いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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百六十四話

 三学期が始まって数日が経過した、木曜日の朝。

 

 肌寒い空気が漂うAクラスの教室で、私たちはいつものようにホームルームの開始を待っていた。

 

 チャイムが鳴ると同時に、教室の前方扉が開く。

 

「みんな〜! おはよ〜!」

 

 担任の星之宮先生が、いつも通りのひどく間延びした軽い調子で教壇に立った。

 

「おはようございます、星之宮先生」

 

 クラスメイトたちがそれぞれ挨拶を返すと、星之宮先生はふんわりとした笑顔のまま、パンッと手を叩いた。

 

「みんなもそろそろかと思ってるだろうけど、三学期最初の特別試験について、今日は説明していくよ〜!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、それまで和やかだった教室の空気がピタリと止まり、一気に張り詰めたものへと変化した。

 

「ついに来たか……」

 

「三学期最初の試験……どんな内容なんだろう」

 

 柴田や網倉たちが小声で言葉を交わし、一之瀬や神崎も表情を引き締める。

 

(前回の特別試験はルールに助けられた部分があったが、今回はどうなるか。……Bクラスとの差を広げるためにも、負けるわけにはいかないな)

 

 私は周囲を見渡し、来たるべき試験に備えて心を静めた。

 

 星之宮先生が手元のタブレットを操作すると、教室前方に設置されたホワイトボード型の大型モニターに、今回の試験名が表示された。 

 

『生存と脱落の特別試験』

 

 私はモニターに映し出された文字を真っ直ぐに見据え、静かに目を細めた。

 

(……随分と不穏な名前だな。少なくとも、前回の試験のような平和な試験ではなさそうだ。……退学者が出る可能性も考えておいた方がよさそうだな)

 

「これが今回、みんなにやってもらう特別試験だよ〜!」

 

 星之宮先生はモニターを指差し、そこから今回の特別試験のルールについて順を追って説明を始めた。

 

「まず、この試験はね、学校側が文学とか歴史とか科学とか、多岐にわたるジャンルの課題を用意してるの。各クラスはそこから出題するジャンルを選んで、さらに難易度を決める。そして、決められた順番に従って別のクラスに課題を出していくんだよ〜」

 

 先生の言葉に、神崎が鋭い視線を向ける。 

 

「つまり、攻撃側のクラスが問題を出し、防御側のクラスがそれを解くという形式ですか」

 

「そうそう、大正解! 簡単に言えば、攻撃側のクラスがクイズを出して、防御側のクラスがそれを解く。それをひたすら繰り返す試験だよ〜。実際に簡単な例を出して説明するね」

 

 星之宮先生はモニターの画面を切り替え、クラスごとの攻防の流れを表示した。

 

『前半戦』

①Aクラス → ②Bクラス → ③Cクラス → ④Dクラス → ①Aクラス

 

「例えば前半戦。AクラスがBクラスに課題を出す『攻撃側』になる。そしてBクラスは、Aクラスから出された課題を解く『防御側』ね。Bクラスが課題に正解すれば、Bクラスに得点が入るの。で、次はそのBクラスがCクラスに課題を出す攻撃側になって、Cクラスが防御側になる……って感じ。全クラスが一周すると『1ターン』が経過する仕組みで、前半戦は合計10ターンやってもらいます!」

 

『後半戦』

①Aクラス ← ②Bクラス ← ③Cクラス ← ④Dクラス ← ①Aクラス

 

「後半戦になると、今度は攻撃と防御の方向が反対になるの。前半戦とは逆方向に攻防を行って、さらに10ターン実施する。前後半合わせて、合計20ターンの攻防戦になるってわけね〜」

 

「あっ、それとね。今見せた攻防の順番は、あくまで『例』だから! 実際の順番――誰が誰を攻撃することになるかは、試験当日に発表されるの。だから今は、どのクラスと相対することになってもいいように準備しておいてね〜」

 

(なるほど。順番は当日まで分からないが、各クラスが直接相対するのは二クラスだけか。ならば、どのクラスと相対するかが戦略を大きく左右しそうだな)

 

