その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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4章 第4話 四肢の中にも志士あれど

 

 帝国軍による奇策。即日建築進軍なる『延長戦』は開始された。

 

 その作戦の発動を警告するはずであった王国側の末端。各地に伏された監査騎士団の密偵たちは排除され、王国側の目と耳はその殆どが塞がれた。

 

 加えて、その時点では多くの者が知り得ぬ事変。

 迷宮伯ダサイクル・グルンドによる王城占拠と槍使いハスターによる監査騎士団本部壊滅により、中枢たる指揮系統も麻痺していた。

 

 では、王国軍はまったく成すすべは無かったのか?

 それは否。

 抵抗を行った者はいた。

 王国最強・最精鋭たる監査騎士団。

 一定規模の組織の中には、必ず愚者がはびこり、同時に賢者も潜み。

 

 そして勇者も、存在し得る。

 

◆ ◆ ◆

 

「国内各地で一斉に魔導列車の路線建築が始まった、と?」

「その通りです。場所はそちらに記した通り。この街を含む、王都へと至る街のそれぞれで、異様な規模の人員を投じて、いまこの瞬間にも路線は作られています。完成は……報告を信じる限り、遅く見積もっても明日までには、この街と隣街の接続は果たされるでしょうな」

 

 副官からの報告を受けているのは、王国領ドライドラの監査騎士団支部、そこの指揮官であった。彼の内心に最初に浮かんだのは「この雨の日にご苦労なことだ」という間抜けた感想である。

 

 だが。彼とて指揮官たる身の上である。人としての素直な感想から即時に、軍人として求められるそれへと思考を切り替える。

 

 王都へと向かう新たな路線が本日中に出来上がる。その事実の意味するところを考え、そして尋ねる。

 

「帝国に潜ませた密偵からの連絡は?」

「ありません」

「同様の報告を中央にはあげたか?」

「はい。しかし返信はありません。王城、監査騎士団本部。両方ともに、です」

 

 人に優しくされたらお礼を言いましょう。——親から子へそのような教えは必ずと言ってよいほどに成される。

 それと近似した常識的なふるまいとして。軍人は教えを受ける。——常に最悪の事態を想定せよ。

 

 指揮官は考える。目の前に提示された情報から考え得る、最悪の事態を。

 

 帝国に潜ませた密偵から連絡が無いのは? 彼らが怠けている? それは中々に悪夢である。信じて送り出した精勤なる監査騎士がそのような有り様では、王国の未来は暗いものになるだろう。だが、より最悪なのは——密偵が排除されたから。

 

 中央から返信も、なんらの命令も無いのは? 『共有の書字版』が故障した? それも中々の悪夢である。情報伝達の要であるドロップアイテムがそのような有り様では、王国の未来は暗いものになるだろう。だが、より最悪なのは——中央がそれどころでない事態に陥っているから。

 

 思考の結果。彼は結論する。そして命じる。

 

「我々と同様の、線路建築が行われている街の長。それから冒険者ギルドに連絡を取れ。状況確認と、可能なら線路建築の中止だ。同地の騎士団支部には、ああ。オレが連絡を入れる。情報共有だ。あと総員参集! オイ! だれかおらんか!」

 

 命じるに留まらず、指揮官は自ら動き始めた。

 『共有の書字版』に文字を走らせつつ、大声で呼びつけた従卒に団員を全員集合させるように言い含める。

 

 自らの仕事に取り掛かる前に。副官は一言、彼に尋ねた。

 

「事態はそれほど深刻であると?」

「そうだな——ドえらくマズいぞ」

 

 彼は自分の中の結論に比して、あまりにささやか過ぎる表現で副官に答えた。

 思考の結果の、彼の結論。

 

 王国の未来は暗い——どころではない。下手をすれば、明日には王国そのものが無い。

 

◆ ◆ ◆

 

 情報収集と共有、そして他の支部との文書会議を済ませてから後。指揮官は完全武装状態で整列した監査騎士団ドライドラ支部所属の小隊を前にして状況説明を開始した。

 

 わずか一個小隊。指揮官含めて十三名。

 それがドライドラ支部の全戦力である。事務活動や物資運搬を行う支援要員は他にもいるが、正規の騎士はたったそれだけ。ちょっとした犯罪冒険者の対処であればその人数で事足りたし、重大事件発生時には王都や他の支部から援軍が集まる手筈になっていた。

 しかし、いま彼らの目前に迫るのは、援軍望めぬ重大事。

 

「現在、このドライドラを含む国内各地にて、危険な建築行為が行われている」

 

 指揮官はそう切り出した。

 

「建築とはすなわち、魔導列車の線路延長工事である。様々な情報を集約した結果、これは帝国による王都侵攻のための準備行動であると小官は判断した。帝国国内の密偵との連絡が途絶しているため推測となるが、おそらく同様の建築行為が帝国内でも行われており、本日中に線路を完成・連結させて帝国軍は一直線に王都までなだれ込む腹づもりであると推定される」

 

 そこで一人が手を挙げる。指揮官は顎をしゃくって発言を許可した。

 

