テオの背が白布の外へ消えた。
戸口の向こうでは、夕方の町が動いている。荷車の軋み。川から上がる湿った風。遠くで誰かを呼ぶ声。それらは布一枚を隔てると、別の場所のもののように鈍くなった。
閉じられた棺。畳まれた布。香炉の灰。花を抜かれた籠。葬儀の道具は、人の手で少しずつ片づけられていた。さっきまで、ロッカの靴先ひとつで動いていた視線は、もうそこにはない。
今は、誰の目も追い立てない。
戸口の女が戻ってきた。優しい顔になったわけではなかった。喪の家に余計な者を入れた疲れと、指輪が見つかった後の安堵と、台所へ指示を出す忙しさが、同じ顔の上に重なっている。
「こっちへ」
声に一拍遅れて、足が出た。
客として呼ばれたのか、台所の隅へ置かれるのか、まだ分からない。けれど、帰れとは言われていない。
廊下には、葬儀のために退けられた物が寄せてあった。畳まれた布。空いた花籠。蓋をされた油皿。濡れた雑巾の入った桶。家の者たちはそれらの間を行き来し、低い声で用を伝えている。死者を送る家は、静かに見えても働いていた。
台所の手前で、女の足が止まる。
湯気の匂いがした。
その匂いだけで、腹の奥が小さく縮んだ。豆を煮た匂い。根菜の甘さ。塩。油。木の椀に移る前から、食べられるものだと分かる匂いだった。
「先に手を洗いな」
桶が顎で示された。
桶の縁には、小さな白い木札が掛けられている。短い印が一つ。家の印か、死者の名か、ロッカには読めない。横には、白灰を入れた小皿と、擦り減った布が置かれていた。水面は浅く揺れ、窓から入る夕方の光を細く割っている。
袖を少し上げ、指を水へ入れる。冷たさが爪の間へ刺さった。水はすぐに濁る。白布に触れないよう気をつけていた手でも、食卓へ出せる手ではなかった。
白灰を指先に擦り込むと、細かい傷に少し染みた。
旅の途中では、手を洗うかどうかより先に、水が飲めるかどうかを考えた。井戸があれば飲む。流れがあれば汲む。湿った葉で拭うこともあった。食べる前に手を整えるなど、余分なことだと思っていた。
町では、そうではない。
誰かの器を持ち、誰かの卓につき、火を使って作られたものを受け取る。その前には、手を水に通す。汚れたまま食べることはできても、そのまま食卓へ出ることはできない。
桶の水に指を沈め、布で爪の横を拭う。汚れは完全には落ちない。細い傷も、爪の奥の黒さも残る。それでも、食卓へ出してよい手に近づいていく。
女は横目で見ていた。
「そこまでやればいい」
布を戻すと、水面に薄い灰が浮いた。濡れた手は、少し軽くなったようだった。
台所の奥から、椀の触れ合う音がした。
ロッカは立ち上がった。
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案内されたのは、広い食卓ではなかった。
葬儀の家で使う客間でもない。台所に近い、小さな控えの間だった。壁際に低い卓があり、古い椅子が二つ置かれている。使用人が急いで食べるための場所かもしれない。窓は小さく、外の光はあまり入らない。だが、卓の上には布が敷かれていた。
その布の上に、椀が置かれた。
湯気が上がる。
それだけで、しばらく手が動かなかった。
椀の中には、灰色の豆と、黄色く煮えた根菜の汁が入っていた。小さく刻んだ干し肉が少し浮いている。脂は多くない。けれど、表面に薄い輪を作って光っていた。横には、少し硬そうな麦パンと、細く刻まれた塩藻漬けが添えられている。上等な客へ出す膳ではない。葬儀の忙しさの中で、台所が急いで整えた食事だった。
木椀の側面には、小さな焼き印がある。二本の川筋を束ねたような印。セント家のものだろう。客のための器ではない。台所の者や倉の者が、急いで食べる時に使う椀かもしれない。
「食べな」
女の声がかかり、ロッカは椀を持った。
木の椀は、指に熱を返してくる。熱すぎるほどではない。だが、しっかりと火の近くにいた器だった。口へ近づけると、豆の匂いと塩の匂いが一緒に来る。
一口目で、喉が止まった。
熱が落ちていく。
