​『絶頂の守護者(ガーディアン) ―「イクイクの実」という最悪を授かった転生者は、不退転の努力で神域の覇道を行く―』   作:微糖コーヒー

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第2話:海賊狩りと鉄の自制

 

 

 1. 旅立ちの朝

 

 フーシャ村の港。朝靄が海面を白く覆い、潮の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 一隻の小舟が、静かに波に揺れていた。

 

 「……本当に行くのね、アルスくん」

 

 マキノさんが、寂しさと期待が入り混じったような複雑な表情で俺を見つめている。

 

 彼女の手には、旅立つ俺たちのために用意してくれた大量の食料が入った籠があった。

 

 「ああ。ルフィが言い出したら、もう誰にも止められないからな。……マキノさん、今まで世話になった」

 

 俺は深々と頭を下げた。転生直後、この世界での生き方を模索していた俺を拾い、人間としての温かさを教えてくれたのは彼女だ。

 

 俺は籠を受け取り、小舟に乗り込む。

 

 「アルス! 準備はいいか! 行くぞー!」

 

 ルフィが、村の人々に向かって大きく手を振る。

 

 十年前、シャンクスから託された麦わら帽子。それが、朝日に輝いていた。

 

 「おう、いつでもいいぞ。……おい、村長。あんまりそんな顔すんな。ルフィが海賊王になったら、この村も世界的に有名になるんだからな」

 

 「バカ者が。……有名になどならんでいい。元気に帰ってくれば、それでいいんじゃ」

 

 ウープ・スラップ村長が杖を突きながら、ため息をつく。

 

 村人たちの歓声と、少しの不安に見守られながら、俺たちの小さな船は桟橋を離れた。

 

 「ししし! 冒険だ! 広い海だー!」

 

 ルフィが咆哮する。その隣で、俺はオールを握りながら、腰に刺した一本の短刀を確かめた。

 

 能力は、まだ使わない。

 

 この海に出れば、俺を待っているのはフーシャ村のような温かい隣人ではない。奪い合い、殺し合い、そして相手の尊厳を削り合う──「本物」の世界だ。

 

 「よし、ルフィ。まずは飯の確保と……仲間探しだな」

 

 「ああ! まずは飯だ! 肉だ!」

 

 航海は、始まったばかりだった。

 

 2. 近海の主と「一瞥の毒」

 

 小舟が村から離れて数十分。

 

 突如として、海面が爆発した。

 

 「──出たな、化け物!」

 

 ルフィが身構える。現れたのは、かつてシャンクスの腕を食いちぎった、この海域の絶対強者「近海の主」だ。

 

 そびえ立つ壁のような巨躯。鋭い牙。

 

 だが、今の俺たちにとって、それは恐怖の対象ではなかった。

 

 「ルフィ、手を出さないでくれ。……こいつには、借りを返さなきゃいけないからな」

 

 「借りを? ああ、シャンクスの腕のことか!」

 

 俺は舳先に立ち、海王類を真っ向から見据えた。

 

 十年前。あの時、俺はただ震えて見ていることしかできなかった。

 

 だが今は違う。

 

 俺は静かに、「見聞色の覇気」を一点に集中させる。

 

 巨大な魚体の内側に流れる、膨大な神経信号。生命力。

 

 生物としてのランクは高いが、その分、脳の原始的な部分は「快楽」という報酬系に対して極めて脆弱だ。

 

 (脳幹から脊髄へ。……神経伝達物質、過剰分泌。──『昇華(アセンション)』)

 

 俺の視線が海王類の瞳と重なった。

 

 「────ッ!?」

 

 海王類の動きが、不自然に止まった。

 

 瞳孔が収縮し、巨大な顎がガクガクと震え始める。

 

 咆哮ではない。それは、内側から溢れ出す「未知の衝撃」に耐えかねた、悲鳴に近い震動だった。

 

 「……あ、ガッ、……」

 

 海王類の皮膚が波打ち、全身の筋肉が強制的な絶頂によって硬直する。

 

 この能力の真の恐ろしさは、相手が「巨大」であればあるほど、その全身を駆け抜けるパルスの総量が増大することにある。

 

 ドォォォォン!! 

