かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜 作:西谷慎一郎
「阿久津よ⋯本気か?」
およそ無意味と思える申し出の意図が分からず、余は阿久津に問うた。
「本気だ。俺はお前を倒す」
ふむ。この気迫⋯冗談ではない、か。
「既に剣道部は余の配下となった。今更争う意味がどこにある?」
「全員が納得してる訳じゃないだろ?」
道場内を見渡すと、明らかな敵意を持った部員がちらほら見受けられる。⋯まぁそうであろうな。元より征服とはそういうものよ。
「俺だって納得してねぇ。お前が悪なら、俺は立ち向かうぜ」
⋯やはり、こやつには何かがあるな。何だ?この感じは⋯
どうしたものかと思案しておると、真田が阿久津を止めに入る。
「阿久津⋯気持ちは分かるが、俺でも負けたんだ。まだ未熟なお前では歯が立たないだろう⋯」
「⋯分かってるっす、そんな事は。でも⋯退けないんすよ」
余に敵わぬと理解した上でというのか?益々分からん⋯
「⋯分かった。ならば気の済むまでやってこい」
「⋯押忍!」
結局真田も止められぬと悟ったか⋯その場は身を引いた。
⋯あるいは、戦えば分かるやもしれぬな。
「良かろう、その勝負受けよう」
余が了承すると、阿久津は頷いた。
「まだ続くのでござるか⋯?はぁ、それでは九条殿、今一度防具を」
「いや、要らぬ」
「は?」
蜂須賀が一際間の抜けた声を出した。
「このほうが身軽でよい、あれは動きづらくてな」
「待て。流石にそれは認められん⋯危険過ぎる」
余の言葉を聞いた真田が即刻抗議してくる、がーー
「それじゃ俺も防具は無しだ。フェアじゃねぇからな」
「おい!お前まで⋯!」
阿久津がそれなら自分もと言い出した。これには真田も慌てたようであるが⋯ここであの男が口を開く。
「構わねェ、やらせてやれ」
「先生、ですが」
「何言ったところでコイツら聞かねぇぜ?気にすんな、責任は俺がとってやらァ。」
ふっ⋯流石は鬼塚、豪気な男よ。
こうして余と阿久津は、防具無しの試合を行う事となった。
「本当にいいのでござるな?⋯では、二人共位置へ」
余と阿久津は竹刀を持ち、それぞれ所定の位置に着く。
「それでは始めるでござる⋯礼っ!!始めっ!!」
竹刀を構え、互いに隙を伺う。⋯すぐには攻めてこぬか。用心深い事よ。
「⋯」
張り詰めた空気の中、慎重に間合いを測る。
互いに牽制を繰り返し、竹刀の先が触れようかとしたその時ーー
「ダァァァァァッ!!」
阿久津が先に仕掛けた。
素早く踏み込み、余の脳天目掛け打ち込んでくる。
⋯悪くない太刀筋だ。だがーー
「甘いわ」
余は半歩下がり、紙一重でそれを躱す。
ふっ⋯がら空きであるぞ。
「⋯っ」
余はすかさず阿久津の脳天へと竹刀を振り下ろした。
「メンッ!!」
「ぐあっ!?」
その痛みに耐えかねてか、阿久津はその場に崩れる。
「め、メンありっ!一本でござるっ!」
「くぅっ⋯!」
「⋯まだ続けるか?」
「⋯っ当然、だっ!」
阿久津は痛みを堪えながら立ち上がり、試合は再開された。
互いに構える、が。阿久津は既に足元も覚束無い様子だった。恐らく軽い脳震盪でも起こしておるのだろう。
⋯これ以上は無意味、か。謎が掴めなかったのは残念であるが⋯
終わりにするとしよう。
余は強く踏み込み、一気に間合いを詰める。
「ぐっ⋯!」
阿久津が必死に防ごうとするが、もう遅い。
「ドウッ!」
「がはっ!?」
余は隙だらけの胴体へ向けて一撃を叩き込んだ。
再び阿久津はその場に崩れ落ちる。
「ドウありっ!一本でござるっ!勝者アレクシア・九条!」
無防備の腹部を打たれたのだ⋯暫くは立ち上がれまいよ。敗者にかける言葉など無く、余が踵を返した時ーー
「⋯待てよ」
「⋯なに?」
どういう事か、阿久津は立ち上がりおった。
「まだ⋯勝負は、終わってねぇ⋯」
「⋯其方、まだやるというのか」
⋯何故だ。勝てぬと分かってて、何が其方をそうさせる?
「阿久津殿!もう決着はついたでござる!それ以上は⋯」
「俺は⋯まだ立ってる⋯!負けちゃいねぇ⋯!」
「しかし試合はもう⋯!」
「よい」
止めようとする蜂須賀を、余は制す。
「良かろう、続行だ。ここからは試合ではない⋯意地の張り合いよ」
余がそう言うと、阿久津はニヤリと笑った。
「そう⋯来なくっちゃな⋯っ!」
余と阿久津の戦いは、まだまだ続く。
「コテッ!」
「ぐぅっ!?」
何度打たれてもーー
「メンッ!」
「がっ!?」
何度倒れてもーー
「ドウッ!」
「がはっ!?」
阿久津は、その度に立ち上がってきたーー
そうして、何度も打ちのめした時。余は阿久津に問いかけた。
「⋯何故だ」
「ぐっ⋯!はぁっ⋯はぁっ⋯!」
「何故其方は立ち上がる?既に身体はボロボロであろう⋯今倒れようとも誰も責めたりせぬぞ」
「⋯負けらんねぇ」
⋯なに?
