その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~ 作:onakatarumi
カクヨムに投稿しているものをこちらにも載せさせていただくこととしました。
(同時に「小説家になろう」「ノベルアップ+」にも投稿)
よろしくお願いします。
一章転換点まで一気に投稿……したかったはずがうまくいず15分毎投稿です。
【ギルド憲章 第六条】
冒険者ギルドは独自の戦力を保有しないものとする。
ギルドは軍備を持たず、いかなる軍事行動も行わない。脅威への対処はすべて、後援国家の戦力、あるいは後援国家から依頼を受けた冒険者によって行われるものとし、ギルドは仲介者としてのみ存在する。
◆ ◆ ◆
ダンジョンに潜り、モンスターを狩り、ドロップアイテムを得る冒険者。
そんな冒険者たちを管理する冒険者ギルドの職員に、ドロップアイテムを用いて、様々な利益をあげる商人。そんな社会の健全な構成員たち。
だが、それらいずれにも馴染めない者は、いつの世にも存在する。
言葉を選ばずに言うのであれば、落伍者。
更に落伍者の中でも最悪の部類の属する者――暴力を好みながらも冒険者として日々ダンジョンに潜ることを生業として選ばなかった、
そんなならず者の一党がその日、王国領アルノーの旧市街にある廃屋へと集まっていた。
「ギリギリになっちまったが、どうにか間に合ったな」
「あの連中、足元見やがって! さんざ値段を吊り上げやがる!」
「だが、これさえありゃ、元はすぐにとれる!」
十五人ほどの男たち。いずれも風体が悪い。実際に全員が恐喝や窃盗、強盗の常習犯であり、幾つかの街では手配書が回っていた。
男たちは例外なく興奮した様子であった。
原因は、彼らが取り囲んだ机の上にあった。
更に言うならば、机の上に置かれた箱の中の『魔具』。
それこそが彼らに高揚をもたらしている。
「ヒッヒッ、衛兵団しか使えない三等危険魔具! それが三〇杖!」
人間の肘から先ほどの長さのある、黒い杖を取り上げて、ならず者の一人が笑う。
『無弦の鉄弓』、あるいは単に『鉄弓』と呼ばれる杖型の魔具であった。ダンジョンにおけるドロップアイテムである。
起動し、引き金を引くことで人差し指ほどの長さの鉄針が射出される武器であり、連続発射可能数は五発。
「ダンジョンじゃあ大して約に立たねぇが、地上だったら上級冒険者だろうが殺せる!」
ならず者の言葉どおり、『鉄弓』はダンジョン内では大して役に立たない。上層の弱いモンスターを倒すには十分だが、中位のモンスター相手には力不足。
だが、地上となると話が違う。
高レベルの冒険者であっても、魔力に満ちたダンジョン内と違って地上ではその力は大きく落ちる。
再びダンジョンに潜れば元の力は取り戻せるが、日が経つにつれて力の喪失の度合いは大きくなる。
故に『使用者の魔力を消費せずに扱える』という特性を持つ魔具は、地上での保有・流通・使用が厳しく制限されている。
衛兵団や騎士団の手元にしか無いはずの魔具。それがいま、ならず者たちの目の前にある。
「親分、明日なんでしょう? ルナ・リングハートがこの街に来るのは」
「ああ。間違い無ぇ。しかも前回ダンジョンに潜ってから数日は空いてるって話だ。間違いなくステータスダウンしてる」
彼らは、密売によって手に入れた『鉄弓』で冒険者を襲い、その装備品を奪うことを目的としていた。
たとえレベル50や60に到達した上級冒険者であっても、『鉄弓』の一斉射撃を受けたらばひとたまりもない。装備品の補正があればその限りでは無いが、二撃目、三撃目を防ぐことは困難極まる。