 

 海面に叩きつけられる巨体。

 

 化け物は、瞳を白く濁らせ、涎のような泡を吹きながら、幸福と苦痛が混ざり合った「自失」の中に沈んでいった。

 

 「……し、ししし……。アルス、やっぱりそれ、すげぇな。あんなにデカい奴が一発かよ!」

 

 「……美しくないな」

 

 俺は掌を握りしめた。

 

 能力を使えば、これほどの巨体も一瞬で無力化できる。

 

 だが、俺が求めているのは、この「ズル」ではない。

 

 「ルフィ、今の俺はズルをした。……次は、能力なしでこいつを沈めてやるさ」

 

 「おう! お前ならできるぞ、アルス!」

 

 俺たちは、沈んでいく海王類に背を向け、進路を北へと取った。

 

 目指すは、シェルズタウン。

 

 そこには、後に俺たちの「右腕」となる男が囚われているはずだ。

 

 3. シェルズタウンと「腐った支配者」

 

 海軍第153支部がある町、シェルズタウン。

 

 そこは、町の人間が誰もが肩を窄め、海軍の建物を恐れるように見上げる、重苦しい場所だった。

 

 「なんだ、この町。みんなビクビクしてやがる」

 

 ルフィが不服そうに呟く。

 

 俺たちは町を歩き、情報を集めた。

 

 町の広場。そこには、十字架に縛り付けられ、炎天下で放置されている一人の男がいた。

 

 「海賊狩り、ロロノア・ゾロ……」

 

 俺はその男をじっと見つめた。

 

 三刀流の剣士。飢餓と渇きに耐えながらも、その眼光だけは死んでいない。

 

 彼を縛っているのは、海軍大佐モーガンの息子、ヘルメッポ。

 

 「おーい、ガムでも食うか? あはは、無理だよな。反抗する奴はこうなるんだよ!」

 

 ヘルメッポがゾロを嘲笑い、女の子が持ってきたおにぎりを踏みにじる。

 

 その光景を見ていたルフィの拳が震える。

 

 だが、俺の心はそれ以上に冷え切っていた。

 

 (……この程度のクズが、権力を持っただけで人間を『物』のように扱う。……反吐が出るな)

 

 俺はルフィに耳打ちした。

 

「ルフィ、お前はゾロを助けろ。……俺は、あの『腐った根源』を叩き潰してくる」

 

 「おう! アルス、お前の顔……すげぇ怒ってるな!」

 

 「ああ……。久しぶりに、教育(マッサージ)が必要な奴を見つけたからな」

 

 俺はルフィと別れ、海軍支部の内部へと向かった。

 

 門番の海兵たちは、俺の「見聞色」を避けることすらできない。

 

 壁を登り、窓を突き破り、俺は大佐の執務室へと足を踏み入れた。

 

 「誰だ、貴様は……! この私の許可なく入ることは許されんぞ!」

 

 そこにいたのは、右腕が斧と化した大男。モーガン大佐。

 

 彼は自分を称える巨大な像を作らせ、民衆を恐怖で支配している。

 

 「……許可? 腐った大佐の許可など、この海じゃゴミ以下の価値しかないぞ、モーガン」

 

 俺は冷ややかに言い放ち、一歩、歩み寄る。

 

 モーガンは斧を振り上げ、俺に叩きつけた。

 

 「死ね、ガキが!」

 

 ガギィィィィン!! 