「それじゃあ、次は『攻撃側』が何をすればいいのか説明するね。攻撃側は、『16種類のジャンルから出題ジャンルを選ぶ』『難易度を1〜3から選ぶ』『防御側のクラスから、課題を受ける生徒を5名指名する』っていう流れになるの」

 

 先生が操作すると、出題可能な16種類のジャンルが画面にズラリと並んだ。

 

【文学・歴史・科学・社会・スポーツ・芸能・音楽・経済・雑学・英語・計算・ニュース・漢字・生活・グルメ・サブカルチャー】

 

「うわっ……かなり幅広いな」

 

「こんなの、得意不得意がめちゃくちゃ出そうだよ……」

 

 多岐にわたるジャンル群に、クラスメイトたちから不安げな声が漏れる。

 

「攻撃する時のルールなんだけど、同じ子を何度狙ってもいいし、同じジャンルを何度連続で選んでもいいの。ただし、攻撃開始から3分以内に5人を指名して宣言すること! 間に合わなかった分はランダムで選ばれちゃうからね〜」

 

「同じ子を何度狙ってもいい……? それって、相手の弱点をついてかなり偏った攻撃ができるんじゃ……?」

 

 一之瀬がそのルールの残酷さに気づき、顔を強張らせた。

 

「その通りだよ〜。そして『難易度』は1から3までの3段階。数字が大きくなるほど難しい問題が出るんだけど……攻撃側が防御側に出す課題の難易度を一段階上げるごとに、攻撃側は自分たちが保持している得点を『1点』支払わなきゃいけないの」

 

「難易度を上げるのに、自分たちの得点を消費するのか!?」

 

 柴田が驚きの声を上げ、教室がにわかにざわめいた。

 

(……駆け引きが要求されるな。点を払ってでも難問をぶつけて不正解を狙うか、消費を抑えて低い難易度を選ぶか)

 

「次は『防御側』ね。防御側は、攻撃側が5人を指名した後に開示されるジャンルと難易度を確認した上で、リーダーの判断によって5名の生徒を『プロテクト』することができるの。プロテクトした生徒が攻撃側から指名されていた場合、その生徒は自動的に『正解扱い』になるわ。そして、攻撃側の作業が終了してから3分以内に5人を指名して宣言すること。間に合わなかった場合は、足りない人数分がランダムに決定されるから注意してね〜」

 

 つまり、防御側は提示されたジャンルや難易度、そして各生徒の得意不得意を考慮しながら、どの5名をプロテクトするか判断することになる。

 

「そして、自分が苦手とするジャンルを避けるための『課題の除外』っていうルールもあるの。各生徒には、16種類あるジャンルの中から事前に最大3つまで自由に除外設定してもらうわ。一度除外されたジャンルは、その生徒に対する攻撃では選択できないの」

 

(……相手のリーダーが誰を狙い、誰を守るのか。その思考をどこまで読み切れるかが、攻撃と防御の成否を分けることになるな)

 

 ここまで説明を終えた星之宮先生は、少しだけふんわりとした笑顔を引っ込め、真剣な眼差しでクラス全体を見渡した。

 

「……さて。ここからが、この試験で一番重要なルール。『脱落』についてだよ」

 

 教室の空気が、さらに一段階冷たくなる。

 

「生徒が合計3回不正解になると、その生徒は『脱落』になるの。脱落した生徒はそれ以降の指名対象から外れるし、脱落者1名につき、クラスの得点が『マイナス1』される。もし保持している得点が0点だったとしても、このマイナスはどんどん蓄積されていくわ」 

 

 星之宮先生は、ゆっくりと言葉を区切り、最も重い事実を口にした。

 

「……そして。3回間違えて脱落した生徒を抱えたクラスが、4クラス中で『最下位』になった場合。そのクラスのリーダーが脱落者の中から1名を選び、その生徒は……『退学』となります」

 

「…………っ!」

 

 退学者という単語に、教室の空気がピリッと引き締まる。

 

 だが、その緊張感の走った空気をほぐすように、一之瀬がパンッと手を叩いて明るい声を上げた。

 

「みんな、退学って言葉が出たけど安心してね! もしも最下位になって脱落者が出たとしても、私たちのクラスにはプライベートポイントの貯金があるから、いざという時はそれを使って確実に救済できるよ!」

 

