その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~   作:onakatarumi

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4章 第13話 稀が基となりて基が奇なる

 

 

 魔石灯により煌々と照らされた王城内が、別種の明かりにより更に照らされる。

 光源は炎。

 固く閉ざされた王城の門扉を吹き飛ばした爆炎光である。

 

 成したのは爆轟(ばくごう)の鉄弓。一等危険魔具に分類されるダンジョン産のドロップアイテム。それによる集中射撃であった。

 

 馬上槍のごとき大きさの巨大な鉄針が高速で射出され、命中と同時に巨大な爆発を起こすその魔具は、魔力を必要とせずに扱える『鉄弓』系のドロップアイテムのうちで最大威力を誇る武装であり、いかな高レベルの冒険者であっても個人での所有は許されず、国家のみがそれを所持・運用できる。

 

 であれば。爆轟の鉄弓を撃ったのはどの勢力であるか。

 無論、王都に襲来した帝国軍である。そのほかに動機と装備を兼ねた組織はなかった。

 

 帝国軍の王都襲来は、迷宮伯ら叛乱勢力にとっても周知だった。

 ゆえに当然、ダサイクルの演説のさなかにあっても、周辺警戒は行われていた。

 にも関わらず、王城が奇襲を受けたのは何故か?

 

 内通者の仕業である。ダサイクル・グルンド迷宮伯の腹心にして連絡役。『共有の書字版』を介しての伝達事項をはじめとしたあらゆる連絡を一手に担っていた、叛乱勢力の心臓であり頭脳である男は初めから帝国の手先であり。そんな彼が意図的に周辺警戒に穴が開くような人員配置を指示していたからである。

 

 兎も角。帝国側の奇襲はこれ以上ないほどに完璧に機能した。

 

「敵襲!」

「見張りは何を——!」

「第八小隊! 集結しろ! いや——」

 

 まず声をあげたのは、小隊指揮官たちであった。その声は各人それぞれ、一文言しか発せられなかった。

 

 吹き飛んだ門扉の向こう側から、更に連続して撃ち込まれる『爆轟の鉄弓』。

 それが一塊となっていた衛兵たちを吹き飛ばす。人体が燃え上がり、四肢が吹き飛び、生命が散る。

 続いて。発射にともなう秋虫音すら届かぬ遠方から、帝国軍による『瀑布(ばくふ)の鉄弓』の一斉射撃が行われた。

 閉じること叶わぬ門から入り込む、招かれざる鉄針(てっしん)の群れ。

 

 射界の外にいた運の良いもの、とっさに伏せた勘の良いものを除き、衛兵達の身体は楽器となった。まず鳴ったのは体力値が削れた破硝音(はしょうおん)。つづいて、肉が爆ぜ、骨が砕ける損壊音が奏でられる。

 

 目前で、すぐそばで、撒き散らされる死と血によって。王城に詰めていた衛兵たちは混乱の極に達する。彼らの中で、これほどまで苛烈な攻撃を経験したものはいない。

 

 ダンジョンによって授けられたステータスを前提とした戦闘において。体力値が危険域に達した段階で離脱・帰還を行うのが常であり。死というのはよほどに運が悪いものか、間の抜けた者にのみ訪れる稀な災禍であった。

 

 稀であったはずのものが大盤に振る舞われる最中、混乱に飲まれていない例外は少なく。

 

 まずは死者。彼らはすでに混乱と無縁であり。その数は増しつつあった。

 次に当然、女と男。泰然自若を崩さない。

 

 いまや唯一の王族にして至尊の座にある女は、無二たる強者の男に告げる。

 

「蹴散らして下さいませ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 帝国皇太子ギルゼリオ・リーグルに仕える侍従長。

 彼にとっての最大の懸案事項はなにか。

 

 巨視的には「いかにしてギルゼリオの望みを叶え、彼を幸福にするか」という一点に尽きる。三十五年前、赤子であるギルゼリオを目にした瞬間から、侍従長の人生の主役は自分自身ではなく自身の分け身たるギルゼリオとなった。

 

 その巨なる視点での望みを叶えるべく、現在における微なる視点において解決するべき問題。それは「槍使いハスターを如何にして殺すか」というものだった。

 