舌ではなく、喉でもなく、もっと奥へ。空腹で固くなっていた場所へ、ゆっくり広がる。豆は少し崩れていて、根菜は柔らかい。肉は小さい。だが、噛むと脂が出た。塩気が強すぎるわけではないのに、体がそれを欲しがっている。
匙が椀の底へ当たる音だけが、しばらく続いた。
パンは硬い。けれど、汁へ浸すと縁から柔らかくなった。歯で割ると、麦の匂いが少し戻る。塩藻漬けは酸っぱく、塩がきついようだった。汁の後に食べると、舌が目を覚ました。
椀は、なかなか手から離れなかった。
師匠との旅にも、食べるものはあった。
赤黒い実。噛むと舌が痺れる草。火を通せば腹を下さない茸。硬くなったパン。木の根。野営の火で炙った何か。食べれば死なないもの。歩けるだけのもの。空腹を遠ざけるもの。
それらは食べられるものだった。
これは違う。
匙がまた底を擦った。
椀の中は、もうほとんど空だった。底に残った豆の皮と油の輪を、匙で集める。行儀がよいかは分からない。だが、残す気には到底なれなかった。
戸口の近くに、女の影があった。
急かしはしない。台所へ戻る用もあるはずなのに、すぐには動かない。目はロッカの顔ではなく、椀の減り方と、匙を握る指の方へ落ちていた。見張っていると言えば、そう見えなくもない。けれど、椀を下げるための手は、まだ出てこなかった。
「足りるかい」
椀から顔を上げた。
足りる、という言葉の意味を少し考えた。腹はまだ欲しがっている。けれど、これ以上求めれば、どこからが欲張りになるのかが分からない。
「足ります」
答えると、女の眉がわずかに動いた。
「まだ少しある」
台所の方へ声が飛ぶ。すぐに、小さな椀がもう一つ置かれた。最初より少ない。汁も薄い。それでも温かい。
今度は、少しだけ遅く食べた。
早く食べると、すぐに終わってしまうからだ。
椀を空にした後も、指は器の縁に残っていた。木の温度が少しずつ逃げていく。その逃げ方まで惜しかった。
女が空の椀へ手を伸ばす。一瞬、指が器の縁に残った。
椀と指の間で、女の視線が止まる。
「まだ食べるのかい」
「いえ」
椀を渡す。
手の中から熱が消える。卓の上には、パンの屑と、濡れた匙の跡だけが残った。
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施しではなかった。
村で投げられた残り物ではない。気味の悪い子供を黙らせるためのものでもない。師匠が草や果実を摘み、「これは食える」と渡してきたものでもない。
サレアの指輪を見つけたから、置かれた椀だった。
濡れた藁を退けても、小銭は出なかった。働き手として求められなかった。荷へ手を伸ばすことも許されなかった。手が動くことと、食事が出ることの間には、ロッカの知らないものがいくつも挟まっていた。
けれど、今は椀が置かれていた。
ボードンが言い、家の者が聞き、台所へ伝わった。灰豆と灯根を煮る火が使われ、木椀の底に焼き印のある器が、ロッカの前へ出された。戸口の女が好んでロッカを食べさせたわけではない。嫌っていても止められるものではない。いったん家のものになれば、人の気分だけでは消えない。
約束が家を動かす。
その家の動きの中に、ロッカの名が入っていた。
忌み嫌われた力が、食事になった。
その考えは、少し怖かった。
けれど、怖さより先に、腹の底の熱が勝った。
膝の上に置いた手には、まだ木箱の感触が残っている。ミリナの箱。薄い布の包み。金の輪。死者。そういうものの先に、今の椀があった。
女が器をまとめ、布で卓を拭いた。
汚れた場所を拭く動作は慣れていた。客に出した食事の後始末ではなく、家の用を一つ片づける手つきだった。
それを奇妙に感じた。
邪魔な子供でも、追い払う者でもない。
この家の仕事を一つ済ませた者として、食べさせられている。
卓上の椀の温度はもう消えていた。
それでも、腹の中にはまだ残っている。
息の奥で、何かが固まっていく。
物探し。
広場で口にした時は、ただの名乗りだった。
今は、その名乗りの先に、椀が一つ置かれている。
死者の残り香を辿れば、生きている者の家から食事を得られることがある。
それはひどく危うい理解だった。