その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~ 作:onakatarumi
永遠ならざる生の中で、最も尊いものは何か?
それは当然、家族愛だと彼は思う。
彼。帝国皇太子ギルゼリオ・リーグルに仕える侍従長。
侍従長にとって、不義の末に誕生した息子であるギルゼリオは無二の宝であった。
かつて野心に溢れていた頃の侍従長にとり、皇妃との不義密通は博打めいた部分のある出世への手段でしかなかった。
彼女が懐妊したとき、帝室の正統が自分の行いで消えるかも知れないということに、昏い喜びこそ感じたものの。生まれてくる子どもに関してはなんの感慨も抱かなかった。
出世。栄達。権力。
人生は一度きり。であればその人生の中でより力を、金を、快楽を求めるが最重要ではないか?
当時は祭儀官であとして帝城に努めていた彼は本気でそう思っていた。
侍従長の認識が変化したのは、皇妃が抱いた赤子、第一皇子を目にした瞬間であった。
俺の子だ。——ひと目見て彼は確信した。
周囲は帝家の相がよく出ていると語っていたが、目元、口元、複合した全て。侍従長にとって第一皇子が自分の子であることは確定的な事実であった。
その瞬間に彼は、今までどんな美女を抱いても、どんな美酒を飲んでも、どんな美食を口にしても満たされなかった心が満たされるのを侍従長は感じた。
この子がいるのであれば、自分はもう死んでも良いとすら思い、いや、我が子を幸せにするためにこそ死んではならない、この瞬間から自分の人生は自分のためにでは無く、息子であるギルゼリオのためにあるのだと、彼は決意を新たにした。
皇妃の希望により、侍従長は皇太子の教育係となった。
侍従長の教える帝王学を、ギルゼリオはほとんど身につけることはなかったが、その覚えの悪さもまた愛らしくて仕方がないと侍従長には思えた。
ギルゼリオが長じてからは、侍従長は現在の職につき、彼を補佐し続けた。ギルゼリオアが権力を望めばそれを手に入れ、ギルゼリオが嫌う相手が入ればそれを始末し、女を望めば寝室に運んだ。
唯一。ギルゼリオは母である皇妃を慕っていたが。それだけは侍従長の判断で排除した。
皇妃という立場にありながら自分と不義を成すような愚かな女はいずれ必ず大過を呼び込む。侍従長はそう確信していた。さらには皇妃はギルゼリオが皇帝の血を引いていないことを知っているという点もまずかった。かつて仮初にも愛を囁いた相手を毒殺する算段をつける間、彼は始終冷静であった。
◆ ◆ ◆
(もはや要訣は勝敗に無い! ギルゼリオが生き残ることこそが重要⋯⋯!)
ギルドの秘匿施設に派遣した兵力との連絡が途絶した時点で、侍従長は達成すべき目標として王国征服の比率を大きく押し下げ、ギルゼリオの生還を第一目標として据えた。
来て、見て、何も成さずに帰るは業腹であり、来て、見て、勝つが最良であった。だがその最良を選び得る可能性は大いに減じたのだ。来て見て死ぬは最も避けねばならない。
(ハスターか、ムクロ・スパルダなる男かは分からない。少なくとも、連絡すら許さず偵察隊を全滅させ得るだけの戦力が王都には潜んでいる!)