 その他、抱える問題は無数にある。

 だが侍従長はそのいずれも、解決可能か、さもなくば先送りできる問題であると考えてきた。

 それはあながち増長とも言えず。事実、侍従長は存命である皇帝の権力をギルゼリオに移し替えるという、余人であれば一生涯をかけるに値する難事を、息子に対して誕生日の祝いを用意する程度の気負いで片付けていた。

 

 その侍従長をして、ハスター殺しは難題であった。

 

 ハスターを殺さねばならぬ理由は明快である。危険。

 個人にして国落としを成し遂げうる男なぞ、権力の座に在る者にとって危険以外の何物でもない。殺すことは確定。問題はいつ殺すか、どう殺すか。それのみ。

 

 謀略に長けるも、戦闘の巧者ではない侍従長は「どう殺すか」という点において、自らのみで考えることをしなかった。

 秀でた頭脳を持ちつつも。いや持っているからこそ侍従長は常に専門家の言葉に耳を傾けた。

 この際にも同様だった。頼ったのは戦闘の専門家。すなわち、高レベルの冒険者であり。——同時に、暗殺の専門家であった。

 

 それは帝国振鈴(しんれい)隊。

 侍従長が頼った専門家はその名を冠した近衛部隊である。

 監査騎士団の中においても選りすぐりの精鋭のみを集めたこの近衛部隊は、しかして、不名誉な歴史に彩られてもいた。

 

 皇帝のそばに侍り、その身を守ることを使命とするはずの近衛部隊。それは同時に「武器を持って皇帝のそばにいる存在」でもあり。帝国の歴史上で三度、近衛部隊は皇帝暗殺に関与していた。

 

 振鈴隊との部隊名は、その皇帝暗殺に由来があった。すなわち、鈴の音が示すのは、()()()()()()()()()()。所在を常に明らかにするべしとの咎を負った者たち。

 

 高き練度と暗き歴史に彩られし帝国振鈴隊。それがこのたびの王城攻撃の主力であり、槍使いハスターすらも殺し得る手管を備えるとされた者たちであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

(まずは間違えようのないところから整理すれば良いのだ)

 

 帝国軍主力。帝国振鈴隊の隊長は、炎上する王城の門扉を眺めやりながらそう考えていた。

 

 侍従長が異様な警戒をしていた男、槍使いハスター。

 実際に、多数の監査騎士を殺戮してのけているし、王城側に潜ませた内通者からは、王城制圧はハスターがほぼ単独で成し遂げたとの情報も伝わってきている。

 

 ステータス無しのレベル0であるのにも関わらず、異常な強者。

 内通者も、侍従長も、皇太子ギルゼリオも、更にはハスターを推薦したというブルッカもその強さを評価している。

 

(馬鹿どもめ。合理的に考えれば()()()()()()()()()()()

 

 振鈴隊隊長は、ハスターに幻惑された者たちの見識の低さに呆れ返っていた。

 

 侍従長は仕方がない。文官である。他の者もほぼ同様。

 しかしブルッカ。ブルッカ・カルドント。レベル75に達した男が簡単に騙されたという事実が、同じ帝国の武を担うものとして恥を覚えたし、憤りも感じていた。

 

 とまれ、『破裂(はれつ)刃将(じんしょう)』という貴重な魔具まで持ちながらむざむざ殺された男である。レベルは高くとも知能のほどは低かったのだろうと振鈴隊隊長は侮蔑とともに納得した。

 

 強さとはレベルアップによってもたらされるもの。その法則は不変。

 ダンジョンと地上とで長い戦闘経験を持つ振鈴隊隊長はそれを誰よりも知っていた。

 その彼のレベル、実に87。歴史に名が残る強者と世間では判断される。

 

 そんな振鈴隊隊長からすれば、ハスターは槍使いではなく詐術使いであると断言できた。

 

 なにやら最新の報告によれば、ハスターは討たれ、それを討った同等の強者——侍従長の見立てではギルド戦力ムクロ・スパルダ——が王城内にはいるとの話だったが。

 

(詐術使いが別の詐術使いに討たれたというだけのこと。我々ならば確殺できる)

 

 詐術の種は十中八九、()()()()()()()()()()()。振鈴隊隊長は確信していた。

 レベルを上げねば強くはなれない。ならば、レベル0のステータス無しというのが嘘なのだ。

 

(『鑑定』妨害効果のあるドロップアイテム! 存在するであろうと言われて、未だ発見されていないそれ。単にそれを秘匿しているだけのこと)

