OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
「モブ、さっき世界ランカーとの十連戦で強くなったって言ってた。
でも、それってあくまでプレイングの話で。
モブのデッキが9点を狙えるクオリティっていうのも、聞いた理論で分かった。
でもそのデッキが組めたのは、パワーレベリング前、大会前からってことになる」
「それも、そうだな。構築の理論は前から持ってたよ」
「でも、理論があるだけでも足りないはず…………
コピーカードで
しかもテーマをまたいだ、いくつものコンボの複合…………
一枚の使い勝手を覚えるのと、複数のカードが噛み合うか確かめるのは、別枠」
「あー…………そこに引っかかったのか」
「うん。わかんない」
この世界、優勝者のデッキレシピ公開とかの文化もないもんなぁ。
しかも原則がテーマ単体の構築ばっかなら。
《エニグマ》みたいな複合テーマのレシピとか、組み方の見当もつかないか。
「最初から正解のデッキのレシピがあるんなら、わかる。
必要なカードを買い集めればいいんだから。
でもモブはそうじゃない。
自分で全部組んでるってことは、そこまで試行錯誤してるはずだから」
「まあ、ね」
デッキ構築というのは、ただ使いたいカードを集めれば完成するものじゃない。
手の届くカードプールから、必要と不必要を選り分け、優先順位をつけ。
マナカーブを調整し、仮組みして。
相手の応手を想定し、勝利へ繋がるデッキへ磨き仕上げる。
理論上は使える組み合わせでも、実際に回してみれば上手くいかないことだってある。
そうして試行錯誤を繰り返した末に、ようやく今のデッキがあるわけで。
「だったら、完成したデッキの裏には、結局使わなかったカードだって沢山ある。
でも、モブってそんなに沢山カード資産ないでしょ?
コピーカードじゃ、別のデッキに組み込んだときの使い勝手まで自由に試せるわけじゃないし。
でも出来てるってことは…………コピーで使い勝手を覚えるみたいに、構築にも使える理論とかテクニックとかもある?」
「あー、そういう発想になるのか」
確かに。サレンにしたら不思議だよな。
デッキは当然、採用したカードだけで組み上げられているが。
『候補にはなったが不採用』止まりのカードも、その影には何倍もいるわけで。
ピンポイントで買い集めるんじゃなくて、全部集めてデッキを洗練させようとすれば――――
(…………財布が先にデッキ切れするな)
この世界、カードが洒落にならないくらい高いし。
仮にできても相当な出費になるだろう。
現実的とは言い難いな。
ただ…………試すだけなら、
「でもそれって、持っていないカードを一人回しとかに使えれば解決するだろ?」
「そうだけど…………持っていないカードを一人回し? どうやるの? 借りたの?
もしかしたら実物のカード無しで、頭の中だけでデッキの構築とかできるの?」
「借りるまでもないよ。
――――プロキシでも使って回してみればいいじゃん」
ざわっ。
何気なく口にした瞬間。
周囲の空気が、僅かに波打った。
「…………?」
なんだ?
僕、何か変なこと言った?
「…………モブ、どこまで常識外れ…………いや、この場合は常識知らず?」
「どういう意味だよ…………」
サレンは呆れを隠そうともせず、何とも言えない目で僕を見つめていた。
…………おいサレン。
なんだその、『また訳のわからないことを言い出したぞ、こいつ』みたいな目は。
「プロキシで回すと共鳴できないし、カードがすねて事故るのは常識。
バカにしてる? それともモブがバカ?」
「ひどい言い草だ!?
