その男、ギルド戦力につき~当方、ギルド職員。世界支配のために本日も残業中~ 作:onakatarumi
【ギルド憲章 第三条】
冒険者ギルドは後援国家および民間より寄せられる依頼について、所属する冒険者に斡旋するものとする。
依頼の斡旋にあたっては冒険者の実績、能力、安全を考慮し、特定の個人または勢力に不当な偏りが生じぬよう努めなければならない。
冒険者は、斡旋された依頼を受諾する自由を有するものとし、ギルドは受諾または辞退の意思を理由として不利益な取り扱いを行わない。
◆ ◆ ◆
●ある紙片 1枚目
やあ。僕だ。
え? 僕は誰かって?
この世界ではローゼンクロイツ・パラケルススを名乗っている。聞いたことがあるんじゃないかな。僕はこの世界に結構な業績を残した自負がある。
もちろん、これは本名じゃない。同じ転生者に「おや?」と気づいて欲しくてね。
ニュートン・アインシュタイン(これは恐れ多すぎる)とか、アドルフ・ラインハルト(これは不謹慎かな?)とかも考えたけど、まあ賢者らしくね。この名前にした。
この文章が読めているということは、君も僕と同じく日本からの転生者なのだろうか?
たまたま日本語が達者なドイツ人の可能性もあるし、あるいはこの世界の人間が日本語の解読に成功したのかもしれないね。
でも、一応は僕の後続たる日本人転生者に向けたつもりでこの文章を書くよ。
この文章を書き始めたのは、転生をしてから二十年が過ぎた段階だ。クロウト歴だと132年、リーグリー歴だと552年になるね。
なにせ、自由に使える紙とペンを用意するのにも時間がかかった。
転生して最初のころの不便さと言ったら!
閑話休題。
ともかく、僕は僕がこの世界に転生してからの出来事を記そう。
ああ。転生前のことは聞かないで欲しい。面白みのない中年男の人生が広がるばかりだから。
それにしても転生! 君も転生者なら、この事象に驚いたことだろう。僕も驚いた。死んだと思ったら赤ん坊の身体の中にいるんだから。
最初は自分が変な夢を見ているんじゃないかと考えて。どうやら夢ではないと気づいたときの感情! キミは喜んだかな? それとも……。
まあ、それは良い。
覚えてるかい? 思考は明晰なのに、身体は自由に動かない窮屈さ!
君は車のトランクルームに入れられたことある? 僕はある。親に頼み込んでね。少年探偵ごっこをしたかったんだ。あの経験を思い出したよ。まともに腕を動かせるスペースもない。寝返りひとつ打てやしない。そんな感覚。ああ、でも君も転生者なら、喩え話をするまでも無いか。とにかくあの時期はつらかった。
知らない女性に母乳を与えられるのも恥ずかしかったし、シモの世話も人任せ。なんだかすごくみじめな気分だったよ。
そして。両親たちに対して「いかにも赤ん坊らしい演技」をしなければならない罪悪感。——転生の罪悪についての話はまたあとでしよう。
そんな不自由な赤ん坊時代なわけだけど、キミは不思議に思わなかった? 「この赤ん坊の小さな脳。まだ海馬や大脳新皮質が未発達な脳のどこに、数十年分の僕の記憶や人格が収納されているんだろう?」って。僕の場合はこの疑問が後の大きな気付きに繋がるわけだけど、それはとりあえず置こう。まずは僕の退屈な生い立ちを聞いてくれ。
僕は利発な子供として育った。
最初、言葉に関しては不安があった。
脳が第一言語を習得するのに適しているのは0歳から6歳。僕の脳は果たして、この世界の言語をすんなり習得できるのかな? と。
結論から言えば出来た。
中高で英語と独語をならったときに比べて格段にすんなりと、僕の脳はこの世界の言葉を受け入れてくれた。
驚いたのは、ラテン語に酷似した語彙がとても多かったことだ。
僕はラテン語を習ってはいなかったけれど、さまざまなコンテンツにはラテン語が含まれていたから、単語やちょっとしたフレーズならば知っている。クオ・ヴァディス! とかね。ともあれ、ときに全く同じ単語が、同じ意味を指すことには驚いた。
言語にもある種の収斂進化のようなものがあるのだろうか? あとはほら。ブーバ・キキ効果みたいなものも関係するのかも知れない。「丸い図形と尖った図形を見せて、どちらがブーバでどちらがキキか? と聞くと、どこの文化圏の人間でも多くが丸いほうをブーバ、尖ったほうをキキと思う」ってアレ。
