かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第14話「余、英雄の片鱗を見る」

 

「阿久津よ⋯本気か?」

 

 およそ無意味と思える申し出の意図が分からず、余は阿久津に問うた。

 

「本気だ。俺はお前を倒す」

 

 ふむ。この気迫⋯冗談ではない、か。

 

「既に剣道部は余の配下となった。今更争う意味がどこにある?」

 

「全員が納得してる訳じゃないだろ?」

 

 道場内を見渡すと、明らかな敵意を持った部員がちらほら見受けられる。⋯まぁそうであろうな。元より征服とはそういうものよ。

 

「俺だって納得してねぇ。お前が悪なら、俺は立ち向かうぜ」

 

 ⋯やはり、こやつには何かがあるな。何だ?この感じは⋯

 

 どうしたものかと思案しておると、真田が阿久津を止めに入る。

  

「阿久津⋯気持ちは分かるが、俺でも負けたんだ。まだ未熟なお前では歯が立たないだろう⋯」

 

「⋯分かってるっす、そんな事は。でも⋯退けないんすよ」

 

 余に敵わぬと理解した上でというのか?益々分からん⋯

 

「⋯分かった。ならば気の済むまでやってこい」

 

「⋯押忍!」

 

 結局真田も止められぬと悟ったか⋯その場は身を引いた。

 

 ⋯あるいは、戦えば分かるやもしれぬな。

 

「良かろう、その勝負受けよう」

 

 余が了承すると、阿久津は頷いた。

「まだ続くのでござるか⋯?はぁ、それでは九条殿、今一度防具を」

 

「いや、要らぬ」

 

「は?」

 

 蜂須賀が一際間の抜けた声を出した。

 

「このほうが身軽でよい、あれは動きづらくてな」

 

「待て。流石にそれは認められん⋯危険過ぎる」

 

 余の言葉を聞いた真田が即刻抗議してくる、がーー

 

「それじゃ俺も防具は無しだ。フェアじゃねぇからな」

 

「おい!お前まで⋯!」

 

 阿久津がそれなら自分もと言い出した。これには真田も慌てたようであるが⋯ここであの男が口を開く。

 

「構わねェ、やらせてやれ」

 

「先生、ですが」

 

「何言ったところでコイツら聞かねぇぜ?気にすんな、責任は俺がとってやらァ。」

 

 ふっ⋯流石は鬼塚、豪気な男よ。

 

 こうして余と阿久津は、防具無しの試合を行う事となった。

 

 

「本当にいいのでござるな?⋯では、二人共位置へ」

 

 余と阿久津は竹刀を持ち、それぞれ所定の位置に着く。

 

「それでは始めるでござる⋯礼っ!!始めっ!!」

 

 竹刀を構え、互いに隙を伺う。⋯すぐには攻めてこぬか。用心深い事よ。

 

「⋯」

 

 張り詰めた空気の中、慎重に間合いを測る。

 

 互いに牽制を繰り返し、竹刀の先が触れようかとしたその時ーー

 

「ダァァァァァッ!!」

 

 阿久津が先に仕掛けた。

 

 素早く踏み込み、余の脳天目掛け打ち込んでくる。

 

 ⋯悪くない太刀筋だ。だがーー

 

「甘いわ」

 

 余は半歩下がり、紙一重でそれを躱す。

 

 ふっ⋯がら空きであるぞ。

 

「⋯っ」

 

 余はすかさず阿久津の脳天へと竹刀を振り下ろした。

 

「メンッ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 その痛みに耐えかねてか、阿久津はその場に崩れる。

 

「め、メンありっ!一本でござるっ!」

 

「くぅっ⋯!」

 

「⋯まだ続けるか?」

 

「⋯っ当然、だっ!」

 

 阿久津は痛みを堪えながら立ち上がり、試合は再開された。

 

 互いに構える、が。阿久津は既に足元も覚束無い様子だった。恐らく軽い脳震盪でも起こしておるのだろう。

 

 ⋯これ以上は無意味、か。謎が掴めなかったのは残念であるが⋯

 