…………いや、手持ちにないカードの組み合わせを確かめたい。
だから代用のカードを使う。それだけの話だろ?」
「その代用のカードって発想がおかしい。
カードに代用なんてない。そんな扱い、許されないのが普通」
「君らのそのプロキシ嫌いは、本当に何なんだ…………」
カードゲームの調整で
それだけの話なのだが。
どうやらサレンには受け入れがたいらしい。
(なまじカードが高価なんだから、尚更プロキシを使えばいいと思うんだけどな。
何をそんなに不思議がって…………)
…………
(……………………ああ。
不意に、思い当たった。
さっきから感じている、この噛み合わなさ。
何も、初めてのことじゃない。
むしろ…………今日だけでも何度目だろうか。
(…………僕、また前の世界の常識で考えてたな)
さっき、ノアさんとの会話でズレた発言してしまったのを思い出したばかりだっていうのに。
さてはプロキシも似たような話だな、これ。
考えてみれば。
共鳴使いに共鳴できない練習方法を勧めたところで、素直に受け入れられるわけもないか。
(…………前の世界の感覚に、また引っ張られてるなぁ)
腕を取り戻す前より、ずっと強く。
…………まあ、腕が戻ったのは喜ばしいんだけど。
そして、引っ張られてることに気づけただけでも悪くないが。
(これ以上、踏み込むのは得策じゃないな)
特にノアさんを筆頭に、箱舟教会の人もいるし。
あんまりセンシティブな話題は続けたくない。
気づけたからには早めに畳んで、別の話題に切り替えよう。
(んー…………どうするかな。何話そう? なんかいいのあったかな)
「…………おい。また妙なことを言い出したぞあいつ」
「
「そう聞こえたな。……いや、本当にどこの出身なんだ、あいつは」
少し離れた場所で、茂札フツオの話に聞き耳を立てていた世界ランカーたち。
彼らの間に、なんとも言えない空気が漂っていた。
プロキシ。
本物のカードを模した代用品を用いる行為。
共鳴を重んじるこの世界では、ある種の禁忌に近い。
そもそも代用品では共鳴できず。プレイングの参考になどならない。
カードに対する敬意を欠くものとして忌避する者も多い。
にもかかわらず、あの少年はそれを当然のように口にした。
それも――――よりによって教会関係者の目の前で、だ。
「地雷原を爆走する暴挙だって自覚あるのか、あいつ……?」
「見る限り全くなさそうなのが、余計に恐ろしいのデスが」
実際、その発言を聞いた教会所属の双子も、揃って反応していた。
「我らの前で、プロキシを用いるなどと堂々と口にするとは…………!
一体どれだけ不埒者なのでしょうか!」
「我らの前で、プロキシを用いるなどと堂々と口にするとは…………
一体どれだけの秘境の出身なのでしょうか……?」
教会の教義に真っ向から反するような行いを、教会関係者の前で平然と口にする。
それがまかり通る環境とは、どれほど不遜な組織なのか。
あるいは。
それが咎められるものとすら知らない環境とは。
どれほど外界から隔絶された場所なのか。
正体の手がかりは増えているのに、謎は深まるばかりだった。
その出身地も、所属していた組織も、依然として見当がつかない。
「…………結局、振り出しに戻った感じだな」
「巨大企業、国際機関、反社会勢力…………候補はあっても、決め手がありまセン」
「さっきは教会も候補に入るかと思ったんだけどねー」
第五位が直々に話しかけに行ったときは、ひょっとすると教会関係者なのではないか、という期待もあった。
あれほどの実力者を育成した組織。
その正体が世界最大級の宗教組織であるというなら、まだ納得できる部分はある。
しかし。
「…………あの会話じゃ、絶対違うっぽいよねぇ」
「ホント、《
愚痴るように漏れた呟き。
それに答えられる者は、誰もいなかった。
そんな折。
「ふあぁぁ………………」
間の抜けた欠伸が、彼らの会話に割り込んできた。
「…………んぁ? もう話、終わったかー?」
「お前、マジで今まで寝てたのか…………??」
男は目元を覆っていたアイマスクを持ち上げ、眠そうに目を擦っている。
そんな同僚の姿に、信じられないものを見るような目が一斉に集まった。
これだけ熱心に議論を交わしているのをよそに、一人だけ呑気に眠りこけていた男。
この事態なら、流石にポーズだと思ってたが…………
「んー。で、あいつの正体とか分かったー?」
「「「…………」」」
「結論だけ教えてくれ。結論」
わかる。多分マジで寝てたんだこいつ。
「あのなぁ…………!!
ここまで議論に参加せずに寝っぱなしで、その口ぶりかよ…………!!」
「仕方ねーじゃん。眠かったんだから」
「つくづくブレまセンね、あなたは」
悠々と伸びをしているこの男は、そこそこ付き合いのある
「で? どうだったんだよ」
「……結論はまだ出てない。候補はいくつか挙がったが、どれも決め手に欠ける」
「なんだ、まだかー」
いかにも残念そうにため息をつく男。
その無責任極まりない態度に、思わずこめかみに青筋が浮かびかけたが。
…………ふと、冷静になった。
確かに、あの少年の正体は、できる限り早く見極めなければならない。
あれほどの実力者を育て上げた組織。
それも、もし同等の実力者を再現性をもって育成できるのだとしたら。
世界のパワーバランスさえ、ひっくり返しかねない。
だからこそ、自分たちはここまで熱心に議論を重ねてきたのだ。
だが。
「…………いや。むしろ。いったん止めにした方がいいのかもな」
「ん? 何をデス?」
「あいつの正体について、推測に推測を重ねるのを、だ」
その提案に、幾人かが顔を上げる。
「…………どーいうことぉ?」
「いやな。さっきまで、教会もアリかもって考えていただろ?
