17 嵐の予感
風紀委員と一戦交えた後、ケガをした大将とユメを医療ポッドである程度治療した後病院に送り、アビドスはそれぞれ家に戻った。
数日後、先生がアビドスに向かうと校門前でノノミが掃除を行っているのが見えた。
アビドスが合金の壁で覆われたことで内部に砂が侵入することはだいぶ減ったが、相変わらず壁の外は大量に砂が積もるのでそれの掃除である。
「あ、先生!今日は早いですね☆」
「おはようノノミ。今日は掃除かい?」
「ええ、なんだかじっとしていられなくて……ここ最近立て続けに問題が起こっていて、なんだか嫌な予感がするんですよね。」
ノノミは表面上は笑顔であったが、内心は不安でいっぱいだった。
返済がうまくいきそうだと思っていた矢先にカイザーローンの黒い噂や風紀委員の襲撃、正直単なる女子学生が負うには重すぎる心労である。
「大丈夫だよ、ノノミ。私も手伝うし、コーストさんもいるだろう?」
「……はい、そうですよね!あ、もう集まる時間です。先生もそろそろ行きましょう!」
いくらか元気を取り戻したように見えるノノミとともに先生は学校へと入っていった。
教室に入った先生が目にしたのはなぜか教室にいるユメに膝枕されているホシノと、その頭を撫でさせられているコーストの姿だった。
「えっと、何してるの?」
「あはは……私は昨日病院から退院したんですけど今朝、ホシノちゃんに呼び出されて……。」
「ユメは膝枕、俺は頭を撫で続けることを命令されたんだ。心配かけた罰だってな。」
二人に甘やかされているホシノは非常に幸せそうである。
実際、襲撃の現場に駆けつけてきたホシノは見たことないほどの焦りと怒りを見せていた。それだけ二人を大切に思っているのだろう。
「ほれ、ホシノ。もう話し合いが始まるんだからそろそろ起きろ。」
「う~ん、しょうがないなあ。」
ホシノは目を覚まし、そのままユメの膝の上に乗っかった。動くつもりはなさそうである。
「え~と、その話し合いは私も聴いちゃって大丈夫なやつなのかな?」
「……そうですね。一応今回の議題はユメさんにも聞いてもらいたい話です。」
アヤネはホシノにもの言いたげな目を向けたが、諦めてとりあえず話し合いを始めることにした。
「……まずはこれを見てください。」
そう言ってアヤネが机の上に広げたのは直近までの土地取引が記録された地図――地籍図である。
「地籍図ですか?でもそんな台帳なんて見なくてもアビドス自治区の土地はアビドス高校のもので……」
「さっきまでは私たちもそう思ってた。でも、そうじゃなかったの。」
「大将から伺った話なんですが、柴関ラーメンが入っていた建物はもちろん、アビドス自治区のほとんどの土地が、アビドス高校の持ち物ではなかったんです。」
「えっ……!?」
「ど、どういうこと!」
ホシノとユメが驚きの声を上げる。長いことアビドスにいるが、そんな事実は初耳だった。
「どういうことなの、アビドス自治区がアビドスのものじゃないなんてそんなこと……」
そう言いながらホシノは地籍図に書かれた現在の土地の所有者を見る。
「……これって。」
「そ、そんなあ!」
「現在の所有者は……」
「……はい、カイザーコンストラクション。そう書かれています。」
アヤネが、苦境に立たされるアビドスをさらに追い込むその事実を告げた。
「……名前を聞く限り、そのカイザーコンストラクションも例のカイザーローンと同系列の会社なんだろう?」
「はい、その通りです。カイザーコンストラクションもカイザーローン同様カイザーコーポレーションの系列ですね。」
「ということは、アビドスの土地の大半をカイザーコーポレーションが所持してる!?」
「……柴関ラーメンも?」
「はい。大将はそのことをしばらく前から知っていたみたいで、前から退去勧告も受けていたみたいです。」
「そんな、柴関ラーメンが……。」
「大将、今までそんなこと一言も……。」
なぜ言ってくれなかったのか、ユメは悲しそうにそう声を漏らした。
「……今カイザーに渡っていない土地は現在本館として使用しているこの校舎と、周辺の土地だけです。」
「一体何でこんなことに……自治区の土地を勝手に取引するなんてできるはずが……」
「……アビドスの生徒会、でしょ。」
その言葉に、その場の全員がホシノに目を向ける。
「学校の資産の議決権は生徒会にある。それが可能なのは、普通に考えてその学校の生徒だけ。」
「……はい。ホシノ先輩の言う通り、取引の主体は生徒会となっています。」
「少なくとも俺が来た時点ではアビドスにはユメとホシノしかいなかったし、そんな取引をしたこともなかったはずだ。ユメ、ホシノ、何か知っているか?」
コーストの質問にユメが答える。
「そ、その、私が生徒会長になった時のことなんだけど……」
そう言うと、ユメは自身が生徒会長になった経緯……ほかの生徒会員に半ば押し付けられるような形で就任し、そのタイミングで生徒会の人間も大半がアビドスを去っていったことを話した。
「会長になる前も土地の取引をしているなんて話は私は聞かなかったんだけど……」
「……土地の取引はおよそ2年前まで続き、ユメさんが会長になる直前のあたりで急増してますね。」
「とすると、去っていった奴はユメにアビドスの看板だけ押し付けて資産だけ持ち逃げした可能性があるな。確かに最初は借金返済のためだったのかもしれんが、どうせ消えるだろうといった考えで限界まで金に換えたのかもな。まあ、こんな砂に沈んだ辺境の土地だ。二束三文でしか売れなかっただろうが。」
「何よそれ!学校をあんな奴らに売り渡すなんて!」
