相澤さんについていく形で裏門をくぐり、そこから更に『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を通る。
「おぉ~…なんか、普段通らない場所を行くと、それだけでドキドキしますね~」
「確かにな。けど、これからも似たようなことは何度もある。今のうちに慣れとけ」
「はーい」
ん? なんか前を行く相澤さんが、凄く微笑ましい視線をこっちに向けてるんだが…。
「ちゃんと保護者をしてるんだな。やるじゃないか」
「そりゃ…な。私にだって、それぐらいの責任感はあるさ」
「時々、厳しいこともありますけどね~」
お前は一言余計なんだよ。
ったく…小遣い減らしてやろうか?
「フッ…それぐらいが丁度いいもんさ。クロウ」
「なんだ?」
「お前…意外と教師とかに向いてるかもな」
「ヒーローの次は教師に向いてると来たか…」
アンタらは私を一体どうしたいんだよ。
最近になって次々と私に変な属性が増えていくんだが。
「クロウちゃんが教師か~…。面白いクラスになりそうですね!」
「それ…どういう意味で言ってる?」
「誉め言葉だろ」
「そうなのか?」
「それは勿論!」
そっか…私は今、褒められたのか…。
分かりにくいんだよ。
「さて…着いたぞ」
「「ん?」」
到着したのは、警備員専用の詰め所。
全国からヒーローを呼んだってのは伊達じゃないらしく、本当に色んなヒーローが顔を揃えていた。
勿論、知らないヒーローの方が大多数だが。
「基本的には会場内を回って警備をして貰うが、休憩などの時にはここに戻ってくることになっている。それと…ほら」
手渡されたのは、首から下げるタイプの身分証明証。
一つは私の顔写真と『クロウ』と書かれたので、もう一つは何も書かれていない真っ白なやつ。
「ここにいる間は、これを首からぶら下げててくれ。渡我…と言ったか。お前さんのは今から適当に作ってくれ。一応、念の為ってことでパソコンとプリンターは用意してある」
「了解だ。んじゃ、まずは仕事の前に被身子の分を作って…」
その時だった。
少し離れた場所から、ものすごーく知ってる声が聞こえてきたのは。
「あー! そこにいるのって…もしかしてクロウちゃんッ!?」
「げ…この声は…」
「あれって…まさか?」
すっごい嬉しそうな顔で、たこ焼き片手にこっちに駆け寄って来たし…。
あぁ…面倒な奴と会ってしまった…。
「やっぱりクロウちゃんだ! 久し振り~! たこ焼き食べる?」
「久し振りだな…優。あと、たこ焼きはいらない。後で自分で買う」
「ちょっと! ここではちゃんとヒーローネームで呼んでよ!」
「はいはい…悪かったよ『Мt.レディ』」
「よろしい!」
はぁ…まさか、こいつも来てたとは…。
若手の中じゃ実力がある方だから呼ばれたのか…。
「被身子ちゃんも久し振り! 元気してた?」
「はい! Мt.レディさんも警備要員として呼ばれたんですか?」
「そうよー。けどまさか、ヒーローじゃない二人も来るだなんてね。いいんですか? イレイザー」
質問するのはいいが、まずはそのたこ焼きをテーブルの上に置け。
「構わん。今までならばいざ知らず、今年は少しでも人手が欲しいんだ。ヒーロー免許の有無に関係なく、実力のある連中は可能な限り招集してある。何もクロウ達だけが例外じゃない」
「成る程…確かに、クロウちゃんは裏でも表でも実力が知られてますからね」
何でも屋なんて仕事をしていると、自然と顔が広くなり、同時にビジネス関係で有名になっていく。
特に一部のヒーロー達とは普通に何回も一緒に仕事をすることもある。
丁度、こいつみたいにな。
「と言うか、お前たちは知り合い同士だったのか」
「一応な。前に何回か、こいつの事務所から依頼を受けたことがあるんだよ」
「ヴィウラン確保の手伝いとかか?」
「いや? こいつが個性でぶっ壊した建物とかの修繕の手伝い」
「あぁー…成る程な」
「ちょっとクロウちゃんっ!? それは言わないでっていつも言ってるでしょっ!? あと、何が『成る程』なんですかっ!?」
成る程だろ、どう考えたって。
一体何度、こいつの尻拭いをさせられたか…。
「ま、こっちとしては常連みたいになって助かるんだけどな」
「ですね~。レディさんから連絡が来ると、その瞬間にその日の夕飯が焼肉確定になりますもんね」
「ウチからの報酬で、そんないいの食べてたのっ!? 呼んでくれてもいいのにぃ~!」
「なんでだよ。あ、相澤さんは呼んでやるよ。ついでだし、さっきのプレゼント・マイクも呼ぶといいよ」
「そうだな。その時は邪魔させてもらう」
「私とイレイザーとの扱いの差が酷いっ!? なんで、この二人ってこんなに仲がいいの!?」
「「さぁ?」」
なんとなく気が合うからじゃないか?
