その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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3章 第2話 ギルド戦力 敗北す

 王国監査騎士団の詰所。

 事情聴取を名目としたムクロの拘禁は続いていた。

 手紙を使っての外部との連絡は許されていたし、それでファラキアに宛てた手紙を出すことも出来たが、マルグリテはなかなかムクロを解放しようとしなかった。

 

 

 

 衛兵団および監査騎士団200名近くの死亡という大事件を収集するため、マルグリテ自身が忙しく動き回り、ムクロと直接話をする機会をなかなか取れなかったというのも拘禁が長引いた理由のひとつである。

 

 だが、双方にとって最大の懸念事項――マルグリテの側にとっては監査騎士団による魔具横流し、ムクロの側にとっては彼がギルド戦力であるという事実――については、お互いに触れないということで話はついたはずであった。

 

 であるならば。マルグリテがムクロを未だに手元に置きたがる理由は何か。

 それに想像が及ばないムクロではない。ムクロが見せた、あるいは帝国上級冒険者ブルッカが見せたステータス外の力。その力に対する追求に他ならない。

 

 

 

 マルグリテとの対談が叶い、ムクロはそれについて話が及ぶものと思い覚悟を決めていた。しかし、現実にマルグリテが話し出したのは別の話題であった。

 

「冒険者ギルドは監査騎士団の不正を追求しない。代わりにわたくしたち監査騎士団はギルドの憲章違反を見逃す。この取引に対称性が無いことはお気づきですわね?」

 

 会談は茶会の形式で始まった。

 常のごとく、傍らには翠緑色の髪をした副官、アストが控えている。

 同様に、常と変わらぬ微笑みを浮かべたマルグリテ。

 だが彼女が口にした内容の常ならぬ卑俗さにムクロは眉をひそめる。

 

「終わった話を蒸し返すとは、らしくないぜ王女殿下。俺を失望させないでくれ」

 

 ムクロにそう言われて、マルグリテの茶器を掴む指が震える。彼女にしては珍しいことに目を逸らしまでした。だがそれも一瞬のこと。すぐに常の様子を取り戻して微笑む。

 

「無論、取引自体を反故にするつもりはございませんわ。ただ、そうですわね。お互いに問題を追求し合った場合、不利になるのはどちらなのかは分かっておりますでしょう?」

 

 ムクロはあえて、分かっていない風をした。この姫様が果たして、いざというときにどこまでやるつもりなのか。それを知る一助になると考え。

 

「分からないな。ギルドのほうが有利なんじゃないか? オレがギルド戦力だといくら言い立てても、『鑑定』の結果がステータス無しのレベル0だと証明してくれる」

「まあ! 本当に分かっていないのであれば、わたくしのほうこそ失望を禁じ得ませんわね」

 

 先程の仕返しとばかりにいたずらっぽく笑い、マルグリテは指摘した。

 

「わたくしたちの不正は一時的なもの。それにやろうと思えば適当な者に罪を被せることもできますわ。対して、あなたがギルド戦力であるというのは恒常的なもので、しかもギルド憲章違反の大事。そして肝心の証明ですけれども――」

 

 言葉を一度切り。そして斬りつけるように麗しの処刑刀(プルクラ・フェルルトリス)マルグリテは言った。

 

()()()()()()()()()()()。それで強引に、あなたがギルド戦力であるとして処刑しようとすれば良い。そうすればあなたは自分の身を守るために戦わざるを得なくなる。そして、あなたが戦力に値するということは証明される」

 

 カラスは全て黒いという命題を崩す方法は簡単である。白いカラスを一羽見せるだけで良い。

 ステータス無しのレベル0は戦力足りえないという命題を崩す方法は簡単である。例外であるムクロ・スパルダを一人見せるだけで良い。

 

 対して。黒猫色の髪を揺らして、白いカラス(ギルダ・ヴィレース)は首を振った。

 

「その脅迫で何を得たいのでございましょうか王女殿下(ルルストル・レギナフィリ)? 騎士団の不正を追求しない確約が欲しいってんならギルド総本部長の名前で書面を出しても良い。まあ、その書面自体がお互いの弱点になりうるから、文面についてはぼかさせてもらうが」

「ゲントリス・ストリリスの名の書面などと! わたくしが欲しているのは書面などではございませんが、あえて出していただくのであれば――ファラキア・エルフの名で出されたもの」

 

 剣術の巧者として知られた女は、剣術の巧者として隠れた男に告げる。ギルドの長として今の世に知られた者ではなく、ギルドの長として今の世に知られぬ女の名を。

 

「ギルド憲章ではなく、ギルドの内則にはこうありますわね? 冒険者ギルド創設者ファラキア・エルフの下にギルド評議会とギルド総本部を置くものとする、と。誰もが五〇〇年前の歴史的な記述と捉えるそれですが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。書類の上で彼女は生きており、生きている以上、ファラキアがギルドの長であることは()()()()()()

 

 実際には、本人ではなく名を騙る後継者なのでしょうけど、と付け足し。マルグリテは喋りすぎた喉を潤すように茶を口に含んだ。

 

 そう。冒険者ギルドの背後で権力を振るうファラキアであったが。その権力の行使は完全に法的正当性をもったものだった。

 

 それはこの『ダンジョン依存社会』の中で行われる膨大な数の官僚主義的手続きの中に埋もれた非常識。五〇〇年間生存し続ける人間などいないという常識を、わざわざ諸処の規定は文章として盛り込んでいない。更には官僚的役割を果たすのは他ならぬ冒険者ギルドである。

 

 ファラキア・エルフは世間の目から隠れつつも全く正当に。出身地として登録された都市国家から老齢年金すら受け取りつつその権力を振るっていた。

 

 ではマルグリテの指摘はその弾劾か? そこで終わりではないだろうと、ムクロは身構えた。

 

 マルグリテとの会話には、剣戟を交わすのに似た、あるいはそれ以上の戦いの組み立てを要する緊迫がある。

 

 マルグリテの背後にある国家という権力は、肉弾戦に例えるならば即ち膂力。マルグリテの鋭利な頭脳は、膂力を操る武術が如く。一手の悪手をとった者に致命傷の一撃を与える。

  

ギルド戦力(ギルダ・ヴィレース)ムクロ。あなたと、あなたの背後にいるのであろうギルドの真の長に、わたくしマルグリテ・セヴェリナから要望を伝えますわ。これは先の取引の履行とは別に。わたくしからの切なるものです。王女としてでも騎士団長としてでもなく。マルグリテ・セヴェリナ個人からの、要望」

 

 次なる一撃をどう躱し、どう反撃するべきか。

 五〇〇年に渡る戦闘の経験すらを引き出しながら、ムクロはマルグリテの言葉を待った。そして。

 

「ギルド職員ムクロ・スパルダ。あなたには冒険者ギルドを辞職し、わたしくしの副官である()()()()()()していただきたく思っています」

 

 

 全く想定していなかった言葉をぶつけられ。

 ムクロと、そして傍らに控えいてたアストは揃って呆けたような声をあげた。

 

 

「は?」

 

 

 




次話『3章 第3話 警戒すべき男によりて』水曜20時更新
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