見知らぬ男に殺された恨みにより怨霊と化したがいざ恨みを晴らそうにも復讐の相手は海外にいるとのこと…
仕方ないので復讐相手のいる国までの渡航費用をバイトで稼ぐことにするのであった。

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 頭の中にパッと思い浮かんだ話がいつのまにか出来上がってました。
需要があれば連載するかもしれないです。


幽霊さん…バイトするってよ

 突然の話だが私は幽霊だ、名前は忘れた。

覚えているのは身も知らぬ男に殺されたという事実だけ。それ以外はほとんど思い出せない。

 

 理由は分からないが頭からは今も大量の血が流れ続けている、おそらくこれが致命傷なのだろう。

死装束を着ていることや、生前よりやたらと伸びた髪も気にはなるが……今はそんなことはどうでもいい。

 

 自分を殺した男への復讐…それが最優先だ。

 

 だが残念なことにその男が何者なのかは分からない。

ただ、家電量販店に並んでいたテレビに映っていたニュース番組によれば…どうやらその男は海外に逃亡したらしい。

 

 海外は広いが奴は国際指名手配されている。いずれ捕まり、日本に送還されるだろう。

その時に復讐すればいい……理屈では分かっている。

 

 ……だが、感情がそれを許さなかった。

早く殺したい…今すぐ復讐したい。

その衝動はどうしても収まらない。

だから私はさっそく奴のもとへ向かおうとし…検問所で止められた。

 

 ……いや、なんで?

確かに生前なら海外に行くにはパスポートや渡航費が必要だった。

だが今の私は幽霊である。物理的な制約などあってないようなもののはずだ。

 

 そう思っていたのだが検問所の職員(幽霊)はこう言った。

 

「幽霊が簡単に海外に行かれると管理が大変なので」

 

 管理ってなんだ…ご当地幽霊とかの縄張り争いでもあるのか?と一瞬思ったが…

 

「ただでさえ自我が強いのに文化や価値観の違う外国の幽霊同士のトラブルが絶えないため、制限しています」

 

 という、妙に現実的な理由を突きつけられた。

納得はできないが反論もできない。

 

 ただし完全な禁止ではないらしい。

条件を満たせば渡航許可は下りるという。

その条件というのが…バイトだ。

 

 もちろん、単に金を稼がせたいわけではない。

働いて対価を得ることで「社会性のある知的な幽霊」であると証明する必要があるらしい。

 

 ……自分で言っておいてなんだが知的な幽霊って何だ。

恨みで動く存在じゃなかったのか。

 

 そう思ったが、ここでごねても海外には行けない。

私は大人しくバイトをすることにした。

 

 さて、バイトをするにあたって問題がある。

バイト先が見つからない。

というよりそもそもバイトに応募すらできない。

 

 検問所の幽霊たちは条件だけ提示しておいて、仕事の斡旋は一切してくれなかった…完全に丸投げである。

仕方なく自力で探そうとしたのだが……完全に詰んだ。

 

 もう死んで幽霊となっている私には身分がない。

身分がなければ雇用契約もできないし、保証もない。更に銀行口座も作れない。つまり……どうあがいてもバイトできない。

 

「身分よこしな!!」

 

 キレた私は検問所に突撃したのは悪くないと思う。

一応言っておくがこれは衝動的な行動ではない。

検問所で身分が無いことを確認されたことを思い出したからだ。

 

 てっきりあの時は生前の身分の確認をされたのかと思ったが、それだと死んで間もない自分の身分が完全にないのはそれはそれでおかしい。

だから幽霊独自の身分があるのではないかと踏んだ訳だ。

 

 結果…印象は最悪になったが、身分証と銀行口座を手に入れた。

 

 これでようやくスタートラインに立てたわけだが……

ここでふとふと冷静になる。

幽霊を雇う会社なんて、あるのか?

 

 ……いや、今さらだ。

バイトができないからと復讐を諦める気はない…どうにかするしかない。

 

 そして運命の就職活動が始まったのだが…

 

 一発であっさりと採用された…

え?いいの?幽霊だよ?と聞いてみたが相手は冗談だと思ったらしい。

笑ってスルーされた。

 

 仕事内容はパソコン会社のカスタマーセンター…いわゆるオペレーター業務というやつだ。

正直PCの知識はあまりないが、研修で最低限は叩き込まれた。

 

 本来ならそれだけで現場は厳しいのだろう。

だが今の私は幽霊だ。

遠隔で無理なら直接行けばいい。

たったそれだけのシンプルな話である。

 

