その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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4章 第3話 帝軍 境を踏み荒らし

 

 戦争。

 

 ダンジョンの出現と冒険者ギルドの設立以降、大陸世界においてその言葉が縁遠くなって久しい。

 

 冒険者ギルドの長、ファラキア・エルフの辣腕により帝国、王国、都市国家連合へと国家が集約されてから後。それら国家は領土や労働力を求めての戦争を行わなかった。

 

 理由は極めて単純。

 他国を攻めるよりも、ダンジョンを攻略するほうがよほど利益となったからだ。

 

 利益以外を原因とする戦争の火種もまたファラキアにより丁寧に取り除かれた結果。

 各国はダンジョンからもたらされる利益の最大化へと邁進した。

 

 現に四百余年前に大陸世界が三大国家に集約されて以降、戦争と呼べるほどの国家間の紛争は起こっておらず。そのせいか帝国による王都侵攻に端を発する戦争に、当時、固有の名前はつかなかった。

 区別をするべき「他の戦争」が当時は無く、それが唯一の戦争であったがゆえに。

 

 

 『戦争』。当時ただそう呼ばれた争いにおける最初の被害者は誰であったろうか。

 

 それは『開戦』をどこと定めるかによって変わってくる。

 

 戦争計画の一部であった魔具横流し事件をもって、すでに開戦していたと見るのであれば。ムクロ・スパルダが殺害したならず者たち、あるいは横流し犯摘発戦における死者たちが最初の被害者と言えよう。

 

 マルグリテ・セヴェリナの力を削ぐための監査騎士への攻撃。帝国から王国への直接攻撃をもって開戦と見なすのであれば。帝国上級冒険者ブルッカによって殺害された者たちが最初の被害者と言える。

 

 戦争突入の口実として仕組まれたグルンド迷宮伯ダサイクルによる王城襲撃をもって開戦とみるのであれば。槍使いハスターによって殺された王城警備の衛兵たちが最初の被害者と見ることができる。

 

 だが、数多に記され、そして少数しか残らなかった歴史書の過半において、『戦争』はひとつの戦いをもって始まったとして記される。

 

 戦争の開幕を飾るその戦いの名は——『延長戦』という。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 王国内において。帝国からの侵攻に備えていたのはマルグリテ・セヴェリナが直卒する王都の監査騎士団のみではなかった。

 

 国内主要都市に存在する監査騎士団の支部。

 その中でも帝国と国境を接する幾つかの都市にある監査騎士団支部の指揮官達が、帝国侵攻に備えていた。

 

 すべての国境都市の支部ではない。

 戦力が湧き出る魔法の壺をマルグリテは有していない。薄く広げた部隊では防御を抜かれてしまうがゆえに、ある読み筋によって戦力の集中が行われていた。

 

 戦力が集中されていたのは、国境線上にあり、かつ帝国との()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 帝国、王国間における魔導列車の線路接続。

 これは長き平和がもたらした相互の融和、経済優先がための安全保障意識の欠如と見ることもできる。

 だが更に言うのであれば。これもまた、ダンジョン依存社会の歪みのひとつであった。

 

 誰から与えられるでもなく、技術を自力で順に進歩させていく世界において鉄道という技術が生まれた場合。国家はその線路規格を自国独自のものと定めたがる。

 

 平時においては交易・物流の面での恩恵が大きい同一規格の線路ではあるが、ひとたび戦時になったならばそれは一変する。

 線路規格が敵国と同一であった場合。敵国の列車がそのまま自国内に乗り込んでくるという悪夢が現出するからだ。

 

 しかして大陸世界はすべてがダンジョンが生み出す夢の中にいると言っても良い。

 ドロップアイテムである魔導列車およびその線路は完全に同一の規格であり。当然のように帝国の魔導列車は王国内の線路を走ることができる。その逆もまた然り。

 

 帝国側が短期にて一気呵成に王国に攻め入るのであれば、兵を運ぶにも物資を運ぶにも魔導列車の使用以外に考え難く。よって侵攻路は魔導列車の線路が接続された都市に限られる。

 

 帝国侵攻に備えていた監査騎士団の指揮官たちはそう結論付け。マルグリテ・セヴェリナもその推論に同意した。

 

 彼らの推測は半分当たっていた。

 ()()()()当てることが出来なかった。

 心臓を突こうとする二本の刃のうち一本を防いだとて。もう一本を防ぎ得なければ死という結果は覆せず。

 

 その日、王国は帝国侵攻を許すことになる。王都という王国の心臓に刃が迫る。

 

◆ ◆ ◆

 

