その後は少し幕間を挟んでから運動会編に入るかと。
図らずもオールマイトとコンビを組む羽目となり、そのお陰で半ば暴走状態に陥っていた脳無を倒すことに成功した…のはいいんだが…。
(文字通り…精も魂も使い果たしてしまったな…)
早く帰らないと…『アイツ』を心配させてしまう。
境遇が境遇なだけに、私に依存している節があるからな…。
ま、それは仕方がないと半分ぐらい諦めてるんだが。
「なんてこった…」
「まさか、ここまでド派手に侵入をされて、もう既に主犯格には逃げられてしまっているだなんてね…」
主犯格…あー…弔と黒霧の事か。
確かに、今回の主犯はあいつ等だな。
「他の者たちは捕まえることは出来たが…完全にこちらの虚を突かれる形となったね。それよりも今は、生徒たちの安否が最優先さ」
あの遠くに見えるデカいネズミは…あいつか。
そういや、ここの校長をしてるって前に話してたっけ…。
普通に忘れてたわ。
「それと…」
ん? 妙に角ばってるやつがこっちに来る?
あれもプロヒーロー兼教師なのか?
「うっ…!」
「ん?」
急に近くから煙が…って、オールマイトから出てる?
しかもなんか…徐々に細くなっていってない?
「おいアンタ…その体…」
「はは…見られてしまったね…」
あっと言う間に、オールマイトの体はさっきのマッチョ姿とは似ても似つかない、まるでガイコツみたいな姿へと変貌してしまった。
これは一体…?
「話せば長くなるんだけど、これが今の私の本来の姿なのさ…」
「マジかよ…」
これ…凄い秘密を見てしまったのでは?
なんかもう…色々とお腹一杯なんだが…。
「いいんですか?」
「構わないさ。不思議とね…彼女にならバレてもいいと…そんな気がするんだ」
「…アナタがそういうのなら…俺は何も言いませんよ」
…これって絶対に私が安易に『ワン・フォー・オール』を使ったせいだよな…。
あの時は仕方がなかったとはいえ…不味ったなぁ…。
「取り敢えず、お前のことはこちらで保護することにする」
「捕縛じゃなくて?」
「あのな…お前にどんな事情があるにせよ、自分達と生徒達を体を張って救ってくれた恩人を無下に扱うほど、ここの連中は恩知らずじゃない」
「…さよか」
どっちにしても、今の私には何も抵抗できない。
完全に疲れ果てて、個性を使うことは愚か、指一本動かすことすらも億劫だ。
「流石に少しは話を聞かせてもらうけどな」
「別にいいよ。ここまでやって知らぬ存ぜぬが通用するとは、こっちも思ってない。でも、私が話せる範囲で…って条件が付くけど」
「言えないことがある…ってことか?」
「言えないってよりは、知らないって言った方が正しいかな。知らないことは流石に話せないよ。自分の事なら話せるけど」
「知らないことは話せない…か。道理だな」
なんて話してたら、急に私たちの周囲に巨大なコンクリートの壁が出現した。
ちょっとだけ驚いたな。
「セメントスか。ナイス判断だ」
それ…さっきの角ばった奴のヒーロー名か?
コンクリートを操れるのか…凄いな。
こんな状況ながら、見てしまったことで『自動習得』してしまった。
帰ったら少し練習してみよう。
「生徒たちの安否を確認したいから、君たちは急いでゲート前に集合してくれ。怪我人の方はこっちで対処するよ」
「わ…分かりました! ラジャっス!」
こっちに近づこうとした生徒を追い払ってくれたのか。
今のは…硬化の個性の子か。
お腹が冷えそうな恰好をしてるよな…。
冬とかどうするんだろう。
「ありがとう…助かったよ。セメントス」
「俺もあなたのファンですからね。このまま体を隠しつつ保健室まで向かいましょう。そこの彼女も連れて行くんですよね」
「勿論だとも。寧ろ、クロウ君の方が私よりも遥かに重症だ」
「成る程…それは大変だ。急がなくては」
この感じ…マジで私を捕まえる気はないのか…。
お人好しというか、なんというか…。
「それにしても、本当に毎回毎回に渡って無茶をしますよね。限界ギリギリまで動き続けるだなんて…」
「無茶をしなければ、こちらが倒されていたよ。クロウ君がいなければ、もっと大勢の犠牲者が出ていたであろうことは容易に想像がつく。それ程までに…強敵だった」
それに関しては激しく同感。
