その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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1章 最終話 刃は交わり、終わりは始まり

 

 ダンジョンが生み出す偽りではない、本当の魔法。

 

 それを扱う者同士の戦闘は、ひとつの魔法の存在により、ある形へと収束する。

 その魔法とは『魔法妨害』。

 相手の魔法を妨害する魔法こそが、もっとも速く、もっとも簡易に発動できる。

 世界に変われと命じるほかの魔法に対して。あるがままでよいとする魔法であるがゆえに。

 

 つまり、魔法使い同士が相対した場合、魔法による攻撃より先に、それを妨害することができる。

 攻撃魔法を行使しようとしても、もう一方は発動前にそれを潰せる。それはお互いに同様であり、千日手に陥る。

 

 この状況を脱するひとつは。

 相手の妨害魔法の射程外から、物理的作用を持つ魔法を行使すること。

 例えば鉄の(つぶて)を高速射出すれば、すでに加速し物理現象と化したそれを妨害魔法で防ぐことはできない。

 

 だがその場合、攻撃を受けた側は防御魔法を使うことができるため、不意打ちを除いて遠距離からの攻撃が決定打となることはない。 

 

 もうひとつの方法こそが魔法戦闘の真髄。

 『魔法妨害』が効果を及ぼさない魔法。

 

 世界ではなく自身の内側に働きかける魔法である『身体強化』。

 それを用いての()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

 『身体強化』魔法を行使したうえでの、完璧な踏み込み。

 跳躍の中で鞘に収まった片刃剣を抜き放ち、その抜き放つ動作そのものを攻撃として、一撃でグラウの首を断つ。

 

 それがムクロの戦闘の組み立てであった。

 

 『身体強化』を用いた者同士の白兵戦闘は、時間の経過とともに互いの戦闘力は落ちる。高速での戦闘・判断の繰り返しは、集中力という無形の有限資源を消費しながら行われるものだからだ。

 

 故に、一撃決着。それが最適解。

 

 だが、ムクロの目論見は外れた。

 グラウは想定よりも機敏に反応して、その身をそらす。

 

「ちっ!」

 

 ムクロの放った刃はグラウの首筋をほんのすこしかすめるに留まった。

 攻撃を失敗して着地するムクロに対して、間髪入れずにグラウの反撃が見舞われる。

 

 両手で握った鉄棍が唸りを上げて迫りくる。質量と速度を兼ね備えたその破壊力は、ムクロの片手剣の比ではない。

 打ち合う愚を避け、ムクロは大きく距離をとることでそれを回避した。

 

 両者、息を整える。

 

 グラウの首筋につけられた小さな傷はその間に瞬く間に塞がる。

 『身体強化』の魔法と同様の理屈により、『妨害魔法』で打ち消せない魔法。自身に対する『回復魔法』だった。

 

 ムクロにとって、その魔法の存在は厄介だった。ムクロは回復魔法が得手ではない。修練を積んでも、『身体強化』と同時に使用することは出来なかった。

 ギルド長ファラキアが言っていた、つまりは彼女の()()()である賢者ローゼンクロイツ・パラケルススの理論によれば、魔法文明第二段階の限界。個人が行使できる魔法の限界。

 

「ダンジョンはもっと強力な魔法や、もっと遠距離から攻撃ができる技術をもっているはずなのに、それがボクら現地の『端末』に与えられることはない。彼らのその判断には、ときおり疑問を抱かずにはいられないよ」

 

 鉄棍を油断なく構えたまま、グラウは穏やかに語った。

 

 その語りかけは余裕では無い。

 今の打ち合いを踏まえて、お互いの戦闘力を想定から修正し、戦闘の組み立てを行う、そのための時間稼ぎとムクロは見た。

 

「なにか制限があるんだろうな。なにせ、奴らは()()()()()じゃない」

 

 ムクロの側も、戦闘の組み立てを行う時間が必要だった。ために会話に応じる。

 

 相手を一方的に屠れる能力差が無い限り、不用意な攻撃はたちまち命取りとなる。

 素早く、慎重に、果断に、臆病に。矛盾した要素を束ねて勝利への道筋を辿らなければならない。

 

 

 技量は拮抗。

 武器に関しては、互いに一長一短。

 

 取り回しと振り抜く速度に関してはムクロの片刃剣が上回るだろう。

 グラウの鉄棍は、取り回しこそムクロのそれに劣るが、代わりに耐久力と威力が大きい。

 

 そして、身体能力は、ややグラウ有利。

 

 鉄棍の取り回しに難があると言っても、グラウの膂力と技量を持ってすれば切り返しに大きな隙が出来るとも思えない。

 

 更には『回復魔法』。これは明確にグラウの得意分野。生半可な攻撃では即座に回復されてしまうが、ムクロは攻撃を受けた場合、『身体強化』を切らないと回復できない。

 

 最初のような半ば不意打ちじみた一撃とは違い、ここから先、鉄棍の攻防をかいくぐりグラウの身体に致命の刃を叩き込むことは、極めて困難。

 であれば。どうするか。

 

「哀れと思うかい。そんな知性ですら無い存在に従うしかない僕らが」

「ああ、だからオレが、解放してやる」

「うん。もはやボクも、キミを殺すしかできない」

 

 お互い、戦闘の組み立ては終わった。

 

