その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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3章 第3話 警戒すべき男によりて

「はい! 先輩の釈放記念お茶会! お茶請けを作ったのはもちろんレイテちゃん! うーん優しく可愛くて、そのうえ料理までできちゃう! お嫁さんにしたいギルド戦力第一位!」

 

 流墨色の髪を揺らしながら、レイテ・レノが卓上へと焼き菓子を配る。

 ムクロとファラキアは手を伸ばさず、ルナだけがそれをつまんでいた。

 

 監査騎士団による勾留を解かれたムクロはギルドの施設に帰還し、こうして茶会がてらマルグリテから成された提案を話していた。

 

「それで? 王女殿下からは一体どんなお話があったのかしら?」

「引き抜き工作、だな。マルグリテの副官との結婚まで持ち出してきやがった」

 

 流石に驚いたとムクロは自身の頭をかく。

 ルナは頬張っていた焼き菓子を喉に詰まらせ、ファラキアはムクロの『マルグリテ』との呼び方に小さく眉をひそめ、レイテは絶叫した。

 

「副官! なんですかソレどこから出てきたんですかその泥棒猫! ムクロ・スパルダ愛人杯は三馬身ぶっちぎりでレイテちゃん有利! 後続に王女様、最後尾にルナリン、観客席にギルド長でレイテちゃん勝ち確だったはずでは!? 副官? 副官! はっ!? あの生真面目系緑髪デカパイ女ですか!? やはり男はデカパイなんか!? ワタシが! ワタシがデカパイであったなら!!」

 

 残った三人は茶を啜ってレイテの叫びをやり過ごすと、話を進めた。

 

「なんでも副官のアストとやらマルグリテの乳母の娘らしくてな。かなり信頼している懐刀だ。それと結びつけてまで欲しいとなると。——まあ、かなり本気だろうな」

「確かにムクロ。あなたの力はこの地上で並ぶものは無いわ。その存在を知って、国家の上層部が欲しがるのも分かる」

 

 マルグリテと名を呼ぶムクロに対して、ファラキアはそれを国家の上層部と言い換え——小さく、マルグリテの無機化を試みた。

 

「当然断るとして、問題はこの国の動きをどう掣肘(せいちゅう)するかね」

 

 ムクロがギルドを抜け、マルグリテの元に行くこと。議論の俎上(そじょう)に載せるにも値しない話だった。

 断ったあとにどうするか。それが本題であるべきだった。

 ファラキア・エルフの中では()()()()()()だった。

 だが、ムクロは遠くを見るような表情をする。

 

「——責任をとれと言われたよ」

 

「ちょっと! 騎士団の詰所にいる間に、アンタ、ナニをしてたのよ! 責任って!」

「脳破壊、本日の脳破壊いただきました。でも大丈夫。レイテちゃんは大丈夫。レイテちゃんの心は先輩に奪われちゃったから。元気ですか、レイテちゃんの心。先輩のところで良くしてもらってますか? 脳のほうはもうだめです」

 

 ルナとレイテがそれぞれに動揺を示す中、ファラキアはただ黙って、茶器の取っ手を掴む指に力を込めた。

 そのまま茶器を持ち上げて、一口、茶を飲む。

 

「監査騎士たちを見殺しにしたことに対して?」

「そうだ。目撃者は少ないほど良い。あの時はそれが最善だった」

 

 ブルッカ・カルドントによって監査騎士団達が殺されている間。

 ムクロは何もしなかった。ただ移動していただけ。

 助けることは可能だった。魔具『破裂の刃将』を魔法妨害で停止させ、そのままブルッカを斬る。ムクロにはそれができた。

 

 だが、そうはしなかった。監査騎士団達が生き残っては封じるべき口の数が多くなりすぎる。それだけのために。

 

「それは次善よ、ムクロ。目撃者は誰もいないのが良い。全員が死ぬのを待ってから、ブルッカ・カルドントを殺す。それが最善だった」

 

 ファラキアは断定口調で言う。マルグリテ・セヴェリナもアスト・リゥムも死んでしまえばよかったのだと。

 

「『端末』が地上に登ってきたんだぜ、ファラキア。この五〇〇年間無かったことだ」

「——だからもう、これまでの様にはいかないと。いままでの関係を変えると、そう言いたいのムクロ?」

 

 ファラキアの表情に動揺は無い。口元には微笑みすら浮かんでいる。だがその言葉は、心の底から絞り出すように、恐れとともに口にしたものだった。

 

「そうだ。これまでのやり方は通用しない。ファラキア。ブルッカとかいう男のダンジョン入退場記録は調べ終わったか?」

 

 ファラキアの内心をよそに、ムクロはあっさりとこれまで通りに行かないと認めた。合理的な判断のもと。

 対して感情の起伏を抑制する機能を持つはずの人類教導個体ファラキア・エルフは感情に思考が振り回されないよう、必死だった。

 ムクロの問いに、調査結果を思い起こして答える。

 

「ええ。ブルッカ・カルドント。レベル75の上級冒険者。基本的には帝国領内のダンジョンで活動。少し前に都市国家群のダンジョンに潜って……下層で行方不明。生存が絶望視されるも帰還し、そのダンジョンから出た後は——」

 

 そこでファラキアは言葉に詰まる。ダンジョンから出た後の動きは、不明。冒険者ギルドの管轄の外側である。

 冒険者ギルドの調査の限界を示すファラキアに対して、ムクロは頷く。

 

「分からない、だろ? 『端末』の動きを探るため、そしてギルド戦力の候補者を探すため。俺達はダンジョンの監視さえ厳重にしていればそれで良かった。これからはそうは行かない。怪しい奴については地上での動きも見張らないとならない」

 

 だからこそ。マルグリテ・セヴェリナという女を見殺しにすることは出来なかったし、ギルド所属を脱するかは別として、彼女との協力は極めて重大な意味を持つのだとムクロは語る。

 

「良いんじゃないの? 結婚とは別にして、あの装甲王女(アルマタ・レギナフィリ)マルグリテと協力できるなんていい話に思えるけど」

 

 ファラキアが反駁(はんばく)しようと言葉を探している間に、ルナが口を挟んだ。何も知らぬ門外漢の無責任な一言に、ファラキアはルナを睨みつけそうになる。

 その前にムクロが膝を打った。

 

「よく言ったルナ・リングハート。この菓子をやろう」

 

 ルナの前の空いた皿の上に、手つかずの焼き菓子が積まれた自分のそれを重ねるムクロ。

 レイテが「がーん」と口に出して言う。

 

「えっ、レイテが先輩のために心を込めて作った焼き菓子なんですけどそれ。えっ、それは結構キツいやつなんですけど。えっ、なんか目覚めそう」

「さっき心は奪われたから無いみたいなこと言ってなかった?」

 

 ルナとレイテの軽いやり取りを、一瞬、どこか名残惜しげに眺めてから。

 ムクロは真面目な話、とファラキアを見据えた。

 

「ブルッカ・カルドントは、オレの名前を知っていた。あのジジイとも言っていた。オレの名前を知るジジイ、そして『端末』と来れば、一人しか思い浮かばない」

 

 妬心に沈みかけていたファラキアが、それどころではないと顔を強張らせる。

 ことは、ムクロの生死に関わる。

 

「まさか、ハスター?」

 

 槍使いハスター。

 五〇〇年前の仲間にして、ムクロの武術の師。

 戦闘技術において、ムクロ・スパルダを超える男の名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====作者からの連絡=====

次話「3章 第4話 懊悩せしむ迷宮伯」

金曜20時更新

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