「でも、せっかくみんなで貯めたポイントを消費しないためにも、絶対に最下位だけは避けなきゃな!」

 

「うん。うちのクラスは最悪の事態を回避できるけど……ポイントに余裕がないクラスはどうするんだろうね?」

 

 一之瀬の適切なフォローにクラスメイトたちも力強く頷き、冷静に他クラスの動向へと意識を向けた。

 

(さすがは一之瀬だ。たった一言で、クラスの恐怖を前向きな注意深さへ変えてみせた)

 

 私は静かに、他クラスの状況へと推論を広げる。

 

(……Dクラスは、退学者を救えるだけのポイントなど到底用意できないだろう。そしてCクラス……ポイントが足りていたとしても、龍園が素直に莫大なポイントを消費して脱落者を救済するとは限らない)

 

 退学という罰の重みは、クラスの資産状況によって明確な差を生み出している。

 

「得点については、課題に正解した場合、またはプロテクトに成功した場合、1名につき1得点が入るよ。不正解になったことによる直接的な得点の減少はないけど、さっき言った通り、脱落者が出た場合はマイナス1点が加算されるから混同しないでね」

 

「そして『報酬』! 今回の最終順位によるクラスポイントの変動はこうなってま〜す」

 

【1位:+100cp】

【2位:-50cp】

【3位:-50cp】

【4位:-100cp】

 

「えっ……1位以外、全部マイナス!?」 

 

 過酷な報酬の変動に、生徒たちが顔を見合わせる。

 

「ちなみに、最高得点のクラスが複数いた場合は延長戦! 4クラス全てが同率だった場合は、全クラスマイナス100ポイントという、逃げ道なしの仕組みだからね〜」

 

「最後に『リーダー』について。今回のリーダーは立候補制で1名を選出するよ。リーダー自身は課題の対象から除外されるから退学する危険性はないの。でも、誰をプロテクトするか、どのジャンルで誰を攻撃するか、最終的な指名の決定権は全てリーダーが担うことになるからね〜」

 

「つまり、退学のリスクはない代わりに、試験の勝敗の全責任を背負う司令塔ってことか……」

 

 渡辺が真剣な表情で呟くと、星之宮先生はふんわりとした笑顔で首を横に振った。

 

「あっ、でも勘違いしないでね〜。リーダーが一人で全部決めなきゃいけないわけじゃないよ? 制限時間内であれば、誰を指名するかクラスのみんなと話し合って意見をまとめるのは自由だからね。みんなでリーダーをしっかりサポートしてあげてね〜!」

 

「なんだ、そういうことか」

 

「それなら、みんなで相談しながら戦えるね」

 

 リーダーが完全に孤立して責任を負うわけではないと分かり、クラスメイトたちは安堵の声を漏らす。

 

 そうして彼らがざわめき始める中、星之宮先生のルール説明が一通り終了し、教室には少しだけ和やかな空気が戻ってきた。

 

 私は静かに目を閉じ、頭の中で得られた情報を整理する。

 

【生存と脱落の特別試験・概要】

・4クラスが決められた順番で攻撃と防御を繰り返す(前半10ターン、後半10ターン。後半は逆方向)。順番は当日発表。

 

攻撃側

・ジャンルを選択し難易度を選ぶ。課題を与える生徒を指名し攻撃する。

 

攻撃制限

・生徒の連続指名回数に制限はなし。同一ジャンルを連続して選択することも可能

・開始後3分以内に対象防御側クラスに在籍する5名を指名し担当官に宣言する

※時間制限に間に合わなかった場合は指名できなかった人数分ランダムに決定される

 

出題可能ジャンル一覧

文学、歴史、科学、社会、スポーツ、芸能、音楽、経済、雑学、英語、計算、ニュース、漢字、生活、グルメ、サブカルチャーの16種類

 

難易度

・1〜3の3段階(数値が増えるほど高難度となる)

※攻撃側が防御側に出す課題の難易度を一つ上げると、保持している得点を1点支払う事になる。

 