「魔導列車は隣街までしか続いてねぇ、ルナ・リングハートはこの街まで馬車を使う。途中の森なら隠れる場所は事欠かねぇ」
「レベル65の冒険者の装備! 一体いくらで売れるんですかね?」
「ルナ・リングハート! ヒヒッ、美人ってぇ評判だぁ」
「なぁに考えてやがる。穴を開ける余裕があっても、穴をどうこうする余裕なんざねぇよ!」
頭目は下卑た想像をする部下をどやしつける。
「馬車の外からしこたま撃ち込んでぶっ殺す! 装備を奪う! 魔導列車に乗って帝国領までトンズラだ」
「連中が言ってたが、帝国では違法魔具を買い取って――」
手に手に『鉄弓』を持ち、興奮した面持ちで話し合うならず者たち。
だが、その会話は中断することになる。
ドンッ! という激しい激突音と共に、入口の扉が吹き飛んだ。
旧市街に似合わず頑丈な造りで、施錠もされていたはずの扉。
それが男達の頭上を超えて放物線を描き、部屋の奥へと落ちて埃を巻き上げる。
頭目を含めた反応の良い何人かはとっさに『鉄弓』を構えるが、大半は驚いて身をすくめることしかできなかった。
「なんだぁ!?」
「ご歓談中に失礼するぜ」
ゆっくりと、一人の男が姿を現した。
黒猫色の髪に同色の瞳。身にまとっているのは事務服だが、腰には剣を下げている。その男は、ひどく気だるげに言った。
「あんたらのお楽しみ会のせいで、オレは残業だ」
「てめぇ! 何者だ!」
「冒険者ギルド職員。ムクロ・スパルダ」
ならず者たちの顔色が変わる。
冒険者ギルドを介さない魔具の取引は重罪である。男たちが手に持つ『鉄弓』のような三等危険魔具となれば、罪の度合いは一気に跳ね上がる。
魔具の違法取引がバレて、ギルドが衛兵団を引き連れて摘発にやってきた。男たちはそう解釈した。
だが。
「おめぇ、一人か?」
「そうだよ。オレが一人で残業を押し付けられたんだ。可哀想だろ?」
見晴らしの良くなった入口の向こうには、誰の姿も見えない。夜の旧市街の静寂が広がるばかりである。
それは常の姿。都市機能の中心はダンジョンの近くにある新市街に移行して、この旧市街にはほとんど人が住んでいなかった。だからこそ、ならず者たちのねぐらになっている。
「ギルド職員が一人で来て? 俺達が許してくだせぇと投降するとでも思ったのか?」
「その通り。どうかビビって投降してくれ。ああ。口上が必要か? えっと。――君たちは危険魔具管理法に違反している。冒険者資格を持っている場合は冒険者倫理法にもだ。さもないと」
ムクロ・スパルダと名乗ったギルド職員の男は、腰に吊った剣へと手を伸ばした。
その仕草に、
(
だがもしや。目の前のこの男は。ギルドが密かに隠し持っているという、都市伝説めいた噂の存在なのではないか。
「『
ならず者の頭目はスキルを発動した。頭目は冒険者を生業にこそしていないが、冒険者としての登録はしている。
いや、およそこの世で冒険者登録をしていない者のほうが少ない。
ダンジョンでモンスターを倒すことで得られるステータスの恩恵は極めて大きい。ダンジョンに入らない理由が無い。ステータスを得ない理由が無い。
それこそ、ギルド職員でも目指していない限りは。
そして、魔具の取引で偽物を掴まされないために、頭目はつい昨日ダンジョンに潜りステータスを活性化させたばかりだった。当然、スキルも使える。
『
結果は、どちらも無反応。つまり。
「剣ぶら下げてイキがりやがって! レベル0のステータス無しじゃねぇか!」