あるいはもっと単純に。過去に僕のような転生者がいたとか、そんなことをも考えられる。
この時点で僕は「この世界」を異世界というより過去の地球のパラレルワールドであるのではないかと考えていた。
人間の姿は僕らの世界と変わらないし、昼の空には太陽が輝き、夜の空には見覚えのある月もある。星座の形は、少し違って。夏の大三角形がすこし歪んでいたけれども、北極星は煌々と輝いていた。
大陸の形はその時点では調べられなかった。残念。
10歳を超えて。神童として扱われた僕は調子に乗りつつ、この世界、この惑星の円周を測ることにした。
いくつかの根菜類から甘味を抽出する方法を村に伝えた僕は多くの尊敬を集めていたし、自由にできる人やモノも多かった。知的好奇心にあふれた協力者(この人は後に僕の義理の祖父になる)を見つけて二つの街で実験を行ったのだ。
そう。ご存じ古代ギリシアの学者エラトステネスの方法だ。
同じ時刻に影の角度を測って、その角度差から地球の円周を算出する例のアレ。
長さの単位には迷ったけれど、ちょっとしたお遊びであることだし眼球のサイズを基準にメートル原器を作った。人間の身体の部位で最も誤差が少ないのが眼球のサイズだ。誰でもだいたい2.4センチ。
そもそも論として「この世界の人間の眼球長」と「僕らの世界の眼球長」が同じなのか? という問題はあったけど。半分お遊びだ。同じであると仮定してやってみた。
結果として得られたこの惑星の全周。計算結果は40839キロメートルだった。地球の全周が40075キロメートルだから、約2%の誤差。これは僕の作ったメートル原器がまず間違いなく正確ではないことや、二つの街の距離測定の正確性を考えたらほぼ一致していると言って良い結果だった。
とりあえず、ここが地球のパラレルワールドであると納得した僕は、それからというものはこの世界を良くしていくことに邁進した。
ひとつには、自分の生活をよくするため。いつまでもワラの上にゴワゴワの麻布を敷いたベッドで寝るのは嫌だったし、毎日お湯を存分に使いたい、おいしいものだって食べたい。
なにより、僕はこの世界に『負い目』があった。
さっきも書いたように「転生の罪悪感」というやつだ。
僕はこの世界に転生した。続きの生を生きられることは喜びだった。
でも「現在の僕の身体」の持ち主にとってはどうだろう。あるいは僕は、彼を殺して、その体を乗っ取って生きている、生まれながらの人殺しなのではないか?
違うパターン。例えばこの子はもともと流産する予定で。その体に僕の魂が入り込んだとか。それなら気は楽になるけれど。——僕の。この肉体の両親にとってはどうだろう
彼らが生まれてくることを望んだのは、断じて異世界の中年男性の魂が入った子供ではない。
彼らと共に学び、成長し、情緒を育む、無垢な存在が生まれてくることを望んだはずだ。
だからだろうか。僕は、僕の肉体の両親に対して、常に負い目があったし。奪ってしまったなにかの代わりに、この世界を少しでも良くしようと躍起になった。
村で、猟に行く者がいれば、安全かつ効率的な方法を提案し。
農業に関しては、時間をかけて土壌改良と品種改良を行い、輪作をはじめとした方法で収穫高を上げた。
領主に納める税が少なく済むように知恵を絞り。
そして何より、金を稼ぐことに躍起になった。
ある程度の元手が出来てからは、ちょっとした健康被害の危険はあるものの、水銀アマルガム法で金の効率的採掘に手を出した。
その儲けでさらにいろいろな機器を作り、その機器を売る商家を立ち上げ、その商売が軌道に乗った頃。
僕は、この世界が単なるパラレルワールドでないことを知った。
商人としての伝手で、一般には手に入らない地図を手に入れて、この世界の大陸の形が僕達の地球と大きく違うことにはとっくに気づいていた。きっとパンゲア大陸の段階から枝分かれが始まった世界なのだと。そんな風に考えていた僕は、
最初は、ペテン師か何かだと思った。虚空に炎を生み出し、手を触れずにモノを動かす技を使う老婆。
ペテンにしても仕組みが気になると、僕はその老婆のもとに日参し……そしてそれが、本当の魔法であることを知った。
魔法! この世界は単なるパラレルワールドなどではない! ファンタジー世界だ!