 帝国の都市バハニア。

 王国との国境線沿いに位置するその都市は、王国側の都市ブーレイと接続された街道がよく整備されており、更には魔導列車の路線も通っていることから、人とモノの行き来が非常に活発であった。

 

 ゆえに、交易都市バハニアとも呼ばれるその場所。

 そんな帝国の都市へと。王国監査騎士団ブーレイ支部に所属する騎士であるモーデス・スーデは潜入していた。

 

 潜入といっても、なにも特別な工作など行っていない。

 大陸世界において他国への移動は隣町への移動の如く、簡単な身分確認のみで行い得る。

 とりわけ最も信用性の高い身分証である冒険者証があれば、二、三の質問のみであっさりと国境を超えることが出来る。

 

 ダンジョンならびに冒険者ギルドがもたらした長きに渡る平和の功として、誰に見咎められることもなく帝国に潜入したモーデスの役目は、監視であった。

 

 交易都市バハニアは帝国から王国への侵攻、その重要な発起点となると目されているがゆえに。

 実際、モーデスが潜入してから確認した限りでも。帝国軍宿舎が埋まるほどの人員がバハニアには流入していた。

 

 間違いなく、王国侵攻のために動員された兵力である。

 

 彼を派遣した王国都市ブーレイの監査騎士団支部ではそう判断したし、情報をあげた結果として、王都本部の副官アスト・リゥムも同様に分析し——結果、モーデス・スーデの仕事量と責任は増大することとなった。

 

 モーデスがそのときにいたのは、バハニアでも屈指の高さを誇る尖塔の一室である。その部屋からは魔導列車の駅と帝国軍の宿舎の両方を一望することが出来た。

 

 理想的な観測地点。その観測地点で目をこらしながら。モーデスはぼんやりと考えていた。現状、帝国軍宿舎にも魔導列車の駅にも、目立った動きはないがゆえに行い得た空想。

 

(遠くのものをよく見えるようにするドロップアイテムがあれば良いのにな……)

 

 「ダンジョンからのドロップアイテムは、冒険者たちの望みを反映する」という嘘とも本当ともつかない話をモーデスは思い出す。

 

 なんでもダンジョン発生初期。飢饉にあえぐ村の近くに発生したダンジョンから食料がドロップするようになり。それを皮切りに各地のダンジョンからも食料ドロップが報告されるようになったという話だった。

 

 だがモーデス・スーデはドロップアイテムに望みが反映されるという話を疑わしいと思っていた。

 

(俺達みたいな仕事をしている奴がどんなに望んでも、遠くを見るアイテムはドロップしないんだよな)

 

 彼の仕事は監視と報告。帝国軍に動きがあれば、『共有の書字版』を使って即座に三箇所へと連絡を入れることが求められていた。

 

 その三箇所とは、彼の所属する監査騎士団ブーレイ支部。王都の監査騎士団本部。そして王城。

 

 彼の一報の速度と精度により、王国防衛の初動が左右される極めて重要な任務であった。

 その任務に足るだけの責任感をモーデスは持っていたし、ここで功績を挙げて、王都の監査騎士団本部に取りたててもらいたいという意欲もあった。かのマルグリテ・セヴェリナの元で働く! なんと心躍る光景だろうか。

 

 だがいかんせん。遠くに目を凝らし続ける作業は大変に疲労するものだった。

 

 モーデス・スーデの望み。「遠くのものを見るドロップアイテム」について。もしもムクロ・スパルダが。あるいはレイテ・レノやファラキア・エルフのような世界の真実を知る者が聞いたらば。さもありなんと頷いたことだろう。

 

 彼の望む遠くを見るアイテム。それに名を付けるのであれば『望遠鏡』を。ダンジョンは絶対に産出しない。

 

 その道具は惑星の運行を観察するのに極めて有用であり。惑星の運行の観察と法則性の推定は、ほぼすべての文明にとって『科学の始まり』となり得るからであった。

 

 それを知る由もなく。モーデス・スーデは目を凝らし続け。そして彼の仕事は唐突に、終わりへと向けて加速しはじめる。

 

(動いた!)

 

 帝国軍官舎の扉が開け放たれ、中からわらわらと帝国騎士たちが姿を現したのだ。

 今までの推定では、まだ物資の集積も兵の動員も間に合っていないはずだったが——とモーデス・スーデはほんの少し訝しみつつ、現実に帝国騎士たちが整列して出撃準備を整えている光景を前に小さな疑問を脇に置く。

 

(奴ら本当にやるのか! くそっ!戦争!——戦争か!)