そう確信し、ギルゼリオを無事に帝都に連れ帰ることを最優先目標とした侍従長は王城攻撃もまた止めることはなかった。
振鈴隊隊長が自信の程の通りに、ハスターすら討ち果たし得るのであれば問題なく王都制圧を続けられる。
それが叶わなかったとしても「叛乱の首謀者である迷宮伯ダサイクル・グルンド」と「王城を攻撃する帝国軍主力」という二つの重要目標が揃った場所に、ハスターか或いはムクロ・スパルダか、それとも未知の戦力か——侍従長はそれを『不明異端戦力』と呼称することにした——が赴くか差し向けられる可能性は大きいと見たからだ。
そして、王城内、ダサイクル・グルンドのそばに配置した内通者から連絡が来る。マルグリテ・セヴェリナの生存の報告。ダサイクルの死。
その情報がもたらされるや否や、侍従長は差し向けた攻略戦力に対して、即時の王城攻撃を命じた。
不明異端戦力を引き付け、どこに存在するかを明らかにするための、千名の鼓動する篝火。それが帝国軍王城攻略部隊であった。その篝火には王城の周囲のみならず、王城の内側——マルグリテのそばを照らして貰わなければならなかった。
そうして。篝火は見事に役目を果たした。更には単に敵を照らして吹き散らされるのみならず、断末魔を響かせる鳴子ともなった。
(生存していたマルグリテ・セヴェリナは叛乱勢力を即時に
王城攻略部隊に持たせた『共有の書字版』から途切れ途切れに送られる文字列。そこから侍従長は状況を組み立てる。
(口癖と武装は、ハスターを思わせる。だが、外見的特徴はギルド戦力、ムクロ・スパルダと一致。——こちらを混乱させる一手だな)
侍従長は、少数派遣した監査騎士団詰所への偵察部隊からの報告を思い出す。詰所には死体が溢れかえっているという。その中に、
思索を巡らせている間に、直接攻撃部隊からの連絡は完全に途絶し。代わりに王城を包囲している部隊からの状況報告の文字列が『共有の書字版』には刻まれるようになった。
(振鈴隊含め、主力部隊壊滅。マルグリテら王国軍は王城を空にして進発⋯⋯)
情報報告のみならず、包囲部隊からは指示を乞う文面もあった。空になった王城を占拠するべきか。それとも、王国軍を追いかけて交戦するべきか。
(我々は即時撤退! 包囲部隊には時間稼ぎのための交戦を命じる。これが最良、いや——)
思索を決断に移そうとしたちょうどそのとき。侍従長の思考は聞き慣れた濁声によって打ち切りを余儀なくされた。
「ええい! 状況はどうなっておるのだ! ハスターは? マルグリテは? 勝利の報はどうした!?」
皇太子ギルゼリオがその体を苛立たしげに震わせて侍従長へと尋ねる。ギルゼリオの中では、あと一手を詰めるだけで勝利がもたらされる。その認識で止まっていた。——王国軍を追撃せよ。死刑宣告とほぼ違わぬ一文を包囲部隊に向けて書き記すと、侍従長は彼にとってもっとも重要な相手であるギルゼリオへと向き直った。
「殿下。よくお聞き下さい。ハスターは死亡。現在、彼をも倒し得る強者を従えて、マルグリテ・セヴェリナはこの場所に向かっています」
「なんだと!?」
驚きの声をあげてから後に、ギルゼリオは言葉を継がなかった。驚くべきことであっても、それが自分にとって何を意味するかを理解するのに時間がかかっているのだった。
そんなギルゼリオに侍従長は説得の言葉をかける。
「残念なことではありますが、こうなっては王都制圧は不可能——撤退するべきかと」
「イヤだ!」
侍従長の言葉をギルゼリオは即座に否定した。合理的な思考の結果の否定ではない。嫌だから嫌だという、感情からの否定。
「手に入るはずだった! そうだろう!? 王国も! いずれは都市国家連合も! すべては我が手のうちに入ると! 言ったではないか侍従長!」
「はい。そうです殿下。いずれ世界は殿下の手に。しかし今は——」
「いま欲しいのだ私は! 軍はまだ健在ではないか! どうにかしろ! どうにかするのだ侍従長!」