制御の利かない脳無…危険だな。
(そういや…弔達はちゃんと無事に帰れたかな…?)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
裏神野。例のバー。
そこへ歯軋りを鳴らしながら弔と黒霧が帰還してきた。
「おい…先生…! 話が違うぞ…!」
『違うとは?』
バーカウンターの上に乗っているモニターから、重苦しい声が聞こえてくる。
「決まっている! 脳無のことだ!! なんだあの失敗作は!! 全く制御が出来てなかった!!」
『ほぉ…? そうなのかい?』
「そうだ! ヒーローに攻撃を仕掛けさせた筈が、味方であるクロウに攻撃しやがった!! 敵味方の区別も碌に出来ない出来損ないを寄越しやがって!! クロウが体を張って殿をしてくれなかったら、俺たちが脳無にやられてた可能性すらあった!!」
『そうだったのか…今度から気を付けることにしよう。君たちは気にせず、これまで通り動いてくれていい。ところで、そのクロウはどうしたんだい?』
「さっきも言ったろ…殿をしたって。まだ向こうに…雄英に残ってる。クソ…クソ…! もしクロウがヒーローどもに捕まったら…俺は…俺は…!」
今にも歯が砕けそうなほどに食い縛り、悔しさを露にする弔。
その様子をモニター越しに聞いた先生は、心の中でほくそ笑む。
(どうやら、こちらの想像以上に弔の中でクロウの存在は大きくなっているようだね。それも当然か。彼女が『クロウ』になった時から、二人は共にいることが多かった。別の所に移り住んで完全に自立し、他の者と一緒に暮らすようになった今でも、その頃の気持ちは変わっていない…)
計画通り。
先生の脳内には、その一言が浮かび上がった。
(弔はクロウに依存し、そのクロウには自由行動権を与えておく。いずれクロウは必ず我々を裏切るだろう。あれはそういう女だ。『裏』にはいても、『闇』には染まり切れない。だからこそ彼女を選んだ)
不意にその『瞬間』のことを思い浮かべる。
考えただけで笑みが零れてしまう。
(クロウを敵連合に入れたのは、弔の心に平穏を与えるため。そして…)
手に持っていたワイングラスに罅が入り、割れる。
その破片と、中に入っていた赤いワインが先生の手を汚していく。
(その心に真の安らぎを得た時…その全てを絶望に変える!! それこそが弔の決して逃れられない運命!! 心が砕ける絶望は希望を知ってこそのもの!! その圧倒的な絶望はより深く黒く精神を染め上げ…やがては闇より暗い黒曜石の輝きを持つ個性となる!!!!)
全ては自分の掌の上。
(僕の宿願を阻む者は…ヒーローもヴィランも…全て滅びてしまえ…!)
深淵に眠りし邪悪の胎動は…誰も知らぬ所で確実に動いていた。
その事を人々が知ることになるのは…いつになるのか…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あー…えーっとー…?」
目の前には真っ白な天井。
私の全身に渡ってグルグルと包帯が巻かれ、更には点滴まで刺さっている。
これが雄英の保健室かよ…そこらの病院よりか遥かに充実してるんだが…。
「なんでここに?」
「アンタがとんでもない大怪我をしていたからに決まってるだろ!!」
うをっ!?
いきなり、おばあちゃんに怒られた…。
あの人が私の治療をしてくれたんだよな…。
凄い手際だったけど。
「ったく…事情が事情だから、あんまり小言とかは言いたくないけどね…」
じゃあ、言わなければいいじゃん。
「いい歳した娘が、両腕と両脚の骨が砕けるまで戦うとか何を考えてるんだい!!」
「小言言ってるし…」
「お黙り! アンタの怪我はそれだけじゃないんだよ! 頭蓋骨にも罅が入っていたし、肋骨も何本か折れていた! 下手したら、折れた骨が肺に刺さっていたかもしれないんだよっ!? ちゃんと分かってるのかいっ!?」
「はいはい…すいませんでしたよー」
「ハイは一回!」
「はーい…」
「ったく…体に入れ墨まで彫って…親が見たら泣くよ?」
「その辺はご心配なく。私、親には十年以上前に捨てられてるんで」
…あれ?
なんか急に保健室の空気が凍り付いた?
別に私は凍結の個性は使ってないぞ?