 

 この平時に望んで乱を招こうとする者たちへの怒り。彼の父も、祖父も、曽祖父にまで遡ろうと誰も経験したことがない歴史事象に参加することへの興奮。その中で自分が功績を挙げ賞されることへの期待。そして、自分が命を落とすかもしれないという、わずかな恐れ。

 

 モーデス・スーデは様々に混交した感情をかたわらに、動き出した帝国軍の観察を続け。手元の『共有の書字版』へと報告を書き記す。そして、途中で奇妙なことに気づく。

 

(あの装備は、『鉄弓』じゃない。それに台車に載った——)

 

 帝国騎士たちの半数以上が、武装をしていなかった。彼らが手に手に持っているのは、()()()()。その事実が何を示すのか。その考察を『共有の書字版』での報告先に任せて、モーデス・スーデはさらなる観察のために目を凝らし——。

 

 彼の仕事はそこで完全な終了をみた。

 彼自身の人生とともに。

 

 モーデスの観察方向とは逆側から、『爆轟(ばくごう)の鉄弓』と呼ばれる魔具が発射され、尖塔の一室ごと彼の身体を粉砕したからだ。

 

 もしも。死後の世界なるものがあったとして。

 モーデス・スーデは監視と報告という仕事をやりとげたことを誇れるであろうか?

 

 誇れはしまい。

 

 彼が『共有の書字版』で報告するべき場所は、三箇所。

 モーデスの所属する監査騎士団ブーレイ支部。王都の監査騎士団本部。そして王城。

 彼は騎士団本部、王城の順に報告を記載し、最後にブーレイ支部への報告に取り掛かろうとしたところだった。

 

 もしも。死後の世界なるものがあったとして。

 モーデス・スーデはそこで知っただろう。

 大勢の、先に逝った者たちがそこには待っているのだから。

 先達は教えてくれることだろう。

 彼が報告を送った先である監査騎士団本部も王城も。すでに壊滅しており。

 

 誰も、彼の報告を読むことが無かったということを。

 

◆ ◆ ◆

 

 モーデス・スーデ。彼こそが『戦争』における最初の被害者——そのうちの一人であった。

 

 帝国側は自分たちを監視する王国側の目を一斉に排除した。全てとは言い切れずとも、多くの監視役が報告を送るより先に死亡し。王国側は防衛の初動において大きく対応を遅れることとなった。

 

 もっとも。監視が十全に機能していたとしても、王国が適切な対応を行い得たかは定かではない。

 監視役という末端より先に、王城と騎士団本部という中枢が壊滅していたからだ。

 

 更に。帝国は真っ当な侵攻——王国側が予測した魔導列車の線路が接続している都市からの侵攻を行わなかった。

 

 そこから行われたのは、()()であった。

 国境線上の街へと動員されていた兵力は、侵攻戦力ではなかった。それは、()()()()()とその護衛だった。

 

 帝国軍による王国侵攻が行われたその日。

 帝国ならびに王国の冒険者ギルドで、ある一種類のクエストが多数、受注された。

 

 各ギルド支部のクエスト受注窓口で。ギルド職員は何の疑問も抱かずにそのクエストに認可を出した。

 なにせ、それは何度も取り扱ったことのある内容であったから。

 

 内容は魔導列車路線の敷設作業。

 

 王国のある街から、ある街へ。帝国のある街から、ある街へ。

 あるいは帝国のある街と王国のある街を。

 ひとつひとつは何の変哲もない、魔導列車路線の延長。

 

 だが。そのクエストには異常が三つ。

 

 ひとつめ。それは動員される作業員の膨大さと、その作業員たちがいずれも現役騎士までも含んだ高レベルの冒険者であるということ。

 例えば——巨大な荷物を背負ったまま、魔導列車よりはやく走り得るほどの冒険者が大量に動員されていた。

 

 ふたつめ。それは建設作業の納期が、()()()()()として設定されているということ。

 

 みっつめ。

 それは、すべての延長計画を総合すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 

 帝国帝都から王国王都へと一直線に繋がる線路建設がその日、一斉に起工され。

 

 高レベル冒険者たちによる脚力と運搬能力、そしてダンジョン産ドロップアイテムの特徴である簡便な組み立て手順により。

 

 線路は半日を待たずして、完成してしまった——皇太子ギルゼリオ・リーグルの帝国監査騎士団主力が集結する帝都から、指揮系統が断絶し、まともに防衛を行い得ない、王都への新たなる進軍路が。ほぼ無の状態から半日で生み出される。

 

 これが、歴史書に記された『戦争』の緒戦。

 

 『延長戦』という名の、即日建築進軍である。

 

 

 





=====作者からの連絡=====

次話『4章 第4話 四肢の中にも志士あれど』
7/2(木)更新予定
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