雄英高校 会議室
そこでは、全ての教員たちに加え、今回の襲撃事件の捜査を担当している塚内が今後に関する対策会議を行っていた。
「…以上が、我々がクロウから聞いた情報の全てです」
会議には、既に復帰したオールマイトも参加していて、彼にしては珍しくスーツを着用していた。
他の教員たちは何とも言えない表情をしていたが、クロウの人となりを知っている相澤、オールマイトなどは満足そうな顔をしていた。
「五本の指で触れた物体を『崩壊』させる個性…なんて強力で厄介極まりないんだ…」
「クロウからの情報を元に、こちらでも20代から30代の個性登録を徹底的に洗ってみましたが、全くの該当なしです」
「無戸籍…且つ偽名…か?」
「偽名はともかく、無戸籍ではないと思います」
「その根拠は?」
「また、そのクロウとかいう嬢ちゃんの情報か?」
「はい」
会議の殆どがクロウからの情報で進んでいることに疑問を感じているプレゼントマイクが、訝しみながら塚内に質問を投げかける。
それはストレートに返されたが。
「あれから電話でまたクロウと話したのですが、どうやら、あの死柄木弔という男は、敵連合の『先生』と称される人物が幼い頃に、どこからか拾ってきたのだそうです。そこから考えられるのは…」
「拾った後に、何らかの方法で死柄木の戸籍を消した…か?」
「恐らくは。そうすることで、彼の正体を判明させないようにしたのでしょう。お陰で、人物特定に関しては否が応でも後手に回ざる負えない」
遠い未来の事すらも見据えて行動する。
用意周到なんて陳腐な言葉じゃ片づけられないほどに巧妙だった。
「あの黒霧とかいうのに至っては、作られた存在だって話だよな?」
「えぇ。オールマイトとクロウが協力して倒した『改人』のプロトタイプ…。能力を個性に特化させているので、身体能力自体は大したことないそうです」
「その気になれば、生徒達でも勝てる可能性があるとも言っていたね」
オールマイトが思い出したかのように呟く。
ある意味、最も厄介な相手の弱点がハッキリしているのは大きかった。
「奴に関しては俺が対処する」
「イレイザーが?」
「あぁ。これもクロウが言っていたが、あいつと俺との相性は最高らしい。俺が『抹消』さえ使えれば、後は簡単に制圧出来るとさ」
「確かに…その通りだな」
「向こうの『足』を潰せるのはデカい。任せていいか?」
「あぁ」
会議が順調に進んでいく中、ずっと疑問に感じていたことをプレゼントマイクが発言した。
「なぁ…さっきからずっと思ってたんだが…」
「なんだ?」
「その『クロウ』とかいう嬢ちゃん…本当に信用していいのか?」
「…まぁ…そういうだろうとは思っていた。だが、問題ない」
「どうして? その根拠は?」
隣に座っている相澤がハッキリと明言する。
非合理的なことを嫌っている彼には珍しいと思いつつ追及する。
「実際に会って話せば分かる」
「ですね。非公開にはなっていますが、彼女は実際に警察の事件の捜査に協力していた実績もあります」
「一緒に戦った身としても、彼女の事は信用していいと思うよ。敵連合に身を置いてはいるが、あの子の本質は紛れもなくこちら側…ヒーローに近いだろう」
クロウと関係が深い三人全員が諸手を挙げて信用している。
そのうちの一人は、あのオールマイトだ。
彼がそこまで言う相手を疑える程、ここの教員たちは愚かではなかった。
「クロウに関しては、私も信じていいと思うのさ」
「校長まで?」
「と言うか、前に校長はクロウさんの事を知ってるみたいな口ぶりでしたけど…一体どこでお知り合いに?」
USJでのやり取りを思い出した13号の言葉を聞き、全員の視線が校長に集まる。
それでも表情を崩さない彼は、いつものように淡々と説明した。
「昔…今から五年ぐらい前かな。彼女の噂を聞いた私は、密かに一人で裏神野まで行って、クロウをスカウトしに行ったことがあるのさ」
「スカウトって…?」
「『雄英高校のヒーロー科に入って、ヒーローを目指してみないか』ってさ」
まさか、あの校長が直々にそんなことをしていたとは。
流石に初耳すぎたのか、相澤もオールマイトも目が点になっていた。
「で…結果は?」
「開口一番で断られてしまったのさ! ま、仕方ないことではあるんだけどね。当時の彼女はまだ今とは違って精神的余裕がなかった。頼るべき人間も碌にいない状況でたった一人、幼い少女が必死に生きていかなくてはいけなかったんだからね」
「それなら猶更、校長の申し出を受けた方が得な気がするけど…」
誰もが思ったことを代表して代弁するミッドナイト。
だが、校長はそれを首を振って否定した。
「私も詳しいことまでは知らないが、彼女は大人から裏切られた過去がある。だから、そう簡単に他人を…特に大人を信用できないのさ」
「例の『先生』とやらは?」
「当時の彼女からは聞いたことがなかった。恐らくは、クロウの体を改造した後は、用事がある時だけ呼び出して…と言った感じだったんだろうね」
「成る程な…ある意味、クロウが敵連合にいる理由にも繋がってくるか…」
ずっと相澤は疑問に感じていた。
どうしてクロウ程の人間が敵連合なんて連中に加担しているのか。
そこには必ず、人には決して言えないような理由があるのではないかと。