知らないけど。
「クロウちゃんは人気者ですからね~」
「そ…それは…事実なのよね…」
人気者…か?
そんな風に言われたの始めてなんだが。
「そこで何をしているМt.レディ…って、お前はクロウか? どうしてここに?」
「「シンリンカムイ(さん)」」
この人も来てたのか…。
ある意味じゃ当然か。
実力も実績もちゃんとあるヒーローだしな。
こういった場じゃ呼ばれて当然だな。
「なんでシンリンカムイ先輩の事は、ちゃんとヒーローネームで呼ぶのに、私の事は本名なのっ!?」
「プライベートで何度も買い物とかに付き合わされてたら、嫌でも本名で呼ぶ癖がついちゃうんだよ。仕方ねーだろ」
「え? それってつまり…つい本名で呼んじゃう程にクロウちゃんから私への好感度が高いってこと? それはそれで…えへへ…♡」
さっきから、怒ったりニヤけたりして忙しい奴。
こいつ、こんなに情緒不安定だったか?
「シンリンカムイとも知り合いなのか?」
「あぁ。この人とは普通に何でも屋として、ヴィラン確保の手伝いとかをしたことがある」
「その際、ちゃっかりとこっちの個性も覚えていったがな。役に立ってるか?」
「まだまだ練習中。あれは中々にコツがいるわ」
「そうだろうな。だが、お前なら大丈夫だろうさ」
植物を操るって感覚がまだよく分かってないんだよな。
生き物だけど、そこまで激しく動くもんじゃないし…。
「前にシンリンカムイさんから貰った観葉植物、今でも大事に育ててます」
「それはよかった。緑は目に良い上に、精神を落ち着かせる効果もあるからな。よかったら、また別のを差し上げよう」
「悪いな。助かるよ。ウチは利便性重視にしているせいか、どうも殺風景だしな」
こういう気遣いは流石だよな。
どこぞの巨大化女も少しは見習ってほしいもんだ。
「お前…意外とヒーローの知り合いが多いんだな…」
「何でも屋だからな。犯罪以外は何でもOKってしてると、自然と一般人の依頼よりもヒーローや警察からの依頼が多くなるんだよ」
「塚内さんとも、その経緯で知り合ったのか」
「そういうこと」
ここまでパイプを作るのも本当に苦労したよ。
地道な活動が実を結ぶって身をもって思い知ったからな。
「そうだ! クロウちゃん…聞いたわよ~?」
「何をだよ」
「何でも屋の仕事で、雄英を襲撃したヴィランをやっつけたんですって? 凄いじゃない!」
「……はい?」
これはー…どういうことだ?
ちょっと、隣にいるアングラヒーローさんに小声で尋ねてみるか。
(おい…相澤さん。あいつが言ってるのはなんだ?)
