[一部完結]戦闘不能のD級覚醒者、ダンジョンで198円のバジルを育てる 〜能力は「土いじり」だけ。10センチの土壁で推し(苗)を守る配信が、疲れた世界をそっと癒やしていく〜   作:AI teller

1 / 11
なろうでも投稿しています。




プロローグ:境界線の静寂

 ダンジョン出現から数十年。都市の地下、廃校、公園跡地などに亜空間への入口ゲートが開いている。

 

 日本国内だけでも数百、世界では数万のダンジョンが「日常の一部」として存在し、世界地図はダンジョンの所在地を中心に書き換わった。

 

† グリーンランド:氷点下40度 †

 

その日、人類は「世界の理」が物理的に引き裂かれる音を聞いた。

 

超特級ダンジョン――『ゼロ・グリーンランド』。

北緯七十度の永久凍土は、もはや“空間”そのものが壊死した終焉の地だった。

 

「……ダメね。これ以上の《断絶》は逆効果だわ」

 

世界ランク七位、レイチェル・アークライトは、ひび割れた結界の断片を見つめる。

氷河は灰色の砂に崩れ、沈黙のまま世界を喰らっていく。

 

世界ランク一位、ジェームズ・ホークの魔力でも、その侵蝕を僅かに遅らせることしかできなかった。

一度壊死した空間は二度と再生しない――それが覚醒者の定説だ。

 

「……もういい。引くぞ。これ以上は世界の『綻び』を広げるだけだ」

 

彼の声には、凍てついた理を前にした“敗北の静けさ”があった。

そして、その瞬間。

 

世界中のダンジョン計測器が、一斉に奇妙な波形を捉える。

地脈――地下深くを走る魔力の神経網が、かつてない逆位相の波を検知した。

 

テキサス、ロンドン、ソウル。各国のモニターが一瞬でホワイトアウト。

グリーンランドの悲鳴めいた空間音が、唐突に“消えた”。

 

「……音が、消えた?」

 

崩壊は止まっていない。だが、世界の中心から逆流する“静寂の波”が、ノイズを凍結させた。

死にかけた空間が、一瞬だけ――呼吸を取り戻した。

 

ジェームズは震える指でスマートフォンを取り出す。

 

動画配信プラットフォーム『DunCast』。

全通信が断たれた中、たった一つ、生き残ったライブ。

 

『わっすごい地震でしたね、聞こえますか? 安心してください、庭は無事でした』

 

新宿。ダンジョンの片隅。

ジャージ姿の青年がのんびりと頭を下げる。

 

次の瞬間、世界中の計測器が異常値を叩き出した。

 

【空間振動値:0.00】

 

「……嘘だろ」

 

世界最強の魔術師が血を吐くように笑った。

自分たちが命を削っても得られなかった“空間の安らぎ”を、地球の裏側で――一人の男が732円で生み出している。

 

『あ、GreenThumbさん、え、苗代として150万円!? 桁間違えてますよたぶん、え、どうしよう?』

 

ジェームズは氷原に血混じりの唾を吐き、笑った。

 

今、世界の視線がすべて“彼”に向かっている。

韓国の天才がその波形を解析し、イギリスの情報部が正体を追い、そしてアメリカの王が――その庭へ向かう決意を固めた。

 

人類最後の希望が、いま新宿の片隅で芽吹いた。

 

 

† ソウル:管理局管制室 †

 

「――警告! 空間振動値、計測不能! サーバーが落ちます!」

 

世界ランク三位、ユン・ソヒはガムを噛みながらその叫びを聞き流す。

その瞳にはモニターのノイズではなく、世界の“座標データ”が映っていた。

 

「……違う。バグじゃない」

 

彼女の視界で暴走する座標群が、一瞬だけ“純白”に上書きされた。

 

「全世界一斉にノイズが消失? ……これ、チートどころか運営の強制介入じゃない」

 

彼女は無表情で、ジャージ姿の男――通称『つちのこ』をロックオンした。

 

「やっぱり。――この人、世界を《修正デバッグ》してる」

 

 

† ロンドン:MI6分室 †

 

「レイチェルからの信号が途絶しました! グリーンランドは崩壊圏内です!」

 

混乱する分析官たちの中、初老の官僚がモニターを指差す。

「待て。今の『波』は何だ」

 

ロンドン塔地下の不安定領域。

何世紀も鳴り止まなかった“空間の軋み”が、新宿の庭でバジルが土に触れたその瞬間、止まった。

時間にしてわずか0.5秒。

だがその刹那、英国の魔力貯蔵庫が未曾有の純度で再充填された。

 

「発信源は日本……新宿か。直ちに現地評価官を動かせ」

 

官僚の目が細められる。

「これは覚醒者ではない。我々の“物理法則”を書き換える特異点シンギュラリティだ」

 

 

† イタリア:トスカーナ/元研究員宅 †

 

古びた本棚に囲まれた一室。老人は震える手でタブレットを見つめていた。

かつて世界崩壊理論を唱え、笑われて去った男だ。

 

「……来たか。ついに」

 

画面では、青年が不器用にバジルの苗を叩いている。

 

「暴力の時代は終わりだ。……お前が植えたのはただの植物じゃない。この死にゆく惑星への『縫い目』だ」

 

老人は埃まみれの研究ノートを再び手に取る。

 

「さて。この『つちのこ』君を――どうやって世界から守ろうか」




よければ https://aiteller.jp ものぞいてみてください 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。