「……学校の自治区は学校のもの、それは当たり前の常識です。私たちは借金のほうに気を取られて、その当たり前が足元から崩れていることに気付けませんでした。」
「まさか、こんなことになっちゃってるなんて……。」
ユメは生徒会長だったものとして責任を感じているのか、沈んだ表情をしている。
「ユメ、責任を感じているのかもしれないが、これは決してお前のせいじゃない。」
「で、でも、もっと私がちゃんとしていたら、周りを見れていたら、もう少しどうにかなったのかもしれないのに……。」
「――いや、この問題、当時の生徒会だけが問題じゃないかもしれない。」
先生がふと気づいたようそう言った。
「先生?どういうことだ?」
「アビドスから土地を買い取ったのはカイザー、アビドスに金を貸しているのもカイザー、そして、アビドスに度々襲撃をかけていたのもカイザーだ。……もしかしたら、アビドスはカイザーに悪質な罠にかけられたのかもしれない。」
「悪質な罠、ですか?」
「あ~……。」
「アビドスにお金を貸したのも、カイザーコーポレーション。カイザーローンが、学校の手に負えない位のお金を貸して、利子だけでも払って貰うため土地を売る様に仕向ける」
「はい。きっと最初は、要らない砂漠や荒廃した土地を売るようようにでも甘言を弄したのでしょう。けれど、さっきもコーストさんがおっしゃったようにこの辺りの土地が高値で売れるはずも無く………」
土地だけがカイザーに安く買いたたかれていったということだ。
無限に広がる宇宙の中で、土地の価値がほぼ無に等しい宇宙では見かけることのない”地上げ”の手法。
今の今まで全く気付くことができなかったコーストは歯がゆい思いをした。
「思い付きで始めたような計画とは到底思えない。アビドスに金を貸した時点で始まっていた、かなり大きな計画だったのかもな……。」
「つまり、ずっとカイザーコーポレーションの奴らにもてあそばれてただけってわけ!?先代の生徒会も何やってんのよ!こんな詐欺みたいな方法に引っかからなければこんなことには……!」
「セリカ、その辺にしておけ。」
「コーストさん、でも……!」
「……この学校の借金の大本の原因は砂嵐による自然災害だ。度重なる嵐の被害に対処するには、藁にもすがる思いだったんだろう。それに、悪いのは騙してきたあいつ等のほうだ。過去の生徒会を責めるのは間違ってる。」
「わ、私だってわかってるわよ!私も、偶に詐欺にあっちゃったりするから皆よりもずっと……でも、悔しい。どうして、ただでさえ苦しんでるアビドスにこんなことを……。」
「セリカちゃん……。」
セリカがやり場のない怒りを押し付けるように机を叩きつける。
「……窮地に陥った人間は視野が狭くなって短絡的になりやすくなる。詐欺師とか、騙す意思のある奴はそういった隙を狙ってくるだろうな。奴らは、今の状況を見て絶好のカモだとか、その程度にしか考えていないだろう。」
「そんな……。」
セリカはその言葉に何も言えず、そのまま椅子で黙り込んだ。
「……先生が来てから得られた手掛かりで、今のアビドスの状況がはっきりしてきました。」
「ああ、やつらの狙いはこの土地。それは確定だろう。だが、やっぱり引っかかるのがそんな大規模な計画を立ててまでここの土地を奪う理由だ。」
「そうですね……今のアビドスは荒れ地や砂漠ばかり、こんな土地を奪って何の意味があるのか……。」
「そういえば、砂漠といえばみんなに話しておきたいことが……」
そういって先生が話し始めたのは風紀委員との交戦の直後の話。
先生はあの後風紀委員長と軽く話をし、カイザーがアビドスの砂漠で何やら活動を起こしているという情報を得たのだという。
「カイザーコーポレーションが砂漠で……。」
「要は、そこに行けばカイザーが執拗にこの場所を狙う理由がわかるかもしれないということだな?」
「でも、何でそんなことをゲヘナの風紀委員長が……。」
「それに、どうして先生に?」
「――もう!難しく考える前に、アビドス砂漠は私たちの自治区なんだから、実際に行ってみればいいじゃない!正直何が何だかわからないけど、実際見たほうが早いでしょ!」
セリカが実際に砂漠に行くことを提案する。
思考放棄ともいう。
「ん、確かにそう。」
「いや~セリカちゃんもたくましく育ったねぇ。ママ、うれしくて涙出ちゃいそう。」
「誰が娘よ!というかなにこの雰囲気!?私がまともなこと言ったらおかしいわけ!?」
「あはは……でも、セリカちゃんの言う通りですね!」
「ああ、奴らの思惑が何であれ、直接確認しに行ったほうがいいだろうな。」
「うん。じゃあ、準備ができたら行こうか、砂漠へ!」
「あのぉ、私は……。」
「留守番に決まってるだろうバカ。」
「コンパスも読めない、ヘイローもない先輩が何の役に立つんですか。」
「ひぃん……二人とも久々に辛辣だよぉ~。」
コロッサスの車窓に映る景色が荒廃した都市から完全な砂漠に移り変わっていく。
「思えば、俺が最初にこの星に降り立ったのも砂漠だったか……。」
そんな郷愁に浸りながらコーストはアビドス一行を乗せたコロッサスを走らせ、キヴォトス最大の砂漠――アビドス砂漠へと足を踏み入れた。
subnauticaです
いや~ユメがいると話の着地点がなかなか決めづらいですね……。
というかユメの情報が少ない。
それはそうと、リアルの事情が少し忙しくなってきたので2週間程度更新頻度が落ち込みます。
とはいえ、全く更新しないわけじゃないのでそこはご安心ください。
次回は砂漠でカイザーにご対面ですね。
では、また次回お会いしましょう。