 

 俺は、腰の短刀を抜くことすらしなかった。

 

 鍛え上げた前腕を「武装色の覇気」で硬化させ、斧の刃を直接受け止める。

 

 「……な、なんだと……!? 斧が通らん!?」

 

 「筋肉の鍛錬が足りないな、モーガン。……己の欲望ばかり肥大化させて、戦士としての基本を忘れたか」

 

 俺はモーガンの胸ぐらを掴み、そのまま壁に叩きつけた。

 

 海軍の英雄だと自称し、地位を笠に着て弱者をいたぶる。

 

 この男こそ、俺が最も嫌う「能力に溺れる」者と同類の存在だ。

 

 「貴様……殺してやる! 海軍を敵に回して、生きて帰れると思うな!」

 

 「海軍? お前のような寄生虫に、海軍を語る資格はない」

 

 俺はモーガンの目を見据えた。

 

 瞳孔の奥。そこに、絶望と快楽の特異点を打ち込む。

 

 「……『極限調教(エクストリーム・チューニング)』」

 

 「────ッ!! ぐ、はぁっ、あああああッ!!」

 

 モーガンの巨体が、執務室の床でのたうち回った。

 

 彼が今まで他人から奪ってきた尊厳。

 

 それを、生理的な屈辱として、彼自身の脳に叩き返す。

 

 「あ、あう、あ……っ! 気持ち……い……いや、やめろ、なんだ、これは……っ!!」

 

 大佐としての威厳。親としての権威。

 

 そのすべてが、溢れ出す「蜜」と汚物、そして止まらない絶頂の中で崩壊していく。

 

 モーガンは、自らの地位の象徴であった斧で床を掻きむしり、涎を垂らしながら、部下たちの前で醜態を晒した。

 

 「……これで終わりだ。お前は今日、ただの『性欲の塊』として、この町の人々の記憶に刻まれる」

 

 俺は意識を失ったモーガンを窓から放り捨てた。

 

 広場では、ルフィとゾロが海兵たちを圧倒している。

 

 俺はその喧騒を見下ろしながら、指を鳴らした。

 

 4. 船内の整体師(マッサージ師)

 

 事件は解決し、俺たちはゾロを仲間に加えて、再び海へ出た。

 

 小さな船の上。

 

 ゾロは全身傷だらけで、特に腹部の切り傷と飢餓による疲弊が激しかった。

 

 「……アルスとか言ったか。……ルフィから聞いたぞ。お前、妙な術を使うそうだな」

 

 ゾロが警戒混じりの視線を向けてくる。

 

 俺は苦笑し、彼の隣に座った。

 

 「ああ。……だが、俺の本職はこれだ。動くな、ゾロ。少し体を楽にしてやる」

 

 俺はゾロの傷口周辺の神経系に触れた。

 

「イクイクの実」の出力を、精密に、繊細に調整する。

 

 痛みの信号(ペイン・シグナル)を、リラックスと回復の信号へと変換する。

 

 「……ッ!? なんだ……温かい、力が……」

 

 「痛覚の閾値を操作しているだけだ。……同時に、成長ホルモンの分泌を促す。そのまま寝てろ。起きる頃には、傷は半分以上塞がっているはずだ」

 

 俺の指先が、ゾロの鋼のような筋肉を解きほぐしていく。

 

 ゾロの呼吸が、次第に深く、安定したものに変わっていく。

 

 世界最高の剣士を目指す男の、その「休息」を守ること。

 

 それが、俺に与えられたもう一つの役割。

 

 「……恩に着る」

 

 ゾロが小さく呟き、眠りに落ちた。

 

 ルフィはそれを見て、ししし、と笑っている。

 

 「アルス、やっぱり最高だな! 飯も美味いし、マッサージもできるなんて、お前は最高の仲間だ!」

 

 「……仲間の体のケアくらい、当然だろ。……ルフィ、お前も後でやるからな」

 

 「わーい! お願いしまーす!」

 

 海は広い。

 

 これから先、もっと多くの仲間が増え、もっと激しい戦いが待っているだろう。

 

 俺の手は、敵を絶望の淵に突き落とし、仲間を至高の安らぎへと誘う。

 

 「……さあ、次はどんな『クズ』が俺を待ってるかな」

 

 俺は水平線を見つめながら、静かに笑った。

 

 その瞳には、すでに次の目的地、オレンジの町への航路が浮かんでいた。

 

 

 





 次回予告

バギー海賊団、襲来。道化の王を待つのは、笑いか、それとも屈辱の絶頂か
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