防御側

・リーダーの指名により課題毎に5名をプロテクトできる。攻撃側の指名した5名の中にプロテクトした生徒が存在していた場合その生徒は正解扱いとする。

・攻撃側の作業終了後、課題のジャンルと難易度のみが防御側に開示される。指名された5名は、プロテクト宣言が完了するまで開示されない

※時間制限に間に合わない場合は指名できなかった人数分ランダムに決定される。

 

課題の除外

・各生徒は全16のジャンルから事前に最大3つ、課題を自由に除外することができる

・除外された課題を攻撃側クラスは選択できない

 

脱落

・合計3回不正解となった場合、その生徒は脱落し以後指名の対象にはならない

・また脱落者1名につき得点がマイナス1加算される

※獲得している得点が0点の場合でもマイナスは蓄積される

・3回間違えて脱落した生徒を抱えたクラスが4クラス中最下位に沈んだ場合、その脱落者の中からリーダーが指名した1名が退学することになる。

 

得点

・課題に正解(もしくはプロテクト成功)した場合1名につき1得点が与えられる

・不正解による得点の減少は存在しない

 

報酬

1位クラスポイント +100cp

2位クラスポイント −50cp

3位クラスポイント −50cp

4位クラスポイント −100cp

※最高得点のクラスが複数出た場合は延長戦を行い決着をつける

※ただし、4クラス全て同率得点で試験終了した場合は全クラスポイントマイナス100とする

 

 私が概要の整理を終えた頃、星之宮先生が思い出したようにポンと手を叩いた。

 

「あっ、大事なことを言い忘れてた! 今回の試験ではね、なんと『携帯電話の使用が可能』です!」

 

「えっ、携帯が使えるの!?」

 

「そうだよ〜。だって試験の形式上、他クラスの詳しい情報は試験開始後にならないと分からないからね〜。誰がどのジャンルを除外しているのか、リアルタイムで考えながら指名しなきゃいけないでしょ? 防御側の時も、問題が出される直前まで携帯で知識を得たり、他クラスの生徒と連絡を取り合ったりするのはすごく大事だよ〜」

 

(……つまり、試験中に他クラスとリアルタイムで情報のやり取りができるということか)

 

 私は『携帯電話の使用可能』というルールの本質を噛みしめ、密かに分析を進めた。

 

(CクラスとDクラスは、二年生になってからずっと同盟関係を築いている。今回のルールにおいて、この同盟がどう作用するか……。攻防の順番次第ではあるが、もし彼らが隣り合った順番になった場合、非常に厄介な事態が起こる)

 

 例えば、Cクラスが攻撃側、Dクラスが防御側になったターンの場合。

 

(Cクラスが事前にDクラスへ『プロテクトする5人』の情報を伝え、その5人を狙って攻撃を行えば、防御側は何のリスクも負わず毎ターン確実に5点を獲得できることになる) 

 

 得点計算の構造を頭の中で弾き出す。

 

(10ターン繰り返せば、それだけで50点が保証されるというわけだ。そして、本当の恐ろしさは、二クラスの談合ではなく、三クラスの共闘にある)

 

 三つのクラスが結託した最悪のケースを想定する。

 

(三クラスが手を結べば、リアルタイムで互いの得点を把握し、プロテクトを保証し合って確実に点を稼げる。そして、孤立した一クラスへ攻撃を集中させることができる。……つまり、三クラス同盟が成立した瞬間、ターゲットにされたクラスはほぼ確実に最下位へ落とされる)

 

 私は未確定の攻防順を頭の中でなぞり、同盟の形を検証する。

 

(はっきり言って、先日の体育祭のように、三クラスが共闘して一クラスを叩く状況になれば勝ち目はないだろう)

 

 だが、と私は小さく息を吐き、視線を前へと向けた。

 

(……今回に限っては、そう簡単に三クラス同盟は組めないだろう。体育祭の時は最下位のクラスのみが重いペナルティを負う仕組みだったが、今回は逆に、1位のクラスのみが恩恵を得ることができるからな)

 

 私はさらに一歩踏み込み、各クラスの置かれた状況を俯瞰した。

 

(今年に入ってからCクラスとDクラスは着実にポイントを伸ばしてきているが、それでもBクラスとCクラスの間には、まだ600クラスポイント以上の差がある)

 

 指先で軽く机を叩き、下位クラスの動機を整理する。

 