「一応、それから何度も足を運んで同じ提案をしてみたんだが…駄目だったよ。雄英が後ろ盾になるとも言っても、聞き入れて貰えなかった」
「そんな奴が、今回は自分の身を犠牲にしてでも生徒たちを守るために戦った…か」
「口では色々と言いつつも、根っこの部分にある心は変わってないってことなのか…」
クロウのことをよく知らない者たちからすれば、彼女の存在は限りなく黒に近いグレーだった。
だがしかし、彼女が身を挺して多くの生徒達を守ったという事実は覆せない。
「その『先生』とやらも謎が多いな。クロウ君曰く『敵連合のボス』らしいが…」
「自分の名前を頑なに言おうとしない。それどころか、クロウに完全な自由を許している。敵連合にとって不利益な行動をしても、最終的に裏切ったとしても一向に構わないと言われているらしいしな」
「なんじゃそりゃ? なら、なんでその『先生』とかいう野郎は、あの嬢ちゃんを仲間に引き入れたんだ?」
「それが分かれば苦労はしてない。クロウ本人だって『先生』の考えてることが全く分からないと困惑していたぐらいだ」
「だろうな…俺が嬢ちゃんの立場でも、そんなことを言われたら不気味で仕方ねぇよ」
敵連合の中心にいる存在は一体何を考えているのか。
何を思い、クロウと言う善性の強い人間を敢えて引き入れたのか。
そのことが最悪、敵連合を潰す切っ掛けになりかねないのに。
「そのクロウに関してですが、もしかしたら皆さんと話す機会を作り出せるかもしれません」
「どういうことだ?」
塚内の言葉に相澤が疑問を投げかける。
そう言えば、この男は自分以上にクロウと親しかったなと。
「実は彼女、今は裏神野で何でも屋をやって生計を立ててるんですよ」
「何でも屋?」
「えぇ。その名も『鴉の何でも屋』。現在は、保護の後に一緒に暮らしている女の子と一緒に仕事をしているそうです」
「あいつが、そんなことを…ん? なんでもってことは…」
塚内の言いたいことが理解できた相澤は、まさかという言葉を込めて彼の顔を見る。
因みに、オールマイトはずっと首をかしげていた。
「確か、もうすぐ『雄英体育祭』がありますよね? そこに何でも屋としてのクロウに依頼をすればいい。『体育祭開催中の警備をやってほしい』と」
「いいアイデアかもだが…あいつが引き受けるか…?」
「その点はご安心を。あの子もあの子でちゃんと客商売と言うものを理解している。基本的に仕事の依頼が犯罪関係でなければ、どんなことでも引き受けてくれますよ。実際、警察の依頼ですら快く引き受けてくれたぐらいだ」
「アンタがさっき捜査に協力云々ってのも、何でも屋として依頼したのか…」
「そういうことです。人柄、個性、その両方から彼女は非常に頼りになる」
「それには同感だがな…」
いくら仕事とはいえ、少しお人好しが過ぎるような気もする。
ちょっとだけクロウの事が心配になった相澤だった。
「それなら、依頼は雄英からと言うことにするのさ。誰か個人から頼むよりは、彼女も依頼を受けやすいはずだ」
「じゃあ、連絡は俺がしましょう。問題は、クロウの連絡先だが…」
「彼女の番号なら俺が知ってますよ。後で教えましょう」
「いいのか?」
「大丈夫ですよ。色々と文句は言うかもしれないけど、一言二言ブーブー言って終わるだけだ。あの子、そこら辺は割とドライですから」
そう言われると、そうかもしれない。
その光景が簡単に想像できた。
「再び会った時に、また色々と尋ねてみるか。あの時は、あいつが怪我人だってこともあって、早く話を切り上げたからな」
「そうだね。それと同時に、ここにいる皆にも、彼女の良さを理解して貰えると幸いだ」
最後にオールマイトが締め、一先ずクロウの話題は幕を閉じた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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2週間後。
雄英体育祭 本番当日。
私たちは雄英からの警備の依頼を受け、こうして雄英高校の校門前まで来たのだが…。
「「ほぇ~…」」
でっ………かぁ~…。
こうして正面から来たのは初めてだが…こんなに大きいのかよ…雄英高校…。
「っていうか人多っ!? いや、私も雄英体育祭が凄く大きなイベントだってのは知ってますけどね? こうして、中に入るのは初めてなんですけどっ!?」
「私もだよ。つーかこれ…入場検査だけで何時間待たせる気だ…?」
よく見たら門もデカいなぁ…。
観客だけじゃなくて、マスコミ連中やスカウト目的のヒーローも多数来ている。
テレビ中継の奴はよく見てたが、ここの体育祭が学生たちの将来的なスカウトの登竜門になってるって話はマジらしいな…。
「ど…どどどどどどうしましょうクロウちゃん…! 私…今からずっごい緊張してきたんですけど…!」
「まだ中にも入ってないのに緊張してどうするよ。ほら、深呼吸」
「ひっひっふー! ひっひっふー!」
「誰がラマーズ法しろって言った。深呼吸だ、深呼吸」
どんだけ緊張してんだ、お前は。
「来たか、クロウ」
「「ん?」」
校門の裏から私たちに声をかけてきたのは、いつも通りの黒ずくめな相澤さんだった。
ただ、今日は一人じゃなくて、隣にもう一人いた。
グラサンをかけて、髪を逆立たせてる…誰?
