『絶頂の守護者(ガーディアン) ―「イクイクの実」という最悪を授かった転生者は、不退転の努力で神域の覇道を行く―』 作:微糖コーヒー
1. 嵐の前の静寂と、ナミの孤独
東の海のどこまでも続く青い境界線を、ゴーイング・メリー号は切り裂いて進む。だが、船上にいつもの喧騒はなかった。
航海士ナミが船を盗み、姿を消した。残されたのは、彼女がこれまで一味と共に過ごした時間の断片と、拭いきれない「裏切り」の予感だけだった。
「……ナミさん。あんなに楽しそうに笑っていたのに、全部嘘だったなんて、俺は信じねェぜ」
サンジが、手慣れた手つきで煙草をくゆらせながら呟く。彼の手元には、ナミのために用意されていたであろう、冷めたシトラスティーが置かれていた。
「……嘘か真実か。それを決めるのは、本人に会ってからだ」
アルスは甲板で、一本の巨大な錨を片手で持ち上げ、その自重を利用して上腕三頭筋を追い込んでいた。一見、いつも通りのストイックな筋力トレーニングだが、その瞳には凍りつくような冷徹さが宿っている。
「ゾロ。お前も気付いているだろ。あの女の指先に、どれほどの『覚悟』と『絶望』のタコができていたか」
「……ああ。ありゃ、ただの泥棒の指じゃねえ。……何年も、重い何かを背負い続けてきた手の硬さだ」
ゾロは三本の刀を傍らに置き、砥石の音だけを響かせる。
一味はすでに、ナミの故郷であるココヤシ村へと近づいていた。
アルスの「見聞色」の覇気は、海風に乗って流れてくる「恐怖」と「支配」の臭いを鋭敏に捉えていた。それは、人間が発するものではない。より原始的で、暴力的な生命の波動。
(……魚人か。人間より10倍の腕力を持ち、水中で最強を誇る種族。だが、その強靭な肉体こそが、俺にとっては最高に『感度が良い』獲物になる)
アルスは錨を静かに置き、自身の指先を見つめた。
魚人には、水流のわずかな変化を読み取るための「側線」という神経器官がある。
それが、彼らを海中での無敵の捕食者にしている。
だが、その鋭敏すぎるセンサーに、もし「快楽」という名の毒を流し込んだら、どうなるか。
「……ルフィ。準備はいいか」
「おう! 当たり前だ! ナミを泣かせた奴を、俺は全員ぶっ飛ばす!!」
ルフィの咆哮が、水平線の向こうにそびえ立つ「アーロンパーク」へと届かんばかりに響き渡った。
2. ココヤシ村、八年の重圧
ココヤシ村に足を踏み入れたアルスたちを待っていたのは、希望を失った村人たちの死んだような瞳だった。
そして、海軍第16支部大佐、ネズミ。
「ヒヒヒ……ナミくん、約束の1億ベリーまであと一歩だったのにねぇ。残念だが、この金は海軍が没収させてもらうよ。……海賊から盗んだ金は、正義の金だからね!」
ヒゲを震わせ、下卑た笑いを浮かべるネズミ大佐。
彼の背後には、ナミが八年間、血の滲むような思いで貯めてきた金貨の山が積み上げられていた。
ナミは泥にまみれ、絶望の淵で自分の腕に刻まれた「アーロン一味」の刺青を、ナイフで何度も、何度も突き刺していた。
「……やめて……返して……みんなの、みんなの自由が……っ!!」
「ナミ」
静かな声が、彼女の耳に届いた。
顔を上げると、そこにはルフィが立っていた。
そして、その隣には、氷のような冷笑を浮かべたアルス。
「……どきなさいよ! あなたたちに関係ないでしょ! 早く、この島から出ていって!」
「……ナミ。お前の『嘘』はもう聞き飽きた。……貸しにしておいてやるよ。お前のこれまでの苦しみ、全部ひっくり返してやる」
アルスは一歩、ネズミ大佐の前へ歩み出た。
「な、なんだ貴様は! 海軍に刃向かうつもりか!」
「……正義、か。お前のような腐ったネズミがその言葉を口にするたびに、この海が汚れる気がするな」
アルスはネズミ大佐の瞳を、真っ向から射抜いた。
能力の発動。だが、今回は「絶頂」ではない。
「──『内分泌崩壊(ホルモン・クラッシュ)』」
「──っ!? ぎ、ぎゃあああああっ!?」
ネズミ大佐が、その場で自らの喉を掻きむしり、地面を転がった。
彼の体内では今、副腎皮質ホルモンが異常分泌され、ありとあらゆる恐怖と不安が1000倍に増幅されていた。
風が肌に触れるだけで、刃物で切り裂かれるような激痛。
日光が、脳を焼き切るような業火に。
ネズミ大佐は無様な悲鳴を上げながら、自らの指を噛みちぎらんばかりに震え、白目を剥いて失神した。
「……ゴミの処理は終わりだ。……さて、次は本丸だな」
アルスはネズミを蹴り飛ばし、アーロンパークの巨大な門を見据えた。
3. アーロンパーク、種族の驕り
「シャハハハ! 人間ごときが、この魚人帝国に何の用だ!」
アーロンパークの中心。巨大なプールに鎮座する、ノコギリザメの魚人アーロン。
彼の周囲には、六刀流のハチ、水鉄砲のチュウ、空手のクロオビといった幹部たちが並んでいる。
「ナミは俺たちの航海士だ。……返してもらうぞ」
ルフィが拳を固める。
だが、魚人たちは嘲笑う。
「下等種族の人間が、高貴な我々に命令するな! 腕力も、身体能力も、我々はお前たちの10倍だ!」
「……10倍、か。それは助かる」
アルスが、静かにプールの縁に立った。
彼の全身から、これまでにないほど濃密な「覇気」が立ち昇る。
「……何が助かるだと、小僧!」
クロオビが、魚人空手の構えで突っ込んでくる。
「千枚瓦正拳!!」
ドォォォォン!!