気になって、隣のベットで寝ているオールマイトの方を向くと、彼もまた非常に申し訳なさそうな顔をしていた。
「えっとー…なんかゴメン?」
「いや…こちらこそ済まない…」
また謝られた。
ここに来てから誰かに謝られてばかりだな。
「ところで、アンタのその体…なんなんだ? 明らかにおかしいだろ」
「活動限界ってやつさ…。今の私は、昔の怪我のせいで個性の使用に制限時間があるんだ。それは年々少なくなっていてね…。今じゃ一時間あるかどうかって感じなのさ」
オールマイトが弱体化しているって話は先生から聞かされてたけど…これが真相だったのか…。
パワーが衰えたとかじゃなくて、個性の使用時間が出来てしまったって感じか。
(やっぱり…私やドクターの予想は大当たりじゃないか…)
パワーが衰えてないのなら、脳無には最初から微塵も勝ち目なんてなかった。
仮に私がいなかったとしても、どうにかしてオールマイトは勝っていただろう。
つまり、どう転んでも結果は変わらない。
そこに至るまでの過程が変わるだけで。
「因みに、今の話を知ってる奴は?」
「校長先生や、そこにいるリカバリーガールを含めた雄英の教師たち。それ以外だと、学生時代の私の恩師に警察関係者の友人…それから…」
「それから?」
「…私が自身の『後継者』と認めた少年ぐらい…かな」
「後継者…ね」
そっか…それがあったかー…。
ぶっちゃけ、それを考えると地味に落ち込む。
「ところで、君の個性なんだが…」
「オールマイト」
「あ」
本題に入りかけた瞬間、保健室のドアが開いて相澤さんがいつもの仏頂面で入って来た。
「クロウの個性の話は、俺が来てからだと言いましたよね? もう忘れたんですか?」
「あははは…ゴメン…」
オールマイトのデカい体が小さく見える…。
教師としては完全に新人だから、教師としては先輩である相澤さんに頭が上がらないのか…。
もしかして、私が思ってる以上にオールマイトって弱点が多い?
「随分と凄い格好になったな」
「お陰様で。はぁ…出来るだけ早く帰りたいんだけどな…待たせてる奴がいるし…」
「それは…あの時の奴らか?」
「うんにゃ。アレとは完全に別。一緒に暮らしてる奴がいるんだよ。昔…色々とあってね。図らずも私が保護する形になって、そのままの流れで同居…って感じ」
「保護して同居…か」
あ…相澤さんが…笑った…?
似合わねー…。
「やっぱり、お前にヴィランは似合わないよ…クロウ。寧ろ、お前はヒーローに向いてる」
「私がヒーロー? 冗談でしょ…」
「冗談じゃないさ。ねぇ、オールマイト?」
「相澤君の言う通りさ! クロウ君なら立派なヒーローになれる!」
ナンバー1様のお墨付きが出ちゃったよ。
こんな私がヒーローに…ね…。
(そんなこと…今まで一度も考えたことがなかったな…)
選択肢にすら入れたことがなかった。
私はただ、私がやるべきだと思ったことをしてるだけなんだけどな…。
「そうだ。ここに来たのは俺だけじゃなかったんだ」
「え? 他にも誰か来てるのかい?」
「はい。ほら来た」
再び保健室のドアが開くと、そこから見覚えのあるロングコートを着た男が。
あの人は…来てたのか。
いや…立場を考えれば来てるのは当然か。
「失礼します」
「塚内君! 君も来てたのか!!」
「刑事ですから。君も久し振りだね、クロウ」
「あぁ…そうだな」
今日は本当に懐かしい顔に会うことが多いな。
私って、こんなにも顔が広かったっけ。
「え? 塚内君はクロウ君と知り合いなのかい?」
「過去に何回か、個人的に捜査協力をしてもらったことがありまして。勿論、表向きには内緒になってますが」
「そんなこともあったな。懐かしいよ」
糞みたいな連中が多い公僕連中の中で、塚内さんは珍しく信用出来る人間だった。
だから私も、この人の頼みだけは基本的に断らないようにしている。
それだけの価値があると思っているから。
「話を聞いた時は驚いたよ。君が敵連合なんて連中と一緒に雄英に侵入してきたと思ったら、次の瞬間には子供たちを守るために単身ヴィランと戦ったと」
「それは結果論だし。雑魚共は相澤さんが殆ど蹴散らしてるし、私がやったのはオールマイトが来るまでの繋ぎさ」
「相変わらず、君は自分の手柄を主張するような真似はしないんだね」
「手柄自慢したところで痛いだけだろ」
少なくとも、私はそんな性格の女じゃないと自認している。
あと…普通に恥ずかしいし。
「さて…雑談はここまでにして。クロウ…さっき言ったとおり、お前からは色々と話が聞きたい」
「別にいいよ。うちの『ボス』からも『絶対に話すな』とは言われてないし。寧ろ、どんどん話してくれていい的なことまで言われたしな」
「どういうことだ…?」
「それはこっちが聞きたい。私も、あの人の真意は測りかねてるんだ。で? 何から話す?」
「まずは…お前の個性からだな」
「私の個性ね…」
ある意味、一番話していいことだけどー…。
「私の個性なら塚内さんも知ってるし、そっちから聞いたら?」
「そうなんですか?」
「一応ね。でも、君の口から話した方がいいんじゃないかな?」
「えー…」
自分で自分の個性の話をするって…微妙に恥ずい。
けど、そんなことが許される空気じゃないし…話すしかないか…はぁ…。
次回、クロウの個性とかのお話。
因みに、彼女が言ってた同居人はもう既に決まっています。
と言うか、かなり早い段階から決めてました。
私が真っ先に救済しようと思ったキャラです。