)
「艦長、なんとか生き残ることが出来ましたね。」
「そうだな、副長。しかしこうも度々失敗すると、こんな無茶な攻め方をしたところであの要塞を落とすのは無理なんじゃないか、と思ってしまうな。」
「確かに。帝国のやつら言うに事欠いて『イゼルローン回廊は我々の血で赤く舗装されたり』なんて嘯いてやがるそうですよ。全く貴族のやつら悪趣味なことだ。」
「だが、まずい戦いをしてしまっているのは同盟側の責任でもあるからな。なんとかしなければならないのだろうが。」
「確かに、そうですよね。シトレ元帥が指揮をなさればまた違ったのでしょうが・・・」
そう話す副長、というより第8艦隊に所属する将兵はロボス元帥よりもシトレ元帥派が多い。ついこの間まで艦隊司令をシトレ提督本人が勤めていたし今回の第6次イゼルローン攻防戦で大きな被害を出したのはD線上のワルツ作戦をさせられた我々第8艦隊だからだ。
(とはいえ、シトレ元帥が指揮した先の第5次でも失敗していることには変わり無いものなぁ。やはりヤン提督のような搦め手からでないといけないのだろうなぁ。)
「ともかく、ここまで生き残れたんだ。バーラト星系まで無事に帰るぞ、副長!」
「了解です。」
こうして我々は帰還の途につくのだった。
更新が大変遅くなってしまいましたが、第6次イゼルローン攻防戦の後半をお届けしました。
念のためにお伝えしておくのですが、作者は原作において猛烈な同盟ファンだったため、二次制作の本作においても同盟びいきなところが多々あるかと思います。判官贔屓だと思ってお許しください。
(ただ、帝国側のキャラクター達も好きですので悪しからず。)
これからも、旧型サラミスの更新を優先して行う予定のため、こちらの話は更新が非常に遅くなることが予想されますが、気長にお待ちください。