で、その直後の会話で可能性がほとんど消えた」
「…………そうデシタね」
「だったら、他の候補についても同じことが言えるんじゃないか?」
それほど重大な問題だからこそ、見当違いの結論を出すことの方が、よほど危険なのではないか。
これまで挙げてきた候補も、それなりに筋が通っている。
あれほどの実力を持つ者が無名でいる理由。
体系化された技術を身につけている理由。
その技術が世間に知られていない理由。
それらを説明できそうな組織として、巨大企業や国際機関、反社会勢力などを挙げてきた。
だが、それはあくまでも、今ある情報から導いた推測にすぎない。
つい先ほど、新たに浮上した教会という有力候補さえ、あっさりと崩れたばかりなのだから。
「確かに気にはなってるが…………
今の材料で当たりをつけても、正直、決めつけにしかならない気がするんだよ」
「…………いくら筋が通っていても、裏付けがないことには変わりありマセンね」
急いで真相を突き止める必要はある。
だが、急いで答えを出すことと、正しい答えに辿り着くことは、別の話だ。
「え? 何? 教会がアリかもってどういう?」
「眠りこけてた人はおくちチャック推奨ー。後で説明したげるからぁお静かにー」
話についてこれない寝ぼすけはスルーして。
他の面々は、その提案の意味するところを吟味する。
…………確かに、一理あった。
「それに、下手な推測で相手に余計な疑いをかけるのも、あまり気分のいい話じゃない」
そこで、教会所属の双子へと視線を向けた。
「お前らも、第五位が気にかけてる相手に邪推だの何だのして、後から気まずい思いしたくねぇだろ」
「それは…………事実ですが」
「それも…………本音ですが」
双子は、揃って口ごもった。
彼女たちとて、”導き手”である第五位が手を差し伸べようとした者に、無闇に攻撃的になりたいわけでもない。
「結局、決定的な情報が足りない。今はな。
そんな状態で無理に答えを出したところで、見当違いな結論に飛びつくのが関の山だ」
「だったら、これ以上あれこれ考えるより、決定打になる追加の情報を待った方がいい。…………という訳デスね」
「正直、無理にでも問い詰めたいところですが…………」
「正直、無理にでも聞き出したいところですが…………」
「でも結構おしゃべりな人みたいだしねー。
無理しなくても、そのうちポロっと出てくるかもぉ?」
「今はわかんねーって結論になりそうってことな。了解」
「…………今は、その方向で行きましょうカ」
「だな。無理に深読みするのはやめて、一旦――――」
(――――――…………)
少し離れた場所から聞こえてきたはずのその声が、妙にはっきりと耳を打った。
その発言に思わず視線を向けると。
「読みの…………テクニック?」
「そう。エキシビション最終戦で、僕がどうやってあの展開を読み切ったのか。
その時にも使ってた理論。興味あるだろ?
何より…………
聞いて損はない話だと思うけど、どう?」
「――――聞く!」
あの少年が、また何かを語り始めようとしているらしい。
よりにもよって、今まさに自分たちが考えるのをやめようとしていた、その『読み』について。
彼はもちろん、こちらの議論など知る由もない。
ない、筈なのだが。
「…………」
「…………」
「…………」
渦中の人物をしばらく静観しようと、ようやく意見がまとまったところに。
当の本人から
その事実に誰もが、何とも言えない雰囲気になる。
――――――そして、それ以上に。
エキシビション最終戦。
あの戦慄の展開を読み切った男が、今から一つの理論を語ろうとしている。
それも、ただのカードゲームの技術ではない。
カード以外にも応用が利くという、
(((…………)))
――――絶対に、聞き逃すわけにはいかない。
言葉を交わすまでもない。
その場にいた世界ランカーたちは、誰もが同じ結論に達していた。
「噛み合う歯車とは、互いに背く。
相反し、軋み、火花を散らし。
互いを削り、互いを研ぎ澄ませる。
されど、その歩みは決して違わず。
――――相反する二つの歯車は、同じ終局へと至るのだ」
――――〈終局へ至る歯車〉
次回、読みのテクニックのご開帳です。
実は読みとは、『ある分野』のノウハウと意外な共通点があるのです。
種明かしをどうかお楽しみに。
面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
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感想もまた、モチベーションや時には新しいアイディアの源になっています!
なお、基本的に次話を書き上げてから感想返信をしているので、返信が来たら次の投稿も近いかも…………?
決着まで見届けていただけた今、特に評価の方を入れてくださると大変励みになります!
P.S.
エピローグ最終話まで、今回を終えて残り数話となりました!
あとはもう、ずっと書きたかった山場ばかり。
思いがけず長くなったエピローグも、いよいよ終盤です。
…………どうか、今しばらくお付き合い下さい。