争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい 作:大気圏突破
「案の定、教会から破門されたんだな」
「そうだ!」
目の前で舌を火傷しながら大盛りの冷凍チャーハンを食べるゼノヴィアはここに来るまでの経緯を語ってくれた。インスタントラーメン?1杯じゃ物足りないと言ってきたので冷凍庫で霜だらけになっていたチャーハンをレンチンして与えている。賞味期限は半年前の日付けだ
「師匠が掛け合ってくれたおかげで私は命を繋ぐことができた」
「師匠?」
「ヴァスコ・ストラーダ…私が所持していたデュランダルの前所得者で、厳しさと優しさを兼ね備えた人格者だ、そしてイリナたちも」
話を要約すると無銭飲食に器物破損と留置所からの脱走というトリプルコンボを達成したゼノヴィアはヴァチカンへ帰国した足で査問会へ送られ処分が言い渡された。上記の3つの他にデュランダルが悪魔の手に渡ったのもマズかった
「関わった当事者だけど、よくそれで済んだな」
「本当は極刑が決まっていたのだが、ドゲザというのか?師匠が額を床につけて謝ってくれたんだ、イリナの父親も同じようにやってくれて」
若さ故の過ちだとしても許容できる範囲を逸脱していた。堕天使たちに奪われたエクスカリバーを取り戻すために日本へ赴いたのに何もせずに負債だけを抱えての帰国であり、教会内で高い支持を誇るヴァスコ・ストラーダが土下座で頭を下げても。罪を軽くするつもりはなかったが
「私がゼノヴィアの咎を受けます!」
彼女と同行していたイリナの発言により空気が少しだけ一変する。ギリシア語には「愛」を表現する言葉として
他者の受ける罪を肩代わりして引き受ける姿勢に教会の上層部たちは頭を悩ませたが、彼女の覚悟を受け取りゼノヴィアへの極刑は取り下げされた。そもそもイリナが与えられた路銀を勝手に使ってガラクタを購入したことで転落が始まったのだが、誰もツッコミを入れないあたり上層部も頭がお花畑である
「見聞を広め人として成長してこい!と師匠に言われて旅に出たんだ」
「じゃあ何で俺ん家に忍び込んでラーメンを食っていた?」
「実は…」
少しモジモジしながら顔を赤くしているゼノヴィアの口から発せられたのは頭の痛くなる内容だった。ヴァスコから渡された旅券の行き先は自分たちが問題を起こした日本であった。彼女は別のエクソシストから聞かされた長崎県にある五島列島の教会を巡ろうとしていたが
「スーツケースの置き引きに、所持金の入った財布をトイレに忘れて戻ったら中身が抜かれていたんだな」
「あぁ…私の不注意が招いた結果だ」
日本人が海外でカモられるように逆のパターンも存在する。ゼノヴィアの容姿で民度の低いところなら性的な犯罪に巻き込まれていた可能性もあるのだ、途方に暮れていた彼女は記憶を頼りに空港から伸元の家まで徒歩で向かい助けを求めた
「ここに来る前に警察に行けよ」
「その…どうも警察は、ちょっと」
エクスカリバーの騒動で日本の警察に多大な迷惑をかけたことで素直に足を運べる気持ちになれなかった
「どうやって家に入った?玄関は施錠していたはずだが」
「最初は君が帰ってくるまで待っているつもりだったんだが何日も食べてなくて、ヴァチカンに戻るまでここの2階で庇護を受けていたときに小窓の鍵が開いていたのを思い出して、もしかしてと思って屋根に登って」
『お前のミスだな相棒』
ドライグに窘められカップに入ったコーヒーを一気飲みした伸元は改めてゼノヴィアのことを見つめた。衣服の端に汚れがあり髪の毛も整えることをしていなかったのでボサボサである
『ゼノヴィアと言ったな、日本に来たということはデュランダルを取り戻しにきたのか?』
「赤龍帝か?そんなつもりはない…もう私にデュランダルどころか聖剣を振ることや握ることは不可能なんだ」
その問いかけに彼女は顔を曇らせた
「因子を抜かれた?」
「そうだ聖剣計画で培われた技術で因子を持つ者から抽出する」
「計画の説明はいい大まかな部分は知ってるから」
「そうか」