頭目が鑑定結果を叫ぶと、これまで緊張していた周りのならず者たちも余裕を取り戻し、色めき立つ。
「舐めやがって! ギルド様の看板だけでどうにかなると思ったのかぁ!?」
「魔具でもねぇ剣でどうにかなると思うんじゃねえぞ!」
盛んに叫ぶならず者たちを見て、ムクロなる男は恐怖するでもなく。
ただ黙って肩をすくめた。
あまりに彼らを舐めた態度。
頭目に覚悟を決めさせるにはそれだけで充分だった。
一度怯えてしまった恥を濯ぐために、ことさら大声で命じる。
「予定変更だ! ここでコイツをぶっ殺す! すぐ町を出て森へと潜む! 明日になったら馬車を襲って、装備を奪ってトンズラだ!」
頭目は構えたままだった『鉄弓』の引き金を引いた。
握りの部分に埋め込まれた魔石が輝き、その輝きが伝わるかのように杖全体が薄く光る。『鉄弓』に共通の作動音。秋虫の鳴き声のような音が響き。
『鉄弓』の先端から凄まじい速度で鉄針が射出される。
ギルド職員を名乗った男、ムクロ。
その身体の中心を狙って撃ち出された鉄針は、しかして背後の壁に突き刺さった。
素早い動きでムクロが身を屈めたのだ。
「どういうこった? レベル0の動きじゃねぇ……」
「そもそもステータス無しがあの頑丈な扉を蹴破れる時点でおかしいですぜ! 親分! こいつは何か、ヤベェ!」
ならず者の一人が怯えながら叫ぶ。それを聞いて、感心したようにムクロは口笛を吹いた。
「カンのいい奴もいるじゃねぇか。そのカンは大事にしろよ。そういった――」
頭目はムクロの言葉を最後まで聞かなかった。
部下の言葉も無視した。叫ぶ。
「全員撃て! ぶっ殺しちまえばヤベェもなにも関係ねぇ!」
頭目の言葉に、ならず者たちは一斉に、手に持った『鉄弓』の引き金を引いた。
ムクロを半円状に取り囲む形から鉄針が放たれる。発射の際の秋虫音が連続する。
その数、合計で14発。更に連射され、28、42……。
地上であれば上級冒険者すらも殺しきれるだけの鉄針の嵐が、ムクロへと殺到する。
左右に逃げようとしゃがみ込もうと、絶対に避けきれないだろう弾幕に対して。
ムクロはただ、腕をふるった。
鉄針が壁へと突き刺さる音だけが妙に小気味よく響き渡る。
「なんだコイツ!? なんなんだよコイツ!?!?」
当初、余裕の表情を浮かべていたならず者たちだったが、『鉄弓』の連射が3連射目になるころには、驚愕と恐れを顔面に貼り付けていた。
ムクロは、腕を振るい鉄針をはたき落とし、あるいはすくい取るかのように鉄針を
およそ地上では上級冒険者でも不可能な超速の動き。
その場から一歩も動かずにいるのに、一切の攻撃が当たらない。
ならず者たちが『鉄弓』を撃ち尽くしたのを見て、ムクロは静かに口にする。
「危険魔具の所有。その使用。ギルド職員への殺害未遂。――これだけ揃えば死刑は確実だな」
笑みと呼ぶには獰猛に過ぎる表情をムクロは浮かべた。
「ありがとよ。お陰で罪悪感無く、お前らをぶっ殺せる」
言葉が終わるやいなや、ムクロは腕を振るう。
「ギャッ!?」
「ゴッ!?」
「こいつ、撃ち返してきやガッ!?」
掴み取った鉄針を、ムクロは肘から先の動きだけで投擲していた。
『鉄弓』から撃ち出されるよりも、遥か高速で放たれた鉄針が、ならず者たちの顔面を、胴体を、心臓を貫く。
あるいは脳を破壊され。あるいは臓器を引き裂かれ。あるいは心臓を吹き飛ばされ。
「ひいっ!?」
「やめてくれっ!?」
身を翻して逃げ出そうとした者も容赦なく。ならず者たちは次々と命を絶たれる。
悲鳴。
鉄針が空気を切り裂く音。
肉と骨が砕ける硬質で湿った音。