「敵軍の進軍路。そこに我が方も兵力を集中すれば良いのではないでしょうか?」

「まさしく道理ではその通り。だが我々は無断で配置を変更する権限を持たず……現在王都の騎士団本部とは連絡が途絶している。許可を出すものがいない状況だ。——副官。補足説明を」

 

 指揮官は質問者の意見を認めた上で、それは出来ないと否定した。更に、補足情報。彼らにとっては暗澹たる情報が副官の口から説明される。

 

「王城ならびに監査騎士団本部との連絡は途絶。冒険者ギルド本部経由で得た情報によれば、王城では尖塔の崩落事故が確認されており、その混乱収集のために衛兵団が動いているとのことですが……その指揮官は正規の者ではありません。ダサイクル・グルンド迷宮伯です」

 

 ダサイクルの名前に一同がどよめく。正式な通達こそされていなかったが、王都叛乱の有力な容疑者として以前から上がっていた名前のひとつであったからだ。

 

「これらの情報を総合して、小官は判断した。

 ひとつ。帝国軍は魔導列車の線路延長による侵攻——『延長戦』とでも言うべきものを企んでいる。

 ひとつ。しかし中央はそれに対抗するべき命令を出せる状況にない。

 ひとつ。国内での延長工事は法的に正当なものであり、法的根拠をもとに止めることが出来ない。

 加えてひとつ。——他の支部の指揮官は、命令あるまでの待機を選択した。まあ、軍人であれば命令なく動くことを拒絶するのも分かる」

 

 自身の言葉の意味するところが、その場に集った全員に染み渡るのを待つように。指揮官はしばし沈黙した。

 

 同様に。部下一同もまた沈黙した。自分たちの身に降りかかる未来を想像して。

 このまま行けば帝国による『延長戦』は成立し。王都は占領される、と。

 その事実を全員が飲み込んだのを確認して。指揮官はひときわ大きく声を張り上げる。

 

「ゆえに私は独断することにした! この街の建築工事。これを法的根拠なく、実力を以て止めると!」

 

 彼の宣言が終わり、場は再びの沈黙に支配される。しかし、その沈黙は先のものとは質を変えていた。

 

 帝国侵攻により、自分たちの身に降りかかる未来を思っての沈黙から。

 帝国侵攻を防ぐために、自分たちが手を下すべき未来を思っての沈黙へ。

 

 国内で実施されている線路延長工事。その中には多分に帝国の息のかかった人間が混じっているだろうが。

 一般冒険者——民間人もまた多く含まれているはずである。

 それを、実力を以て止める。意味するところはつまり。

 

「基本的には建築物そのもの、および明らかな帝国側人員を標的とするが、やむを得ない場合には作業員への攻撃も有り得る! 異議がある者は申し出よ! その場合——指揮官に対する抗命を以て沙汰あるまでの拘禁を言い渡す!」

 

 そして当然、この作戦に従った場合の責任は小官がとると彼は付け加えた。

 

 沙汰あるまでの拘禁。彼の言葉はとどのところつまり。この作戦に参加するか拒否するかを選ぶ機会を与えるという意味であった。そして場合によっては彼一人で泥をかぶるつもりであると。

 

 騎士たちは互いに顔を見合わせ。そうしてから頷く。全員、口元には苦笑いが浮かんでいる。代表して一歩前に出た副官が声を張り上げる。

 

「そのお言葉には承服いたかねします指揮官殿。我々はあなたの私兵ではない。明らかな暴走に従ういわれはありません」

 

 しかし、と副官は言の葉を接ぐ。

 

「我々はあなたの私兵ではないが、同志ではあります。征きましょう。我ら一王国民として指揮官閣下に従います。まぁ、ちょうど不用心にも、監査騎士団の装備がそこらにあるわけですし」

 

 ぬけぬけと。『鉄弓』を掲げてみせて副官は言った。ほかの騎士たちも誰一人、その言葉に異論を唱えない。

 

「くそっ! それこそ暴走、それこそ叛乱じゃないか。馬鹿どもめ」

 

 指揮官は面前の暴走騎士たちを口汚く罵る。複雑な表情をその顔面に浮かべながら。

 

 面前に集う者たちは、愚者であるのか勇者であるのか。

 少なくとも賢者ではなく。同じく賢者ならざる身である指揮官にとり。それはまったく、泣き出したくなるような光景であった。

 

◆ ◆ ◆

 

 

 民間の冒険者殺傷すらも視野に入れた、監査騎士団ドライドラ支部の独断出撃。

 その評価をいかにするべきか。

 

 愚者であるか賢者であるかは定かにし難い。

 だが少なくとも彼らは勇者であり志士であった。

 

 当時をしてから彼らの所業は知られず。歴史書もまた彼らの名前を記さない。

 そして彼らは。最も尊ばれる類の勇者となった。

 

 

 

 

 

 





=====作者からの連絡=====

次話『4章 第5話 十三騎兵は散華(さんげ)せり』
7/6(月)更新予定
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