「よく依頼を受けてくれたな。助かるよ」
「仕事だしな。私みたいなアウトローな奴にまで声をかけるってことは、それだけこの間の事件を重く見てると同時に、奴らに弱みを見せないっていう雄英側の決意の表れでもあるんだろ? だから、少しでも多くの警備員が必要になると」
「そこまで分かってるなら話が早い。今日はよろしく頼むぞ、クロウ」
「あぁ。任せてくれ。依頼された以上は仕事はきっちりとこなすさ。今日の私は完全にアンタたち側だ。蟻の子一匹たりとも邪魔者は侵入させねぇよ」
今回は心置きなく、気持ちよく仕事が出来そうだな。
いいストレス発散になりそうだ。
「この嬢ちゃん…何者? こっちの考え完全お見通しって…」
「だから言っただろう…大丈夫だと」
「あぁ…みたいだな…」
なんか、さっきから隣のグラサン野郎からジロジロと見られてるんだが。
セクハラで訴えられたいのか?
「ク…クロウちゃん! この人、あれですよ! プレゼントマイクですよ!」
「え? マジで?」
あー…こいつがねー。
いつも声ばかり聴いてて実物を見たことがなかったから普通に分からなかったわ。
「え? このお嬢ちゃんって、俺のファンの子?」
「もしかして、その子が前に言ってた?」
「おっと。そうだった。まだ紹介してなかったな。ほら、被身子」
「あ…はい!」
急に直立不動になった被身子が、緊張しまくって自己紹介を始めた。
「わ…私はクロウちゃんと一緒にお仕事をしてる渡我被身子って言います! 今日はよろしくお願いします! あと、実はプレゼント・マイクさんのファンなのでサインください!」
「マジで俺のファンだった! オーケー! オーケー! こーゆーストレートにファンだって言ってくれるリスナーは大歓迎だぜ! で、どれにサインすればいい?」
「このスマホカバーにお願いします!」
「色紙じゃなくて、まさかのスマホカバー! けど、その意外性が気に入った! 喜んでサインさせて貰っちゃうぜ!」
「ありがとうございます!」
おーおー…あんなにも嬉しそうに。
ま、被身子が笑顔になれるんなら、なんでもいいか。
「あの子さ、金貯めて防水性のラジオを買って、風呂入る時にプレゼント・マイクのラジオ番組を聞いてるんだよ」
「そういや、最近はそういうレトロなのが密かにブームになってると聞いたな」
「らしいな。被身子も見事にそれに乗っかってるのさ」
因みに、私は普通にラジオアプリで聞いてる。
その方が手軽だし。
「あの子はまぁ…私の助手っていうか、サイドキックみたいなもんだ。未成年ではあるけど、実力は保証するよ」
「お前が鍛えてるのか?」
「まぁね。私の役に立ちたいって本人が言い出したことでもあるんだけど、それと同時に最低限の自衛能力を持って欲しかったってのも本音だしな」
「…そうか。お前が鍛えたのなら心配はいらないな」
「そゆこと」
というか、話長いな…。
どんだけ盛り上がってんだ、こいつら。
「もうその辺でやめとけ、マイク。お前、今日の司会進行役だろ。急がなくていいのか?」
「おっと、そうだった! それじゃあな、キュートなリスナー! 今日の警備、頼んだぜ!」
「はい! このサイン、私の宝物にします! 今後スマホ変えても、ずっとこのカバーを使い続けます!」
いや…流石にそれはやりすぎ。
カバーもちゃんと交換しな。
しっかし…去り際まで賑やかだったな…プレゼント・マイク…。
「さて…ここからは仕事の話だ。今日のお前らは客じゃなくて警備スタッフだからな。正面から入らなくていい。こっちにある裏門からだ」
「ま…当然か。こんなに行列が出来てちゃ、正面からの出入りに時間が掛かりすぎる。流石に合理的じゃない」
「その通り。こっちだ。ついて来い」
さて…それじゃあ、行きますか。
話じゃ、私たち以外にも全国から多くのプロヒーロー達に警備依頼を出してるらしい。
私の知ってるヒーローとかいないだろうな…。
変に知り合いに絡まれるのは勘弁だぞ…。
相澤さんみたいにドライな奴なら問題ないんだが…。