[一部完結]戦闘不能のD級覚醒者、ダンジョンで198円のバジルを育てる 〜能力は「土いじり」だけ。10センチの土壁で推し(苗)を守る配信が、疲れた世界をそっと癒やしていく〜   作:AI teller

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第1話 D級の10センチ土壁

「配信を始めますね」

 

「えー、こんばんは。つちのこ先生こと柏木ハルです。本日も“ダンジョン庭いじり配信”やっていきます。視聴者数は……8人。いつもありがとうございます」

 

(Comments)

【常連A】きたきた

【常連B】今日も8人定員w

【gardenFan_03】ダンジョン配信界の「限界集落」へようこそ

【常連A】限界集落っていうか「実家」の安心感

【GreenThumb】Good evening. Ready for today’s session.(こんばんは。今日の配信、楽しみにしてました)

 

「毎週来てくれてありがとうございます。……一応、自己紹介しますね。たぶん全員知ってるけど」

 

「柏木ハル、24歳。平日はIT企業で事務してて、覚醒ランクはD級。能力は“土壌操作”です。戦闘能力は……ゼロ。」

 

(Comments)

【常連B】知ってる、知ってるw

【gardenFan_03】「戦闘能力:ゼロ」をドヤ顔で言うのハルちゃんくらいだよ

【常連A】【悲報】ハル、ついに攻撃手段が「スコップで指を詰める」しかなくなる

【gardenFan_03】↑それすら土壌操作で土に戻しそう

【常連B】もはや魔力を持ったただの「良い人」

 

「はい、それだけです。土のpHを整えたり、水分を調整したり。今はダンジョンで植物を育ててます」

 

「戦闘? 無理です。スライムに勝てません。覚醒テストの時、測定員に“……農業とか向いてそうですね”って言われて、目を逸らされました」

 

(Comments)

【常連A】測定員の優しさが一番残酷な件

【常連B】測定装置「お前……戦う場所、ここ(ダンジョン)じゃないぞ?」

【GreenThumb】The look-away is truly the final blow lol(目を逸らされるのが一番刺さるんだよね笑)

【常連A】スライムと鉢合わせても、無言で土壌改善して住環境整えてあげそう

 

「そう、あれは心に残る一撃でした。だから今日も、D級覚醒者の土いじりで癒しを届けます」

 

 †

 

「場所の説明をします。ここは『新宿御苑跡』の第3層、セーフエリアC-7です」

 

「名前の通り、昔の新宿御苑がダンジョン化した場所。」

 

「セーフエリアC-7は第3層の東側。広さは6畳くらいで、天井はなし。……カメラ上に向けますね」

「この薄紫の空。光源がどこにもないのに明るくて、昼でも夜でもない。永遠の夕暮れっていう感じです」

 

(Comments)

【gardenFan_03】毎回きれいだよな

【常連A】この空ほんと好き

【GreenThumb】The twilight sky never gets old.(夕暮れの空には飽きませんね)

 

「ですよね。戦ってる人は見上げる余裕もないと思うけど、D級はのんびり眺められます。唯一の特権です」

 

「足元はダンジョンの土。魔力を含んでいて……こうして触ると、ちょっと温かい。脈拍っぽい感触というか。たぶん俺にしかわからないけど」

 

(Comments)

【常連A】画面だと全然わからんw

【GreenThumb】Can you describe what you feel?(どんな感触ですか?)

【常連B】手が完全に「高級エステティシャン」の動きで草

 

「聴診器を当ててるみたいな感じです。土の声が聞こえる……までは言いすぎですね。ただ、今が乾いてるとか、疲れてるとか、そんな感じは伝わってくる」

 

(Comments)

【gardenFan_03】D級の能力、地味だけどロマンある

【常連B】土の声って詩人かな

【常連A】土「最近、配信の映えを気にしすぎて……疲れてます……」

【GreenThumb】Soil auscultation is an actual concept in agriculture.(“土壌聴診”という言葉、実際あるんですよ)

 

「へぇ、土壌聴診。英語だとめちゃくちゃ響きがいいですね。それ言えば俺の能力もかっこよく聞こえるかも」

 

「さて、本題です。今日はバジルを植えます」

 

(Comments)

【常連A】バジルまってた

【gardenFan_03】198円のあれ?

【GreenThumb】Basil in a dungeon… interesting.(ダンジョンでバジル、興味深いですね)

 

「はい、スーパーのサミットで198円。レジで『ダンジョンで使います』って言ったら二度見されました」

 

(Comments)

【常連B】当たり前だw

【常連A】店員さん、絶対に「ヤバい儀式の材料」だと思ってるぞそれ

【gardenFan_03】198円で世界初の試み

【GreenThumb】$1.50 basil in a magic dungeon. I love this stream.(1.5ドルのバジルが魔法世界へ。最高です)

 

「変わりませんよ。地味な実験です」

 

「じゃあ植えます。手を土に当てて魔力を流し……pH6.2、水分少なめ、少し上げます」

「見た目は何も変わりません。地味です。映えません。D級の宿命です」

 

(Comments)

【常連A】静止画みたいw

【gardenFan_03】でも好き

【GreenThumb】Trust me, soil conditioning by hand is impressive.(道具なしの土壌調整は本当はすごいんです)

 

「フォローありがとうございます。soil conditioningって言うと急に専門的でかっこいいですね」

 

「はい、植えました。バジル1株。6畳の荒野にぽつんと家を建てた気分です」

 

(Comments)