 終わりにするとしよう。

 

 余は強く踏み込み、一気に間合いを詰める。

 

「ぐっ⋯!」

 

 阿久津が必死に防ごうとするが、もう遅い。

 

「ドウッ!」

 

「がはっ!?」

 

 余は隙だらけの胴体へ向けて一撃を叩き込んだ。

 

 再び阿久津はその場に崩れ落ちる。

 

「ドウありっ!一本でござるっ!勝者アレクシア・九条!」

 

 無防備の腹部を打たれたのだ⋯暫くは立ち上がれまいよ。敗者にかける言葉など無く、余が踵を返した時ーー

 

「⋯待てよ」

 

「⋯なに?」

 

 どういう事か、阿久津は立ち上がりおった。

 

「まだ⋯勝負は、終わってねぇ⋯」

 

「⋯其方、まだやるというのか」

 

 ⋯何故だ。勝てぬと分かってて、何が其方をそうさせる?

 

「阿久津殿!もう決着はついたでござる!それ以上は⋯」

 

「俺は⋯まだ立ってる⋯!負けちゃいねぇ⋯!」

 

「しかし試合はもう⋯!」

 

「よい」

 

 止めようとする蜂須賀を、余は制す。

 

「良かろう、続行だ。ここからは試合ではない⋯意地の張り合いよ」

 

 余がそう言うと、阿久津はニヤリと笑った。

 

「そう⋯来なくっちゃな⋯っ!」

 

 余と阿久津の戦いは、まだまだ続く。

 

 

「コテッ!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 何度打たれてもーー

 

「メンッ!」

 

「がっ!?」

 

何度倒れてもーー

 

「ドウッ!」

 

「がはっ!?」

 

 阿久津は、その度に立ち上がってきたーー

 

 そうして、何度も打ちのめした時。余は阿久津に問いかけた。

 

「⋯何故だ」

 

「ぐっ⋯!はぁっ⋯はぁっ⋯!」

 

「何故其方は立ち上がる?既に身体はボロボロであろう⋯今倒れようとも誰も責めたりせぬぞ」

 

「⋯負けらんねぇ」

 

 ⋯なに?

 

「お前が不当にしようとする悪なら、俺は負けねぇ⋯」

 

 何を⋯言っておるのだ?

 

「ヒーローは、絶対負けちゃいけねぇんだっ!!」

 

「ヒーロー⋯?」

 

 阿久津はそう吠えると構えを変える⋯あれは、上段の構え⋯?

 

「必⋯殺⋯っ!」

 

 阿久津が小さく言葉を発した時、かつてない気迫が奴から溢れ出す。馬鹿な、一体何処にそのような力がーー

 

「ウオォォォォォォォォォッ!!」

 

 その瞬間、阿久津は驚異的な加速で余との間合いを詰める。

 

 ーー速いっ!先程までとは比べ物にならぬ⋯!もしやこれは⋯

 

「夢幻⋯っ!」

 

 ⋯この一撃には、間違いない。魂が込められておる。そうか⋯今はっきりと分かったぞ。これはーー

 

 

 “英雄”の、器。 

 

 

 しかし、余は負けんぞ。

 

 

「ーー斬りぃぃぃぃぃ!!」「ハァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 余と阿久津が交差し。

 

 一拍の間の後⋯ドサリ、と倒れる音がした。

 

 

 立っていたのは、余の方だった。

 

 ***

 

「⋯⋯はっ!?」

 

「む、気づいたか」

 

 やれやれ⋯ようやく目覚めおったか。手間のかかる奴よ。

 

「ここは⋯痛っ!?」

 

「保健室よ。余にあれだけ打たれ続けたのだ、暫くその痛みは消えんぞ?」

 

「くぅ〜痛たた⋯お前、そうか⋯」

 

 周囲を見渡し理解したのか、阿久津は言う。

 

「俺は⋯負けちまったんだな」

 

「うむ、見事な負けっぷりであったぞ」

 

「⋯」

 