「お前が不当にしようとする悪なら、俺は負けねぇ⋯」
何を⋯言っておるのだ?
「ヒーローは、絶対負けちゃいけねぇんだっ!!」
「ヒーロー⋯?」
阿久津はそう吠えると構えを変える⋯あれは、上段の構え⋯?
「必⋯殺⋯っ!」
阿久津が小さく言葉を発した時、かつてない気迫が奴から溢れ出す。馬鹿な、一体何処にそのような力がーー
「ウオォォォォォォォォォッ!!」
その瞬間、阿久津は驚異的な加速で余との間合いを詰める。
ーー速いっ!先程までとは比べ物にならぬ⋯!もしやこれは⋯
「夢幻⋯っ!」
⋯この一撃には、間違いない。魂が込められておる。そうか⋯今はっきりと分かったぞ。これはーー
“英雄”の、器。
しかし、余は負けんぞ。
「ーー斬りぃぃぃぃぃ!!」「ハァァァァァァァァァッ!!」
余と阿久津が交差し。
一拍の間の後⋯ドサリ、と倒れる音がした。
立っていたのは、余の方だった。
***
「⋯⋯はっ!?」
「む、気づいたか」
やれやれ⋯ようやく目覚めおったか。手間のかかる奴よ。
「ここは⋯痛っ!?」
「保健室よ。余にあれだけ打たれ続けたのだ、暫くその痛みは消えんぞ?」
「くぅ〜痛たた⋯お前、そうか⋯」
周囲を見渡し理解したのか、阿久津は言う。
「俺は⋯負けちまったんだな」
「うむ、見事な負けっぷりであったぞ」
「⋯」
なんだ、しょぼくれた顔をしおって。先程の気迫はどこへいったのだ。
「ヒーローは⋯負けちゃいけなかったのにな⋯」
「む?」
そう言い、阿久津は窓の外を見る。
「戦いの最中も言っておったが⋯ヒーローとはなんなのだ?」
「なんだよ、お前ヒーロー知らねぇのか?⋯ヒーローってのはな、弱い者を助け悪を倒す⋯正義の味方の事だ」
阿久津は言葉を続ける。
「俺、ヒーローに憧れててな。昔から正義の味方になりたかったんだ⋯って、なんでこんな事話してんだろな」
正義の味方⋯とな?それはまた、なんと言うか⋯
「随分と青臭い事言いよるな」
「いや、酷くね!?お前の大王発言も大概だからな!?」
「余は違うぞ?王であるが故に」
「違わねぇよ!?」
おお、随分元気になってきたではないか。ツッコミが冴えておるぞ。
「ったく⋯悪かったな、ガキみたいな事言っててよ⋯」
「ふむ、そう拗ねるでないわ。確かに正義だなんだのというのは、幼子が抱く絵空事のようであるが⋯」
余は言葉を続ける。
「其方はそれでいい。それがいいのだ」
「⋯なんだよそれ。馬鹿にしてんのかよ」
「いいや、馬鹿になどしておらぬ。余はな、其方に英雄の片鱗を見た」
「は⋯?英雄?」
余は立ち上がり⋯指先で阿久津の顎を持ち上げると、顔を近づける。
「阿久津⋯いや秋人よ。其方、余の英雄になれ」
秋人の瞳を真っ直ぐ見据え、余はそう告げた。
「⋯はぁぁぁぁぁ!?いや近ぇ!近ぇって!!」
秋人の奴は顔を真っ赤にし、慌てて余の手を振り払い後ずさった。
「なんだ、初心な奴よな」
「いやいやいや!急にそんな真似されたらそうなるわ!つーか、英雄?お前の英雄って、どういう事だよ?」
余は不敵に笑い答える。
「今はまだ分からずともよい。其方はまだ未熟故な。とりあえずは相棒とでも思っておけ」
「なんだよ、意味分かんねぇ⋯でもまぁ、相棒か⋯」
一拍置き。
「悪くねぇ、な」
そう答えた秋人の顔は、存外晴れやかであった。
「ところで、連れの二人はどうしたんだ?」
「ん、ああ。遅くなりそうなのでな、先に帰ってもらったわ」
夏美と心春には、後日埋め合わせをするとしよう。
「そっか、悪い事しちまったな」
「気にせずともよい、二人も理解しておるよ。余の優秀な臣下故な」
「⋯ははっ、そっか」
そういえば⋯もう一つ気になっていた事があったわ。
「秋人よ⋯夢幻斬りとは何だ?」
「げ、お前聞いてたのかよ⋯」
「耳は良い方なのでな」
秋人は照れくさそうにポリポリと頬をかくと、その正体を話し始めた。
「ガキの頃テレビで見てたヒーロー番組があってよ、夢幻超人バルバイザーってやつ。そいつの必殺技なんだ」
「ほう⋯?」
よく分からんが、英雄の叙事詩のようなものか?
「知ってるか?」
「知らん」
「だよな」
そう言って秋人は笑った。
「ふむ、そのバルバイザーというものは何なのだ?」
余がそう聞くと、秋人は少年のような眼をしながら語りだした。
「バルバイザーっていうのはな!夢を守る為に悪と戦う正義のヒーローなんだ!元々夢世界の住人でよ、それでーー」
こうして⋯短いようで長く感じた一日は、徐々に沈みゆく夕日と共に幕を下ろしたーー