その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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1章 第3話 上級冒険者は下層に挑戦する

 

 灰色魔狼(ルプ・キネウス)がダンジョンの地面を駆ける硬質な足音が響く。

 その数は10や20ではきかない。大規模なモンスターの群れだった。

 

 しかし、その場に集っていた冒険者達に恐れはない。

 

 理由のひとつは、この一行の依頼主であるルナ・リングハートが持つ魔具『探魔の銀盤』によって、そのモンスターの群の接近があらかじめ分かっていたから。

 

 理由の2つ目は、冒険者達に、そのモンスターの群を退ける確かな実力があったから。

 

「ルナさん。まずは我々がやります」

「ええ。頼んだわよ」

 

 あらかじめの取り決め通り、ひとつのパーティが前に出る。

 パーティ『輝ける道』。そのリーダー、ルークが仲間たちに指示を出す。

 

「短文詠唱の魔法だ! 放て!」

 

 ルークの言葉に従い、彼のパーティメンバーが詠唱時間の短い魔法を撃ち放つ。

 

拡散せよ(スパルガ)炎の矢(サギッテ・イグニ)!」

拡散せよ(スパルガ)雷の矢(サギッテ・フルグ)!」

 

 いくつかが灰色魔狼(ルプ・キネウス)を直撃するものの、ほとんどの攻撃が回避される。

 攻撃力と耐久力こそ中層の魔物にしては大したことは無いが、その回避力が灰色魔狼(ルプ・キネウス)のやっかいな点であった。

 

 しかし、ルーク達にとって回避されることは織り込み済みだった。

 回避によって、それまで一直線に向かってきていた灰色魔狼(ルプ・キネウス)たちの足並みは乱れ、速度が鈍る。

 

 その遅れによって生まれた時間こそが、彼らが欲していたものだった。

 

 別のパーティ、『赤い円陣』のリーダーである女性ヘカテが声をあげる。

 

「詠唱が完了するわ! 広範囲魔法を出すわよ!」

「対象指定! 威力強化(アウグメント)!」

「――かくて冴えわたる山査子は行く手を阻む!発動!氷の列陣(オルド・グラキエ)!」

 

 詠唱時間が長い代わりに強力かつ広範囲を巻き込む中級の氷属性魔法。

 それが、冒険者達を中心にして扇状に放たれた。

 

 冷気を放つ霜が急速に地面に広がる。それが灰色魔狼(ルプ・キネウス)に接触すると地面から鋭い氷柱が作り出され、モンスター達の身体を貫く。

 

 ほぼすべての灰色魔狼(ルプ・キネウス)が巻き込まれ、倒されたモンスターの例に漏れず、ドロップアイテムを残してその場で灰となる。

 少数の、どうにか一撃を耐えた個体も動きを大きく鈍らせていた。

 

「おーし! 討ち漏らしは俺達に任せてくれ!」

 

 動きを鈍らせた個体に、もう一つのパーティ『黒い蹄鉄』のリーダーであるガルムの指揮のもと、近接職たちが切り込んでいく。

 剣技スキルを発動させて、モンスターを次々と斬り伏せていく。

 

 そんな冒険者達の動きを見ながら、ルナ・リングハートは感嘆のため息を吐いた。

 

「さすが、地元の熟練冒険者ね。危なげが無いわ」

「レベル65の上級冒険者『疾風の乙女』に褒めていただけるとは光栄です」

 

 とりあえずの指揮を終えた『輝ける道』のリーダー、ルークが代表して答えた。

 

 遠距離・中距離に対応した均衡の取れたパーティ編成の『輝ける道』。

 全員が遠距離攻撃に特化しながらもその殲滅力にモンスターを近寄らせない『赤い円陣』。

 逆に全員が近接職ながらも、その技量と防御力で突き進む『黒い蹄鉄』。

 

 彼らはここアルノーを本拠地に活動する冒険者パーティで、いずれも実績を積んだ熟練者たちだった。

 

 それら三つのパーティに対して、ルナはクエストを依頼していた。

 その内容は護衛依頼。

 

 冒険者による護衛依頼とは貴人や商隊を護衛するものと思われがちだが、今回の様に「冒険者による冒険者の護衛」という内容も珍しくは無い。

 

 どんなに強い冒険者であっても、戦い続ければ魔力の消耗は避けられないし、魔力はダンジョンから出て休むことでしか回復しない。

 

 深い階層でのドロップアイテムやレベル上げが目的の場合、その道中で戦わなくて済むように護衛依頼を出すのだ。

 

「しかし、三組ものパーティを雇うというのも慎重ですね。普通なら中級パーティを二組といったところですが……」

 

 首をかしげるルークに対して、ルナが苦笑する。

 