そのことを知った当時の僕の興奮をどう伝えたものか。その興奮は、老婆の手ほどきを受けて自分でも魔法が使えるようになったときに最高潮に達した。
自己の奥底に潜り、普段意識できない「識閾下を意識する」という矛盾を突破することが魔法の第一段階だった。
そこに、起こしたい事象の「魔法式」を打ち込む。最初は、師匠である老魔法使いの「識閾下」——後に僕はそれを「情報領域」と名付けた——に打ち込まれた魔法式を観察し、同じ魔法式を打てるように修練した。
師である老魔法使いの使える魔法を全てマスターした後、僕はオリジナルの魔法を幾つも作り出した。気づいたのだ。単純な物理現象は、ほぼ全て魔法によって実現できるということに。
さらに言えば。元いた世界の地球の知識を持つ僕は、この異世界の誰よりも物理現象の機序に詳しく。僕が扱える魔法の数は瞬く間に師匠を凌駕するようになった。
魔法の習得は、僕が行っていた技術開発の速度を飛躍的に加速させた。新技術というものは言うなれば、既存の技術と既存の技術の組み合わせに過ぎないからだ。
あのゲームを知っているだろうか? ローグラフィックで島に放り出され、最初は手で木を叩いて木材を入手し、その木材を組み合わせて工具箱を作り。その工具箱をつかって木のオノやスコップ、ツルハシを作り。
さらにはその木のツルハシで採取した石と木を組み合わせて石のツルハシを作り、その石のツルハシで鉄の鉱石を採取し、その鉄の鉱石を、石を組み合わせて作ったカマドで鉄にして⋯⋯と。色んなものをクラフトするゲームだ。——キミがもっと先の時代の転生者だとしたら、知らないかもしれないね。
でも、説明が楽なので知っているものとして話そう。つまり、あれが技術の進歩の縮図なわけだ。組み合わせたもので新しいものを手に入れて、それを組み合わせ、また組み合わせを繰り返して、高度なものを作り出していく。
僕はそれまで、中世レベルの技術の中で、色々とやりくりをし、前段階の技術を作り、と迂遠なことをしていたわけだけれど。
魔法があれば、全てが変わる。
クラフトするゲームに例えるなら。本来、鉄を生み出すには鉄の鉱石と、石を組み合わせて作ったカマド、そして燃料が必要で、それを揃えて時間をかけることで鉄のインゴットが生み出せた。
ではそのゲームに「インゴット化」という魔法があれば? 石を採取してカマドを作る必要も、燃料を集める必要も無くなる。鉄の鉱石さえあれば鉄のインゴットが作れるようになる。大きな時短だ。
それと同じことが、現実の技術開発でもできるようになる。「新技術とは既存の技術と既存の技術の組み合わせ」であるところの、「既存の技術」の部分に、多彩な魔法という要素が加わる。要素が加われば当然、作れるものの幅も広がる。
僕は調子に乗った。乗りに乗った。
オリジナルの魔法を開発し、その魔法を使って元の世界の技術を再現した。
生活レベルは向上した。手に入る金の額は上がりに上がり、権力者とのコネクションは向こうから求めてくるようになった。
その頃から、僕は賢者と呼ばれるようになっていた。
賢者ローゼンクロイツ・パラケルススの誕生だ。
だけれど。僕はある日、ふと気づいた。
この世界は、崩壊の危機に瀕していると。
●ある紙片 2枚目
やあ僕だ。
僕達の世界の歴史を紐解いたうえで、それを一言で表すならなんだろう?
「人類の歴史は◯◯の歴史だった」とキミならなんという?