脳内お花畑の教会側も彼女を破門・追放だけで収めるつもりはなかった。そこでエクソシストで聖剣使いだった彼女のアイデンティティを取り上げることにした。先の騒動で首謀者の1人だったバルパーの研究で因子の抜き取りは容易に行えるようになっていたので15分でゼノヴィアは聖剣が扱えなくなった元エクソシストになった
「とりあえず風呂と今日の布団と明日の飯は用意する」
「私を追い出さないのか?」
空には出勤した星たちがタイムカードを押して輝き始めている。不法侵入者とはいえ彼女を追いだした場合に起こりうる周囲への被害と現状を天秤で計った結果なのだ
「会長かセラフォルーさんを通じてヴァチカンに引き取ってもらう」
「すまない、色々と迷惑をかけてしまって」
「そう思っているならチャーハンを食う手を止めろ!」
食事を終えた彼女を風呂場に押し込んで洗濯機を稼働させる。この家には女性モノの衣服や下着なんて存在しない今日は伸元の服を貸すことした
浴室から聞こえてくるシャワー音をBGMにしながらソーナの方へ伝えると、土曜日である明日の10時に訪れ対応を協議する流れになった
「シトリー会長…すいませんがもう1度言ってくれませんか?」
「ヴァチカンからの回答は『引き取りを拒否する』と」
向こうはゼノヴィアのことを拒絶した。聖剣を扱うことができない元エクソシストの追放者なんて我々の関係者ではない、悪魔側で好き勝手に扱ってくれて構いません、抜群のプロポーションで綺麗な顔立ちなので赤龍帝の夜の相手にどうぞという意味合いだ
これはデュランダルを奪われた腹いせの嫌がらせでもある。なお彼女が食べた袋のインスタントラーメンと冷凍チャーハンの費用である689円を律儀に振り込んできた
「そんな―――」
膝から崩れ落ちて涙を流すゼノヴィアに対してソーナと一緒に訪れたアーシアが駆け寄ってハンカチで拭いでいる。彼女が聖剣使いだったら悪魔の駒を使って転生させる価値があった。レーティングゲームで王を務める悪魔に紹介し物々交換で対価を得ることもできた
しかし目の前にいるのは組織から見捨てられた身体能力が一般人より高い女の子である。限られた駒を使うメリットが存在しないのである。かと言って何も持たない彼女を追い出すのも気が引けてしまう
「なんでもする!食べ物は残飯でも構わない、頼む!」
ゼノヴィアは師匠のヴァスコ・ストラーダがやっていた土下座を披露してソーナと伸元に懇願する。頼ることができるのはここしかないのだから
「私からもお願いします」
「…アーシア?」
隣にいた彼女も同じように床に額をつけて悪魔とドラゴンに願った。アーシアの行動に2人は虚をつかれたような顔になってしまう
「どうして?」
「見放された私に色々な方々が手を差し伸べてくれました。受けた幸せを独り占めにしないで分け与えて、ゼノヴィアさんが幸せになったら誰かに分けてほしいんです」
幸せのお裾分け、自己啓発の書籍に記されていそうな内容だが誰隔てなく慈愛の心を持つアーシアの生き様として最適なことだと思う
「ゼノヴィアさんの生活費が必要でしたら、私が働いて出します!まだ懇意としている契約者さんはいませんが頑張ります」
一途な女の子は強いと言うが、こうなったら盤面を降りるのは野暮というものだ
「とりあえず俺ん家の留守番を任せるハウスキーパーにでもなってもらうかな」
「石動君…良いのですか?」
「あくまで自活できるまでの暫定措置だ!次いでに匙の要望も叶える口実にもなるだろ?」
その言葉にソーナは全てを察した。戸籍や身分の保証を頼みたい『対価』は彼女の眷属を鍛える赤龍帝の指導となる
「アーシア……ありがとう」
ゼノヴィアは大粒の涙を流しながら彼女に抱きついた。師匠や同僚に聖女から悪魔になった面々に受けた恩を必ず返すことを心に誓った元エクソシストなら道を踏み外すことはないだろう
ゼノヴィアの聖剣を扱う為の因子は抜き取られ、彼女はエクスカリバーやデュランダルを使うことは出来なくなりましたが、先の展開を楽しみにしていてください
明日の更新は執筆時間が無いので無理です(土曜日)
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