 なんだ、しょぼくれた顔をしおって。先程の気迫はどこへいったのだ。

 

「ヒーローは⋯負けちゃいけなかったのにな⋯」

 

「む?」

 

 そう言い、阿久津は窓の外を見る。

 

「戦いの最中も言っておったが⋯ヒーローとはなんなのだ?」

 

「なんだよ、お前ヒーロー知らねぇのか?⋯ヒーローってのはな、弱い者を助け悪を倒す⋯正義の味方の事だ」

 

 阿久津は言葉を続ける。

 

「俺、ヒーローに憧れててな。昔から正義の味方になりたかったんだ⋯って、なんでこんな事話してんだろな」

 

 正義の味方⋯とな?それはまた、なんと言うか⋯

 

「随分と青臭い事言いよるな」

 

「いや、酷くね!?お前の大王発言も大概だからな!?」

 

「余は違うぞ?王であるが故に」

 

「違わねぇよ!?」

 

 おお、随分元気になってきたではないか。ツッコミが冴えておるぞ。

 

「ったく⋯悪かったな、ガキみたいな事言っててよ⋯」

 

「ふむ、そう拗ねるでないわ。確かに正義だなんだのというのは、幼子が抱く絵空事のようであるが⋯」

 

 余は言葉を続ける。

 

「其方はそれでいい。それがいいのだ」

 

「⋯なんだよそれ。馬鹿にしてんのかよ」

 

「いいや、馬鹿になどしておらぬ。余はな、其方に英雄の片鱗を見た」

 

「は⋯?英雄?」

 

余は立ち上がり⋯指先で阿久津の顎を持ち上げると、顔を近づける。

 

「阿久津⋯いや秋人よ。其方、余の英雄になれ」

 

 秋人の瞳を真っ直ぐ見据え、余はそう告げた。

 

「⋯はぁぁぁぁぁ!?いや近ぇ!近ぇって!!」

 

 秋人の奴は顔を真っ赤にし、慌てて余の手を振り払い後ずさった。

 

「なんだ、初心な奴よな」

 

「いやいやいや!急にそんな真似されたらそうなるわ!つーか、英雄?お前の英雄って、どういう事だよ?」

 

 余は不敵に笑い答える。

 

「今はまだ分からずともよい。其方はまだ未熟故な。とりあえずは相棒とでも思っておけ」

 

「なんだよ、意味分かんねぇ⋯でもまぁ、相棒か⋯」

 

 一拍置き。

 

「悪くねぇ、な」

 

 そう答えた秋人の顔は、存外晴れやかであった。

 

 

「ところで、連れの二人はどうしたんだ?」

 

「ん、ああ。遅くなりそうなのでな、先に帰ってもらったわ」

 

 夏美と心春には、後日埋め合わせをするとしよう。

 

「そっか、悪い事しちまったな」

 

「気にせずともよい、二人も理解しておるよ。余の優秀な臣下故な」

 

「⋯ははっ、そっか」

 

 そういえば⋯もう一つ気になっていた事があったわ。

 

「秋人よ⋯夢幻斬りとは何だ?」

 

「げ、お前聞いてたのかよ⋯」

 

「耳は良い方なのでな」

 

 秋人は照れくさそうにポリポリと頬をかくと、その正体を話し始めた。

 

「ガキの頃テレビで見てたヒーロー番組があってよ、夢幻超人バルバイザーってやつ。そいつの必殺技なんだ」

 

「ほう⋯?」

 

 よく分からんが、英雄の叙事詩のようなものか?

 

「知ってるか?」

 

「知らん」

 

「だよな」

 

 そう言って秋人は笑った。

 

「ふむ、そのバルバイザーというものは何なのだ?」

 

 余がそう聞くと、秋人は少年のような眼をしながら語りだした。

 

「バルバイザーっていうのはな!夢を守る為に悪と戦う正義のヒーローなんだ!元々夢世界の住人でよ、それでーー」

 

 こうして⋯短いようで長く感じた一日は、徐々に沈みゆく夕日と共に幕を下ろしたーー

 

 

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