僕もひとつには絞り難いけれど、絶対に最終候補にあがるのは「人類の歴史はいかにエネルギーを取り出すかの歴史だった」だ。
まずはカロリー。食料だ。様々な植物や動物を食べることで、人間は(というか全ての動物は)身体を動かすためのエネルギーを手に入れてきた。
この問題はずっと続く。如何にして食料というエネルギーを手に入れるかは人類史の命題だった。
続いて、運動エネルギー。これは最初、身体に備わる筋肉だけが頼りだった。そこに、労役用の馬やらラクダやらを利用するようになり、あるいは風力や水力を利用するようになった。——ああ。「奴隷」という、同種族の肉体も人は大いに使っていたね。
この運動エネルギーの問題に大きな転換点が起こる。
そう、蒸気機関の登場だ。
石炭を燃焼させて水を沸かし、蒸気の圧力でピストン運動を発生させて運動エネルギーを得る。これがいわゆる「産業革命」に繋がり、人類史は次のステップへと進む。
更には、そうやって生み出されたエネルギーを電力に変換する「発電」というものによって、人々の生活はさらに豊かになっていった。ほかに内燃機関、いわゆるエンジンもあるね。
さて。気づいただろうか? というより常識かもしれないけれど。人類がそうやってとりだしてきた「エネルギー」というものは全て「太陽のエネルギー」なんだ。
食料として消費される植物。これは光合成によって育つ。太陽の光エネルギーが変換されたものだ。それを食べる動物も一緒。
食料としての植物・動物、そして農耕に使われる動物も、太陽エネルギーを変換したものと言える。
水車はどうだろう? これも太陽エネルギーが元になっている。太陽熱で熱せられた水が雲となり雨となり降り注ぎ、それが高所へ移動して位置エネルギーが高まり、流れ落ちる「川」という形の運動エネルギーになる。これを「水車」という形で僕らは利用してきた。(風車については、地球そのものの自転エネルギーも関わってるから、ちょっと例外かもしれない)。
そして、産業革命、その肝となった蒸気機関。その蒸気機関を動かすための石炭はどうだろうか? 石炭とは太古の植物が姿を変えたものでこれも「数億年前に保存された太陽エネルギーを取り出している」と言える。
電力や内燃機関に使われる石油はどうだ? これもまた、数億年前の海洋微生物が転じたもので、やはり「保存された太陽エネルギー」の取り出しだ。
人類の歴史とは、いかにエネルギーを取り出すかの歴史であり。その取り出すべきエネルギーの殆どは、太陽由来のものだったんだ。
さて。これを読んでいるキミが転生者であったとしたら。ここでひとつの「エネルギー」について思い至ったことだとおもう。
そう「核反応」だ。
人類史を一変させたこの巨大エネルギーだけは、太陽由来のものではない。
中性子が原子核にぶつかることで分裂が起こり、そこから飛び出した中性子がさらに別の原子核にぶつかり連鎖的な分裂が発生する。その分裂ごとに膨大な熱エネルギーを放出するこの技術は、不幸なことに最初、第三次世界大戦劈頭にドイツ第三帝国によって兵器として実用化された。
まずは合衆国ワシントンD.C.、そしてノーフォーク。サンディアエゴにロス、サンフランシスコ。そして知っての通り、1949年には、広島と長崎にも反応弾は落とされ、無数の人命が失われた。
しかし戦時中、多くの人命を奪ったこの核反応エネルギーは、戦後復興においても重大な役割を果たした。
なにせ、火力発電であれば大型タンカーを何往復もさせて莫大な量の石油を確保して行うのと同等の発電量を、核反応発電であれば大型トラック1台分のウランがあれば実現してしまう。
蒸気機関に次いで人類史を一変させた驚異のエネルギー!
——さて。「かつて僕達がいた世界」の話はそれで良い。
では、「いま僕達がいるこの世界」はどうだろう。
魔法が存在する、このファンタジーな世界だ。
未だに、僕は魔法のエネルギー源を特定できずにいる。
おそらくは個々人がもつ「魔力」という何かを使って、様々な事象を引き起こしているのは間違いない。
一度実験したところ、僕の場合は最大効率化した『物体投射』の魔法で500グラムの鉄塊を音速投射した際に、1082回目で頭痛とともに昏倒した。
一回あたりで発生する運動エネルギーは約30万ジュール。3億2450万ジュール。
大和型戦艦の主砲の直撃とだいたい同じくらいのエネルギー量が、僕という人間たった一人(と鉄の塊500グラム)から取り出せたわけだ。
もっと魔法式を厳選して、「エネルギーの取り出し」に特化すれば、更に大きなエネルギーを生み出すこともできるだろう。
「人類の歴史はいかにエネルギーを取り出すかの歴史だった」と僕は言ったね?