 

 レベル0の強者など存在しないが、と振鈴隊隊長は考える。ドロップ数が極めて少ないドロップアイテムというものは存在する。

 

 例えばブルッカが持っていた『破裂の刃将』。その魔具は世界で三本しか発見が確認されておらず——実際にはそれ以外に二本、帝国が秘匿している。

 

 そのような実例を知ればこそ。未確認ドロップアイテムによるステータスの隠蔽という可能性が現実味を帯びてくる。

 

(恐らくは、『単なる鉄槍』も魔石をどうにか隠した強力な未確認ドロップアイテム! ステータス無しが強いはずがないという思い込みと、強力な魔具の組み合わせて規格外の強者を演出しただけの詐術!)

 

 その認識のもとに振鈴隊隊長はハスター討伐——いまやムクロ・スパルダ討伐へと成り代わった任務を受けた。我に策あり、お任せ候と侍従長相手に請け負った。専門家の言葉に、侍従長は頷いた。

 

 

 振鈴隊隊長は目前、といっても二〇〇歩ほどの距離を離した王城門を見る。吹き飛ばされた門扉の中に向かって、配下の兵たちが盛んに『鉄弓』を撃っているところだった。

 彼らは更に別の兵が構えた盾によって厳重に守られている。無論、防御力向上の魔法をかけた兵だ。

 

 王城前に即席で作られた鉄壁の要塞。その要塞から放たれる甚大な火力。振鈴隊隊長の策は()()()()()()。そしてその単純な策を遂行し切ることこそが肝要であると彼は考えていた。

 

「敵に異常な動きをする者がいたとて慌てるな! 小隊ごとにその周辺ごと射撃! 一名は極大化した範囲攻撃魔法をいつでも放てるように詠唱待機!」

 

 ハスターの強さ。それはつまるところ混乱の最大活用であろうと振鈴隊隊長は見る。帝都での試しも、王城での虐殺も。十全に統制された火力を発揮し切る前に混乱が拡大したからこそ発生したのだと。

 

「冷徹なる鉄火の法則を示せ! 勝利はそれのみによって成る!」

 

 振鈴隊隊長は腕をふるい檄を飛ばす。自然にシャラン、と。軍服に取り付けられた鈴が涼やかな音を立てる。その音は無数の『鉄弓』発射にともなう秋虫音に紛れて消えた。

 

 ——ひとつの真実の体現者。振鈴隊隊長は間違いなくそれだった。

 彼は経験長き専門家であり。その見識は非情に優れている。であればこそ、侍従長も彼を頼った。

 だが、専門家とはときに、その経験を過信する。多くを知るがゆえに、自らの知る中で世界を組み立てる。

 

(例え敵が『鉄弓』の弾幕を越えようと、我が光神(こうじん)追鞭(ついべん)を用いれば確実に殺せる)

 

 自信に満ちた振鈴隊隊長。

 彼には火力の最適運用以外に奥の手があった。

 

 それが、帝国振鈴隊が装備する強力な魔具の数々。

 秘匿保有した『破裂の刃将』をはじめとする諸々に、更には彼自身が装備する光神の追鞭——強力な光属性魔法が相手に命中するまで追尾を続け、更に自動防御機能まである特一等魔具——であった。

 

 自身の源である魔具に振鈴隊隊長が視線を落とす。

 次の瞬間に、彼は声を聞いた。

 

()し。——指揮官が戦場から目を離すなよ」

 

 皮肉げな声。そこまでは振鈴隊隊長には理解できた。

 声の主。姿はどうか。

 

 黒猫色の髪と同色の瞳。銀糸で彩られし艶めく黒衣、腰に佩いたる片刃剣。握って振るう鉄の槍。

 

 いずれも振鈴隊隊長は目にしなかった。

 ()()()()()()、見れなかった

 振鈴隊隊長。彼の頭は斬り飛ばされた。その実感もなく、槍の穂先で。

 

 胴と頭は泣き別れ、地に落つ頭が絶命の(いとま)、見たのは崩れ落ちたる自分の身体。首から噴き出す血の奔流。聞いたはシャラン、鈴の音。

 

 鉄槍一閃なしたる男。帝国が築きし即興要塞、その只中に降り立つ男。誰ぞか当然——ムクロ・スパルダ。

 

 

 

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