 意外にも幽霊の能力は応用が利く。

細かい仕組みを理解していなくても、壊れたものを“元に戻す”ことができるのだ。

 

 さらにクレーマー対応も簡単だ。

直接背後に立って話せば大抵の相手は冷静になる。

 

 むしろ静かになりすぎるが、結果オーライである。

最初はどうなるかと思ったが……意外と天職なのかもしれない。

 

 

 


 

 

 

 とある夏の日、男は自宅のリビングで椅子に浅く腰掛けスマホを右耳に押し当てたまま前のめりの姿勢でPCの画面を睨みつけていた。

部屋にはクーラーが効いているにもかかわらず、全身から脂汗がダラダラと流れ落ちているのがはっきりと分かる。

 

(くそっ……どういうことだ!?)

 

 視線の先のPCの画面ではカーソルが忙しなく動き回り、様々なフォルダが開いては閉じるを繰り返していた。

一見大したことがないように見えるが、問題は彼がマウスに一切触れていないことだ。

 

 もっとも彼は現在PCの不調についてカスタマーセンターと通話中である。それだけを見ればカーソルが勝手に動いているのも遠隔操作によるものだと説明はつく。

 

 ……では、なぜ彼はここまで焦っているのか。

 

 答えはマウスにあった。

誰も触れていないはずのマウスがカーソルの動きに合わせてシャッと音を立てて横へ滑り、クリックに合わせてカチッと音を鳴らしながら左ボタンが沈んだ。

 

 カーソルがマウスに追従する機能は存在する。

だがマウスがカーソルに合わせて動く機能など聞いたこともない。

 

 そして異変は、それだけではなかった。

突如動き出したマウスに驚き立ち上がろうとした瞬間…体が凍りついた。

まるで金縛りに遭ったかのように、ぴくりとも動かないのだ。

 

 どれだけ力を込めても指先一つ動かせない。

得体の知れない“何か”が、すぐ隣に立っている気配だけがじっとりと肌にまとわりついてくる。

 

 視線を逸らすことすら許されず、ただ画面を見続けることしかできなかった。

やがてパソコンが再起動のために画面を暗転させる。

 

「……ッ!?」

 

 黒くなった画面に映り込んだのは自分の背後に佇む“それ”だった。

異様に長く伸びた髪の女が無言でそこに立っていた。

叫び声を上げようとしても金縛りによって喉は震えるだけで音にならない。

 

 再び画面が点灯し、背後の姿が見えなくなる。

だが今度は……姿が見えないことの方が恐ろしかった。

今すぐこの家から逃げ出したいのだが体は動かない。

 

 そんな彼を無視するかのように、マウスは再び勝手に動き出す。

…そしてしばらくして、ピタリと止まった。

それと同時に先ほどから沈黙していたカスタマーセンターのオペレーターが口を開いた。

 

「OSの不具合は修正いたしましたので、問題なくパソコンをお使いいただけるかと思われます。

また不具合が出るようでしたら、一度修理に出されることをお勧めいたします」

 

 その言葉とともに金縛りが解けた。

体がようやく自由に動かせるようになった。

 

「それでは今回は、霊子が対応させていただきました」

 

 その一言を最後に通話は切れた。

恐る恐る確認すると、パソコンは今のところ問題なく動いている。

おそらく……あのオペレーターが直してくれたのだろう。

 

 ……だが、一つだけ言わせてほしい。

 

「怖すぎるわ!!」

 

 

 


 

 

 

 ふふん。

働き始めて約一ヶ月、退勤間際に先輩に褒められた。

どうやら私が入ってから悪質なクレーマーの数が目に見えて減っているらしい。

私が親切丁寧に、真っ正面から対応した成果だろう。

……多少、物理的に距離が近かった気もするが。

 

 ともあれ悪い気はしない。

そしてなにより今日は給料日だ!!

 

 今月の努力がついに形になる時が来た。

幽霊の海外渡航費はやたらと高いらしいので、今月分だけでは足りないだろうが……来月には届くだろう。

 

 そう思いながら通帳を確認すると、残高に書かれていたのは…

 

【六文銭】

 

「いや、あの世にはまだ行かないって!!」

 

 思わず通帳を地面に叩きつけた。

即座にクレームを入れに検問所へ向かうと、

 

「おめでとうございます、三途の川を渡ることができます」

 

 と満面の笑みで言われ、強制的に船に乗せられそうになったので全力で逃げた。

危うく復讐前に成仏させられるところだった。

 

 ……仕方ない…また今月も働くしかないか。

待っていろ私を殺した男よ…

このままでは終わらない…

 

 私の戦いはこれからだ!!

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