(二年生の三学期という時期と残された時間を考えれば、彼らもいつまでも横並びでいるわけにはいかないはずだ。退学のリスクを負ってでも、1位を狙いに来るだろう)

 

 そこから、龍園と堀北の選択についての考察へと思考を巡らせる。

 

(問題は、あの二人がどんな選択を取るかだ。同盟を破棄して実力勝負に出るのも一つの手だが……同盟を継続した上で、AクラスあるいはBクラスに『プライベートポイントを支払えば同盟に参加させる』という、オークションのような形式を取ることも考えられるな)

 

 そのオークション戦略がもたらす結果を思い描く。

 

(1位を取るクラスと、莫大なプライベートポイントを受け取るクラスを、事前に龍園と堀北さんで話し合って決める。そうすれば、最下位となったクラスとのポイント差を詰めつつ、さらに上位クラスの資産を両方削ることができるというわけだ)

 

 だが、こちらにも当然打つ手はある。

 

(巡り合わせ次第ではあるが……もしCクラスとDクラスが同盟を組むというのなら、試験開始後に坂柳と談合し、こちらもA・B間でプロテクトを保証し合って確実に50点を稼ぐという『カウンター』を合わせることも可能だ。そうすれば、お互いが50点を確保した上で、CクラスとDクラスからの防御でどれだけ得点を重ねられるかという、純粋な勝負に持ち込むこともできる)

 

「試験実施は来週末の金曜日だよ〜! まずは月曜の放課後までにリーダーを決めて、私に通達しにきてね!」

 

 星之宮先生がそう締めくくると、クラスメイトたちは本格的にリーダー選出についての議論を始めた。

 

「誰がリーダーになる? やっぱり一之瀬か……?」

 

「でも、相談して指名が出来るなら帆波ちゃんには問題を解いてもらう側になってもらった方がいいのかな?」

 

 彼らの言葉を聞きながら、私は今回の試験の全貌と、今後の展開についての思考をさらに深く潜らせていく。

 

(今回の試験の本質は、『自分のクラスをどれだけ理解しているか』『クラス全員の学力・知識量』そして『相手の思考をどれだけ読み切れるか』だ)

 

 前提条件を一つずつ確認していく。

 

(どこも協力関係を結ばず、純粋に実力だけで競うのであれば、俺たちAクラスが最下位に沈む可能性は低い。プロテクトの仕組み上、退学者の分だけ母数の少ない下位クラスに多少の有利はあるものの、クラス全体の学力や知識量を考えれば、俺たちやBクラスには到底及ばないからな)

 

 問題となるのは、やはりBクラスの動向だ。

 

(当然、坂柳も俺たちを最下位に落としたいと考えるはずだ。だが、今回のルールではどのクラスにとっても同盟を組むのは至難の業。各クラスの思惑が複雑に絡み合い、状況は流動的に変化していくだろう)

 

 ルールの構造以上に、そこに介在する人間の意思が勝敗を分ける。

 

(だからこそ、この試験はクラスの基礎能力だけでなく、司令塔となるリーダーの力量が極めて重要になる。相談が可能とはいえ、3分という短い制限時間の中で全ての情報を精査し、相手の思考を読み切って最適な指示を出し続ける必要があるからな)

 

 私は静かに目を開き、前を向いて議論するクラスメイトたちの背中、そして一之瀬の姿を見つめた。

 

(……今回のリーダーは、俺が務めるべきだな。『プロテクトポイント』を持つ一之瀬には、参加者側に回ってもらった方がいい。それだけで一つ確実な守りになる)

 

 だが、私がリーダーを引き受ける一番の理由は別にある。

 

(一之瀬の性格上、たとえ他クラスであっても退学に繋がるような攻撃を仕掛けることには、ひどく心を痛めるだろう。他者を蹴落とし、犠牲を強いるかもしれない決断……そんな残酷な役目を、彼女に背負わせるわけにはいかないからな)

 

 私はゆっくりと息を吐き、自らがリーダーとしてこの試験を導く覚悟を固めた。 

 

 三学期の幕開けと共に提示された、生存と脱落を懸けた過酷な特別試験。

 

 来たるべき決戦に向けて、各クラスの思惑と謀略が、静かに、そして確実に動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

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