 ほぼ同時に、お互いの攻撃圏内へと踏み込む。

 

 グラウの振るった鉄棍を、ムクロは回避する。

 

 鉄棍が目標を捉えられずに泳ぐ間に。ムクロが踏み込もうとし、素早い切り返しにそれを断念する。再びの距離をとっての回避。

 

 それだけのやりとりに、ムクロの敗北が匂い立つ。

 戦闘の長期化を予感させるものだったからだ。

 

 鉄棍と片刃剣。同等の膂力で打ち合えば押し負けるのは質量に劣る片刃剣。それが道理。

 

 ゆえにムクロは打ち合いを選ばず、グラウの鉄棍を回避してから、泳いだ身体に剣を叩き込む。それがムクロの勝機。

 

 対してグラウは、避けられる想定で放った鉄棍を切り返し、刃が届くより先に踏み込んできたムクロを轢殺する。それがグラウの勝機。

 

 刃筋を通さねばその威力を発揮できないムクロに対して、グラウの鉄棍はその質量故に動いて当たれば致命打を与えうる。

 

 取り回しの速さが片刃剣に劣っても、取り回しの効率は鉄棍が遥かに上。

 

 だが拮抗した技量は互いの勝機を容易に通すことを許さない。

 結果、双方ともが避けたい集中力の削り合いに戦闘の段階は移行する。

 削れた集中力の分、相互に失着を犯す可能性が累積しつづける泥沼へ。

 

 双方ともが避けたいが。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 グラウの側にだけ『身体強化』と同時使用できる『回復魔法』がある以上、一手の仕損じの重さが決定的に異なる。

 

 互いの一手に極限を込めて、再び、グラウとムクロの致死圏が重なる。 

 グラウの鉄棍が振り下ろされる。

 

 そこで。筋肉と同様に強化されたグラウの視覚が。ムクロの一挙手一投足を見逃さんと研ぎ澄まされたそれが。()()()()()()()

 

 ムクロもまた片刃剣を振り下ろしていた。

 打ち合いは悪手。

 悪手は敗北。

 

 ほんの二合目の打ち合いにして、ムクロは失着を犯したのか?

 果たして。

 

 ムクロは打ち合う軌道で片刃剣を振り下ろしたが、しかし、()()()()()()()()()()()()

 

 片刃剣はグラウの鉄棍の横をギリギリ通り過ぎる。

 ムクロによる斬り下ろしの動作の目的は、()()

 

 だが。グラウの攻撃範囲内への踏み込みは、返す動きで致命の一撃を受けることを意味する。

 

 ムクロによる斬り下ろしの動作の目的は、間違いなく回避。()()()()()()()()()()()()

 

 ムクロは振り下ろした片刃剣の動作を止めること無く、流れるような動きで右手首を返す。

 

 ()()()と、左手の位置はそのままに支点として残し、()()()()()()()()()

 

 下から上へと斬り上げる形に、片刃剣の()()()()()

 

 鉄棍の切り返しよりも速く、振り上げられた片刃剣がグラウの右腕を断った。

 

 右腕は舞い飛び、それを慕って追いかけるように血潮が吹き出す。

 

 一撃必殺ならぬ二撃必殺が技。

 片刃剣術が奥義のひとつ。『返し斬り』。

 

 いかな『回復魔法』と言えど、斬り飛ばされた右腕を生やすことは叶わない。

 利き腕を切り飛ばされたグラウはそれでも、左手一本で鉄棍を保持しつづけたが。

 両腕揃って成されていた両者の拮抗。それはいまや、完全に崩れ去っている。

 

 左手だけでの鉄棍の切り返しが間に合うはずもなく。

 斬り上げによって高く掲げられた片刃剣は、再び()()()とムクロの手の中で回転し。振り下ろされる。

 

 片刃剣は肩口からバサリと。深くグラウを斬り裂いた。

 

 致命傷。

 鮮花(あざか)に血潮が咲き誇る。

 グラウは仰向けに崩れて落ちる。

 

「ああ、ムクロ」

 

 どう、とグラウの身体が地面に倒れ伏し、左手から鉄棍が転がり落ちる。

 弱まる鼓動がしとどに押し出す血と共に。

 言葉がひとつ、まろび出る。

 

「次は、どんな冒険に――」

 

 それを聞き、ムクロは顔を強く歪める。

 しかして、身体は冷徹に動いていた。

 

 倒れ伏したグラウの心臓に片刃剣を突き刺し、捻じる。完璧に破壊された。

 引き抜いた片刃剣で、グラウの口蓋を突く。その延長線上にある脳幹への軌道。そしてまた刃を捻り、脳幹もまた完全に破壊する。

 

 自動化の域まで達した、万が一を許さぬ徹底殺害。

 それが済んだ後に。ようやく、ムクロは剣をおろした。

 

 血臭が濃く匂い立つ中。ひとつ、呟く。

 

「ちくしょう」

 

 最後の言葉を、グラウがどんな表情で言ったのか。

 その残骸からは、もはや一切見て取れない。

 

 ムクロが壊してしまったから。

 

 

 

 

 第一章 完

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて第一章完。2章1話は22時投稿。その後は月水金の20時投稿予定です。
若干カクヨムが先行しています。
よろしくお願いします。
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