手に入ると言われていたものを、今は諦めろと言われて。欲しいものが目前で手に入らなくなった苛立ちにギルゼリオは口角泡を飛ばして不満を喚き立てる。
侍従長はその様に、呆れと同時に愛おしさもまた感じていた。そして、このどうしようもない息子を自分こそが守ってやらねばという思いを新たにする。
それから長い時間をかけ。侍従長はギルゼリオを宥めすかし、撤退の合理性を説き、撤退という決断をすることこそが優れた指導者なのだとおだてた。
侍従長が王城攻略の残存部隊に命じた時間稼ぎ。その稼がれた時間はギルゼリオの癇癪を宥めるために費やされ。そして稼ぎ得た時間だけでは足りなかった。
帝国軍が本営とする王都中央駅に、周辺警戒を行っていた兵の声が響く。
「襲来! 王国軍襲来! 先頭は——鉄剣髪、天晶瞳、黒紫装束を着た女⋯⋯」
「そんな女が他にいるか! マルグリテ、マルグリテ・セヴェリナだ!」
帝国兵たちは恐れとともにその名をささやき交わす。
彼らはいずれも間違っていた。適当でないと言うべきか。
マルグリテ・セヴェリナは装甲もまとわず、処刑刀も手にしていない。
唯一血まみれという形容だけは正しく、だが何よりも彼女はいまや王女でなく女王であり。
◆ ◆ ◆
報告というよりも恐慌の一歩手前の兵たちの声を聞き、侍従長はギルゼリオに「一度失礼します」と告げてから自らの目で事態を確かめるべく動いた。
魔導列車によって運ばれた物資によって障害物が設置され、臨時の城塞と化した駅。その物見用の隙間から、マルグリテらを観察する。
「停戦旗⋯⋯軍使派遣か?」
観察し、侍従長が目にしたの青い旗であった。
その昔。四枚花弁の青花が咲き誇る様に心打たれて、相争う軍隊が一時戦闘を止めたとの故事に倣い、大陸世界では青旗を停戦旗として用いている。
戦争そのものが縁遠くなった当時の大陸世界では、ほとんどの者が忘れ去ってしまった知識であったが。博学である侍従長はそれを知っていた。
しばしの懊悩の末に、彼は決断した。
「兵ども! 誰も撃つなよ! あれは停戦旗だ! こちらも青旗を掲げろ! 軍使受け入れ準備!」
幸いにして帝国側にも青旗の準備があった。誰か気の利いたものが用意していたらしい。それを掲げると、王国側から青旗を掲げたの軍使が一人、陣から離れて歩み寄ってきた。
「王国衛兵団王都ペニエ支部第二小隊小隊長ダーエ・エルマール! 軍使として帝国軍指揮官に伝えたい儀があり参上した!」
声を張り上げる軍使の男。ダーエ・エルマールを見て侍従長は顔をしかめる。ここが帝国軍本営であり、指揮官が誰であろう帝国皇太子ギルゼリオ・リーグルであると知って寄越されたにしてはあまりにも貧相な男であったからだ。
(こちらを舐めているのか? いやそれとも⋯⋯人材の欠乏か?)
マルグリテ側の思惑を推し量りながら、侍従長は兵から拡声効果のあるドロップアイテムを受け取り、応対する。
「軍使殿任務ご苦労! わたしは帝国皇太子にして帝国総軍司令、監査騎士団団長を兼ねる偉大なるギルゼリオ・リーグル殿下の名代を務める者である! 伝えたい儀とは何か!」
降伏勧告か? と思う。マルグリテが引き連れた兵の中に、槍をかついだ男を認め、冷や汗をかきながら侍従長は思う。もしもあの男が、本当にハスターと同等の戦闘力を備えるとしたら。一個中隊規模にしか見えないマルグリテ側の戦力は、帝国軍本営に控えた増強一個大隊規模の兵など容易く蹴散らせるものとなるはずだった。
現に。彼らがここに到達できたという事実が、侍従長が追撃を命じた部隊を短時間で撃破してきたことを示している。
侍従長の推測は外れた。
「会談の場を設置していただきたい! 我らが女王陛下マルグリテ・セヴェリナは、ギルゼリオ・リーグル皇太子殿下に
軍使ダーエ・エルマールはそう告げた。
◆ ◆ ◆
会談は王都中央駅の内部で行われることとなった。