「ギルドからの助言があってね。そっちのほうが詳しいと思うけれど、なんでも上級冒険者が亡くなったとか」

「ああ。イーガニエさんですね。そのレベルアップの速さからアルノーではちょっとした有名人だったんですが……」

「続けざまに上級冒険者が死んだダンジョンなんて評判がつくのが嫌だったんでしょうね。追加の護衛代金はギルドが補助金を出すから、是非とも安全重視でってお願いされちゃったの」

「ははぁ、なるほど」

 

 そんな事を話している間に。

 他の冒険者たちがモンスターの撃退とドロップアイテムの回収を終えてルナ達の元へと戻ってきた。

 

「なになに、なんの話してるの?」

「おいおいルークよ。俺達に雑用任せてお喋りかぁ?」

 

 気安い調子で話しかけてきたのは、『赤い円陣』のリーダーである遠距離職のヘカテ。やや乱暴な口調なのは、『黒い蹄鉄』のリーダーである近接職のガルムだった。

 

「すいませんガルムさん。ドロップアイテムの回収ありがとうございます」

「ったくしゃあねぇな」

 

 ルークがガルムに謝る。ガルムの側も本気の抗議では無く、ちょっとした冗談口だったようで笑って応じる。

 むしろ無視された形になったヘカテの方が不満顔だった。

 

「でー! なに話してたの?」

「今回の護衛パーティが多めなことと、イーガニエさんのことよ」

「あー。イーガニエねぇ。ちょっとレベルアップが早いからって単独で調子乗ってたから。遅かれ早かれ死んでたんじゃないのー?」

 

 イーガニエに対するヘカテの評価に、ルナは苦笑する。ルナもレベルアップはかなり早いほうだったし、単独で活動するという点も同じだったからだ。

 遅れてそれに気づいたのか、誤魔化すようにヘカテが話題を変えた。

 

「あ! それよりもルナさんの魔具って便利!『探魔の銀盤』だっけ!」

「ったくよ。露骨に話題変えやがって」

「でも、本当にその魔具は便利ですね。『探知』の魔法も最上位まで鍛えないと広範囲の探知はできないと聞きますし」

 

 ルナは、話題に上がった魔具を軽く掲げて見せる。

 

 確かに、非常に有用な魔具だった。自分を中心にして、周囲の冒険者を緑点で、モンスターを赤点で表示してくれるもので、点の大きさによって大まかな強さも分かる。

 これがあるお陰でルナは奇襲から無縁だった。

 

「ええ。かなり助けられているわ。私が単独で冒険者をやれているのもコレがあるお陰ね」

「さっすが上級冒険者の所持品よねー」

「そいやリングハートさんよ。今回の遠征には全部の魔具を持ち込んだんですかい?」

 

 『黒い蹄鉄』のガルムによる探るような問いかけ。

 その意図がやや気になったものの、隠すことでも無いのでルナは正直に答えた。

 

「ん? 今回必要になりそうなものは持ってきたけど、大半は王都のギルド金庫に預けてあるわ。全部持ってきたらかさばるし、盗難だって怖いもの」

「なるほどなぁ。だがリングハートさんよ。ギルドだって全面的に信用するのは危ないんじゃないかね」

 

 意味ありげに言うガルム。だがそんなガルムをヘカテが笑い飛ばした。

 

「なーにまたその陰謀論? ギルドの非合法工作員がこっそり都合の悪い人間を暗殺してるんだー! とか。実はギルドは世界征服を企んでるんだー! とかそういうやつでしょ」

「いやいや、実はイーガニエが死んだのも極秘のギルド戦力がだな―—」

 

 ワイワイと話し出す冒険者たちを眺めて、ルナは苦笑する。

 その類の都市伝説とも陰謀論ともつかない話はルナも何度か耳にしたことがあった。

 

 いわく、迷宮の深層では道半ばで倒れた冒険者の亡霊に襲われる。

 

 いわく、三大国家はすべてギルドに支配されており、しかもギルドマスターは設立以来変わっていない。

 

 いわく、戦力の保有を禁じられた冒険者ギルドが実は秘密のギルド戦力を隠し持っており——

 

 自分も何か、知っている与太話を披露しようか。

 ルナがそう考えたその時、『探魔の銀盤』がひとつの反応を捉えた。

 

 光点の色は赤。すなわちモンスター。

 そしてその点の大きさは、一般のモンスターを遥かに上回る。

 

「みんな、残りの魔力量を確認して頂戴。どうやら、この後にでかい仕事がありそうよ」

 

 言われて、それが何を意味するか気付いた面々が「ステータス・オープン」とつぶやく。表示されたステータス・ウィンドウで自分の残った魔力量を確認しだす。

 

 これまでは三パーティに任せきりだったルナも、自分の装備を確認する。

 もしかしたら自分が手を出す場面もあるかもしれない。

 

 三組のパーティが熟練者であることを踏まえてなお、その想定が必要な強敵。

 

 

 この先に、階層主が控えていた。

 

 

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