【常連B】ぽつーん

【常連A】庭の第一歩

【GreenThumb】Every garden starts with one plant.(すべての庭は一本の苗から始まります)

 

「いい言葉です。じゃあ……名前をつけましょうか」

 

(Comments)

【常連B】バジ太郎一択

【常連A】安直すぎて草。せめて「バジル様」にしろよ

【gardenFan_03】もうそれで定着しそう

【GreenThumb】Baji-Taro. I approve. :)(バジ太郎、いいですね)

【常連A】海外勢に「Baji-Taro」が承認される謎の国際交流やめろw

 

「決まり。君はバジ太郎。よろしく」

 

「……返事はない。植物だもんな」

 

(Comments)

【常連A】当たり前だw

【gardenFan_03】このテンポが癖になる

【常連B】植物相手に「シカトされた……」みたいな顔するのやめてもらっていいですかw

 

 †

 

「あ、ちょっと待って。何か来る」

 

「セーフエリアの境界……光の線の向こうに、影が見える」

 

(Comments)

【常連A】モンスター!?

【常連B】逃げろ!

【gardenFan_03】セーフエリアって安全じゃないの?

【常連A】入ってこれない……はず

【GreenThumb】Stay calm. Safe Areas are monster-proof.(落ち着いて。セーフエリアは結界で守られています)

 

「たぶん大丈夫。境界の外だから――あれ、グラスバードだ。星1の最弱モンスター。草でできた鳥みたいなやつ。体長30センチ、くちばしは痛そうだけど」

 

「……バジ太郎見てる」

 

(Comments)

【常連A】バジ太郎ロックオン

【常連B】守れーーー

【gardenFan_03】D級で勝てる?

【常連A】無理

【GreenThumb】He can't fight. But the barrier should hold.(戦えないけど、結界が守ってくれるはず)

 

「いや、ほんとに無理です。スライムにも勝てません。でも結界が――」

 

「……あ」

 

「入ってきた!?」

 

(Comments)

【常連A】!?!?!?

【gardenFan_03】結界意味ないじゃん!?

【常連B】植物系だから判定スルー説

【GreenThumb】Plant-type monsters can occasionally bypass barriers.(植物系は結界をすり抜けることがあります)

 

「今知った! バジ太郎に向かってる、くちばし開けた。食べる気だ、198円のバジルを!」

 

(Comments)

【常連B】バジ太郎逃げて!

【常連A】植物だぞw

【GreenThumb】Use your ability, quickly!(能力を使って!)

 

「土壌操作……戦闘には使えない。でも、壁くらいなら!」

 

 手を地面に叩きつけ、魔力を流した。

 バジ太郎の周囲に土が盛り上がる。高さ10センチ。円形の小さな壁。

 

 グラスバードがつつく。こん、こん。もう一度、こん。

 

「……10センチの壁。あいつ30センチあるけど、まあ、気持ちです」

 

(Comments)

【常連A】10センチwww

【常連B】心理的バリアw

【GreenThumb】Symbolic defense, but not bad.(象徴的な防御だけど、悪くない)

 

 グラスバードが首をかしげ、さらにこんこん。

 だが壁は崩れない。魔力で固めた土。粘土より硬い。

 

「……諦めて、帰れ……」

 

 やがてグラスバードはくちばしを引っ込め、3歩下がって境界の外へ。

 振り返るその目に、微妙な敗北の色があった。

 

(Comments)

【常連A】勝った!?

【常連B】10センチで!?

【gardenFan_03】飛ぶ気ゼロw

【常連A】鳥「えっ、低すぎて逆に入りづらいんだけど……」

【常連B】戦慄!「入ったら負け」の空気感を作り出すD級スキル

【GreenThumb】The wall held. Magical compression worked.(壁は持ちました。圧縮硬化、見事です)

 

「勝った……のか? 飛ぶ知能がなかったおかげで助かりました。世界最小の勝利」

 

「バジ太郎、無事です」

 

(Comments)

【常連B】バジ太郎ーー!!

【常連A】守り抜いたw

【gardenFan_03】198円の奇跡

【常連B】「全米が泣いた」の最小単位。全俺(8人)が泣いた

【GreenThumb】Well done. Your basil survives another day.(よくやりました。バジルは今日も生き延びましたね)

 

「はい、というわけで、バジ太郎を植えて、10センチの壁で守りました。D級でも庭はいじれる。来週も土曜の夕方5時、また会いましょう」

 

(Comments)

【常連A】おつー

【常連B】来週絶対見る

【gardenFan_03】面白かったw

【常連A】来週までにバジ太郎が食われてないことを祈る

【GreenThumb】See you next Saturday.(また来週)

 

 †

 

配信終了。気がつけば最終視聴者数は12人に増えてた。

 

10センチの土壁に触れる。魔力で固めた土は、グラスバードを追い返し、バジ太郎を守りきった。

 

「お前も頑張ったな」

植物は答えないが、198円の苗とD級の能力でやり遂げた手応えがある。

 

地上へ戻り、ゲートの検問を通る。

「怪我はないですか? ダンジョンで何を?」

怪訝そうな職員・澤村に、俺は正直に答えた。

 

「庭いじりです。バジル植えてました」

 

絶句する彼をあとに、俺は次の計画を練る。

来週はトマトの苗も持っていこう。

6畳の空き地に、2株目。

 

庭と呼ぶにはまだ早いが、それだけで十分だった。




よければ https://aiteller.jp/ ものぞいてみてください 
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