護衛として一人の男——もちろんムクロ・スパルダ——のみを伴い、マルグリテ・セヴェリナが駅内へと足を踏み入れる。
軍人としての闊達な歩きではなく。むしろ、しずしずとして貴婦人じみた歩み。
だが、それを見る帝国兵たちは畏怖を覚える。
王都中央駅の白い床の上に、マルグリテの歩みに合わせて、赤い道が作られゆく。
彼女の黒紫装束の裾に染みた血と細かな肉片。その血濡れが作る道。
ただその道だけで。王城からここに至るまでに、マルグリテが踏みしめてきた死の数を伺わせるに充分だった。
帝国兵らは侍従長から。あちらから手を出されない限り絶対に攻撃をするなと言い含められていたが。それが無くとも、と帝国兵たちは思った。誰が、こんな存在に攻撃など仕掛けるものか、と。
ただ歩いただけで帝国兵から戦意を奪ったマルグリテは、急遽用意された会談用の座席の前に立つ。
ギルゼリオは先に着座していた。それを見て、マルグリテは目を細める。大陸世界の国際礼則からすれば。上位にある者の着座を待ってから下位のものは着座するべきとされている。
ギルゼリオが王位継承を約束された皇太子であり、マルグリテが単なる王女に過ぎない頃であればそれで良かったが。
すでに、マルグリテは王国の女王であると名乗っている。一国の至尊と、いずれ至尊に立つ予定の者。どちらが上位にあるかは明らかだった。
ギルゼリオの傍らに立つ男——侍従長はとマルグリテが見れば。無表情の中に隠しきれない苦渋の色があった。おそらく、起立して待つことを進言して容れられなかったのだろうとマルグリテは予測する。
ムクロに目線をやって、椅子を引かせようと思う。それより前にムクロ・スパルダは恭しく椅子を引いていた。自身がマルグリテの臣下であるという態度を全身で主張して。
ギルゼリオの無礼によって生まれた不快は、ムクロの意を得た動きによって充分以上に拭い去られた。
もとより、マルグリテはここで揉めるつもりは無かった。
着座する。
「おまえ——」
「この度は大変ありがたく存じます。身罷った我が父の最後の言葉を聞き入れ、危地にある王国に急ぎ参上してくださったとか。その迅速なる働きへの感謝をわたくしは生涯忘れないことでしょう」
ギルゼリオが口を開こうとしたのに被せるように。マルグリテは
背後の侍従長は何かを思案する顔。ギルゼリオは不快げに。ともに両者は黙っている。
その沈黙にマルグリテは言葉を続け投げる。
「帝国のみなさまのお陰で、逆賊ダサイクル・グルンドを討つことが叶いました。正式な戴冠式こそまだですが、わたくしマルグリテ・セヴェリナが王位を継いだ以上、国内の混乱はわたくしの責任でもって収めてみせましょう」
そこまで言った時節を見計らい、ギルゼリオが口を開こうとする。マルグリテは「不幸な」と一言、語気を強めてその口を閉じさせる。言うべきことが残っていた。
「叛乱勢力側の兵と誤解されたのか。相互の
ここまで言ってから。マルグリテはようやく言葉を切り、相手側の反応を待った。
つまり
何か言いかけるギルゼリオを、侍従長が小さな動きで制して話し出す。
「高貴なお二方の会話に割り込む無礼をお許し下さい。我が主ギルゼリオはいま、喉の調子が悪いゆえに、私めが代わりにお話させていただきます」
「よしなに」
「ありがとうございます。——我が主は王国を襲った不幸を大変に憂いており、また存命している可能性が高かったマルグリテ女王陛下の身柄を案じており、自ら救援軍を率いて参りました。凶事の直後ではありますが、御身のご無事を喜び、王位継承を寿がせていただきます」
「ありがたく受けさせていただきますわ」
「恐悦にて。——そしておっしゃられていた通り、女王陛下が至尊の座についた以上、我々帝国軍がこれ以上出しゃばるのはあまりにも無粋。すぐさま救援軍を引き上げさせていただきます」
「おい、侍従長——!」