命なき肉体が地面に倒れ落ちる音。
即死できなかった者のうめき声と、沈黙。
それらがすべて収まって。
すすり泣く声だけがひとつ残った。
しばらくして。
惨劇の小休止を悟り、すすり泣きの主が声をあげる。
「おっ、オレは! オレは撃ってない! だから罪は! 軽い! 殺されるほどのことはしてねぇ!!」
それは、最初にムクロを指して何かがおかしいと看破した男だった。
彼だけは『鉄弓』の射撃に参加せず、最初からずっと地面にうずくまっていたのだった。
「確かに。あんたの罪状は死ぬほどではない」
「だ、だろう?」
一人残った男は、生存の可能性を見出した。涙と鼻水でグシャグシャになった顔に希望が差し込む。
「だから、あんただけは――罪悪感とともに殺してやる」
「あ――」
希望を顔に貼り付けたまま。
心臓を鉄針で撃ち抜かれて、最後に残った男が死んだ。
ムクロは、自らが殺した相手の死に顔をしばし眺めてから。静かに廃屋を後にする。
しばらくの時間を外で待つ。すると、外套をまとい顔を隠した複数の人影が彼に近づいてきた。
見届人であり、後始末役であり、連絡役でもあるギルドの者たちだった。
ギルド職員として表の顔を持っているかどうかはムクロは知らなかった。
その内の一人が、頭を下げてから話しかけてくる。
「ご苦労さまです。ムクロ・スパルダ氏」
「ああ。とりあえず同士討ちに見えるようにやっといた。斬り殺すより誤魔化すのは楽だろう」
「ご配慮、感謝します」
腰に
その顔には倦怠がある。
「ったく。こんなのはオレの仕事じゃねぇだろ。普通に衛兵団に通報すりゃ良いだろうが」
「アレだけの数の魔具が流出していると露見するのはギルドにとって失態ですし、制圧に際して衛兵団に被害が出る可能性もありましたので……」
「ふん。ギルドの失態隠しのためだけに殺されたならコイツらも哀れだったが。まあ、間接的な人命救助にもなったわけか。それを慰めとするかね」
ムクロが耳にした限り、今日死んだ犯罪者たちの計画はだいぶ大雑把なものだった。遅かれ早かれ、どこかで命を落としていただろう。
問題は、その程度の犯罪者集団の手にすら大量の魔具が渡ってしまうという状況だった。
冒険者ギルドもこれからその対処をしていくことになるはずだ。
ただ、ムクロはそれをどうにかする立場に無い。
彼の役割はもっと別のところにあった。今回は、たまたま別件で彼が近くにいて、ギルド長が丁度いいと押し付けてきた規定外労働、残業だった。
「んじゃ、オレは帰る。あとはよろしく頼んだぜ。明日も朝から仕事なんだ。――表のほうの」
「はい。お気をつけてお帰り下さい」
◆ ◆ ◆
ムクロが旧市街の夜の闇に消えて、残されたギルドの者たちは廃屋へと踏み込んだ。
そこに広がる惨憺たる光景を目にして、傷一つ負うこと無くそれを成し遂げた男の能力のほどを推し知る。
「あれが、
「そうだ。我ら冒険者ギルドが、真の目的を果たすための最重要人物」
冒険者ギルド。
公平、中立をギルド憲章に誓い、国家をまたぎ、大陸世界の安定のために活動している組織。
その冒険者ギルドの中でも、一部の限られた者たちが望む
ギルドの連絡員たちは、その悲願を示す言葉を唱和した。
「
第一話を最後まで読んでいただきありがとうございます。
初投稿にして初長編への挑戦ですが、プロット出来ているので完結まで頑張ります。
現在第一章までは執筆済み、二章以降を毎日書いて、月・水・金 の20時投稿を維持するつもりです。
未熟な拙作なれど、応援ありますと励みになります。よろしくお願いします。