​『絶頂の守護者(ガーディアン) ―「イクイクの実」という最悪を授かった転生者は、不退転の努力で神域の覇道を行く―』   作:微糖コーヒー

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第7話:処刑台の残響と、白煙を穿つ絶頂の針

 

 

 1. 始まりと終わりの町の熱気

 

 「──ここが、海賊王が死んだ場所か」

 

 東の海(イーストブルー)の果て。偉大なる航路(グランドライン)への入り口に最も近い島、ローグタウン。

 

 ゴーイング・メリー号の舳先に立ち、アルスは眼前に広がる活気ある港町を見下ろした。

 

 潮風と共に流れてくるのは、多種多様なスパイスの香りと、行き交う旅人たちの喧騒。そして、それらを支配するように町の中央にそびえ立つ、巨大な処刑台。

 

 「ししし! 行こうぜアルス、ゾロ、サンジ、ウソップ、ナミ! 海賊王の処刑台を見に行こう!」

 

 ルフィは子供のように目を輝かせ、船が接岸するなり勢いよく飛び出していった。

 

 「おいルフィ! 勝手に一人で行くなと言ってるだろ!」

 

 ナミの制止も虚しく、麦わら帽子は人混みの向こうへと消えていく。サンジは「美女の香りがする」と鼻を鳴らし、ウソップは「伝説の武器屋があるらしい」と武器の整備を始めた。

 

 アルスは一人、甲板に残り、自らの右腕を静かに回した。

 

 彼の「見聞色の覇気」は、この町の全域に張り巡らされた「秩序」の正体を捉えていた。

 

 それは、路地裏の一角から立ち昇る、重厚で威圧的な白煙。

 

 (……白猟のスモーカーか。煙の能力(自然系)。物理攻撃が無効化されるロギアに対し、俺の『神経干渉』がどこまで通用するか……試すには絶好の機会だな)

 

 アルスは、自らの神経系を一時的に過負荷状態にし、感覚を研ぎ澄ませた。

 

 アーロンパークでの激闘を経て、彼の「イクイクの実」の能力は、より深淵へと近づいていた。

 

 単なる視覚情報の書き換えではない。

 

 対象の「存在そのもの」が発する微弱な生体電流を捉え、それを快楽の周波数へと共鳴させる技術。

 

 それは、実体を持たない煙ですら、理論上は「絶頂」させうる神の領域だった。

 

 「……さて、一仕事してくるか。……あの大馬鹿船長が、処刑台で騒ぎを起こす前に」

 

 アルスは軽やかに桟橋へと飛び降り、白煙の源流へと歩みを進めた。

 

 2. 鋼の自制と、美しき軍曹

 

 町を歩くアルスの前に、一人の海軍将校が立ちはだかった。

 

 眼鏡をかけ、真面目そうな雰囲気を纏った女性剣士。

 

 海軍本部軍曹、たしぎ。

 

 「そこのあなた。……腰に下げたその短刀、見せていただけますか?」

 

 彼女の視線は、アルスが護身用に携えている一本のナイフに釘付けになっていた。

 

 それはアルスが前世の知識と、この世界の希少な鉱石を組み合わせて自ら打ち出した、機能美の極致とも言える一品だった。

 

 「……悪海兵に貸す刀はない。どいてくれ、軍曹さん」

 

 「悪……!? 私は正義の海兵です! そのような不遜な態度は、剣士の名折れです!」

 

 たしぎが名刀『時雨』を抜き放ち、鋭い踏み込みでアルスに肉薄する。

 

 彼女の剣筋は真っ直ぐで、迷いがない。だが、アルスから見れば、その動きは「あまりに素直すぎる神経」の表れだった。

 

 「……真面目すぎるな、お前は。……少し、肩の力を抜いてやろう」

 

 アルスは刀を抜くことすらしなかった。

 

 たしぎの剣先がアルスの喉元をかすめる寸前、彼はわずかに指先を弾いた。

 

 「──『中枢鎮静:微睡(まどろみ)』」

 

 「──っ!? な……、……体が……」

 

 たしぎの全身から、一瞬にして力が抜けた。

 

 激しい戦意を支えていたアドレナリンが、アルスの能力によって「至福の安らぎ」へと書き換えられる。

 

 彼女は剣を握る力を失い、膝から崩れ落ちそうになった。

 

 アルスはその細い腰を支え、耳元で静かに囁く。

 

 「……正義を背負うのはいいが、神経が焼き切れるまで自分を追い詰めるな。……今のお前には、勝利よりも『休息』が必要だ」

 

 「あ、……ん……温かい……。私、何を……」

 

 たしぎの瞳は潤み、頬は桃色に染まる。

 

 イクイクの実の能力。それは、攻撃としての「絶頂」だけでなく、このように相手の精神を強制的に弛緩させ、無害化する「慈悲」の側面も持っていた。

 

 アルスは意識が朦朧としているたしぎを近くのベンチに座らせると、騒がしくなり始めた処刑台広場へと向かった。

 

 3. 処刑台の雷鳴と、白猟の猛攻

 

 広場にたどり着いたアルスが見たのは、絶体絶命の光景だった。

 

 かつての強敵、道化のバギーと金棒のアルビダが結託し、ルフィを処刑台に固定していた。

 

 「ハ~ハハハ! 派手に死ね、麦わらァ!!」

 

 バギーが剣を振り上げる。

 

 その瞬間、空が真っ暗に染まり、巨大な雷が処刑台を貫いた。

 

 轟音と共に処刑台が崩壊し、ルフィは奇跡的に生き延びる。

 

 「ししし! 儲けた! やっぱり生きてたぞ!」

 

 「笑ってんじゃねェ、ルフィ! 走るぞ!」

 