声を荒げかけたギルゼリオを振り返り、侍従長は今回ばかりは黙っていてくれと哀願するような目で訴えかけた。
マルグリテからの手打ちの提案は、帝国にとって、なによりギルゼリオにおってこれ以上ない申し出であったからだ。
ひとつに。無事に帰ることができる。これだけでも充分に価値がある。
更にふたつに。いくら題目を唱えようと、叛乱に乗じた侵略に他ならない帝国軍の動きを救援活動であったということにしてくれる——これはマルグリテ側から帝国軍に対しての攻撃も「不幸な行き違い」で片付けるためのものであろうが——のは、国内外におけるギルゼリオの立場を守るのにこれ以上ないお墨付きである。
結局。侍従長はギルゼリオを無言で制しながら、抜け目なくいくつかのマルグリテの言葉に関して文章にさせ、帝国軍撤退の段取りを進めていく。
途中、護衛の男であるムクロ・スパルダに関しても軽く尋ねる。「そちらの護衛の方をよほど信用していると見えますな」「ええ。冒険者ギルドに潜入させていたわたくしの腹心です」そんなやりとりしか出来なかったが。
とまれ、と。先程まで危機感に満ちていた侍従長は安堵を混じらせながら考える。
懸絶した戦闘力を持つ相手と戦場でまみえるという危地から脱したのだ、と。ここから先は謀略の領域で戦うべきだろう。『鉄弓』の射撃を防ぐような者は、例えば毒で殺せるのだろうか?
◆ ◆ ◆
そうして。侵攻と同様に極めて速やかに。帝国軍は撤退の準備を進めた。
王都各地に散っていた部隊が、王都民に睨まれながら王都中央駅へと集まってくる。
そんな部隊の集結を待たずして、ギルゼリオと侍従長を含めた上層部は先に帝都へと戻るべく魔導列車に乗り込もうとしていた。
文書を記してまで手打ちにしたのだから可能性は低いものの。残っていては、なんの拍子で「不幸な事故」を起こされるか分かったものではなかった。
魔導列車に乗り込むギルゼリオと侍従長を、礼儀としてマルグリテが見送る。
最後の挨拶に彼女はこう告げた。
「
直接に、ギルゼリオにかけられた言葉であるため、横から口を差し挟みかねた侍従長であったが、ギルゼリオはマルグリテの言葉の意味を判じかねて「どういうことだ?」と首を傾げるばかりであった。
返ってくる言葉を待たずに、マルグリテ・セヴェリナがムクロ・スパルダに目配せをする。
魔導列車の扉が閉められ、王国の至尊と、帝国のいずれ至尊との会話は打ち切られた。
魔導列車が発車する。
「どういうことだ侍従長? マルグリテのやつめは何が言いたかったのだ?」
余人の目が無くなったことで、ギルゼリオは侍従長に尋ねた。
侍従長の側も返答に迷った。
ややあって。躊躇いがちに侍従長は答えた。
「もしかしたらば、激励、かもしれません」
「激励だと?」
「はい。その、つまりは——」
侍従長は自分の解釈そのものと、それをどうギルゼリオに伝えるかを悩む。
マルグリテはこう言いたかったのではないだろうか。
私たちは
しなやかな美貌の女、マルグリテ・セヴェリナ。
丸々と肥えた中年の男、ギルゼリオ・リーグル。
似たところなど無いように思える二者。
しかし両者はともに権力を持ち、武力を統べ、そして欲望を抱く者であり。己こそが歴史を動かす者であらんとする、傲慢なる者。
その意味で両者は近似。
そして、かつてマルグリテは、ギルゼリオを指して「周りに使われる手毬」に例えた。
手毬でしかなかった者が、
ある意味で。マルグリテ・セヴェリナがギルゼリオ・リーグルを認めたということ。同時に、自分より下であるとも宣言でもある。
その解釈を、どうにか噛み砕いで侍従長はギルゼリオへと伝えた。
意味を解して。
ギルゼリオは震えた。
「なんたることだ、なんたることだッ!」
憤懣やる方ないと言いたげに、地団駄を踏み。顔を赤面させて歯を食いしばりギルゼリオは叫んだ。
「これで、これで終わらんぞ、マルグリテ・セヴェリナ!」
傲慢なる皇太子。その瞳は潤んでいた。
屈辱と、そして。