(流石にそのまんまを公表するわけにはいかないだろ? だから、時間を遡って、お前があの時USJにいたのは、今日と同じように雄英から仕事を依頼されてたってことにしたんだ)
(マジかよ…。これをあいつらが知ったら、めっちゃ怒るだろうなぁ…どうしよ)
(それをどうにかするのは、お前の仕事だ。頑張ってくれ)
(他人事みたいに言いやがって…)
ま…やるけどさ。
「え? もしかして…この間の外注の仕事って、それだったんですか!?」
「ん…まぁな。一応、あの時は内密にってことだったから、お前にも話せなかったんだよ。仕事が終わった今は、普通に大丈夫だけどな」
「そうだったんですね…流石に、ヴィラン退治には私は参加できませんからね…」
「悪いな。もっと実力をつけたら、お前にもサポートぐらいはしてもらうさ」
「分かりました。少しでも早く、その時が来るように頑張ります!」
うんうん。向上心があるのはいいことだ。
今までの人生が人生なだけに、被身子の向上心は並じゃない。
こいつ自身も分かってるからな。
本当の意味でのどん底を経験すると、後はもうひたすらに登っていくだけだって。
「しかも、噂じゃ…あのオールマイトと即席のコンビを組んで戦ったとか!」
「そこまで知られてるのかよ…」
それは嘘じゃないから否定のしようがないな…。
多分、これはオールマイト本人が暴露してるな。
あの人ならめっちゃ言いそうだし。
「確かに…クロウの身体能力の高さなら、オールマイトとも共に戦えるかもしれんな」
「ですよねー! ほーんと…なんでクロウちゃんってばヒーローやらないのかしら? あむ…」
「ヒーローよりも、何でも屋をやってた方が気楽だし、私の性に合ってるんだよ。あむ」
「あー! 私のたこ焼きッ!? さっきはいらないって言ってたのに!?」
「気が変わった。うん、美味い。今日の昼飯は屋台の粉物三巨頭で決まりだな」
因みに、粉物三巨頭とは『たこ焼き』『お好み焼き』『焼きそば』の事を指す。
主に私の中では。
「そろそろ時間か。それじゃあ、俺は行く。今日はよろしく頼むぞ」
「あいよ。って、相澤さんも何かするのか?」
「何故かは分からんが、マイクの奴から解説に呼ばれてる。だから、今から俺もステージに行かなきゃならん」
「ご苦労さん。ま、頑張ってくれ」
「お互いにな」
背中を見せながら手を振りつつ、相澤さんは去っていった。
イレイザーヘッドはクールに去るぜ…ってか?
「もうすぐ競技開始の時間か。本当なら、我々もスカウトの為に見学しておきたいのだが…」
「こればっかりは仕方がないさ。今日の私たちは警備で呼ばれてるんだからな。そっちの仕事は別の機会にするしかないな」
「致し方あるまい。クロウとまた共に仕事が出来るだけで良しとするか。お前がいるだけで一気に出来ることの幅が広がるからな」
「それが私の個性『ラーニング』の真骨頂だからな」
圧倒的な汎用性こそが私の領分。
幾多の個性を十全に使いこなす為の練習は必須だけどな。
「っていうか、優のせいで途中になってたけど、まずは被身子の身分証を作らないとじゃんか」
「そうだな。では、ちゃっちゃと作ってしまおう」
「お願いしまーす」
「また本名で呼ばれてるっ!? でも、これもクロウちゃんなりの愛情表現と考えると、それはそれで…」
なんかまた変な妄想している変なバカはほっとこう。
それよりも…今年の雄英体育祭…例年はラストチャンスに懸ける情熱や、これまでに得た経験値などから繰り出される戦略などで三年生が注目されがちなんだけど…今年はきっと違うだろうな。
恐らく、今年最も注目を浴びているのは一年生だ。
変則的だったとはいえ、敵連合の襲撃を乗り越えたのは紛れもない事実。
普通じゃ滅多に味わえない出来事の経験は、生徒たちの精神をいい意味で大きく成長させている…と思う。
こんなことを考えてるから、ヒーロー向きだの、教師向きだのと言われるんだろうなぁ…はぁ…。
実は、クロウとMt.レディは普通に仲がいいです。
歳が近い同性かつ、一緒に仕事をしたという経験が自然と二人の距離を近づけているのです。
因みに、プライベートで一緒に出掛ける時は、クロウは彼女の手によって、よく着せ替え人形と化しています。