アルスは、その拳を真っ向から、左手一本で受け止めた。
「武装色の覇気」で硬化した掌は、鋼鉄よりも硬く、クロオビの拳を逆に粉砕する。
「……っ!? 馬鹿な、人間の腕力で、俺の正拳を……!」
「……お前たちの細胞の一つ一つが、人間より活性化していることは認めるよ。……だからこそ、その神経に叩き込む『刺激』も、人間より10倍速く、10倍深く伝わるということだ」
アルスの瞳が、怪しく輝く。
「──『側線共鳴:絶頂地獄(レゾナンス・オーガズム)』」
「────ッ!! ぐ、あ、あああああッ!!」
クロオビの巨体が、空中でくの字に折れた。
彼の全身を走る「側線」。水流を感じ取るための超敏感な感覚器官が、今、アルスの能力によって「最高強度の絶頂パルス」へと書き換えられた。
肺呼吸の苦しみさえも、エラを通り抜ける水の感触さえも、すべてが脳を焼き切る快楽へと変換される。
「あ、あう、あ……ッ! 気持ち……いや、死ぬ、死んでしまう……っ!!」
魚人空手の達人が、プールの水面でのたうち回り、その衝撃で巨大な波紋が広がる。
彼は自らの指でエラを掻きむしり、魚人としての矜持をすべて排泄物と共に垂れ流しながら、泡を吹いて沈んでいった。
「……貴様ぁッ!!」
アーロンが、自慢のノコギリ鼻を武器に突っ込んでくる。
だが、アルスは動かない。
「見聞色」で、アーロンの神経網を完全に掌握する。
「……アーロン。お前は人間を家畜と呼んだな。……なら、お前は家畜以下の、ただの『発情した魚』として終わらせてやる」
アルスの指が、空を裂くように振られた。
「──『深海への葬列(ディープ・プレジャー)』」
「シャハハ……あ……あ、ぎ、ぎゃああああああああああああああッ!!」
アーロンの叫びが、島全体に響き渡った。
彼の全身の細胞が、一斉に「絶頂」の閾値を超えた。
ノコギリのような鼻が、自分の意志とは無関係に勃起し、全身の皮膚が真っ赤に充血する。
アーロンは自分の脳が溶けていく感覚に、ただただ涙を流し、涎を垂らし、地面を這いずり回った。
かつてジンベエと共に海を駆けた誇り高い魚人は、今やただの、快感に溺れた無残な肉塊に成り下がっていた。
4. 浄化と整体:ナミの解放
戦いは終わった。アーロンパークはルフィの「ゴムゴムの戦斧(ギガント・アックス)」によって崩壊し、魚人帝国の野望は瓦解した。
宴の夜。村の人々が自由を祝う中、アルスは一人、ナミを村外れのミカン畑へと呼び出した。
「……ナミ。こっちへ来い。お前のその刺青、……いや、心の傷を癒やす時間だ」
「……アルス。……私、もう戦わなくていいの? 本当に、自由なの?」
ナミの瞳には、まだ八年間の悪夢の残滓が揺れている。
アルスは無言でナミの肩を抱き、彼女を草の上に座らせた。
「……お前の神経は、長年のストレスでボロボロだ。……今、すべてを吐き出させてやる」
アルスの指先が、ナミの「アーロン一味」の刺青の上を、優しくなぞる。
能力の解放。
それは、強制的な絶頂ではなく、母の温もりのような、あるいは深い眠りのような、究極の「癒やし」の波動。
「……あ、……ぁ…………」
ナミの体から、毒が抜けていく。
八年間、一人で耐え、一人で盗み、一人で泣いてきた。
そのすべての緊張が、アルスの「指先の魔法」によって、温かな涙へと変わって溢れ出した。
「……う、……うあああああああああああんッ!!」
ナミはアルスの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。
アルスはその間、一度も言葉を発さず、ただ彼女の背中を、神経を、優しく整え続けた。
イクイクの実の能力。それは、敵を壊すための刃であると同時に、愛する仲間を「救う」ための、世界で唯一の、最も淫らで最も慈悲深い「薬」だった。
数時間後。ナミはアルスの腕の中で、これまでになく安らかな寝息を立てていた。
その表情には、もう「泥棒猫」の影はない。
「……さあ、次はローグタウンか。……海賊王が死んだ場所。そこで俺たちを待っているのは、正義という名の『煙』か」
アルスは夜空を見上げ、独りごちた。
彼の指先は、すでに次の「クズ」と「仲間」を、神経のレベルで求め始めていた。
【次回予告:始まりと終わりの町、ローグタウン。白猟のスモーカーを襲う、煙さえも絶頂させる『神の指先』】