 ゾロ、サンジ、ウソップ、ナミが合流し、一味は港を目指して走り出す。

 

 だが、その行く手を阻むのは、最強の「壁」だった。

 

 「……ここから先は、一歩も通さん」

 

 白煙が渦を巻き、一人の男が姿を現した。

 

 海軍大佐、スモーカー。

 

 二本の十手(じって)を構え、口には二本の葉巻。

 

 彼の存在そのものが、この町に漂う白煙の正体だった。

 

 「……ルフィ、先に行け。ここは俺が止める」

 

 アルスが前に出る。

 

「アルス! だけど、あいつには攻撃が効かねェんだぞ!」

 

 「……大丈夫だ。俺の攻撃に、『実体』は必要ない」

 

 ルフィたちはアルスの言葉を信じ、土砂降りの雨の中を駆け抜けていった。

 

 4. 煙さえも喘ぐ:ロギアへの絶対干渉

 

 「……小細工は無用だ、小僧。……俺は煙だ。お前の拳も、能力も、俺を通り抜けるだけだ」

 

 スモーカーが体を白煙に変え、アルスを包囲するように広がる。

 

「ホワイト・アウト!!」

 

 周囲が真っ白な煙に覆われ、視界が遮られる。

 

 だが、アルスは動じなかった。

 

 彼は「見聞色」を極限まで広げ、空間に霧散したスモーカーの「意志の断片」を探り当てる。

 

 煙であっても、それを操るのはスモーカー自身の脳であり、神経だ。

 

 煙の粒子一つ一つに、彼の生体電流が流れている。

 

 「……スモーカー大佐。お前は煙になることで『痛み』を捨てたのかもしれないが……。代わりに、全身の表面積を『数万倍』に広げてしまったな」

 

 アルスの両手が、空中で複雑な文様を描く。

 

 「──『煙霧共鳴:極限感度(スモーク・オーガズム)』」

 

 「──ッ!? ぐ、……が、……ッ!?」

 

 白煙が、突如として激しく波打った。

 

 スモーカーの悲鳴が、煙の奥底から響いてくる。

 

 空間に広がっていた煙の粒子すべてに、アルスの放った「絶頂パルス」が共鳴し、それが一気にスモーカーの脳へとフィードバックされる。

 

 「な、なんだ……!? 煙の中に、指先が……舌が……這い回っているような……っ!! あ、あぐっ、あああああッ!!」

 

 スモーカーの姿が実体に戻り、雨の泥濘の中に崩れ落ちた。

 

 彼の巨体は激しく痙攣し、口からは二本の葉巻がこぼれ落ちる。

 

 煙という「広大な受容体」を持っていたことが、彼にとっては仇となった。

 

 アルスの能力は、煙の粒子を通じて、彼の脳を内側から焼き切るほどの快楽で蹂躙したのだ。

 

 「……煙を絶頂させるのは、初めての経験だったが。……案外、いい鳴き声を出すじゃないか、大佐」

 

 アルスは冷たく言い放ち、のたうち回るスモーカーを見下ろした。

 

 正義を標榜し、一切の妥協を許さない男。

 

 その男が、衆人環視の路地裏で、自分自身の能力によって引き起こされた「絶頂の檻」に囚われ、無様に腰を振っている。

 

 「……殺せ……、……俺を、殺せ……っ!!」

 

 「……殺しはしない。お前には、その『正義』の煙が、時として『淫らな毒』に変わることを、一生涯その魂に刻んでおいてもらう」

 

 アルスはスモーカーの胸ぐらを掴み、一気に絶頂の出力を「臨界点」まで引き上げた。

 

 スモーカーの瞳が白濁し、彼は全身を弓なりに反らせて、絶叫と共に深い闇(気絶)へと落ちていった。

 

 5. 偉大なる航路(グランドライン)への門

 

 港にたどり着いたアルスが見たのは、荒れ狂う海を背景に、出航の準備を終えたゴーイング・メリー号だった。

 

 「アルス! 早くしろ! 海軍が来るぞ!」

 

 ナミの声に、アルスは軽く手を振って応えた。

 

 船に飛び乗ると、ルフィが樽を用意して待っていた。

 

 「よーし! 全員揃ったな! 偉大なる航路へ入る前に、誓いの一足をやるぞ!」

 

 「俺は、オールブルーを見つけるために!」(サンジ)

 

「俺は、海賊王になるために!」(ルフィ)

 

「俺は、大剣豪になるために!」(ゾロ)

 

「俺は、世界地図を書くために!」(ナミ)

 

「俺は、勇敢なる海の戦士になるために!」(ウソップ)

 

 五人の足が樽の上に重なる。

 

 アルスは最後の一足を、静かに添えた。

 

 「……俺は。……この『最悪の力』で、仲間の夢を最後まで守り抜くために」

 

 ドォォォォン!! 

 

 樽が砕け、メリー号は巨大なリヴァース・マウンテンの急流へと吸い込まれていった。

 

 これから先、彼らを待ち受けるのは、これまでの海とは比較にならない怪物たち。

 

 四皇、王下七武海、そして世界政府。

 

 だが、アルスは確信していた。

 

 自分の指先が届く限り、いかなる強者も、彼の前ではただの「悦楽の奴隷」に過ぎないことを。

 

 「……さあ、開幕だ。……偉大なる航路(グランドライン)よ」

 

 荒れ狂う波飛沫の中、アルスの冷徹な微笑みが、稲妻に照らされて白く輝いた。

 

 

 

 




 【次回予告:リヴァース・マウンテンを越えた先に待つ、巨大なクジラ。そして、闇の組織『バロックワークス』の影。アルスの指先が、砂漠の王女を救い出す】
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