これは、酷く恐ろしいことだ。
魔法を抜きにしたこのファンタジー世界の技術力では、せいぜいが「薪を燃やして溶鉱炉を動かす」くらいが限界で。そのためには大量の薪を、大量の人間が、時間をかけて集めないとならない。
でも、魔法を使えばそんな熱量、一人で簡単に取り出せてしまう。
非太陽由来のエネルギーを、個人が簡単に取り出せてしまう世界。
もう一度言う。これは、酷く恐ろしいことだ。
極端な言い方をすれば。ちょっと気に入らないことがあって、誰かを怒鳴りつけるような感覚で、核反応兵器を使えてしまう世界ってことだからだ。
たまに読んでいた異世界ファンタジー小説で、主人公が一人で大量殺戮やら何やらをやらかす展開があったけれど。それはある種、
元の世界では、大きなエネルギーを取り出すには、それ相応の手順が必要で、その手順を満たすには人手と時間と技術が必要で。その人手と時間と技術を捻出するには、国家という単位が必要で。国家は一人の人間の我儘だけでは動かず(あの総統が支配した第三帝国にしてからそうだ)。
気分次第で核反応兵器を使うことなんて出来なかった。それでも、世界は核反応兵器の恐怖に怯え、明日には世界が滅びるのではないかという論を唱える人間が絶えなかった。
それが。このファンタジー世界では個人間で起こり得てしまう。
あまりにも、危険な世界。社会体制が未熟なままで、魔法という力だけが行き渡ったら何が起こるか?
例えばモンゴル帝国の兵士、一人ひとりがいつでも使える核反応兵器を持っている状態を想像してみて欲しい。鎌倉武士でも良いし、ヴァイキングでも良い。暴力によって何かを手に入れようとする人々それぞれ全員が、核反応兵器を持っていたら。
世界は、間違いなく滅ぶ。
僕は、魔法を使っていくつもの技術を実現したが、ある段階からそれを世に広めないようにした。
また、僕のオリジナル魔法式も他人には絶対に教えないようにした。元からこの世界で知られていた、『魔法妨害』、『身体強化』『物体投射』『力場形成』『回復魔法』以外の魔法を封印した。
同時に構想を立てた。
個人個人が強大なエネルギーを取り出せるという社会を、崩壊に向かわせない構想。
ファンタジー世界の人類は、いつまでも幼年期でいられては困る。
相互に監視し、相互に理解し、相互に発展する社会を、「元の世界」よりも早急に作り上げる必要があった。
それが、「冒険者ギルド構想」と「人類教導個体」の作成に繋がっていくわけなんだ。
●ある紙片 3枚目
僕は失敗した!
いや、調子に乗っていたというべきか。
この世界。魔法の存在する世界が、極めて危険だということは分かっていたはずだったのに。
問題はダンジョンだ。
それの出現に、僕は興奮してしまった。あまりにも
さらにはステータス、経験値、モンスター、ドロップアイテムにレベルアップ。ゲーム的ファンタジー世界そのものの現象が起こって、僕は、そう、ちょっと我を忘れてしまった。調子に乗ってそれらの現象に命名までしてしまった。
集めた弟子たち、特にアルギッタは、僕が再現した「元の世界」の書物を読み込んでいたから特に興奮していて、それに乗せられてしまった部分もある。
けれども、
これは、多分、侵略だ。
未だ、魔法の解明も、科学の発展も、技術の進歩も未熟な、この世界に対する侵略。——僕の脳を読まれている可能性もある。出現したダンジョンの現象は、あまりにも「僕が考えるゲーム的ファンタジー世界」に一致した有様だからだ。
優しいムクロ、強いハスター、賢明なグラウ、懸絶せしアルギッタ。
彼らに調査を任せよう。僕自身がダンジョンに赴くことは、おそらくはこの世界で「奴ら」に唯一対抗できる僕の脳内情報を読まれる恐れがあるからだ。——すでに無駄かも知れないけれど。
それから、ファラキアの完成を急ごう。僕は年老いてしまった。一朝一夕でダンジョンに対抗できるとは限らない。僕の代わりにこの世界の人類を導き、勝利させる存在が必要だ。
●ある紙片 4枚目
ムクロしか、帰らなかった。
しかし、その帰還は素晴らしい成果を伴っていた。
彼の話によれば。彼はダンジョンの『端末』として肉体と意思を作り変えられるところ、どうしたわけか肉体は改造されたものの意識だけは元のまま残ったという。
その現象も素晴らしいけれど、もう一つ。
彼の身体は、不老化している。最初から不老化を目指して設計したファラキアでは成功したけれど、元が定命である存在を不老化する実験は失敗し続けてきた。
でも、ここにムクロというサンプルがある。
——ムクロ一人を解析することで、多くの不老の戦士を作り出せたらば。
なによりも、僕自身が不老化することができたなら。
そのほうが良い。そのほうがこの世界の人類のためになる。
ファラキアに手伝わせて、明日、ムクロを解剖しよう。
◆ ◆ ◆
ローゼンクロイツ・パラケルススが残した手記は、この四枚目が最後となっている。
彼はその後、急死した。
何故か。誰の手によるものか。
それを知るものは、一人。否。一体のみである。
===作者からの連絡===
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